ガンダムビルドダイバーズ Fallen Divers 作:杉鋸
例の戦争で大量のドローンが戦力化されているのは驚くべき事であるらしい。
ニュースに言わせればドローンの数が凄まじい数であるというのも驚くべき事だと言っていたけれども、それ以上にそのドローンを動かせるオペレーターの人数が多すぎるのだという話だった。
数年に一度のペースで戦争を起こしては多数の死者を出すのを続けて、兵器を維持する工業力や経済力もなければ兵器があったとしても運用できる様な学のある人間も大体が墓の下。あるいは学があっても生きている人間だったらお偉方とその関係者以外は大体が逃げ出す有様。
そんな状態で大量のドローンを用意できた事も、それを同時に多数運用できるだけのオペレーターが居た事もそれまでの定説をひっくり返す様な驚くべき状況なのだとか。
オペレーターの問題一つとってもミサイルの様に発進して以降は全自動で攻撃をさせているという説もあれば、発射以前の段階まで含めてより多くの部分を自動化しないとなお人手が足りないという説もあり、あるいはELダイバーの様に電子データであり・またその国に従順でもある知性体をコピーでもして人件費をカットしているのではないかという珍説まで飛び出てくる始末。
何が真実かはともかく、とにもかくにも現在の状況に傍観者である世界の大半は困惑している様だった。
あれからしばらく経って腹ぺこチッキンが投稿したストーリーミッションの動画を見たけれど、エルドラのそれと比べると明らかに見劣りする・既視感を拭えない雑な悪役と可哀相な猫耳族(正式な名前も語られるシーンはあったが、覚える程の興味は持てなかった)のお涙頂戴ストーリー、というのが一番の感想だった。
エルドラとは違ってアバターで降りる事もできなければ、探索要素も無い様なもので、「ただひたすらに可哀相で可哀相で助けてもらいたがっている」事ばかりが強く押し出された猫耳族との会話が多少あるだけ。
もちろん旧来のミッションを思えば猫耳族の被害が引き継がれているだけでも進歩ではあるけれども――ビルドダイバーズ以外がプレイしたとは聞かないとはいえ――エルドラの作り込みを思えば見劣りすると言わざるを得ない。
……エルドラのそれを思えば見劣りするとはいえ、興味が無いと言えば嘘になる。自分の戦いがストーリーに影響を与えるかもしれない大規模連作ミッションなんてGBNにおいて例が無いのだから当然だ。
そうは言っても何をどうすればストーリーミッションに参戦できるのかも分からなければ、俺は参戦方法を探るのに本腰を入れてる訳でもないから、このストーリーミッションへの参加はきっと無理だろう。
動画という形で明示されたストーリーミッションの証拠に本腰を入れてストーリーミッションを探そうというプレイヤーが山の様に居る中で「俺がテキトーに探して先に参戦できました」なんて幸運はそうあったものじゃないだろうし、凄まじい数のプレイヤーが同時にプレイするとなると俺が見つけるよりもサーバーへの負担などから人数制限が掛かる方が早そうだ、と考えている。
ストーリーへの関与にこそ興味はあってもビルドコインを稼ぐだけならシークレットミッションがあるから他のプレイヤー程の熱意は持てないし、近頃はシークレットミッションの頻度も報酬の量も、ついでに残念な事に難易度も上昇気味なのだ。
シークレットミッションで使う爆撃機は地形との軽い接触でも大きなダメージを受け、あるいは下手な機動をすればそれでもダメージを受けるくらいには脆いガンプラで、近頃はマップに太いワイヤーが張られていたりする様になった。
それに対抗してなのかこっちにもスクリーミングニンバスが搭載されてワイヤーやMSの四肢や首程度であれば大量のエネルギーと引き換えに切断できる様になったり、そして今更ながらか敵も戦闘機を繰り出すようになってきて、こちらも大砲を1門吊るした仕様のガンプラが出たり、ビームバルカンを積んだり、こっちもほんのりと匂わせる程度にストーリーミッションの様な様相を示し始めたのだ。
そんなこんなで増えた報酬で今度は移動可能なフォースネストを作っていっていた。
今までのフォースネストと大差ない狭苦しい居住区画と正に箱だけの駐機区画、莫大な量の推進剤の格納庫とタンク、背面部に分厚い金属板とショックアブソーバーを付けた、地球から木星軌道以遠との往還を想定した……原子力推進船だ。
