とりあえず一言。賛嬢ちゃんがマジで計画を実行したお陰で、一部は助かり一部は苦労している。
助かった一部とは当然重税から解放された民であり、苦労している一部とは仕事が忙しくなった賛嬢ちゃんである。
まあ、とは言っても賛嬢ちゃんは賛嬢ちゃんで異常人。異常人的普通な能力は、一般人から見れば非常識を通り越して化物以外の何でもないわけで……山のように積もった書類を物の一時間で判断から決済まで通しでやってのけた。
それらの山の高さは八メートル級で、それが山脈のように幾つも連なっていたと言うのだから賛嬢ちゃんの地味な異常っぷりが理解できるだろう。
……ちなみに、束姉さんならデータ化されていて、かつ思考入力式のキーボードを使っていればという条件付きだが……同じだけの量が三分の一秒で終わる。流石は身体能力に振られるはずの分まで思考能力に回した大天災。そこに痺れる憧れぬ。ちょっと遅くなっていいなら俺も真似できるし。
……力の王笏って、地味だけど便利だよな。地味だけど。
さて、そんなわけでかなり綺麗になった自分の領を上手くコントロールしている賛嬢ちゃんだが、今の季節は秋。北から色々と賊が入り込んでくる季節になった。
毎年毎年作物を収穫する頃になるとやって来るらしいそいつらは、今年もやっぱりやって来た。
数千を数える騎馬を駆り、広い大地を駆け抜けて、この幽州まで盗賊の真似事をしに来る訳だ。
やっていることは真似事じゃなくて盗賊そのものなんだが……まあ、俺がこの場に居たのはこいつらにとっては運が悪かったってことだろうな。
賛嬢ちゃんに言われた通り、こいつらは生きたまま捕らえてこれからの試金石にしなくちゃならない。
それに、こいつらは『冬を越すための食料がない』から盗賊のようなことをやっている。逆に言えば、冬を越せるだけの食料があればわざわざ危険を冒して攻めてきたりもしない筈だ。
だが、そういった話をするには向こうは興奮しすぎているから、一度相手を全員落ち着ける必要がある。
そして俺には、相手を落ち着けるにはかなり有効な手を持っている。
それを使った結果。相手の人間は……呼吸困難に陥り、落馬した。
落馬した瞬間にその真下にアンダーグラウンドサーチライトを開いて馬に踏み潰されて死なないように優しく受け止めて。それから馬は馬で別のアンダーグラウンドサーチライトに取り込む。これで計画の第一段階は成功。後は賛嬢ちゃんの所に連れていって、適当に話をしてもらえればいい。
食料については俺がなんとかできることを伝えてあるし、それが無くとも税率を下げてある程度余裕が出るはずの幽州ならなんとかなるだろう。
勿論、一方的にこちらから食料を渡す訳じゃない。一冬を越せるだけの食料と引き換えに、あちらからは馬を受けとるわけだ。
それによってある程度平和になる上に、あちらさんは食料が欲しい、こっちは馬が欲しいというどちらの願いも同時に叶う。どちらも特をする取引ほど良いものはないよな。相手にもよるけど。
「そう言うわけで、全員馬すら殺さず連れ帰ってきたよ」
「予想以上の成果だな。流石は一夏」
賛嬢ちゃんにそう報告したら、賛嬢ちゃんは書類仕事の手を休めて立ち上がった。どうやら今日の政務はほとんど終わっているらしい。
……まあ、銀の煙を吸って呼吸困難に陥ってる人間には食事も水もほとんど要らないとはいえ、体力が衰えてしまうので早めに計画を進める必要があることを考えれば、政務を後回しにするのも当然なのかもしれないが。
「それじゃあ、出してやってくれ」
領主の椅子に座り直した賛嬢ちゃんの前に、一人の男をアンダーグラウンドサーチライトから放り出す。
それと同時にその男の体内からゾナハ蟲を消滅させてまともに話ができる状態にしてやって、ここまでで俺の仕事はほとんど終わり。後は賛嬢ちゃんの交渉術にかかってるわけだな。
頑張れ頑張れ賛嬢ちゃん。地味と普通に特化した賛嬢ちゃんの実力を見せてやるといい。
賛嬢ちゃんって俺と一緒じゃない時は若干外道と言うか暗くなるけど、それはそれで有用だから有利に進められるだろう。
……どうしても嫌がったら脅迫できるようにネタも揃えてあるし。
side 公孫賛
一夏の連れてきた異民族の男……どうやら侵攻軍の大将らしいが……自分がなぜここに居るのかがわかっていないようだった。
しかし、周りを見渡してどのような状況かを理解すると、すぐに私に向けて敵意のある視線を向けてきた。どうやらこいつはかなり誇り高い男のようだ。
「……さて、お前も色々と聞きたいことがあるだろうが……まずは話をしようじゃないか」
交渉の基本は笑顔。私は普通の笑顔を浮かべ、その男に向ける。
その男は暫く訝しげに私のことを見ていたが、自分が拘束されていないことに気が付いたらしく、余計に私のことを訝しげに眺めている。
「私は公孫伯珪。お前達が略奪を働こうとしたこの地域一帯の州牧をやっている者だ。……お前は?」
「………………」
男は黙して答えない。このままでは色々と面倒なことになるのだが……仕方がない。
「お前の部下と、馬、そして食料は全て私が預かっている。このままお前が黙していれば、お前の部族は冬を越すこともできずに飢えと寒さに苛まれ、ひたひたと近づいてくる死に脅えることになるのだろうな? …………さて、もう一度言うぞ? ……話を、しようじゃないか。なぁ?」
その男はぎりぎりと歯を食い縛り、私のことを睨み付ける視線に憎悪を込めた。
「……何が望みだ」
ああ、漸く話が通じる状態になったな。
私はそんな男に向けて、いつも通りの普通で平凡で地味な笑顔を浮かべた。
『どこがどう地味だよ』というつっこみは右から左に流します。