真・恋姫†無双~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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そのきゅう

side 公孫賛

 

賈駆を……詠を陥落させた後は、実に簡単に事は進んだ。

まず、詠と月の連名で私に降ると言うことを書状として二つ三つ認めてもらう。書いたのが間違いなく月と詠だと言うことを示してもらうために本人の名前と印を捺してもらい、さらに私と共に早駆けで虎牢関と汜水関に届けてもらう。当然ながら、元居た涼州から連れてきた兵も一緒に来る。

それによって洛陽には一時的に兵がいなくなるが、最後に月が『私の頸と引き換えに戦争を止める』と行って出てくれば洛陽で月は英雄になるだろう。

 

虎牢関で呂布達に合流したら、虎牢関の兵の内の涼州兵には呂布・賈駆・陳宮と共に私の州まで早駆けしてもらう。ここで私に着いてきている隠密隊忍頭に案内を頼むため、迷うことは無いはずだ。

そして洛陽から着いてきた兵と私、そして月と虎牢関で合流した張遼は小休止の後に汜水関へと駆ける。

書状を書いてもらった理由は、例え既に華雄が倒されていて逃亡し、バラバラになった元華雄軍の状況であっても、張遼か月が華雄を見つければ話ができる状況を作り上げるため。あるいは、既に連合軍が汜水関を抜けて進んできていた場合に書状に私の名前と印を加えて先に幽州まで逃がし、私は地味な女兵士の服を着て私の軍の偵察として元居たように入り込む。

その際に張遼達は私の印の捺された書状があれば幽州に入ることができるし、私は自分の目で見てきたことをさも報告を受けたように総大将に報告すれば疑われることはない。

 

……と、最悪そんな風に話を進めるはずだったんだが、麗羽が予想以上にいい働きをしてくれたお陰でその手を使わないで済んだ。

そして今、私は汜水関の一室で張遼と月と共に華雄の説得を

 

「華雄さん……」

「……わかりました」

 

……今まさに終わったところだな。やっぱり初めにどちらが上かを教えてあると話が早くて助かるな。猛将勇将と言うやつほどその傾向が顕著だが、華雄はその中でも特別に楽だ。

華雄は中々強かったが、関羽や張飛、趙雲程ではない。迅さでは趙雲に劣り、鋭さでは関羽に劣り、一撃の重さでは張飛に劣り、技術では張遼に劣る。

無論、だから弱いと言うわけでは無いが、それはつまりそれだけ付け入る隙があるということだ。

 

趙雲ならば高速の連撃で。関羽ならば鋭い連続攻撃で。張飛ならば重い一撃で。張遼ならばその技術で。それぞれが上回っている部分で戦えば、華雄に負けることはそう無いだろう。

……まあ、だからと言って油断すればその戦斧で瞬く間に両断されてしまうのだろうがな。

手加減ができない程度に強い相手と言うのは厄介だよな。殺さないように捕らえることがほぼできないんだから。

 

「まあそんなわけだ。後は私に任せて幽州まで行っててくれ。月の安全はお前達にかかってる」

「わかっている。董卓様は私が守る」

 

そう言った華雄の瞳には、はっきりとした決意の光が灯っていた。これなら恐らく幽州に行く道の途中で賊などに襲われても大丈夫だろう。

一応隠密隊について行かせて光学迷彩をかけさせるから見付かることはないだろうが、私は保険はできるだけ掛けておく方だからな。

特にこの保険は効果の割に手間も料金も大してかからないから、かけられそうならかけておくのが一番だ。

 

「それじゃあ張遼、華雄が暴走しないように見張っといてくれよ? その後はお前次第だけどさ」

「ははは、安心せえよ。月を届けた後も一緒に居るつもりやからな」

 

そう言って笑う張遼に、私も笑顔を返す。張遼は月に仕えている訳じゃないようだが、月の事を気に入っているのは変わり無いらしい。

こうやって他人に好かれるのも月の人徳ってやつか。羨ましいね。普通で地味な私からしてみれば眩しくて眩しくて仕方がないよ。

 

