ガンダムビルドダイバーズ Fallen Divers 作:杉鋸
#01 シークレットミッション
「とある国と国が戦争を起こした」そのニュースを最初に見たのがいつだったのかはもう覚えてはいない。……そのニュースは
その2国間の問題がどれだけ根深くて、お互いの主張によると「自分の国がどれだけ正しく・相手の国が悪い」のかなんて知った事ではなかったけれども、そのニュース自体は数年おきに聞く反平和の祭典の様なものだった。
当初はどうだったのかなんて生まれるよりも前の事になんて興味もないけれど、今となってはどの国も最低限「この辺りは危険な情勢です」と告げる程度で捨て置くばかりになったどうしようもない国々だった。
自分自身としても昔は「戦争なんてものをしているなんて」と教育されたままに憤りを感じるくらいはしていたものの、今となっては「少なくとも自分に影響を与える様な事はないし、気にした所で何の益も無い」からニュースを耳にしたらほんの少しの間だけ「あー、またやってんだなぁ」と思う程度の、全くの異世界の話としか言いようのないどうでもいい話だった。
いくら現実の話だと知っていても何のかかわりもない異世界の如きそれよりも事実無根の架空の世界の・架空の戦争とその為の兵器――モビルスーツやモビルアーマーの方がよほど興味も関わりもあるもので、実在のドローン兵器がどこぞの国で人を殺しただなんだよりもコズミック・イラのモビルアーマー・メビウスをベースにした俺のガンプラ「メビウス・アインハンダー」に加えた調整がGBNでどう反映されるかの方が現実的な問題だったんだ。
元々『脚の付いた宇宙戦闘機』の類であったメビウスをベースとしたメビウス・アインハンダーはその名前の通り
ザクウォーリア(ザフトの方のザク。ジオンのそれじゃないぞ)の様にビームライフルの方に専用バッテリーを追加装備した
作中設定的には「武装を無くしたメビウスに撃墜されたストライクダガーの腕を付けてなんとか戦力化したあり合わせの機体が、結局出撃する前に母艦が撃沈されただかで流出したのをジャンク屋が拾っていくらかの手直しを加えて運用している」とかそんな感じのつもりだ。
腕の付け根部分の動きが気になり始めたから関節部分を新しいパーツに交換しつつ、ついでに気分が乗ったからアンカー(メビウスに装備されている描写は無かったと思うが、メビウス・ゼロに付いていたそれの様なものを付けている)のディティールアップなんかもした俺のアインハンダーに不安と期待を抱きながらディメンションへと飛び込む頃にはニュースの事なんてきれいさっぱり忘れていたんだ。
デブリ帯フィールドでのアインハンダーのテスト飛行は問題なく進んだ。出撃前の段階で確認済みだった腕の動きは宇宙空間でもスムーズなままだったし、アンカーは精度も上がって突き立ちも良くなっていた。射撃精度に関しては俺の腕が良くはないから何とも言えない。
様々な残骸オブジェクトがゆっくりと移動し続けるデブリ帯フィールドはアインハンダーが一番に対応できる様に焦点を合わせたフィールドだ。ジャンク屋モチーフという意味でも、アンカーの付いている機体という意味でも、単純に俺の好みとしてもホームグラウンドと呼ぶに相応しいフィールドだ。……相応しいフィールドではあるんだけれども、真にホームグラウンドと呼びたいんだったらそこに居を――フォースネストを――構えるくらいの事はしたい。が、できない。
フォースを作るのに人数は必要ないし、フォースネストを作るのにも人数は必要ない。それでも宇宙空間にフォースネストを作ろうと思ったなら、こじんまりとしたものでも凡百のプレイヤーがソロで集めるには重い額のビルドコインが必要になる。*3
PvPを積極的にするプレイヤーならもう少し違ったのかもしれないが、少なくとも俺はPvPに興味はなかった。単純にそういうのが好きでもないし、得意でもない。更に言えばガンプラの自慢やら宇宙趣味としてプレイしたいというだけだから、多様な戦闘条件を用意しやすいというだけで地上戦が多いPvPは輪を掛けてやる気がしなかった。
あるいは固定パーティを組んでる様なプレイヤーならまたもう少し違ったのかもしれないが、このゲームで固定パーティを組む様な気質の人間は大抵PvPを(あるいはPvPも)バリバリやるタイプの人間で、そうじゃない人間を掘り出す試みに時間を割くくらいなら宇宙空間とガンプラにもっと時間を使いたかった。
「ビルドコイン、簡単に稼げるミッションはねえかねぇ……」
デブリ帯を漂っていた高価そうなオブジェクトをアインハンダーの手で掴んでみるも、確認して見れば見た目が派手なだけで1ビルドコインにもならないオブジェクトだった。
噂に聞く「簡単なのに高額報酬のシークレットミッション」とやらでも――もちろん、実在してるのならだけれども――受けられれば簡単に稼げるのだろうか。それとも「簡単なのに」と言った人物の簡単の基準が俺の考える簡単とはまるで別物でクリアできたものじゃなかったりでもするのだろうか?
