ガンダムビルドダイバーズ Fallen Divers 作:杉鋸
例の戦争は過熱する一方らしい。なんでも互いに「ドローンによる無差別攻撃が」とか何とか言って「相手がこんなにも悪いから、正しい俺たちが報復する事は国民に対する義務なのだ」と叫んでいるんだとか。
ガンダムWじゃないけれどドローン使ったりして血を流さずに戦いたいのならいっその事ある種のゲームで決着を付ける様にでもすれば人も資源も浪費しないで済むだろうけど……そんな風にはできないから戦争をしているんだろう。
「例の二国がドローン飛ばして戦争やってワーワー騒いでる頃、日本では
まあいくら同じ国の話とは言ってもELダイバーもモビルドールも俺には縁なんてありゃしないんだから、関係ないのはどっちも大差ないんだけれどもさ。
あの後、シークレットミッションの報酬で駐機区画に気密性の無い格納庫を作った。あえて言うまでも無く人工重力とかもないとはいえ、気を抜いても(俺が)変な所に流される事はないってだけでもありがたいし、何より「俺の秘密基地」って感じが強まって素敵だった。
それからまたしばらくしてシークレットミッションを受けて、今度はジャブローでもないのにモグラな奴らを爆撃して変わり映えしない「ミッションクリア。お疲れさまでした」を聞き流して今度はソーラーパネルとバッテリー、給電装置を付けてエネルギー補給機能を付けた。
その次は『近くにある爆弾を誘爆させない様に』味方の基地を占拠したザクを爆撃するとか小難しいのをこなして、格納庫を気密構造にした。
その次はなんか建物を爆撃して、いつもと違って「ミッションコンプリート。報酬を入金しました」と別のメッセージだったけども後は変わらず格納庫に空気を供給できる様にして・その他設備も整えて機体の修理が出来るようにした。
その後はまたレールガンをぶっ壊したらいつもの「ミッションクリア。お疲れさまでした」で、ソーラーパネルと通信アンテナを増設して安全区画内にマイクとスピーカーも付けて通信できる様にした。
シークレットミッションを受けるたびにフォースネストの拡張がとんとん拍子で進んでいく。狭っ苦しいのは相変わらずとはいえ、中々にいいフォースネストになってきた様に思う。
とはいえいい事ばかりではない。どうやってか俺の羽振りがいい事を知ったダイバーが「お前いい稼ぎ知ってんだろ俺にも教えろよ」みたいな事をオブラートに包んでメールしてきて「ロビーで待つから来なかったらアレだぞ」とふんわり脅してるっぽい事まで書いてあった。
ブラックリストに突っ込んで不干渉貫くのもいいけれど「ガチで変な奴だったらある事ない事言いふらされても面倒だろうし」と、俺の稼ぎの元なシークレットミッションについてわざわざ手間かけて公表するつもりもないとはいえ、特別隠しておく動機もないから伝える事にした。
ロビーで他人を探すなんてそんなにやる事もない行為とはいえ、向こうは慣れているのか何なのか場所まで指定していたのと、その挙動不審さから「たぶんコイツだろう」というのは分かったがどう声を掛けたものかちょっと悩んだ。
そいつのアバター自体はイケメンなのだ。アバター自体は無味無臭のありがちなイケメンなのだが、挙動はどっちかで言えば不審者のそれだった。
「えーっと、そこの人……」
声を掛ける事ばかり考えて言葉に詰まってしまった。どう続けよう。
「な、なんだ!? お、俺は人を待っていてな……」
軽く声を掛けただけで思った以上に驚かれてしまった。ここで人を待っているのなら、たぶん間違ってないだろう……ないよな? まあ名乗れば待ち人か分かるだろう。
そもそも他ダイバーと交流する事も多くはないというのもあるが、それ以上にアバターのイケメン顔を台無しにして余りある完全不審者に声を掛けるのに躊躇を感じつつも俺は声を掛けた。
