side 公孫賛
汜水関、虎牢関と戦をせずに進んできて、ついに洛陽に到着した。
しかしやはりここにも兵はおらず、連合軍は完璧に肩透かしを食らった形になってしまった。
……敵を倒して取るものを取らなかったらこうして行軍するために使った費用は全てそのまま損害へと回り、それは大軍を率いていればいるほど大きくなる。
それを無理矢理補填しようと思ったら洛陽から強奪していかなくちゃならないんだが……ここで私が言っていたことが効いてくる。
つまり、麗羽や袁術の前で堂々と『洛陽で乱暴狼藉を働くような奴は連合軍の一員じゃなくてただの賊だから殺す(意訳)』と言ってやったそれだ。
連合の一員を殺したら流石に問題だが、狼藉を働いた時点でそいつは連合ではなくただの賊。賊を殺したところでなんの問題も無く、むしろそれは推奨されることだ。
更に言ってしまえばそうして排除すると言う事はしっかりと伝えてあり、さらに全員から許可を得ているため(正確にはその状況で許可を出さなかったら確実に顰蹙を買う状況にしてやって漸く首を縦に振ったんだが)、実際にやっているところを見たなら誰が誰を殺しても問題ない。
……そう言っておいた筈なんだが、どうしてこんなに仕事が多いんだろうな? と、私は考え事をしながら麗羽の軍の兵の一人(下半身丸出しで見るに耐えない)の首を斬り捨て、そしてまた走り出す。
もう何十人斬ったか忘れたが、一夏が作ってくれた剣も私の服も髪も血に塗れてしまっている。
とりあえず袁術の所の兵と麗羽の所の兵の暴走率が高く、孫策と曹操、桃香の所の兵は全くと言っても良いほど暴走はしていない。
私の兵は言わずもがな暴走している者はいないが、かなりの軍の兵が暴走を始めようとしていた。
……麗羽達は今城に行って陛下を探しているだろうが、私は真名も知らない陛下を探すよりも月との約束を守る方が重要だ。
それじゃあ私は私なりに、精々頑張らせて貰うとするか。
「伯珪様。隠密隊の応援が到着しました。一時的な厳重警邏によりかなりの人数を粛清いたしましたが、こちらにも数人の軽傷者が出ております」
「わかった。そいつ等の四半分にはすぐに警邏に当たらせろ。後は交代要員として休ませておけ」
「はい。隠密隊増援、四半分は即座に警邏。残りは交代要員として休息!」
「宜しい、駆け足」
ひゅっ、と微かな風切り音を残して忍組の男は消えた。私の本陣に向けて移動している気配があるので、恐らくこれがさっきの男なんだろう。
……ふと、私は今まさに麗羽の兵の狼藉から救った筈の住民に視線を向けた。
どこにでもいるような、美しいとは言えないが可愛らしいとは十分言えるだけの器量を持ったその娘は、明らかに怯えた表情のまま私から距離をとろうと震える手足で後ずさっている。
私は溜息を一つ吐き、その娘の記憶を地味にする。私の姿を地味にして、顔も姿も覚えていない【誰か】に助けられたと言うように記憶させ、すぐさまその場から去る。
こうして私の姿と存在は、少しずつ少しずつこの世界から抜け落ちていく。
誰に助けられたかはわからないが、誰かに助けられた筈の誰かは首をかしげるだろうが、その疑問すらもすぐに薄れて消えていく。
世の中には曹操、劉備、孫策といった英傑が居る。そんな中では私など、放っておいてもすぐに消えていくだけの地味な奴でしかないからな。
……さて、嘆くのも愚痴るのも一度終わらせるとしよう。今は嘆くよりもやることがある。
一夏のために。私のために。ついでに私の民のために。私は洛陽の町を駆け回る。
血に濡れ、屍を踏み潰し、それでも私はただ進む。
全ては私と一夏の快適な睡眠環境のために!
私はそんな未来を想いながら、商家を襲う袁術兵を縦に両断した。
side 織斑 一夏
……いやぁ、賛嬢ちゃんも頑張ってるね。思考回路がかなり狂っている上に、色々なものが人間の普通から人外の普通になっていってるのに、気にした風もなく進めるようになるとはね。
ほんと、人間ってのはどこでどう転ぶかわからん物だね。なのちゃんやルーちゃんの時にも思ったけど、やっぱりこれだから人間ってのは楽しいよな。束姉さんが楽しい人間を好むのもわかる気がするよ。
まあ、俺は束姉さんとは違って頼まれたりしない限りは色々と手を出したりはしないけど。面倒だし、眠いし。
だからこうして今も賛嬢ちゃんの敷いた陣で適当に寝ている。心配はしてないし、大変なことになっても限界まで助ける気もない。賛嬢ちゃんも今頑張ってるしな。
頑張る賛嬢ちゃんは好きだよ? 恥ずかしがる賛嬢ちゃんとか恥ずかしがって
悶える賛嬢ちゃんとか恥ずかしがって悶えながら引きこもる賛嬢ちゃんとか恥ずかしがって引きこもって布団に丸まって悶える賛嬢ちゃんとか、見ていて凄く可愛いと思うし。
やっぱりあれだ、賛嬢ちゃんの可愛さはかんちゃんに通じるものがある。たっちゃんに言ったら全力で否定されるだろうけど、似てるものは似てるんだから仕方ない。
自分が優秀でないと思い込み、自分の限界を勝手に決めつけていたかんちゃんと賛嬢ちゃん。そして二人とも、自分の力でその殻を破る事ができた。
ちなみにたっちゃんはその時の色々吹っ切れたかんちゃんの笑顔を見てノックアウトしたなんて言う話もあるが、紛れもない事実だったりする。
……それにしても、俺の出番無かったなぁ……こんなんなら幽州で留守番しとけばよかったよ。
それじゃ、お休み。