ガンダムビルドダイバーズ Fallen Divers 作:杉鋸
公式発表によるとあれは悪質なハッキングによるものだったらしい。動画もフェイクだという。
「フェイク動画ならよかった。誰も死んじゃいないんだから」……そう納得できたんならよかった。
誰の、何がフェイクだったのか。腹ぺこチッキンの動画そのものがフェイクっていうんなら、腹ぺこチッキンが跡も残さず消えて何になるのか分からない。
腹ぺこチッキンが見せられていた画面がフェイクだっていうんなら、どうして他の誰でもない腹ぺこチッキンが狙われたのかが分からない。
考え方を変えよう。「あの動画そのものがありえる光景なのか」ここから考えて「少なくともフェイク」となるのならそれこそ何の問題もない話だ。
現実と同じ状況のGBN"風"画面は作れるだろうか? ……昔のVtuberなんかは、実写の映像から動きを読み取って3Dモデルの動きに変換していたらしい。その応用で実写映像を元にガンプラの3Dモデルを動かせば不可能ではないだろう。
撃たれた兵士はフェイクだろうか? ……分かる訳が無い。それを目的とした3DCGなら現実と区別の付かないレベルのものだって作れるだろう。
飛んでた場所はフェイクだろうか? ……これも分かる訳が無い。地球全土の光景を探し尽くしたとしてもその時には「過去にはあった」可能性を否定できないだろう。
あの飛行物体はフェイクだろうか? ……あのプラスチックらしき飛行物体には推進器らしきものは存在しなかった。プラスチックの塊が空を飛ぶなんてGPデュエルのバトルフィールドの中くらいでしかありえない。
そうだ、プラネットコーティングはあくまでGPデュエルのフィールド中でしか保てないんだから、プラスチックの塊が何の動力も無く飛ぶなんてありえない。プロペラも何もないブーメランみたいなのが自由に飛んで銃撃だの爆撃だのやれる訳が無い。
本当に、そうだろうか?
もう少し、思い返してみる。
ああ、そうだ。「ELダイバーの体であるモビルドール」はGPデュエルのフィールドの外であってもプラネットコーティングで覆われたまま動く事の出来るプラスチック製の物体だ。その技術があるのなら、プラスチックの塊であれば推進器らしい推進器が無くても飛ばす事はできてしまう……?
ああ、でも、それが技術的に可能だとしても、真面目にミッションをこなすかどうかも分からないダイバーをドローンの操縦者として使うなんて馬鹿げている。……馬鹿げているけれども、それを言うんなら腹ぺこチッキンにしろ第三者のクラッカーか何かにしろゲームプレイ風の映像と実写、あるいは実写風の映像を使って驚かせて何の意味があったっていうんだ。
「愉快犯だから」というのは確かに否定しきれる理屈ではないけれども、腹ぺこチッキン自身が愉快犯だったとするなら公式発表に反論の1つでもすれば騒ぎを大きく出来たはずだ。第三者のクラッカーが狙うんなら多少人気が出て来た所とは言っても腹ぺこチッキンなんて小物を狙わずにもっと人気や視聴者数の多い配信者か何かを選ぶ方がよほど派手な騒ぎにできたはずだ。
「公式発表こそがデマ」だなんて仮定、まるで陰謀論の様な話だけども、だって、運営は前にも陰謀論めいた事をしているじゃないか。
ELダイバー騒ぎをチャンピオンと運営が企画したイベントか何かみたいに進めておいて、その癖その後になって「実在の電子生命体でした」とモビルドールに入って現実世界に出て来たじゃないか。あんなイベント仕立てにしておいて「意思の疎通の取れる・命あるものを殺すかどうかの話」を本気でしていたなんてどれだけの人が思っていたっていうんだ。
前にも無茶苦茶な事を無茶苦茶な方法で、無茶苦茶なまま押し通そうとしたんだから、今度もまた無茶苦茶な事を無茶苦茶なまま押し通してたってちっとも不思議じゃあないじゃないか。
Gチューブにはもうあの映像は残されていないし、その転載動画だって少なくとも今となってはもう全て消されていた。
……何かフェイクだという証拠の1つでも欲しいと願っても、それを探す機会すら得られはしなかったんだ。
◇
あれから「俺のプレイしていたシークレットミッションも殺人ドローンの操縦の為のミッションだったのかもしれない」と、そんな恐ろしい妄想が頭にこびり付いて離れない。
だって「例の悪質なハッキングに対する対策」以降「ストーリーミッションもシークレットミッションもぱったりと無くなった」と誰もが口にしているし、実際に自分の所にだってシークレットミッションはその要請のメール1つ届きやしなくなってるんだ。
そしてこびり付いた妄想はまた別の妄想をよぎらせる。例えば「俺が通常のミッションをプレイしているその裏で、現実の誰かが『敵』として表示されていて・俺の攻撃で殺されている。そんな可能性はないのか?」あるいは「本当にエルドラのストーリーミッション騒ぎ、アルス討伐戦はストーリーミッションの締めのレイドボス戦だったのか?」。
どれも馬鹿げた妄想だとは思う。でもそんな馬鹿げた妄想だろうと一度浮かんでしまったら振り払えない程度には真実味があって、振り払えない程度には運営には負の実績があった。
なあ、ただゲームを遊んでいただけなのに、どうしてゲーム以外の事情がゲームを侵していくんだ。
これが夢だっていうんならどうか一刻も早く目覚めたかった。「なんて馬鹿馬鹿しい設定の夢だったんだ」「なんて酷い妄想に取りつかれていたんだ」と笑い飛ばさせてほしかった。
それが事実だっていうんなら、いっその事俺の罪を追求しにでも来てくれた方がよほど気が楽だった。
俺は誰かを殺した「かもしれない」
あのレイドボス戦に参加したプレイヤーは誰かを殺してる「かもしれない」
ありとあらゆるGBNのミッションが、そのプレイヤーが誰かを殺している「かもしれない」
GBNの運営は嘘をついている「かもしれない」
俺は妄想癖が酷いだけ「かもしれない」
「かもしれない」と付かないのは、もう俺が信じられるものがないって事くらいで、このままだと俺は根っからおかしくなってしまう――ああ、これも「かもしれない」だ。
何をやっても質の悪い妄想が付き纏って来て、何をやるにしても新しく何かをする決断なんてできなくて……何一つとして信じられないんだから、背中に羽があったとしても、もう何処にもたどりつける場所なんて無いんだろう。
もうエピゴーネンすら完成させる事はないだろうし、GBNなんて恐ろしいものをプレイする事もない――もちろん、これも「かもしれない」だ。たとえ裏で何人殺す事になったとしてもそんなのは一切気にもしないでプレイする様になる日が来る可能性だって、否定なんてできやしないんだ。