「ああと……俺がキョウカ・アスカだ」
「は……?」
不審者の表情が固まったかと思うと
「そ、その名前で男はねぇだろ!?」
ヤツは大声で叫んだ。「ほんのり脅してきてるっぽい不審者」から「とにかく失礼ではた迷惑なヤツ」に評価を変えておく。やっぱりブラックリストに入れて放置するべき案件だった。
ふと周囲を見ればヤツの叫び声を聞いたと思われるロビーの他のダイバー達がこちらを窺っていて、俺の視線に気が付いたダイバーから「たまたま視線が向いていただけですよ」と言わんがばかりに顔をそむけて素知らぬ顔を取り繕っていった。おうコラ、適当に誤魔化そうとしても誤魔化されんぞ。
……それにしても「
「き、キョウカにしろアスカにしろ女だと思うだろ、なあ?」
「ガンダムでアスカと言ったら苗字だと思えよ、なあ?」
ヤツは馴れ馴れしくも自分の思い込みを一般化しようとしてきたから言葉を一発投げ返してやった。その瞬間にヤツが浮かべた表情こそが「鳩が豆鉄砲喰らった様な顔」というものなのだろう。実物――いや、あくまで仮想空間上のアバターだが――を見たのは初めてだった。
SEEDシリーズは「主人公」と書いて「酷い目に遭う少年」と読むとは言え、リアルで苗字をそういう扱いされるとかシンもSEED主人公してるよな。まったく。
「っ……ああクソ、と、とりあえず個室行くぞ個室。晒し者になりながらする話じゃないからな」
連れられ入った個室は基本的に外部に会話や様子が漏れない、パーティなどが秘密のやり取りをする為のものだった。殆ど使った事はないが、おおよその使い方は他の施設と大差ないUIだったから問題なく扱える……はずだ。
ヤツは頭をグシャグシャと掻きまわし――そして、それが様になっているのが俺を一層ムカつかせ――ながら、話を切り出した。
「ああもう、単刀直入に聞くぞ。お前が最近羽振りが良くなったのは、最近噂のストーリーミッションをプレイしてるんだろ?」
ヤツの「最近」の定義がどの程度の期間かは知らないが、俺の知るストーリーミッションはビルドダイバーズと有志連合が協力してレイドボスを倒したそれくらいしか知らなかったし、俺はストーリーミッションをプレイした記憶はなかった。俺のビルドコインの出どころは「一応フレーバーレベルの背景ストーリーの申し送りみたいなのがちょろっと乗っているだけ」のシークレットミッションだ。これをストーリーミッションと呼ぶ者はまず居ないだろう。
「お前にならって単刀直入に答えるが、違う。……しばらく前から噂のシークレットミッションをプレイしてるだけだ」
ビルドコインの入手に困らなくなってからそこまで積極的に金策になりそうな噂を探ったりしなくなっていたので、実は噂が消えて時間が経っていたとかで「そんなもの知らん」とでも言われたら困る所だったが、ヤツは悩まし気な顔をしている辺りシークレットミッションの噂について全く知らないという様子ではなかった。
「……俺はビルドコインに困っている訳じゃない。ストーリーミッションをプレイしたいと考えていて、ストーリーミッションを実際にプレイしていそうなプレイヤーを探していたんだ」
残念な事に何の力にも成れそうにはなかった。ビルドコインに困っている訳じゃないというのなら話をしてやっただけビルドコインをふんだくってやりたい気分になったが、それを切り出すのも少々憚られる表情を浮かべていた。……その表情が普通にイケメンでウザかったから一発殴りたくもなったがそれもやめておいた。
「そもそも俺はストーリーミッションなんてビルドダイバーズが関わってたケモノと目玉のアレしか知らないんだが」
ビルドコインを取り立てたり殴るのはやめておいたが、全くの無報酬で情報をくれてやるのも癪だったからストーリーミッションの話を聞き出そうとした。
