真・恋姫†無双~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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閉じた世界の、眠り姫

 

side 公孫賛

 

 黄巾賊の驚異が去り、この大陸は戦乱の時代に足を踏み入れた。

 いくつもの領が攻め滅ぼされ、またいくつもの領の主が他の領を攻める。そんな救いの無い時代に。

 

 そんな中で私の治める幽州では、実に平和な時間が流れていた。

 

 それもこれも私がこの領全土に広めた【地味結界】の効果なんだが、そのお陰で幽州はその名の通りに『幽かな州』へとその姿を変え、結界の外にいる者からは発見されることはなくなった。それは例え相手が外史の管理者であろうとも、私が死ぬまでは何人たりとも幽州を見付け出すことはできなくなっている。

 そのため幽州に戦争を仕掛けるような者はおらず、私達は平和に過ごしている。

 

 なお、結界の外の人間からは私と言う存在や幽州という州の存在を認知できなくした。そうしなければ麗羽なんかは下らない理由で攻めてきそうだったし、私自身がもう外の世界に興味を持っていなかったと言うこともある。

 食料は役立たずの朝廷に送る分が全部私の物になるから問題無いし、水も運河や井戸を無理なく配備したから大丈夫。幽州は孤立したまま生きていける。

 それだけではなく、結界は外の存在から幽州を隠すだけではなく、他にも大きな役割を持っている。

 結界を張っていて、例えば運河や川から人が流れてきた場合……あるいは、一夏みたいに大陸全土を一撃で焦土に変えるような広範囲攻撃を受けた場合には、結界はそのすべてを受け流す。

 具体的な方法はわからないが、川の上流から流れてきた物は結界に触れた瞬間に結界から出ていく川の流れに移動する。

 同じように空間的な攻撃等は、全て『幽州がそこに無かった場合』と同じように広がっていく。当然、中にはなんの異常も無い。

 

 ……これが、私の能力によって作られた私の世界。私自身が忌み嫌い、一夏に見いだしてもらうまでは憎みさえした私の体質の、最大強化版。

 他者の意識を操作し、世界全てから隠蔽し、応用を効かせれば太陽の数を増やすこともできるこの能力を私に与えてくれた、恩人で、恩師で、私の愛しい人。一夏との生活のために作り上げた『ゆりかごの世界』。

 ……主に寝ることに使われてるから間違いじゃないと思う。

 

 そして中にいる奴等はその精神構造の深部に『結界から出てはいけない』という暗示をかけてやれば、中から出ていく奴もいなくなるから幽州が攻められることもなくなるだろうしな。

 一夏最優先とはいえ私は一応州牧。私の治める領の民のことは考えてやらなくちゃならないからな。

 

 ……さて、そろそろ私も眠ろうか。この結界の中は私の世界だから、私自身の加齢を誤魔化すことくらいは朝飯前どころか寝ながらでもできる。

 これも全ては一夏のため。一夏と一緒にいるため。そのために私は世界を騙して友人を騙している。

 

 だが、私は一切後悔はしていない。なにしろ私はいつの間にか、他人を人間だと認識できなくなっていたからな。

 私が人間だと思える相手は、領の民と私に仕える兵士や文官達。そして私自身と一夏だけになってしまっている。

 私の家族も一応わかるが、あまり人間には見えない。桃香は私から一夏を奪おうとした時点で私の中で友人からその他の有象無象になったから、桃香という固有名詞を持つ顔見知りの有象無象という扱いだしな。

 ……そんなことより、眠ろうか。外では争いが勃発してるみたいだけど、私にとってはどうでもいいことだ。私の身内に関係無いことに首を突っ込んでやろうなんて思う事はないし、負わなくていい傷を負おうとするほど奇特な趣味を持ってはいない。

 

 ……いや、もちろん相手が一夏なら一生消えない傷をつけてもらえるのも吝かじゃないんだけどな? 一夏がそうしたいって言うんだったらの話だけどさ。

 

 ……それにしても、外は本当に怖いところだよ。なんの価値もない大陸の覇権なんてもののために、数十万以上の命が失われていくんだから。人間とは思えないよな。修羅の所業だよ。

 

「伯珪様。伯珪様もある意味では修羅でございます。阿修羅姫にございます」

「おいこらやめろ色々危ないような気がするから」

「かしこまりました」

 

 ……ふぅ、やれやれ危ないところだったな。なにが危ないところだったのかはよくわからないが、とにかく危なかった。

 

 私は一夏の頬を撫でる。しばらく眠っていたはずなのに汗一つかいていない一夏の肌はさらさらとしていて手触りがいい。

 そしてさらさらという手触り以上に、しっとりもちもちとした柔らかさがいい。

 

 ……ふぁ……一夏を見てたらなんだか眠くなってきたな……。

 

 私は膝の上で眠る一夏を私の部屋まで運び、そして優しく寝台の上に横たえる。実はこれ、他の気に入らない奴や悪意を持った奴とかにやらせようとすると寝ながらその手をぺしぺし叩いてきたりして嫌がるので、今では基本的に一夏が嫌がらない奴が私に侍っている。

 ちなみに一夏の好みは香水とか体臭とかがきつくない、細身だけど筋肉がある程度しっかりとついている感じの奴。ちなみに私は一夏の好みの中にしっかりと入っているらしい。

 

 それじゃあ、私は眠ろうか。私の作った箱庭の中で、私の愛する一夏と共に。

 私の全てが朽ち果てて、一夏に触れてもらえなくなっても……ずっとずっと、……………………永遠に。

 

 

 

 

 

■ ■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

「……あれ? これって……」

 

 自分の部屋を片付けていた桃香は、古ぼけた竹簡に気が付いた。

 大切そうにしまい込んであったその手紙は、しかし桃香にとっては覚えの無い相手からの物で……けれど、どこかひっかかる。

 

 この手紙を書いた主は、手紙を受け取った本人である桃香と実に仲が良さそうに書いている。その差出人は…………

 

「おーい桃香~。片付け終わったかー?」

 

 びくーん!と慌てた桃香は、手に持っていた竹簡を取り落とす。糸が傷んでいたのか、落下の衝撃で竹簡がバラバラになってしまった。

 そこに顔を出したのは、声をかけた本人である北郷一刀。桃香の足元に落ちている竹簡を見て、彼は苦笑を浮かべた。

 

「……まだみたいだね?」

「う、うん……なんだか不思議なお手紙を見つけちゃって、つい……」

 

 ぽそぽそと呟く桃香の頭を撫でてから、一刀は散らばる竹簡を拾い上げた。

 

「……それで、こんなバラバラになっちゃったわけだけど、どうする? 捨てるんだったら、愛紗がいらないものを燃やすために火をおこしてくれたから燃やせるけど……」

「うーん……それじゃあ、お願いします、ご主人様」

 

 桃香はにっこりと屈託のない笑顔を浮かべ、かつて自らが親友と呼んでいた者からの手紙の残りを一刀へと手渡した。

 

 

 

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