side 公孫賛
虎牢関に到着して、そのまま虎牢関を占領する。その際馬超は競走に負けて凄まじく落ち込んでいたが、勝負の世界は非情なものだ。諦めてくれ。
「さて、そんなわけで空っぽの虎牢関を占拠したわけだが……その前にそこの馬超を誰かなんとかしてくれないか? さっきからじめじめしていていつ茸が生えてきてもおかしくなさそうなんだが……」
「……ははははは……西凉生まれの西凉育ちの私が……馬の扱いで負けちまったよ……母上に何て言えばいいんだよ…………」
馬超を中心にどんよりとした空気が広がっている。なんだかこの中に剣を置いておいたら随分と早く錆び付いていきそうだ。
「馬超……わかるぞその気持ち」
「……関羽……?」
馬超に近付いていった関羽は、落ち込んでいる馬超の肩を優しく叩く。……そう言えば、関羽もうちの兵を嘗めてかかってぼっこぼこにされたんだったな。
「私も、公孫賛殿の兵と戦ったことのある身だ。あの兵達の精強さは身に染みているさ」
……うちの兵は普通なんだがなぁ……。才能があるやつなんて殆どいないから、ただひたすらに努力して才能の壁を破ろうとしている普通の人間。それがうちの兵なんだが…………なんか勘違いされてないか?
「……まあ、いい方に考えろ。自分達よりも上の者がいると言うことは、人間はそこまでできると言うことだ。同じ人間なのだから、自分達も努力すればその高みまで上ることができる。いい目標ができたじゃないか」
「……そうか……そうだよな」
ついさっきまでじめじめとしていた馬超の表情に笑顔が戻り、からっと乾いた西凉の風を思わせる気配に変わる。
薄暗く湿った部屋の隅で壁に向かって膝を抱えて何かに呟き続ける姿が実に似合っていたその姿は、あっという間に屋外で馬を駆けさせて笑うのが似合う明るい姿に。実に現金だ。
「でも結局お姉さまが負けたことにはかわりないよね」
「「ぐはぁっ!?」」
「愛紗ちゃーんっ!?」
馬超の妹らしい奴がせっかく立ち直った馬超に追い討ちをかけた。しかも余波が関羽の方にまで行ってしまっている。
「しかも汜水関での手柄も虎牢関での手柄も全部公孫賛の物だし、私達いいとこ無くない?」
「ああ、それなら問題ない。私の手柄は私を大将に推した麗羽の物だからな。その代わりに麗羽は向こう十年は私のところに攻め入らないことになってたりしてな」
さらっとばらしてみるが、やはり大きな反応は無い。むしろ並んでorzとなっている関羽と馬超に対する反応の方がよほど大きい。
正直に言えば、このまま私が総大将をやっていても論功行賞の時には麗羽が大将だったことになってそうだが……まあ、いいとしよう。
目立つと叩かれるし、何より面倒だ。適当に私の功績は誰かに押し付けて、私は参加すらしてなかったかのように平然と帰らせてもらおうか。
……丁度、大きな功績を擦り付ける相手と小さな功績を擦り付ける相手の両方がこの場に居るわけだしな。
「それじゃあ明日には洛陽に向けて出発するぞ? 何か用事がある奴はさっさと済ませておいてくれ。例えば関羽の強さと美しさを欲しいと思う誰かさんは自分の軍に来れば関羽に力を与えられると言うことを餌に勧誘してみるとか、蜂蜜大好きな誰かさんはこの近くで採れる特別な蜂蜜を買いに兵を走らせてみるとか、私の馬が欲しいと思った誰かさんは私に交渉を持ちかけてみるとかな。ちなみに私がやっとけと言ったからやったのに色好い返事がなかったから賠償しろとかそう言う話には一切応じないからそのつもりでな」
「……なんだか遠足みたいだなぁ……」
北郷がぼそっと呟いたが……まあ、確かにそれは正しいかもしれん。
頭の中身はまだまだ子供な麗羽。普通に子供な袁術。普段は大人なのに麗羽に付き合っていると若干子供っぽくなる曹操と、曹操至上主義だがそのせいか曹操が絡むと頭が少しばかり残念になる部下たち。桃香はもう言わずもがなで、その仲間達も子供のように夢を追い続けている。
そんな癖の強い子供達を纏めて、そして洛陽まで遠足。道中ちょっと危ないことがあるけれど、それは引率者である私が先回りして排除しておく。
……ああ、確かに遠足だな、これは。流石は天の御使いだ。中々上手いことを言うじゃないか。
そして遠足の先で子供達が不祥事を起こそうとしたら止めて、もしも起こしてしまったらお仕置きと相手に謝罪をしなければならない辺りもそっくりだ。
子供達が内々で止めてくれれば一番いいんだが、意識と手足が別々に動く子供や我慢ができない子供もいるから期待はできないな。
一番正義感の強い桃香の所は意思はあっても能力が足りないし、実力的に止められそうな曹操は恐らく静観するだろう。孫策辺りは袁術に首輪を填められて鎖に繋がれているから動こうにも動けないだろうし……頼れるのは自分だけか。
……やれやれ。目立つのは嫌いなんだが、月や詠とも約束してしまったからな。尻拭いくらいはして見せるさ。
「伯珪せんせー頑張ってー」
「ああ。……ってちょっと待て。私口に出してたか?」
「いえ、表情と空気と気配と先程の誰かさんの発言から予想しました」
優秀な部下がいて私は幸せだよ。
ジト目で侍女隊の一人を見つめてやると、そいつは無表情に頭を下げた。
……畜生、美人は何やっても似合うから特だな。地味で華がなくてどこまでも普通な私からしてみると羨ましいよ。