ガンダムビルドダイバーズ Fallen Divers   作:杉鋸

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#02 フォースネスト

 壁面に備え付けられた粗末な折り畳み式ベッドとチープさのあるコンソールだけがある狭い個室にエアロックと空気処理装置を付け防護壁で覆った個人用安全区画と、駐機区画という名目の最低限タラップと係留設備だけがある区画と呼ぶのもおこがましい露天環境。狭く、大した機能も無く、ただデブリ帯を漂うばかりの、下手をしなくてもデフォルトの物の方が高機能なフォースネスト。それが前回のシークレットミッションの報酬で用意できた俺の城だった。

 どうしようもなく低性能で、どうしようもなく無意味な設備だった。俺だって何かするなら普通にロビーからプレイするだろう。それでも宇宙に俺の拠点が出来たのだ。

 

 宇宙に、俺の、拠点が! 出来たのだ!!

 

 シークレットミッションはゲームとして一切の面白みのないミッションではあったけれども、恐ろしく遠く思えた宇宙用フォースネストを作れる額のビルドコインを、夢でも妄想でもなく、実際に作れてしまう額のビルドコインを、ポンと出してくれたのだ。

 ミッションをクリアした直後は現実感が無かったけれども、実際にフォースネストを作ろうとしている内に事実をきちんと飲み込めてきて、未だに落ち着く事が出来ないで居る。

 モジュールと材料とを月で買い、適度な形状に加工・梱包してからアインハンダー共々マスドライバーでデブリ帯へと射出された俺のフォースネストの元となる建材を、俺自身が組み立て・完成させてそれでも落ちつけない。

 吸着靴でタラップを歩き、あるいは防護壁の上を歩き、間違えて漂流しかけて吸着式のアンカーガンで戻り、エアロックを無駄に出入りし、ベッドの粗末さにしょっぱさを感じ、「やっぱり駐機区画にも覆いくらいは欲しいな」と呟き、それでも落ち着けない。

 

「次もシークレットミッションが来たら、駐機区画の覆いと、後は何が欲しいかなぁ……」

 

 そう。次だ。シークレットミッションは余程変な事をしない限りはまた依頼が来るという噂だった。その噂が本当だというのなら、またシークレットミッションをプレイしてフォースネストを拡張する事が出来る。他のミッションで集めようなんて思えない様な額のビルドコインをつぎ込んだフォースネストだってきっと作れる。夢のような話だけれど、現実かもしれない話だ。

 アインハンダーのテストと、ほんのちょっとだけのシークレットミッション、それからフォースネストの建設。普段のビルドコイン稼ぎの為のミッション周回より余程充実したGBNを過ごせた。ああ、シークレットミッション様様だ。

 

 

 

 フォースネストを建設して数日。今の所シークレットミッションは来ていなかった。変なプレイに走った訳でもないし噂通りならまたミッションは来るはず……来ると思いたいが、来ない。

 まあ来ないなら来ないで今まで通り高いビルドコイン――もちろん、シークレットミッションを思えばはした金だ――の貰えるミッションを回したり、あるいは直接アイテムが報酬になっているミッションを回したり、ミッションで出たアイテムをビルドコインで他ダイバーに売ったり、いつも通り……マンネリ気味のささやかなGBN生活を続けていた。まあ、気晴らしにアインハンダーで木星ゲートから小惑星帯(メインベルト)を観光しに行ったりもしていた。

 更にアインハンダーの下部ハードポイントに付けられる自作の貨物室+追加スラスターユニット『コメット』も作って、GBN内でうまく機能するかも調整して、輸送*1ミッションにも挑戦できる様にした。……コメットは次のシークレットミッションで手に入ったビルドコインでフォースネストを拡張する時に役立つかと思ってのユニットではあったけれども、正に捕らぬ狸の皮算用とはこの事だった。

 

