side 公孫賛
程駿を下した関羽と次に戦うのは、普通の剣を扱う二人。名は王嘉と王具。農民出の兄弟で、喧嘩をすることもあるが基本的には仲がいい。
二人組での戦闘では中々いい成績を叩き出すことがあるが、流石に双子のように以心伝心とは行かずに時々ちぐはぐな部分が出るのが弱点だ。
当然、関羽にその隙を付かれて敗北したわけだが、それでも関羽の体力をかなり削ることに成功した。
三組目。相手の攻撃を受け止める盾と、盾に阻まれて動きを止めた相手を貫く槍。そして相手の行動を先読みして邪魔をする弓矢の三人組。惜しいところまで行ったが、盾が力尽くで叩き壊されてからは関羽の体力を削ることを念頭に置いた戦い方に変えて善戦。敗れはしたか、関羽はかなりの疲労を溜め込んでいた。
そして、現在。相手をしているのは鎖分銅や拘束具を使って犯罪者を殺さずに捕らえる隠密機動隊警邏組の四人で、関羽の行動を阻害するだけ阻害している。
縄や鎖が舞い、関羽の体に食い込んで拘束する。天の御使いとやらが一瞬見入ってから隣にいる張飛と桃香のことを思い出して目を逸らしたが、その気分はわからないでもない。荒い息とか汗で張り付いた服とか、エロいからな。私には一夏がいるからどうでもいいけど。
そして関羽は最後に全身を拘束されて地に引き倒され、首筋に小刀を当てられて敗北することとなった。
ちなみに私ならあの状況からもなんとかなったりするが、今戦っているのは関羽なのでどうなるかは未知数だ。
「……さて、関羽。これで終わり……と言うことで構わないな?」
「……はい」
拘束されて首に小刀を当てられたままの関羽は、まるで恥じ入るかのようにか細い声で返答した。
確か頑張りすぎて気絶した時の趙雲も似たような反応をしていたが、別に桃華は責めたりはしないと思うがなぁ……?
試験が終わったことを理解した隠密機動隊警邏組の四人は、関羽の全身を絡め取っていた縄と鎖を解いて退がる。
……それにしても、いったいいつの間に私の軍は大きく分けて二つになったんだろうな? 派閥ではなく役割が二つに別れているだけだと言うのが救いだが……。
……隠密隊と陽戦隊。基本的に戦闘が上手いのは隠密隊だが、戦の規模が大きくなれば大きくなるほど陽戦隊の戦力は上がっていくわけだが……戦い方次第で隠密隊はいくらでも引っくり返せる。裏技をたっぷり使って戦うのが隠密隊の戦い方だからな。
戦場の花形は陽戦隊であり、私のちょっとした噂の中にもある白馬義従はこっちに入る。目立つ事によって隠密隊を隠すのが仕事の一つではあるが、それでも夜ならまず見付からない程度の光学迷彩(陽炎のように揺らめくので昼だと割と簡単にバレる)をかけることくらいはできる。
そして、少人数の戦術行動よりも大人数での戦略・大戦略が本領だ。お陰で外に隠密隊の存在がバレていないから隠密隊の行動に制限がかからなくていい。
……桃香達に話したのは構わないのかと言えば、実際何も問題はない。どうせ気にすることも記憶することも、意識を向けることすらできないんだから。
「ああ、強さとしては十分だ。将として迎え入れるよ」
「……はい」
…………暗いなぁ。確かに自分の武に自信を持っていたら一般兵に討ち取られると言うのはその自信をへし折られる出来事だと言う話を趙雲から聞いてはいたけど、そんなになるもんかね?
趙雲も話しながら少し泣きが入っていたけど、正直よくわからないんだよなぁ……。
……私はこいつら全員と同時に戦ってもなんとかなるせいかもしれないけど。
「まあ、落ち込むなよ。今勝てなかったからってずっと勝てないって訳じゃないんだから、修行して強くなればいいじゃないか」
「!」
ピコン♪ という擬音と共に、関羽の顔に感情が戻ってきた。さっきまでは目に光が無くてちょっと怖かったけど、そんな表情も似合うってんだから美人は特だよな。
……私は普通だから、そんな表情を浮かべたらただ怖いだけなんだよ。
…………あるいは、怖がってすらもらえない情けない顔になるかもしれないけど。
「……関羽が元気になったところで、次に行くか」
「おー!鈴々頑張るのだー♪」
元気がいいな、全く。うちにはこう言う癒し系が少ないからなぁ……一夏は癒し系だけど、私をからかってくることもかなり多いし……。
……まあ、そんな風にからかわれるのも好きなんだけどさ。
「それじゃあ二人目だ!一人を退けたからと言って油断するなよ!そんな奴には私が直々に稽古をつけてやる!」
「ははは、それは恐ろしい。それではこの趙子竜、全力でお相手つかまつろう」
「誰かそいつしょっぴいて『今は兵の番だから将がでしゃばるな』って伝えとけ~」
すぐさま周囲の人混みから十人ほど兵が出てきて、趙雲を捕まえて人混みの裏に消えて行った。確かあの辺りでは参加しない奴と戦い終わった奴が試験を肴に宴会してるはずだから、趙雲もそれなりに満足するだろう。
……一夏の作ったメンマも置いてあるし。
「……さて、誰が相手をする?」
「……じゃあ、俺が出ようか?」
嫌な予感がした。しかし振り向かないわけにも行かないので、自分の嫌な予感が外れてくれることを願いながら、声の聞こえた方に顔を向けた。
そこに居たのは、いつもと違って町の住人のような格好をしているが腕には見慣れた純白の手甲をつけている一夏が、いつものように眠そうに立っていた。
…………私の願いは届かなかったようだ。
「……頼むから殺さないでくれよ?」
「大丈夫大丈夫、手加減は得意だからな。殺さなきゃいいんだろ?」
「腕を落としたり、足を切り落としたり、半身不随にしたり、精神を壊したり、心に酷い傷を負わせたりしなければいいぞ? つまり、再起不能あるいはそれに準ずる状態にはしないでくれってことだ」
「……………………。大丈夫大丈夫」
今の空白はなんだと小一時間問い詰めたくなったが、大丈夫だと言っているし信じることにした。
……張飛。死なないでくれよ?
私はこっそりと、張飛の背中にそう呟いた。