家主の娘さん改め恋ちゃんと自己紹介で名前を交換してからしばらくして。俺はそれまでと変わらず料理を作って寝てを繰り返す生活を送っていた。
だが、作る料理の量はそれまでと比べて若干ながら増えている。
その理由としては、ちっちゃい娘さんこと陳宮と、その同僚らしい猪武者華雄。同じく同僚らしいサラシさんこと張遼の三人が時々ここで食事をしていくようになったからだ。
なお、俺は名前は覚えているがその三人は渾名で読んでいる。色々面倒だからということもあるし、軍の食事を作る仕事を斡旋しようとしてくるから、正直この三人はあまり好きじゃないということもある。
…………まあ、あの人格に裏表のありすぎる腹黒そうと言うよりもろに腹黒なツンデレ(ただしツンを出す相手とデレを出す相手が別だけど)眼鏡よりはマシだけどな。あいつ俺のことを道具を見る目で見てくるし。
……あいつ自分の大切にしている相手が殺されそうになったら、前線に出てるサラシさんとか猪武者とか恋ちゃんとか全員見捨てて逃げ出すとかそう言うことを平然とやりそうだよな。と言うか、絶対やるよなあの腹黒眼鏡。脳味噌も体も大切な相手もみんな纏めて溶け落ちればいいのに。
…………半ば冗談だから安心してくれていい。手を出したり囮にしたりされなければこっちもなにもしないつもりだし。
逆に言えば、何かされたらやり返すんだが。
「ねえ、恋にしっかり仕えてみない?」
「あんたに囮として使われたあげくに切り捨てられそうだから、やだ」
なんか腹黒ツンドラ眼鏡の口許がひきつった。普通に思ったままの事を言っただけなのに、なんでそんな表情をするんだろうな?
「…………ボクって、そんなに冷血そうに見える?」
「主が助かるためなら自分を含めた配下の命を丸ごと全部使い捨てることくらいなら悩み苦しみながらも実行しそうに見える」
ひきつり度がレベル2に進化した。どうやら図星と言うやつらしい。
まあ、別に図星だろうが外れだろうが初めからどこかの組織に囚われるのは嫌だけど。
……例外は自分から入りにいく時くらいかね? 中々無いけど。
「……本当は心優しい人かもしれないわよ?」
「心優しいことと酷いことをすることは矛盾しないだろうに。優しくたって殺人はできるし、酷いことををしている人がみんな心ない人とは限らない」
それを一番体現しているのが兵士を含んだ軍人だよな。命令があれば殺したくなくとも殺すし、殺したくとも助けるし。命令次第で救世主にも悪魔にもなる。それが軍人っていう物だし。
まあ、そう考えるとラルちゃんはちょっと軍人の枠から外れてるんだが……別に本人が外れていることで何かしらの不幸な目に遭ったということも殆ど無かったようだし、別にいいんじゃないか?
実は鈴やセシリーも軍属だけど、あの二人は今更だから除外。たっちゃんとかんちゃんは…………まあ、ブリュンヒルデ経験者であり、理不尽がIS纏って飛んでいるとまで言わせた姉妹だから。
……シャル? シャルの所属はデュノア社だから、初めから軍属じゃない。
で、ののちゃんは言わずもがな一般人が姉からISもらっただけっていう状況だから、軍属なわけがない。
……まあ、何が言いたいかと言えば……
「とにかく軍属はお断りの方向で」
「むぅ……」
……『食材をたくさん持ってるみたいだし、恋ちゃんの隊の兵糧を考えなくてよくなると思ったのに』って顔だな。昔のちょろータムほどじゃないが、かなり分かりやすい。
隠そうとしてこれなのか、それとも隠す気がないからこれなのか、それによって俺はこの腹黒眼鏡との付き合い方を考え直さなきゃならないんだが……。
……で、実際どっちなんだ? 昔の大雨さんのように隠そうとしてるのか? それともちょろータムのようにドまっすぐ出してるのか?
俺に言えることは、どちらにしろ軍属にはならないということだが…………とりあえず、そろそろ時間だし恋ちゃんのお昼を作っておくことにする。
昨日は結構重めの料理だったから、今日はさっぱりとしたものを用意しようと思う。
そんなわけで今日はうどんだ。関東風と関西風、田舎風と色々あるが、とりあえず全部用意はできるようにしておこう。恋ちゃんがどれを気に入るかわからないし、どうなっても大丈夫なように。
……まあ、恋ちゃんだったら全部気に入りそうな予感がひしひしとするんだけどな。
さて、それじゃあまずは小麦粉を用意して、麺から作っていこうか。本当だったら踏むんだが、俺の場合は踏むより捏ねた方が強いからそれでいいだろ。
コシの強いうどんを作るには、まずはしっかり捏ねられるように体を鍛えるべし。鈴もしっかり鍛えてあれだけ美味しいラーメンを作れるようになったわけだし。
…………でも、どうしてかちー姉さんは捏ねれば捏ねるほど致命的な味になっていくんだよなぁ……。
……なんでかはわからないが、神秘だ。IS学園七不思議の一つだ。いやほんとに。束姉さん泡吹いてたし。
……膝枕したら直ったけど。
「あ、賈駆さんも食べます?」
「……頂くわ」
はい一名追加。最近は客が多いが、あんまり変わらんな。
サラシさんが来ると酒を飲み始めるから結構変わるんだけど、俺に飲ませようとするのはやめてほしい。
ついでに、軍に勧誘してくるのもやめてほしい。何と言われようと入る気は無いから。
「……ただいま」
「お帰りなさい。今日はうどんだけど、もう少し待ってくれたら天麩羅もできるから」
「……てんぷら?」
……あ、わからないか。そう言えば結構昔の世界だもんな、ここ。
それにしては服飾がやたら現代的だったり、一部で明らかに科学技術的におかしい物があったりするけどな。例えばドリルとか下着とか明らかに洋服的な服とか。
……まあ、別に俺に被害はないから構わないんだけどな。精々時代考証に困るくらいで。
どの程度までなら科学技術で押し通せるかとか、そういう辺りもわからないが……まあ、困ることは特に無い。それは最終的に考えないようにすればいいだけのことだ。
……海老天さつま天かきあげ天、みんな美味そうに揚がったな。
それじゃあ味付けは抹茶塩をお好みで。油っぽいのが嫌ならポン酢とかもいいかもな。
……さっぱり系で作る予定だったのに、いつの間にか天麩羅作っちゃったよ。
仕方無いから一応さっぱりめのも作っとこう。トッピングで止まるかもだけど、無いよりはいいはずだ。
とりあえず今回の更新はこれでおしまい。またちょこちょこ更新していきます。