side 公孫賛
「……そんな訳で、総大将の公孫賛だ。地味だとか覇気が無いとか地味だとか鎧に着られてるとか地味だとか何でこんなところに町娘がいるんだとか地味だとか地味すぎて気付かなかったとかそう言うことは言わないでやってくれ。これでもそれなりに気にしてるんだ」
あの後、結局私は総大将をやることになった。なのに存在感がない上に目立たず、そして威厳もなにもないわけだからお飾り扱いも仕方の無いことだと理解はしている。
だからと言って手抜きはしないし、私には私の計画と言うものがあるから利用する関係としては実に正しいんだろうな。
「で、正直私が総大将に選ばれるなんて月が落ちるとかそのくらいに考えてなかったから何にも案が無いんだが、誰か作戦はないか?」
私がそう言っても、誰一人として発言しようとはしない。こんなところでも政争が続くなんてのは正直勘弁して貰いたいんだが、責任を押し付けられるのを嫌がってかやはり一人も発言しようとはしない。
私が諸侯を見回すと、かなりの人数が顔をそらし、それなりの人数が無視し、私と顔見知りの麗羽は自慢気に、桃香と北郷は私を心配そうに見つめているのがわかった。……まったく。あいつにもそう余裕があるわけでもないだろうに、人の心配をしている暇などあるのかね。
「……どうやらまともに協力する気のある者は居ないようなので、私も投げることにする。……適宜、己が正しいと思ったことをやれ。ただし、略奪やら何やらは禁ずる。一番槍は私が貰う。以上、解散」
……さてと。それじゃあできる限りのことはやるとするか。あいつと約束もしたしな。
side 劉備
軍義に乗り込んで早く総大将を決めてもらおうとしたら、白蓮ちゃんが総大将に指名されてしまった。
総大将なんて大変な仕事を、白蓮ちゃんは持ち前の人のよさで平然と受け入れてしまった上に一番槍まで受け持つと言っている。
このままじゃあ白蓮ちゃんの軍の被害は大きくなるばかりで、その上このせんそうのせきにんを押し付けられる立場になっちゃうなんて……。
だから私は軍義が終わってすぐ、白蓮ちゃんのところに行った。
「白蓮ちゃん」
「……ああ、桃香か。何か問題でもあったか? 少なくとも向こうは時間稼ぎを主体にしてるはずだから、こっちが動くまでは動かないと……」
「白蓮ちゃん、大丈夫なの?」
私のその言葉に、白蓮ちゃんは不思議そうに首をかしげた。まるで、どうしてそんなことを聞かれるのかわからないと言うかのように。
「問題ない。流石に私が総大将と言うのには驚いたが、私のやることは変わらない。洛陽の民を助ける。……それだけだ」
「でも、白蓮ちゃんの軍は二千くらいしかいないって……」
確かに白蓮ちゃんの所の兵隊さん達は強いけど、だからってたった二千で汜水関に籠っている五十倍もの兵に勝てるなんて思えない。
それに、その兵は猛将華雄に率いられている正規軍。そこらの賊とは練度が違いすぎる。
「だから、私達も……」
「やめとけやめとけ。お前達の軍が来たところで死ぬ奴が増えるだけだ」
でも、白蓮ちゃんはそんな私の言葉を一息で切り捨てる。確かに私達の兵じゃあ白蓮ちゃんの所の兵には追い付けないけど、それでも何かの役には……。
「どうしてもってんなら、後ろから手柄だけかっさらおうとしてる奴を牽制しといてくれよ。そっちの方がありがたい」
にっこりと笑顔を浮かべた白蓮ちゃんは、そう言って私の頭を撫でた。
暖かい白蓮ちゃんの手に撫でられていると、なんだかとても落ち着く。慌てていて細波が立っていた私の心が、ゆっくりと普段のように緩やかなものになっていく。
「……落ち着いたな? それじゃあ、桃香は後ろの奴を切っといてくれ。私はやることがあるから……またな」
頭から手が離れていって、なんだか少し寂しいような気がする。
そして私に背を向けて歩いていく白蓮ちゃんは、迷いなく自分の陣に歩を進めていく。
「白蓮ちゃん!」
私の声に白蓮ちゃんは止まって、くるりと振り返る。何を言っていいのかわからずただ呼び止めた私は、たった一言だけ。
「頑張れ!」
そう言った。
そんなことしか言えない私が嫌になったけど、白蓮ちゃんは笑顔を浮かべて、拳を高く挙げて答えてくれた。
白蓮ちゃんを見送って、私は自分の陣に戻っていく。白蓮ちゃんにお願いされた、後ろから手柄だけを持っていこうとする人への牽制。そして白蓮ちゃんのお陰でようやく動けるようになったと言うことと、白蓮ちゃんがまた厄介事を押し付けられちゃったから助けたいと言うことをみんなに伝えるために。
白蓮ちゃんには、みんな大きな恩がある。
流れていた私達を雇ってくれたこと。軍を動かすいろはを教えてくれたこと。兵の鍛え方や国を持った時の書類の片付け方も、みんな白蓮ちゃんが教えてくれた。
旅立ちの時も沢山の糧食をくれたし、兵を集める許可と一緒に武器まで用意してくれた。
白蓮ちゃんがいなかったら、きっと私達がこうして国を持つまでにはもっと長い時間が必要になったはず。こうして沢山の人を助けるために動けるのは、白蓮ちゃんが一番始めに基礎を教えてくれたからだ。
だから、そんな大きすぎる恩を返すためにも、私は頼まれたことを一生懸命に頑張ろうと思う。
そして次の日の朝。
「劉玄徳様!汜水関に公孫伯珪様の牙城旗が!」
「…………え?」
難攻不落と言われた汜水関は、白蓮ちゃんの手によって連合の誰もが知らない間に落とされてしまっていた。
………………え?