真・恋姫†無双~ほんとはただ寝たいだけ~   作:真暇 日間

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 連続投稿十四話目。次は拳帝編に入ります。


江賊編02

 無事に商人の船を送り届けた私達は、江賊の使っていた船を曳航しながら帰路についていた。

 外出は帰るまでが外出だ。襲われたところで早々どうにかなるような船ではないし、そもそもそう言った賊を食い物にして成長している……事になっているのが我々『錦帆賊』なのだが、それでも夜に襲われたり四六時中の襲撃は堪えるものがある。

 ……と言うか、そんなことになったら先代頭領が本気で切れる。私はまだ死にたくはないし、やりたいこともたくさんある。人間としての生を与えてくださった先代頭領を支え、二代目として錦帆賊を盛り上げていきたいと言う思いもあるし、女としての幸せも体験してみたいとも思う。

 

 ……その相手が先代頭領であるならばこれほどの喜びはないのだが……それは恐らく叶わないと言うのが悲しいところか。

 先代は私のことを女と思っていない。悲しいことだがそれは事実だ。

 あの方にとっては私は二代目頭領であり、弟子と言うだけの存在だ。何しろ目の前で全裸になろうとも何の反応もないのが当たり前だし、修行の特にきつかった日の夜には特別な按摩を受けているがその時の格好もほぼ全裸だと言うのに胸や尻を触られたことは一度もない。手先足先、二の腕や太股などの気穴から気脈に干渉して回復力や気脈の通りをよくしていると言うことだが……その辺りの詳しいことは私にはよくわからん。

 ただし、按摩を受けると身体から余計な力が抜け、そのまま眠ると次の日には間違いなく元気になっていると言うのは経験上理解している。私と同じ修行をできる者は全員が同じ体験をしているはずなので、これは先代の技術によるものなのだろう。それが無かった場合には全員が酷い全身筋肉痛になることもわかっている。

 ……とは言え、今日は実働があったので鍛練は休み。従って按摩も無しだ。大した運動にもならなかったしな。

 

 疲れは殆ど無く、時間はたっぷりある。そんな時には鍛練ついでに釣りでもするに限る。

 意識を全方向に拡散させながら全ての方向に集中する。自らの気は僅かも漏らさず、周囲の気を己の物であるかのように意思を通せば……不完全ながら『大周天』と似たようなことができる。

『大周天』では自らの気を体内に取り込んだ自然の気と混ぜ合わせ、世界と一体化する技。だが、私は自らの意思を自然と一体化させると言う所ができず、周囲の自然を私に一体化させると言う方法で限定的ながら似たような効果を発揮させている。

 一言で何が違うかと言えば、規模と副作用の効果が違う。正式な方法を使えば気をほぼ無制限に使うことができるが、その代わりに自分の意思が移ろいやすくなり、悪い気を取り込んでしまえば体調が悪くなったり自分の意思が歪んでしまったりもする。戦場などではそれがそれが顕著に現れる。

 対して私の使う大周天擬きの方では、使える気に制限がある。その代わりに自己を保つことが簡単になっているし、周囲の悪気を私の意思で塗り替えてから使うので流されてしまうと言うこともない。

 そしてあくまで規模が違うだけで、実際の効果はあまり変わらない。擬きの方が疲れるそうだが、未熟者でも割と簡単に使うことができると言う点では優れていると言ってもいいだろう。

 そして、恐らく私は本物の大周天を使うことはできないだろう。先代曰く、私はあまりに人間味が強く、自然と一体になれるような精神に無いと言うことだ。

 仙人にはなれないが、超人としては十分だそうなので問題はない。

 問題はないが……。

 

 ……先代頭領には、娘が居るそうだ。錦帆賊としての先代の顔を知らず、農民としてある村で暮らしているらしい。

 そして、先代はその村とこの船をおよそ半年単位で行き来している。なにかがあればすぐさまこちらに来てくれるので問題は起きていないが……才がある、そうだ。

 気の扱いに才があり、既に正式な大周天を使いこなし、自然の気と自らの気を混ぜながら自分自身の意思を確りと持つことができると言う。

 また無手での格闘術に秀で、気と共に扱うことを得意とするらしい。

 先代は私とその娘御を比べることはないが、私は娘御が羨ましい。

 