「いやいや、賛ちゃんが普通は無いて」

「いやいや、私は普通さ」

「いやいやないない」

「いやいや普通普通」

「ないない」

「普通普通」

「ないないないない」

「普通普通普通普通」

「ないないないないないない」

「普通普通普通普通普通普通」

「お前達いい加減にしろ」

「「はいよ」」

「あ……あははははは……」

 

華雄からツッコミを受けてしまったので、張遼との異常普通合戦をやめてそろそろ真面目にやることにする。月にも笑われてしまったしな。笑い声が若干乾いていたが。

 

私は緩んだ空気を引っ込めて、月と視線を合わせる。真面目な私の雰囲気を読んだらしい月は、表情を引き締める。

 

「……私はこれから連合軍を連れて洛陽まで攻め上る。だが、住民への暴行や略奪行為はけしてさせない。……安心して、ってのもおかしいが、信じて待っててくれ」

「……はい!」

 

私の言葉に、月は綺麗な笑顔を浮かべて頷いた。昨日までの鬱々とした空気は既に無く、何故か私に対する無条件の信頼感がその瞳に映し出されている。

 

……何でこんなに好かれたのかはわからないが、好かれないよりはずっといい。どうせこれから暫くは一緒にいる相手なんだし、険悪な仲の相手と一緒には居たくないからな。

なお、私には曹操みたいな女相手に欲情するような趣味は無い。だから私が月を相手にそういったことをするのも、ましてや月にそういったことをされる事もありえないと考えてくれて結構だ。私は普通だからな。

 

……まあ、相手が一夏だと言うならばそういったことをされるのもするのも構わない……と言うより、むしろ望むところだがな。

私は普通の恋する乙女。恋した相手には骨抜きになっちまうんだよ。

 

……『乙女』だからな? 『漢女』じゃないからな? あの上下左右前後全ての方向に作用する視覚兵器(ただし話してみると以外とまとも、しかもそこらの女より女子力高い。でも見た目は最悪一歩手前)と一緒にしないでほしい。

 

……なんて考えながら、私は静かに駆けていく月達を見送っていったのだった。

 

…………さて、と。ここからは月や陳宮(子供達)には見せられない汚い大人の話になるな。できれば私も月の思う通りの綺麗な存在で居たいんだが、そうも言ってられない状況だからなぁ……。

やれやれ、本当にこの乱世ってのは面倒臭くできている。本当は皆が心からの笑顔で居られる国にしたいんだが、そう上手くは行かないからな。

一番簡単な方法は死ぬまで麻薬なりなんなりを全員が使い続けることだが、健康上の理由でお薦めできない。それに麻薬を使って浮かべる笑顔は心からの笑みではなく、むしろ心を病むような笑顔だからな。見てるこっちが気分が悪くなる。

国力も下がるし、麻薬ってのは本当に良いところが少ないなまったく。

 

…………死兵を作り出すにはいいんだがな。

 

「伯珪様」

「……ああ、李雄(りゆう)か。丁度いい。汜水関に私の牙城旗を掲げておいてくれ。門はまだ閉めたままでいいが、朝日と共に開けてくれ」

「了解しました。……しかし伯珪様、よろしいのですか?」

「……董卓に肩入れしたところで、どうせ誰も何も言わんさ。麗羽は適当に立ててやって『連合の影の支配者』を楽しんでりゃ満足だろうし、孫策も袁術のところの張勲も曹操も、この戦に大義なんざ無いって知ってるからな。孫策には実を適当に、曹操には名を与えておけば十分さ。袁術のところは孫策から持ってくだろうし、問題は無い」

 

多分だけどな、という言葉は飲み込んでおく。大将が部下を不安にさせるわけにはいかないからな。

まあ、相手がもういない趙雲や程立達だったらからかうために言っていたかもしれないが、所詮はもしもの話だ。語るに値しない。

 

「……私はしばらく眠る。太陽が出る少し前には起きているつもりだが、日が上っても眠っていたら起こしてくれ」

「はい」

 

李雄の返事を聞き、私は将の泊まる部屋に入る。

その寝台には予想通りに一夏が眠っていたので、私は慌てず騒がず抱き枕にする。

 

……おやすみ、一夏。

 

 

 

 

 

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