そもそも原子力推進と聞いてどんな推進方法を想像する? 原子炉の熱で推進剤を沸騰させる宇宙世紀のMSや艦艇で一般的な核熱ロケットだろうか? 宇宙世紀ではコロニーなんかの大質量物やジュピトリスに、コズミック・イラではアークエンジェルの推進器にも採用されている核パルス推進だろうか? あるいは宇宙空間に薄く広がる水素をかき集めて燃料にするバサード・ラムジェットなんてのもあるけれど、GBNの宇宙空間は真に真空なのかかき集める水素がなくて機能しない。
「ジュピトリスに採用されてるんだから、核パルス推進だろう」と思ったのなら半分正解だ。でもこの船に採用した核パルス推進装置はゲーム的に用意された核パルス推進装置じゃない。……ただの核爆弾と、それに耐えられる装甲板だ。
◇
GBNにおいても木星というのはとても遠い星で、GBN内で地球から木星まで自力で辿り着いたダイバーが居なかった時代があった。もちろんゲートを通れば辿り着く事自体はできるけれども自力で直接移動するとなると今でも困難だ。
そもそもGBNにおける推進能力はゲーム的な都合で比較的狭い範囲での変動しかしない様になっている。例えば設定通りエネルギーだけで尋常ではない推進能力を発揮できるミノフスキードライブがあったなら当たり前の様にコロニー落としの類を太陽系の果て辺りから亜光速で叩き込む事も可能になって「大規模戦闘にダイバーが出る幕がない」なんて惨状が生まれかねないし、あるいは宇宙でも活動できる設定にしたガンプラが「推進剤を積む容積が足りないから殆ど動けません」なんて言われてまともに動けなくなってもゲームとして困るのは分かるだろうか。
そんな理屈で「それ相応に制限が無ければガンプラバトルが成立しなくなってしまう」「だから自力で木星に辿り着けなくてもしょうがない」と考えられていた時代に数人のダイバーが連名で「木星には本当に自力で辿り着けないのだろうか?」と賞金を掛けて問いかけ、またそれに答えたダイバー達が居た。
そのダイバー達は互いに交流のある者も居れば、木星に辿り着くまで交流の無かった者も居たけれど、全員が共通の結論を一つ持っていた。
「ゲームシステム上の推進器を使っての推進がゲームシステム的に制限されているのなら、推進器以外を使って推力を生み出せばいい」
そうして最初の挑戦で木星に辿り着けたのは4機。
生み出せる反動の総量を追求したレールガンを推力とした「スーパージュピターキャノン」
ナノスキンを再生する推進剤としてビームで蒸発させて推力とした「アブレーター」
GN粒子による質量制御で機体の自転軸を変えて進む「ヴォイドグラップラー」
そして、極小の核爆弾の爆発を受け止めて進む「オライオン」
オライオンという機体はNジャマーキャンセラーをニュートロンスタンピーダーに近いものへと独自調整したニュートロンアクセラレーターを用いて極小の核物質塊を核爆発させ、Nジャマーキャンセラー式核分裂炉で得たエネルギーでフェイズシフトを維持して核爆発を機体背面の円盤で受け止め、核爆発に伴う中性子線はNジャマーで防ぐという力技の極みの様な機体だ。
やっている事は力技の極みだろうと、それはとても希望の様に思えるガンプラ――NジャマーもNジャマーキャンセラーも核兵器も、コズミック・イラじゃ憎しみから使われて新たな憎しみを生む連鎖の中心だったっていうのに、GBNじゃ不可能と思われていた夢を現実にするのに使われたんだからそれを希望と呼ばずになんて呼べばいいんだ?
ガンダムフェイスに遠方を見る為の大型モノアイを搭載した、兵器として作られたものを寄せ集めて兵器以外のものとして運用したモノアイアストレイ。GBNにおいても王道ではない道を切り開く存在。それが俺にとってのオライオンだった。
何年も経ってから他人のアイデアの後追いするだけなんてビルダーとしてもダイバーとしても情けないばかりの話ではあるけれども、ビルドコイン稼ぎに終始してた頃から余裕ができたからこそ思い出せて、追いかけられる夢だ。
だから同じだけ時間を使うのなら所詮は誰かの書いた物語でしかないストーリーミッションを探す事よりも、シークレットミッションを着実にこなしては船の設計・建造に時間を使う事にしたんだ。