side 公孫賛
戦争の時間だ。私達のやることは残党の始末、及び逃亡者の殺害。言ってみれば督戦隊みたいなものだな。私達の軍にはそんなものは存在しないが。
まあ、要するにいつも通り、敵対する存在をひたすら殺して殺して殺して殺して殺し尽くせばそれでいい。鼠一匹逃さない……とはよく言うが、別に鼠を逃さない必要はない。つまりは狙った獲物が逃げないようにすればいいだけだから、鼠なんかを逃さないように気を付けるくらいなら普通に人間を逃がさないようにした方がよっぽど建設的だよな。
「そう言うわけだ。お前達、きっちりかっちり皆殺しにしろよ? 男も女も老いも若きも関係無しに、今まで奪い、犯し、殺し続けてきた獣の群れに恐怖と死を届けてやれ!」
「了解ィ!」
「それではこれより黄巾賊掃討戦を開始する!諸君らの健闘を祈る!散!」
私の号令に合わせて、その場に居た侍女隊を除く全員が三人から五人の組になって散開した。これで後は放っておけば黄巾賊の残党がこの国に蔓延るようなことは無くなるだろう。
……別にうちに被害が来なければなんだっていいんだけどな。うちからは黄巾賊になった奴はいないし、黄巾賊じゃなくて黄巾党に入った奴もいないし。
洗脳紛いの曲を歌うあの三姉妹だが、地味な私が治めていた町にはついぞ来なかったからな。地味で助かった……と言うべきか。
それにしても、昔は地味なのが嫌だと言っていた私が地味でよかったと言う日が来るとは、人生とは実にわからないもんだよな。
「伯珪様!黄巾賊の陣に火が放たれました!」
「逃げた者だけ殺せ。それ以外はこちらの知ったことではない。…………それと、あまり騒ぐな。一夏が起きる。寝起きの一夏は私でも止められんぞ? 大陸ごとこの世界から消滅したいのか?」
「申し訳ございません」
侍女組の一人が現れて報告してくるが。そのくらいならば私でも感じとることはできる。たいして離れているわけでもないし、火が付いた時の反応はわかりやすいからな。鈍い私でもわかるさ。……それに今回は規模も大きいし。
さあ、殺せ殺せ皆殺せ。面倒事も恨み妬みも妄執殺意憤怒憎悪も、全てこの世から殺し尽くせ!
我等は正義にあらず。されど我等は我等だけの正義を行い、悪行と呼ばれる我等だけの善行を積め!
敵対するもの、道を阻むもの、邪魔するものを刻み殺せ!我等は我等の守るべきものがあるのだから、守るために自らの意思で殺し尽くせ!
「……って、前衛の奴等に伝えといてくれるか? あと、『期待している』とも」
「かしこまりました、伯珪様」
そう言い残して侍女組の一人は姿を消した。まあ、私からすればどこにいるかくらいはわかるんだが、さすがは侍女組と言うべきかかなりの速度で本陣から離れて伝令に回っている。
同じように主に伝令をおこなう組の者も走り回っているが、本職に負けず劣らずの速度で走り回れるとは。
……ああ、ちょうど見付けたな。三姉妹を。それじゃあさっさと殺して終いとしようか。黄巾賊の頭があいつらだってのは……まあ、曹操くらいは掴んでるかもしれないが、あまり知られてはいない事実だったりする。
だからこそここで殺してしまえば後が楽になる。具体的には、曹操や桃香の所に行かれてその魅力で兵を集められる事も無くなるし、誰にも知られていないうちに殺せば私の所に注目が集まる事もない。実にいいことだ。いいことずくめだ。やらない理由が無いな。
……ちゃんと私の考えることを予想して行動してくれる部下がいて、私は嬉しいよ。麗羽の行動の予想はできなくても、普通で普通な普通の人間である私の行動の一つや二つは読みきってくれねば困るんだけどな。隠しているわけでも無いし。
side とある黄巾党の親衛隊員
ついに、黄巾党にも年貢の納め時が来たようだ。
いくら二十万以上の兵が居たって、そのうち戦えるのな精々五万ってところ。それじゃあ今俺達の本陣を囲っている官軍の奴等には勝てない。逆立ちしようがひっくり返ろうが、この事は事実。けして覆すことはできない、純然たる事実。
……そう、だから俺達は俺等の歌姫……てんほーちゃん達を連れて本陣から逃げ出した。三人に生き残ってもらうにはこうするしかなかったし、実際に後ろを振り返ってみれば本陣から立ち上る真っ黒な煙に、俺達のとった行動が間違いじゃないと言うことを教えてもらった。
そして全力で逃げている間に本陣のやつらはほとんど殺され、そして俺達のように逃げ出した奴も結構殺されたみてえだ。
だが、ここまで来ればもう追っ手がつくことも無いだろうと、できるだけ早く、それでいて誰にも見つからないように走ってきて疲れた足をゆっくりと減速させる。
てんほーちゃん達も肩で大きく息をしているし、ちーほーちゃんやれんほーちゃんも限界が近そうに見えるから、一度この辺りで休息をとらないと動けなくなってしまう。そういうことも考えて一度休息をとった。
……それが命取りになると言うことも知らずに。
妙に周囲が静かだと言うことに気が付いたのは、休息を取り始めてからすぐのこと。辺りを見渡してみても、何の異常も無い筈なのに、なにかがひっかかる。
注意深く見渡してみても、目に入るのはてんほーちゃん達と親衛隊のみ。馬なんて使ったらすぐにバレちまうから、馬は初めから連れてきていない。
それに、誰かに見付かった時にはてんほーちゃん達は流しの旅芸人、俺達はその追っかけついでの護衛みたいなもんだと説明する時に馬があったら説得力が出ない。
そこまで考えて、何がおかしいのかに気が付いた。そう、数だ。追っかけとしててんほーちゃん達についてきた兵はこんなもんじゃなかったはず。少なくとも今の二倍くらいは
その瞬間、その場に居た俺達全員の首が飛んだ。てんほーちゃん達のために立ち上がった親衛隊も、俺達が守ると決めたてんほーちゃん達も、そしておれ自身も。全員分の首がくるくると宙に飛ぶ。
……何で自分の首が飛んでるかわかるのかって? 簡単な話だ。俺の視界がくるくると回っている間に、俺の体が見えたからさ。
そして同時に見えたのは、木の上から俺達のことを見張っていたらしい黒ずくめの誰かと、俺達の首を同時にはねた武器だと思われる血に濡れた糸。
そこまで理解したところで、俺はなにも考えられなくなった。ただでさえどんどん感覚が無くなってきていて、視界も暗くなっていってたんだから当然だけどな。
~~暗転~~