真・恋姫†無双~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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そのに

side 公孫賛

 

「……とまあそんなわけで、我々は反董卓連合に参加することとなった。断ると周囲からの突き上げが五月蝿く、またそれを口実に袁紹が攻めてくる可能性が高いのは資料を読んでもらえればわかるだろうが……その上で反対する者は居るか?」

「はい!字が読めないので何が書いてあるのかわかりません!」

「とりあえずこの馬鹿を一発殴ってから読める奴が読み上げてやれ」

「了解しました」

 

めりっ、と顔面に拳がめり込み、その武官は昔から付き合いのあった文官に引きずられていった。周囲からは『もげろ』『爆発しろ』『溶けろ』『朽ちろ』『腐り落ちろ』といった視線が大量にその二人に注がれているが、その二人は視線に気付くこともなく部屋の隅で資料の内容を教えたり教えられたりしている。

 

「他にわからない者が居たら先に言っとけよ」

「……実は、私もあまりよく……」

「とりあえずこの馬鹿を一発殴ってから読める奴が読み上げてやれ」

「了解しました」

 

この後、さらに数人の武官が資料を読んでもらい、それからようやく話を進められるようになった。

まあ、私が幽州に来てからまだ十年も経ってないし、文官だったらともかく武官になりたい者まで文字を読めるようになるまではまだ長いだろうな。

最低限必要だった改革は終わっているし、ここから先はのんびりと変えていけばいい。とりあえず、目指すは幽州の民の全てが自分の名前くらいは最低限書くことができるくらいの知識だな。文官でもある程度武官の真似事ができるように、武官でもせめて報告書くらいは書けるようになってもらわないとな。

……いつになるかわからないが、目標は高く設定しておいた方が頑張る気になる。

 

「話を戻すが、この出兵に反対の者は居るか?」

「はい!喉が乾きましあっぢぃぃぃぃ!?」

 

ふざけた事を抜かしたそいつはその言葉を言い終わる前に隣に居た副官によって死ぬほど熱い茶を顔面に叩き付けるようにぶちまけられて、悶絶しながら床を転げ回った。馬鹿には似合いの姿だな。これで陽戦隊の千人長だと言うんだから世の中ふざけてる。

優秀な奴は基本的に灰汁が強いんだよな。

 

……つまり、灰汁の強くない普通な私は優秀さでも普通だと言うわけだな。間違いない。

 

「馬鹿は放っておいて、異議や質問がある者はどんどん言ってくれ。できるだけ回答しよう。ただしふざけた質問をした場合は私が直々にグズの家系を絶つために剣をとるからそのつもりでな」

「それでは……袁紹殿は本当にこれほど馬鹿なのですかな?」

「ああ、あいつは馬鹿だ。具体的にはそこで悶絶して鼻の下の急所を机の角にぶつけて気絶して副官に膝枕をして貰っている馬鹿野郎よりも馬鹿だ」

「畜生もげろ」

「馬鹿野郎もげろ」

「殺して皮を剥いでその皮を被ればその立ち位置が俺のものに……!」

「だれかとめろー、こいつほうちょうもちだしてきたぞー(棒)」

「それはたいへんだー。それではこのわたしが……おおっと、かいぎしつにけんなどもってきていないからとめられないー(棒)」

 

なんだ、他の奴等もまた馬鹿か。うちには馬鹿が多いな。治めていて楽しくはあるが、中々大変だ。

 

……さてと。冗談の時間はそろそろ終わりにするとして……。

 

「高碧(こうへき)。さっさと起きろ」

「……はい」

 

私の言葉を皮切りに、緩んでいた空気が一瞬にして引き締まる。

さっきまで目を回していた馬鹿も、その馬鹿と副官に嫉妬の感情を見せていた馬鹿共も、一様にその瞳に真剣さを窺わせる光を宿す。

公孫領名物の一つ、超高速空気切り替え術。桃香の所のはわわあわわのちびっこ軍師組はこの空気の切り替えに着いていけなくてはわわわあわわわと慌ててたっけな。

 

「……連れて行く兵は陽戦隊を三千、隠密隊を二百。内訳は糧食運搬に陽戦隊糧食運搬部を千と、隠密隊忍組諜報部を五十。実戦闘に陽戦隊騎兵部千と歩兵部五百、弓兵部三百攻城弩弓部二百。そして隠密隊忍組諜報部百と斥候部四十五、情報伝達部五の編成としたい。意見のある者は挙手の後発言せよ」

「はい。質問ですが、なぜそこまで少ないのですか? 資料を読む限り敵軍は十万を越える数を揃えているようですが、どう考えても足りないのでは……」

「初めからまともに戦う気は無い。と言うより、私はわざわざ必要の無い戦をして戦力を磨り減らすような馬鹿な真似もするつもりは無い。つまり、戦わないのに多くの兵を連れていって限りある資源を無駄にするつもりは無いと言うことだ」

 

それに、この数ならすぐさま逃げ切ることができるしな。あまり多いと命令伝達に時間がかかりすぎて期を逃す。私は普通だから、あまり多いと扱いきれないんだよ。精々五万ってとこだ。

作戦が上手く行けば戦争をすぐに終わらせてさっさと帰ることもできるし、戦闘自体もほとんど行うことなく帰還することができる。ならば態々多く連れていきたくない。面倒だしな。

 

「そんなわけで、警羅隊。私達が留守の間、宜しく頼むぞ」

「了解しました、伯珪様」

 

私に向かって頭を下げる隊長と副隊長に頷き返し、さっさと帰って一夏と一緒に寝るために作戦を練る。効率面と相手の大切な物を同時に見て、それで決めなきゃならないのは中々大変ではあるが……まあ、なんとかやってみるさ。

普通で普通な普通の私にでもできそうな、極一般的でありふれた平凡なことだしな。

 

「伯珪様。既に伯珪様の普通は異常の領域に入っていることをお忘れなく」

「何言ってるんだか。私が普通じゃないわけ無いだろう」

 

いったい何を言っているんだろうな? 私には正直全然理解できない。

私が普通で地味じゃないんならいったいなにが普通だと言うんだろうか。私こそ普通であり、平凡であり、没個性であり、一般的であり、極々ありふれている存在であり、地味と辞書を引けば私の名が出てくるほどの常人だと言うのに。

 

……何故か周りの奴等に同時に溜め息をつかれた。しかも『ダメだこの自称地味州牧、早く自覚させないと……』という視線まで感じるし。

……もしかして、私に呆れているのだろうか。呆れるだけなら勝手に好きなだけしていてくれてもいいが、この州を荒らして一夏と私の時間を奪うなら殺さなければな。

一夏と一緒の時間は私の癒しで、そのために生きていると言っても過言では無い。

 

……む? 何故か視線の質が変わったな。呆れたような視線なのは変わらないが、『はいはいごちそうさま』と言うような気配が……。

 

 

 

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