賛嬢ちゃんが交渉を終わらせると、何故か賛嬢ちゃんとさっきの奴が随分と仲良くなっていた。
何をやったのかはわからないが、恐らく賛嬢ちゃんの特化点の作用だろう。どう使ってやればこんな効果が出るのかはわからないが、かなりごり押ししたんじゃなかろうか。
「そうでもない。少しこいつの意識を弄って『私と仲がいいのは普通だ』って言う認識をさせただけだよ」
ついでに、私に意識を弄られている間のことは忘れてるよ。地味な私は覚えるに値しないのさ。
……とか言っている賛嬢ちゃんだったが、どう考えても賛嬢ちゃんの特技で意識から強制的に外させている。
……なるほど。そう言う使い方があるわけね。自分が周辺環境的に普通である状態を維持する以外にも、他人に普通であると思わせる事とかそんな風にも使えるわけか。
で、地味にすると言うことは相手に気付かれないようにすると言うことで、賛嬢ちゃんは自分が弄って違和感を感じるはずの相手の意識にそれを使って『違和感そのもの』を地味にして気付かれにくくした上に、『違和感を感じるのが普通』だと思わせておけば……まあ、バレることはまず無いだろうな。
そこで俺は、友好の証に料理を作ってやることになった。賛嬢ちゃん曰く、これによって更に相手の警戒心を下げて計画が上手く行きやすくするらしい。
ただ、元々この幽州に住んでいた奴の中には異民族に家族を殺された奴もいるため、賛嬢ちゃんの特化点の応用範囲を幽州全土だけじゃなく異民族の部族の幾つかにまで拡げる必要があったらしい。
範囲にして凡そ数千平方キロメートル。その範囲内の全ての人間を洗脳して、そしてその事に違和感を持たせないようにするとは…………『地味』と『普通』に特化しているはずが、賛嬢ちゃんはいったいどこに向かっているんだろうな?
「はははは、何を言っているんだよ? お前ならこのくらい普通にできるんだろ?」
「否定はしないが面倒だからそうはやらないな」
……実際、できることはできるが、本気で面倒だから早々やることは無い。実は俺が色々な所で平和的解決方法を取れるのに取らないときは、大抵そんな理由だったりする。
まあ、賛嬢ちゃんは責任があるからやったんだろうけど、当時の俺には何の責任もなかったからな。
どこぞのラピュタのような空中に浮く白の国の大艦隊を滅ぼした時も、闇の書の欠片を集めて掃除した時も、管理局の蛆虫共を本局と艦隊と全部纏めて灰にしてやった時も……おや、あんまりやってないんだな? 精々三回くらいか。
まあ、そんなどうでもいいことは置いておくとして、それよりもアンダーグラウンドサーチライトの中の奴を賛嬢ちゃんに洗脳してもらう方が先だろう。
洗脳が終わった奴から体内のゾナハ蟲を消して、そしてそのまま宴会の中に放り込む。賛嬢ちゃんの街の民と、異民族とが入り乱れて仲良く騒ぐ姿は、見ていて違和感を本の僅かも感じさせない出来だった。
……これが洗脳の結果じゃなければなお良かったんだが、今のところは洗脳しなければこの結果は出てこなかっただろう。
食料に不安が無く、水も豊富に存在している(どちらも俺が出して店に安く卸しているだけ。売り上げは賛嬢ちゃんに渡り、そこから幽州の民に公共事業を通して返還される、あるいは農民から作物を買って蓄えにしたり、周囲からの侵攻に備えるための備蓄になる)幽州では、こうして大規模な宴会を開くこともできるということを見せつけて、それによってさっきしていた交渉の内容に真実味を持たせようと言う狙いもあったり無かったりやっぱりあったりする。
そしてアンダーグラウンドサーチライトの中に人間が居なくなり、宴会に追加人員が無くなった頃には、会場全体がかなり出来上がっていた。
賛嬢ちゃんの部下と異民族(俺から見ればどっちも異民族で変わり無いんだけど)とが笑い、食べ、酒を飲んで馬鹿騒ぎをして、喧嘩が始まり賭けを始め、決着がつけば悔しそうに叫ぶ者と喜ぶ者が出て、喧嘩を始めた二人は笑いながら鼻血を流しながら酒を飲む。
いつの間にか様々な所で飲みくらべが発生し、酔い潰されては城や家に運ばれていく馬鹿共。
……まあ、こういう空気は嫌いじゃないがね。
「よう!飲んでるか~?」
顔を真っ赤にしてへべれけになっている賛嬢ちゃんが、食材を出しては調理して、足りなくなった物を出しては他の料理人に渡している俺の背中に抱き付いてきた。吐息が酒臭い。ついでに体温が高くて暑い。
「料理作ってるから飲んでないよ」
「何でだよー飲めよ~あたしの酒が飲めないってのか~?」
「そう言う問題じゃなくてな?」
「と言うか一夏~私がくっついてるのになんで平然としてんだよ~? 私は確かに地味だけどそれなりに美少女だぞ~? 胸もそこそこあるぞ~?」
「うわなにこの酔っぱらいめんどくさい」
いやマジで面倒臭い。賛嬢ちゃんって酒乱の気があったんだな?
「酔っぱらいでいいじゃないかぁ~、世界は酔っぱらいで回ってんだよ~……つまり世界の中心は酔っぱらいである私だっ!」
久々に超理論を聞いたな。流石は酔っぱらい、普通は予想できないことを平然とやってのけるんだな。
「そんなことより一夏~。私に手を出せよ~一夏ならなんだってしてやるぞ~?」
「酔ってない時に出直してこい」
「なんだよ私が地味だからか~? 地味だから私をそんな適当に扱うんだなそうだろ!ちくしょー麗羽の所に攻め入って私も派手になってやる~……」
誰だか知らんがやめてやれ。
……全く。酔っぱらいの相手は大変だ。
「やめてほしくば~、私にちゅーしろ」
そう言って賛嬢ちゃんは目を閉じて待ちの体勢に入る。なんと言うか、酔っ払ったかんちゃんとよく似てる。
ちなみにかんちゃんは酔っている時の記憶が残るタイプで、次の日に酔いが覚めて恥ずかしさに頭を抱えてごろごろしてた。面白かったから眺めてたら俺に気付いて百面相を見せてくれた。
……で、その後恥ずかしすぎてプッツンしたらしい目の据わったかんちゃんに襲われたんだっけか。かんちゃんはプッツンすると色々と予想外な行動をするからな。
……あ、賛嬢ちゃんも同じか。共通点発見。
「…………くぅ……」
あ、寝た。とりあえず賛嬢ちゃんの部屋に運んでおくか。
次の日、賛嬢ちゃんが凄まじい勢いで悶えて引き込もって壁に頭を叩きつけていたのは言うまでもない。
……ほんと、かんちゃんによく似てるなぁ……。