真・恋姫†無双~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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そのじゅうさん

 

 

 

 

side 公孫賛

 

洛陽で狼藉を働こうとしたものを斬り捨て、糧食を使って炊き出しをしていた曹操の所で押し寄せる民を落ち着かせ、時に救った者の記憶を地味にし、時に救った者に礼を言われ、時に連合内部の者と対立し、私は結局帝に会うことなく幽州まで戻ってきていた。

殆どの者は傷すら負わず、負ったとしても軽傷だった私の軍は、先に幽州に到着していた月達や侍女長を中心とした面子に歓待を受けた。

勿論、民からもな?

 

「お帰りなさい!体の方は大丈夫ですか?」

「ああ、殆ど問題ないさ」

 

まあ、私の体は問題なくとも私の馬には問題があったりするんだがな。

汜水関から洛陽まで、宵の口から日が上る前に移動し、さらに一日休息がとれたとは言えそこから急いで虎牢関へと走り、休む間もなく汜水関へ。

月が華雄を説得して、退去が終わるまで僅か一日。ずっと動きっぱなしだったからな。

 

その間、全身にかかった負荷と疲労を全て地味にしていただけで、普通ならばいくら鍛えていたとは言っても動けなくなっていて当然のところを無理矢理動かしていたんだ。暫くは走るどころか立つことすらできるかどうか……。

まあ、一夏に核金を借りてるから二~三日で治るとは思うが、その間はしっかりと面倒を見てやらなければな。

 

「……ところで、月。どうして詠はあそこで膝を抱えてるんだ?」

「えっと……周りの人達の仕事の速度に追い付けなくておかしいでしょって言って……」

「いや普通だろ」

「私もそう言ったんですけど……」

 

ちらっ、と侍女隊見習いの制服を着ている月は、後ろの方で膝を抱えて踞っている詠に視線だけを向ける。

 

「なんで? 何でよ? 明らかにおかしいのに何でみんな何も言わないのよ? 華雄は自分より明らかに強い奴を見付けて喜んでたらそいつここではただの百人長だし、霞は千人長と軍略勝負で負けてるのになんか清々しい顔で何度も挑んでるし、恋は恋で何一つ変わらないままご飯食べて家族と寝てるしねねは呂布と一緒に寝てるしここの軍師は普通普通とか言いながら馬鹿みたいな量の書類片付けてるし平文官すら私並みに書類を片付けてるしふと見えた窓からは外で瞬間移動しながら調練してるしよっぽど強い奴なんだと思ってたらただの訓練兵だって言うしじゃあ正規兵はどうなのよって思ってたら常に城内と領地内を循環してる上に姿が全然見えなくてでも何かあったら即座に駆けつけてきてありがたいけどどこに居たのって聞いたら普通にゆっくり歩きながら陽炎みたいに消えて見せられて幽霊か何かかと思ったら誰一人驚いた風にしてないし何事かと思ったらこれが普通とか言われるし……普通なわけ無いじゃない!って言っても全員が全員何がおかしいのかわからないって顔してるし月も何がおかしいのかわからないって顔をするどころか私にこれが普通だって言ってくるし……普通なわけ無いじゃないのよこれが普通なわけ無いじゃない。そもそも私達がここに来た時も汜水関から二日でついたし白蓮に出会ってから今の今まであからさまに変なことばっかりじゃないの何でこんな異常にみんな気付いて無いのよどう考えてもおかしいじゃないのよあり得ないわよ………………ブツブツブツブツ……………………」

 

……重症だなこいつは。具体的には私の軍の一般兵に一対一で隙を突かれて負けた時の趙雲くらい重症だ。

あの時の趙雲は見ていて憐れになるほど落ち込んで、程立や戯志才がどれだけ励ましてもしばらくの間は茸が生えてもおかしくないと思えるほどじめじめした空気を振り撒いていた。それが今の詠に重なって仕方がない。

趙雲は確か……そうだ、私が無理矢理負の方向に流れる心の動きを地味にして、正の方向への心の動きを普通に存在する状態にさせて、それで漸く立ち直ったんだったか。

……しかし、なんで詠は違和感を持てるんだ? 私の理想の通りとは言わないまでも、しっかりと意識操作はやってある筈なんだが……。

それに、しっかりとかかってる手応えもあるし、普通だと認識してくれるはずなんだが……おかしいな?

 

「精神に作用するやつだとたまに効きにくい奴がいるから、そこのブツブツ呟き続けてる危ない感じのする娘さんもそういった奴の一人なんじゃないか?」

「む……どうすればいい? こんな経験は初めてだし、どんな風にすればいいのかよくわからないんだが……」

「まあ、ほっとけばいいんじゃない? ちょうどいいところに歯止めもいるし」

 

そう言って一夏が視線を向けた先には、詠のことを困った目で見ながら苦笑を浮かべている月がいた。

確かに、詠は月の幸せを願ってここについてきたんだし、月がいればある程度鬱憤が張らされるかもしれないな。

 

「月。詠の事は任せていいか?」

「はい、任せてください!」

 

月はきゅっと拳を握ってやる気を表明しているようだが、私からしてみればやる気よりも可愛らしさが前面に立っているように見えるが、それは言わないでおくとしよう。わざわざやる気を削ぐ意味も必要もないしな。

 

「ああ、頼むぞ月」

「へぅ……頑張りますっ」

 

にっこりと普通の笑顔を浮かべながら月にそう言ったら、なぜか月の顔が赤くなった。それに少し体温も上がったみたいだし、一体何があったんだろうな?

 

「惚れられたん」

「へぅぅっ!へうぅぅぅっ!!」

「うわなにをするやめ」

 

一夏が何かを言おうとした瞬間、顔を真っ赤にした月が一夏の口を塞ごうと飛びかかる。何を言おうとしたのかは知らないが、仲のいいことだ。

 

「賛ちゃんはほんまにわからないんか?」

「何がだ?」

「……いや、わからんならわからんでええねん。月も可哀想になぁ……」

 

? 何なんだ? 何がどう可哀想なんだ?

 

 

 

 

 

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