「……最近大きな噂になってるから軽く探してみろ」
ヤツはあきれた様な表情を浮かべてそういうが早いかとっとと個室から去って行った。ヤツをブラックリストに叩き込んでから俺も個室を出た。人の時間奪っといてそれだけとかもう二度と顔も見たくない。何かやり返してやろうかとも思ったけど、やり返す内容を考えてる時間も無駄だと思ってやめた。
◇
軽く検索してみれば「最近噂のストーリーミッション」を俺が知らないと言ったのに対してあきれた顔をするのも驚けはしない程度には大き目の噂になっていた様だった。
ビルドコインがガッポガポだの、切欠があれば次からは向こうから呼ばれるだの、シークレットミッションをプレイしていた俺がプレイしていたと疑われる様な要素もありつつも、コテコテの猫耳美少女が「助けてほしいニャン」と言っていただの、前回のバトルの結果が反映された次のミッションが来ただのとストーリーミッションと呼ばれるだけの事はありそうなミッションが存在している。そういう噂だ。
そのストーリーミッションが実在しているかどうかはともかく、その猫耳少女がスクリーンショットとされる・複数人の投稿した全く別の画像に出ている辺り全くの事実無根ではないのかもしれない。……もちろんその複数人が全員グルで「同一のモデルを利用した画像を捏造しては別々に投稿して騒ぎを起こそうとしているだけ」とかかもしれないが。
もう少し探しているとGチューブの動画も見つかった。
「GBNの皆さん! 私たちの事を助けてください!」
例の猫耳少女のセリフだった。
「私たちの世界も、恐ろしい機械の怪物に襲われています!」
その言葉と共に妙に悪者感漂うスーパーロボットアニメに出てくる敵側やられ役戦闘機っぽいものが、ジムの様などことなくモブ感に溢れた猫耳ロボットを撃破し、また猫耳少女の同族と思われる猫耳人間に向かって行った。
「私たちの世界も、エルドラの様に助けてくださいませんか?」
猫耳族に悪役戦闘機が襲い掛かるかと思われた所にヒロイックな戦闘機が現れて、悪役戦闘機を撃墜した。
「私たちの力では、ガンプラをこの世界に呼ぶことはできません……! それでも、あなた方の力が必要なんです!」
悪役戦闘機が撃墜されたかと思うと目を潤ませた猫耳少女に切り替わり、「それでも」のところで目を閉じて涙をこぼした。
「そこまで言われて何もしないなんて、男が廃るってもんだ」
「俺たちゃチキンじゃねぇからな!」
『腹ぺこチッキン、ストーリーミッションに参戦!!』
Gチューバーの動画だったらしい。巨大なデブアバターと小さな鳥型アバターの2人――"腹ぺこ"と"チキン"という事だろうか――が映って、文字が表示されて動画が終わった。
腹ぺこチッキンなるチームだか何だかを俺は知らなかったが、こいつら以外にGチューバーでこのストーリーミッションに参戦したダイバーは居ない様だった。……偶然Gチューバーではこいつらだけだったのかこいつらが自分の知名度を上げる為に仕込みをしているのか分からないが、シークレットミッションの様に本当にあるのなら儲け物だ。「何か得るものがあるかもしれない」とチャンネル登録をしておいた。
今の所腹ぺこチッキンのチャンネルでストーリーミッションに関する動画はこの予告動画1本だけで、後はそこそこありがちなゲーム内の食事関係だとか、バトルだとかの動画を投稿している様だった。チャンネル登録者数は多くはないが、ふと更新してみれば短時間の内に登録者数は伸びていた。眉に唾は付けておくべきだろう。
「……そういえば『助けてほしいニャン』とは言ってなかったな」
『ニャン』は流石に誇張か何かだったのだろう。まあ、そこまでやればコテコテが過ぎるだろうし、ストーリーミッションを用意する時にセリフは普通にしたんだろう。たぶん。