 先代の愛情を受けて育ち、気の扱い方を確りと教え込まれ、大切にされている彼女が……羨ましくてしかたがない。

 

 しかし、そんな感情を表に出したりはしない。私は先代の一番弟子。錦帆賊の二代目頭領。鈴の甘寧こと甘寧興覇。無様な姿など見せられるものか。

 自らの意思を練り上げた気と共に身体に溜め込み、周囲の気を常に探る。どうやら気も意志も漏れていなかったようで、水中の魚の動きは実に穏やかだ。

 常に周囲を目視で索敵している見張りには悪いが、見張るにも集中力が必要なので半刻(=一時間)交代だ。我慢してほしい。

 

 今日の夕食は……恐らく魚は取れんだろう。私はそういうのがあまり得意ではないし、自然と一体化ではなく完全に隠れることしかできないために餌すら気付かれなくなってしまうからな。自然に溶け込ませることができれば、餌に気付かせながら自分には気付かせないと言うことができるのだろうが……今の私には難しい。精々努力するだけさせてもらうとしよう。

 何度も言うが、努力は大切だ。才がなくともある程度までなら努力で埋めることができる。私の実力も努力と鍛練の賜物だし、船員の実力や規律も努力の賜物だ。先代はまず力で支配し、周囲の危機を救って心酔させ、その上で規律を作ってそれを守らせることでこの状況を作って見せた。

 勿論努力ではどうにもならないことは存在するがな。私の場合は他人を孕ませることは絶対に不可能だろうし、甦りもできない。いくら努力しようとこれらに関してはどうにもならん。できんものはできん。当たり前のことだな。

 

 ……いつまでこのような生活を続けられるかはわからない。だが、できることならばいつまでも───錦帆賊の皆で家族のような生活をして行きたい。私はそう、心の底から願い続けている。

 先代頭領が無事ならば、私の望むこの生活は続けられるだろう。漢も皇帝も関係無い、自由な江賊生活だ。ある意味ではひとつの国とも言えるこの場所で、私はいつもの通りに生活していきたい。

 他に無い鋼鉄の船。普段は使われることのない大威力の大砲と、魚のように水中を進む爆薬のつまった鉄の筒。自らを守るために用意されたそれらの武器で、いつの日にか漢と争うことになったとしても。

 

 ……さあ、もうすぐ拠点に到着する。水平線の向こう側から、大きな影が見え始めた。

 

 私達が出稼ぎに使う船が小舟に見えるほどの巨大な船。実際に全長は2.5倍と少し、船幅は約4倍と言う、まさに大人と子供な差があるのだが、ただ見るだけではそれ以上の差があるように感じる巨船である。

 先代頭領が『ヤマト』と呼ぶその船は、今は無数の錨によってその場に固定されている。

 その周囲は常に霧に覆われ、その霧はいくら風が吹こうと晴れることがなく、その中に入れば何人も生きて霧を抜けることはできないと言われているその場所こそが、先代頭領が自ら作り上げた水上の要塞である。

 

 その霧の中を、ゆっくりと進む。距離感と方向感覚を失わせるこの霧の中では、高速での運航は不可能と言って良い。そんなことをすれば間違いなくヤマトに衝突して船が大破し、あっという間に沈没させてしまうだろう。

「打電!『駆逐艦不知火帰投!停泊許可求ム』!」

「打電。『駆逐艦不知火帰投、停泊許可求ム』、了解!」

 

 数秒後、ヤマトの船腹から『不知火』と書かれた布が垂れ幕のように垂らされ、同時に数本の梯子が下ろされた。

 

「ヤマトより打電!『申請受理。総員移乗セヨ。戦利品ハソノ場ニ一時放置セヨ』!」

「総員、機関停止後にヤマトに移乗!」

 

 ゆっくりと船を動かす機関が唸りを止め、沈黙していく。すると垂れ幕から光が溢れ、そこから鉄の腕が現れて船を固定した。

 こうして、次に出撃するまでに壊れている部分や磨耗した部品に修理を施し、使った資材を積み直す。次に私が『不知火』に乗るのはいつになるかわからないが、その時までしっかりと療養してほしい。

 

 こうして私の本日の巡回と出稼ぎは終わった。後は整備係や解体係の仕事だ。できるだけ傷付けないように終わらせたし、今日は気分よく眠ることができそうだ。

 

 

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