勝負開始の合図は、さっき一回別れたと思ったら自分の部屋から武器を持ってきて明らかに次勝った方とやろうとしているようにしか見えないサラシさんがやってくれるらしい。もう片方の手には酒瓶があるが、中身には一切手をつけられていない。
とりあえずその存在は一時忘れることにして、今は向き合っている恋ちゃんとの戦いに集中しようか。
今のイメージは崩天戟のあの人だから、戟の構えは腰だめに。
息を調えて、相手の隙を見つけたらすぐさま槍を突くように。
「…………」
それを感じ取ったのか、恋ちゃんも静かな立ち上がりを見せる。ゆっくりと方天画戟を構える。
ピリピリとした空気が張りつめて行き、そしてサラシさんの手がゆっくりと上げられていく。
「始めっ!」
その声と同時に、上げる時の十倍以上の速度でサラシさんの手が振り下ろされた。
瞬間、武器と武器が衝突する金属質な音が響き、俺と恋ちゃんは動き始めた。
初撃。俺は牙月を四つ持つ異色の戟を高速回転させながら突き出した。同時に恋ちゃんはその戟を叩き落とすのはまともにやったんじゃ無理だと判断したらしく、その回転に合わせて矛先を回転させながら突き出した。
真正面から激突した二本の戟の切っ先は、互いを弾き飛ばしながら方向を逸らす。
派手な金属音と火花を散らしながら逸れた切っ先は、それぞれの頬と服の裾を掠めた。
……ってか、よくもまあ初見で真似られるよな。しかも威力はほぼ同等で。
すぐさま戟を引き戻し、第二撃。
一撃目と同じように弾かれたが、今度は互いに弾かれることを予想していたため、僅かな間も無く引き戻されての第三撃。四撃、五撃、六撃、七撃八撃九撃十撃。震雷が俺と恋ちゃんの間で飛び交い、残響が消える暇もなく戟同士がぶつかり合う。超五月蝿い。
……武器の形から考えて、恋ちゃんは突きじゃなくて薙ぎ払いやら振り下ろしなどを主体に戦うと思ってたんだが……才能ってこう言う物を指す言葉なのかもな。相手するには面倒なタイプだ。
こうして手の内を見せれば見せるほどガンガン成長していくんだから、ほんとに色々と喧嘩を売られているようにしか思わないやつも多いだろうな。
……まあ、俺にとってはどうでもいいけど。
そう考えながら速度を上げる。じりじり上げてはいたが結構付いてくるので、ここらで引き離そうと思った……んだが、まだ付いてこれるようだ。
だけど、どうやらそれもそろそろ限界が近いらしい。かなり必死そうに突きを繰り出している。
……それも当然だけどな。震雷は腕にかなりの負担をかける技だし、それをあんな空気抵抗の大きそうな戟で何十何百と繰り返しているんだから、そうなるのは目に見えている。
俺としては、むしろ今まで持っているという方が驚きなんだが…………流石は天下の飛将軍、といった所かね。
……さてと。それじゃあそろそろ終わらせますかね。劇的に。
丁度恋ちゃんの方天画戟に皹が入り始めてるし、こっちの方にも皹を入れて……回転している部分ではなく、切っ先同士を撃ち合わせた。
それによって恋ちゃんの方天画戟も俺の崩天戟も同時に砕け、手の中に残るのは柄だけになった。
試合開始から数分間響き続けていた残響が消えて、そこには静寂だけが残る。
「……分け、でいいか?」
「……うん。……だけど…………」
恋ちゃんは、自分の手の中にある柄だけになってしまった方天画戟を見つめる。
「……こわれ……ちゃった」
それが一つの狙いではあったしな。二人の武器が同時に壊れれば、大概引き分けになるだろうということも考えた。
そのために俺はわざわざ恋ちゃんの戟に皹を入れた直後にランブルデトネイターを最小規模で使って皹を入れたわけだし。
だけど、恋ちゃんの武器がなくなるのはまずかったかもしれないな。恋ちゃんは武勇を誇る武将だし、
「恋殿の武器に何をしてるのですかーーっ!!」
……とちんきゅーきっくをぶちかましてくる奴も居るし。……避けるけど。その上で両手を掴んでぐるぐると逆ジャイアントスイングで回すけど。その後そっと地面に立たせるけど。
「あぅぅぅあぁぁぁぁぁ……目が……目が回るのですよぉ…………」
ちっちゃい娘さんは目をぐるぐるにしてふらふらしている。どうやら効果はしっかりあったようだ。
足元が定まらないらしいちっちゃい娘さんがころりと地面に転がると、恋ちゃんがててててっとちっちゃい娘さんに近付いていく。
……それはそうとして、確かに武器破壊は不味かったかもしれんな。しょうがないし、新しいのを用意しとくか。マテリアルマーチを使えばほぼ同じものをいくらでも作ることができるから大したことじゃないし……原因俺だし。
そんなわけで新しく方天画戟を作成。石突にくっついている犬のストラップまで完全再現してみた。それなりにいい出来だと思う。
なにしろ宝具だし、俺が壊そうとしなければ早々壊れないようにできてるし。
やろうとすれば柄を伸縮自在にしたりもできなくはないが、今回はやっていない。面倒だし。
ちなみに伸縮自在にしたいんなら、柄だけ如意棒にすればいいだけだしな。あるいはその武器そのものを変幻自在にするとか。
「はいこれあげる」
「? ……!?」
無言でビックリを表現している恋ちゃんは凄いと思うが、俺はそれをさらりと流して恋ちゃんの自宅に向かう。
途中でサラシさんが勝負を挑んでくるのを軽くあしらったり、猪武者が猪突猛進してくるのを軽くあしらったり、復活したちっちゃい娘さんが再び跳び蹴りをかましてくるのを受け止めてぶん回してもう一度ぐるぐると回り続ける世界に招待したりしたが、俺は歩みを止めずに城からさようなら。
……さて、寝るか。精神的に若干疲れた気がするし。