 コメットを作ってからは小規模とはいえ輸送ミッションを行えるようになり、おいしい輸送ミッションを見つけてはコロニーからコロニーへ、あるいはコロニーから月、はたまた軌道エレベーターの宇宙側ステーションなどに届ける様になって今までよりも稼ぎは良くなったと思う。これにはわざわざ自分で輸送する様なプレイヤーが少ない事も影響してるだろうし、あるいは軌道をシミュレートしてはいじくり回すのに主軸を置くならGBNよりももっと向いたゲームがあるからそこで攻めるプレイヤーも多くは無いという事でもあるだろう。

 とはいえシークレットミッションを思えば……まあドングリの背比べとまでは言わないにしろ、安い仕事な事に変わりはなかった。

 

 そうして遂には夢のようなものだったのかと思い始めていた頃に、また指名型のミッションで、今度は大型レールガン陣地相手の爆撃の依頼が入った。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 機体の名前からはTの字が取れていたものの、後は「BQ-」からのやたらと長い数列なのも、機体の形状他その他諸々特に変わりはない様で、攻撃目標は大型レールガン1機。護衛にザクは居るものの戦う必要は無いとされていて、やっぱり「離脱ポイントへの移動」も目標に含まれていた。

 低空を飛んでレーダーを避けるか、高空を飛んで目視を避けるか。

 爆弾に誘導性があるのなら高高度から爆撃したい気もするけれど残念な事に無誘導で、例によって機体はガタつくものだから精密な爆撃なんてありえない。更に爆弾で大型レールガンを破壊するのにどの程度の当たり方が必要なのかも分からないから、叶う事なら砲門に爆弾を叩き込むくらいのつもりでいるべきかもしれない。

 そう考えて低空から近づいて行くも、目視できるであろう距離に居るザクは何の反応も示さない……幸運にも気付かれていないらしい。あるいは「ここは砲火を掻い潜るシーンだろ!」とでも文句を付けるべきだろうか?

 ジリジリとレールガンとの距離が詰まり始め「その巨大な砲門に爆弾を投げ込んでやれる様に」と高度を上げ始めるとようやくザクが反応を示すがもう遅い。投下された爆弾はレールガンの根本で1発、砲口の少し上で1発爆発する。そして砲門に吸い込まれた最後の1発がレールガンの中ほどで爆発して、レールガンの姿は消え去った。

 武装も無いままザク相手に接近戦をする気もないけれど、機体の機動性の都合でザクのメインカメラに突っ込みかけたらザクの側が慌てて避ける。妙に人間臭く、コミカルなザクの様子に軽く笑いながらも機体を揺らして敵の予測射撃を躱そうとして、ふと気付く。

 

「このザク共、やる気が無いぞ」

 

 レールガンが消え去る前はもうちょっとやる気はありそうだったけれど、レールガンが消し飛んでからはもう諦めたのか、マシンガンを下ろしたり、あるいは座り込んだりやたらと人間臭くやる気のない振舞いをしているのだ。あるいはこちらにもう爆弾が無い事も分かっていて、そんな奴に無駄弾を撃つ気はないとでも言うのだろうか?

 やる気のないザク達に見送られて、結局指定されていた離脱ポイントに辿り着くまでに攻撃の一発も飛んで来る事は無かった。

 「さながら遊覧飛行」と言うには草の一本も生えてないむき出しの赤茶けた大地は殺風景で、空だけはやたらと晴れていたものの気を引くようなものも見当たらない。まあ、それを残念と思う程このミッションに風景も何も求めてはいないのだけれども。

 

「ミッションクリア。お疲れさまでした」

 

 代り映えの無いミッション完了のメッセージを聞きつつ、尋常ではない額のビルドコインが入ったのをシステムメニューで確認。頻度の少なさは玉に瑕とはいえ、簡単かつ短時間でここ数日分の稼ぎなんて無いも同然に思える金額のビルドコインだった。

 少々コミカルな要素はあったとはいえ、機体のショボさも含めて面白みに欠けるのは前回とは同じだったけれど……

 

「今度は何を買うとしようかな」

 

 考えていた駐機区画の覆いを具体的に何で作るのか。ビルドコインの使い道を考える事そのものを含めてこれからがお楽しみの時間だった。

*1
"輸送部隊の護衛"ではない

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