ため息がこじんまりとした――俺がデザインして・俺がデータ上で組み上げた専用のだ。ちゃんと座れる――コクピットに響いた。
◇
ゲーム内ロビーに戻ってゲーム内メールを確認していると、指名型のミッションが来ていた。ざっくり書けば向こうの用意した専用の爆撃機ガンプラを操縦して地上の目標を爆撃して帰るだけの簡単なミッションで、その癖報酬は大量のビルドコインと内容にしては多め程度のダイバーポイント。
……噂のシークレットミッションもそんな内容で、「わざと失敗する様なプレイヤーなんかは二度と受けられない」とかいうんだったか。
現実の仕事だったら仕事と報酬のつり合いが取れて無さすぎて怖い仕事だけれども、GBNの中でこなすミッションとして考えれば怖がる理由にはならなかった。強いて言えば「ゲームとしてはつまらないだろうな」という程度の内容だった。
「あえて逃す理由もないよな……受注、と」
「受注しました」とメッセージが表示されてから数秒のラグをおいて、専用のフィールドへの転送が始まった。
転送が終わると俺はGBN標準のコクピットに居て、前方の画面には格納庫らしき場所が表示されていた。
「ミッションを受諾したダイバーですね。ミッションの遂行をお願いします」
無感情なシステムメッセージらしき声。気持ちをミッションに向けて状況を確認するとコクピットのサブ画面に爆撃対象の名称と画像、簡易マップには爆撃対象の場所と現在位置が表示されていた。
「下手したらチュートリアルよりも楽なんじゃないか、これ?」
機体について確認すると「TBQ-」と機体種別か何からしきアルファベットの後にやたらと桁数の多い数字が並んでいた。武装は小型爆弾が3つだけ。操作方法は標準的。機体形状はブーメラン型。爆弾は機体外部に吊るされている様だった。
目標はバラバラに3つで、爆弾も3つ。とはいえミッション目標に関しては「目標Aの破壊」「目標Bの破壊」「目標Cの破壊」と並んで「離脱ポイントへの移動」が存在しており、「特攻してでも撃破しろ」みたいなミッションではない事を主張していた。
目標を一切撃破せずに離脱ポイントに移動したらどうなるのか気にならない訳ではなかったけれども「わざと失敗する」訳ではなくても真面目にプレイするのとはかけ離れたプレイで今後の高額報酬の機会をふいにするつもりもなかった。
離陸もそう難しい事ではなかったけれども、妙に機体がガタつく感じはした。ガンプラの出来が悪いのだろうか? とはいえ爆撃の照準補助機能まで付いた機体でろくに動かない目標を爆撃するのに困る様なものではなく、あっさりと全ての目標を爆破して離脱ポイントまで辿り着いた。
「ミッションクリア。お疲れさまでした」
システムメッセージがミッション完了を告げ、ゲーム内ロビーへの転送が始まった。ある種の異様な雰囲気はあったとはいえそれくらいで、山も谷も無いミッションだった。
「高額報酬が貰える様なメッセージに見えて、実は限りなく小さい小数点が付いていたので大した額を貰えませーん」なんて言い出される方がむしろ納得できる様な簡単なミッションだったけれど、システムメニューから確認すれば書かれていた通りの額のビルドコインが手に入っていた。
……ダイバーポイントもたぶん書かれていた通りに入っているんだろうけども、最低限困らない程度のランクを確保して以降気にしなくなって長かったからこちらは「たぶん、増えたのだろう」としか言えなかった。
「…………ビルドコイン、簡単に稼げるミッション、あったなぁ」
俺はしみじみと呟いた。