賛嬢ちゃんに連れられて汜水関にやって来た。ちなみに袁紹に挨拶をしようとしたら既に寝ているとか言われたらしく、特に何をすることもなく敷いたばかりの自陣に帰ってきた。
一応明日の朝にも行ってみるそうだが、多分寝ているだろうとは賛嬢ちゃんの予想。何となく俺もその予想は当たる気がするから、多分寝てるだろう。
「まあ、多分昼になれば麗羽の方から呼び出しが来るさ。私達は来る奴が集中する時間に来たから、明日明後日くらいに軍義が行われるだろうさ。総大将を決めたり戦略を決めたり方針を決めたりするんだろうけど、時間がかかるだろうな」
「敵前なのに?」
「敵前なのに、だ」
と言うか、総大将なんて適当でよくね? やりたい奴がやればいいじゃん。
「私もそう思うがな。適当に誰かに押し付けてやるのが一番なんだが……麗羽はやりたがるだろうな。目立ちたがりで実より名を取るような奴だし」
つまり馬鹿、と。何するかわからない奴って本当に怖いよな。ああ怖い。有能な敵も怖いけど、無能な上官なんて怖すぎるだろ。ホラーだホラー。
「『ほらぁ』が何かは知らないが、確かに怖いな。私もそんな愚か者にならないように気を付けないとな」
賛嬢ちゃんはそんなことを言うが、多分今のままなら大丈夫だと思うんだよな。
敵を作らず味方を少ないながらも少しずつ増やしていく賛嬢ちゃんなら、支えられている武将や文官に見捨てられたりとかは中々やられなさそうだ。
何しろ賛嬢ちゃんは割と本気で平和な世の中を望んでいるからな。少なくとも内側から分裂していく事は無いだろう。
……おや、偵察が帰ってきたか。とりあえず話を聞いてからこれから先のことを決めるらしいから黙ってるかね。
賛嬢ちゃんの軍は数では反董卓連合内でもかなり少ない方だが、戦力で考えるなら恐らく最高峰。一人一人は弱くとも、数人でのチームプレーが上手いこいつらが千人も要るんだから、大体のことはできるだろうさ。
じゃ、頑張れ。
side 公算賛
「伯珪様」
音もなく現れた忍組諜報部の一人から汜水関の内情を聞く。関を守る将は華雄と張遼で、華雄の方は軍師の賈駆に言われて我慢してはいるがさっさと打って出たがっているらしい。噂通りの猪武者で、猛将ではあるし一般兵ではそう勝てないくらいの実力はあるそうだが、それを全て打ち消してしまうくらいに頭が残念なできをしているようだ。
武器は金剛爆斧と言う斧槍で、それを力任せに振り回すだけの単純だが強力な攻撃を得意とするらしい。
自らの武に誇りを持っていて、それを侮辱されるだけで簡単に頭に血が上る。恐らく今回も侮辱すれば簡単に関を捨てて出てくると思われる。
張遼がかなり必死に抑えようとしても、恐らく抑えきれずに出てくるだろうと予想されるのでその隙に工作をしようとすればできる……と。
……麗羽とはまた種類が違うけど、華雄ってのも相当な馬鹿なんだな。張遼もこいつを押さえるのは大変だろうに。精々頑張れとしか言えないな。
まあ、上手く行けばもしかしたら押さえる必要がなくなるかもしれないから、それまでの辛抱だ。
……さてと。麗羽が動き出すまで時間はあるだろうし、こっちはこっちで動かせてもらおうか。
運のいいことに非常に勘が鋭い呉の孫策はかなり離れた所に布陣しているし、厄介な曹操や優しすぎる桃香はまだ来ていない。
……つまり、私は動きたい放題だって事だよな?
私は椅子から立ち上がり、それを読んでいたらしい侍女組の一人から普通の剣(一夏作)を受け取り、腰に差す。
両刃のその剣は細身でありながらかなり頑丈で、私が本気で振っても壊れない。最近は兵が使ってるような剣だと柄を握り潰してしまう上に振っている最中に根本からへし折れるようになっちゃったからな。
兵が使ってるのでも『そこにあるのが普通』にすると同時に『壊れたと言う事実、傷付いたと言う事実』を地味にしてやれば折らずに使えるんだが、それをやると存在が重くなるから使いづらいんだよな。目立っちゃうから。
まあ、そっちに集中させて暗器で真っ正面から不意打ちするには使えるんだけど、一回やったら通用しなくなるからそれは奥の手にしたい。
だから一夏の用意してくれた剣を使っているわけだ。うん。
……いやまあ確かに一夏が私のために用意してくれた物だからいつでも使いたいしいつでも持っていたかったりもするがだからと言っていつでもどこでも武器を携帯するわけにはいかないからこうして必要ない時は侍女の一人に預けていつでも侍らせてる理由が必要だからとかそう言うことは無くてだな? 単にそっちの方が便利だからと言うだけで…………すまん嘘だ。一夏からの贈り物が嬉しくてどこでも近くに置いときたいだけだ。実用できるのはむしろ副次効果だ。
まあ、そんなわけで一夏の作った剣を持ったまま私は馬に跨がり夜道を走る。馬の体の疲れを隠し、普通の元気な状態にし続けることでひたすら全速力で駆けさせることができる。
後で疲れをとるために少しずつ隠すのを辞めていかなくちゃならない上にかなりその馬を使えない時間が空いてしまうが、筋肉がどんどん治っていくわけだから体が衰えるようなこともないし治った後は普通に乗れるので悪いことは少ない。
それに一夏の協力があれば潰れそうな馬もすぐに治るしな。必要な時には躊躇わず使えるように、核金はいつでもいくつか預かっていたりもするし。
「悪いが、急いでくれよ」
優しく馬の背を撫でてやると、距離の存在を地味にして短くする。これもあんまり長い距離を縮めたり、実際に私が移動している速度と移動距離が離れすぎたりすると反動が大きすぎるのが欠点だが、それでも馬に乗った上で少しずつ少しずつ縮めてやれば、合計して全体の四分の一くらいは縮められるからな。
それに核金を使いながらだから若干私に反動が来てもすぐに治るし、痛くはあるが死にはしないし気絶もしない。便利だよなぁ……。
そんなことを考えながら、私は馬を駆けさせる。目指すは洛陽、董卓のいるその町まで。私の望む未来のために。
人の目から姿を隠し、世界から姿を眩ませて、私は真夜中の山中を駆け抜けた。