ガンダムビルドダイバーズ Fallen Divers 作:杉鋸
2022/04/24 誤字修正
#Battlogue モビルドール?
草木も眠る丑三つ時。連邦軍のとある部隊と悪の秘密結社・フロッグマンスは荒野で落ち合い兵器と金を交換していた。
言うまでもなくこれは不法行為。兵器の横流しである。
ああ、やはり重力に魂を引かれた人間達はその根源である星と共に焼かれなければ変われないというのか!
「お天道様の力を借りて、悪の現場にただいま到着! 連邦政府が許しても、
その現場に現れたるは、一般的なMSが持つそれよりもより人の姿に近づけられた巨大な少女の姿をした機動兵器・モビルスールが一機、フォトンちゃん!
薄手のパイロットスーツ姿をベースに、しかしメカニカルなロングスカートが少女性を高め、ヘルメットの中に隠れているその顔は慈母の如し。しかしその胸は平坦であった。
「く、くそ、撃墜しろ! 消せえぇーっ!」
連邦兵かフロッグマンスか、叫ぶと共にゾロゾロ出てくるモビルスーツ。雑に撃たれる実弾・ビームにロケット弾。しかしフォトンちゃんは踊る様にその全てを避けきった!
あぁ、もしも。もしもフォトンちゃんの胸が豊満であったなら、その時にはこうも見事に避ける事はできなかっただろう。
「人の胸をネタにしないでよぉー!」
地の文としてもフォトンちゃんに悪人認定されるのは本意ではないのでこれ以上触れるのはやめておこう。これ以上はリギルドセンチュリーにおけるクンタラ真実と向き合うのと同じくらいに大変な事、すなわち狂死するか、爆発四散する他無くなるのである。
フォトンちゃんはどこからか杖を取り出し、その先端を敵機に向けたかと思えば目にもとまらぬ速さで放たれた光線が機体を撃ち抜き、的確に配線を焼き切って行動不能とする!
しかしこの場に顔を出していたモビルスーツは所詮捨て駒! フォトンちゃんを撃墜する為だけに放たれた大量のミサイルが天から地から襲い来る!
さしものフォトンちゃんもこれを避けきる事は不可能! そしてこれだけの数のミサイルを喰らってしまえば爆発四散だ!
「絶対領域、展開!」
フォトンちゃんの言葉と共にロングスカートの前面が開き、中から短いスカートとニーソックスがこんにちわ。
絶対領域が眩しい……否! 眩しいのは絶対領域だけではなく、フォトンちゃんの居たはずの場所全てである!
しかし何をしようとミサイルは止まらない! フォトンちゃんの周囲で多数のミサイルが大爆発!
「何をしようとこれでフォトンちゃんもおしまいよ!」
「フォトンちゃん……もったいないなぁ…………」
爆発で巻き上げられた砂で視界が閉ざされる中、しかしクンタラ動体視力を持つ読者であれば目にできただろう。その砂の中を駆ける少女の姿を!
次の瞬間には安全な場所に居るつもりでふんぞり返っていた堕落連邦部隊隊長の指揮車をフォトンちゃんが持ち上げ、揺さぶり、気絶させる!
「連邦の阿呆めの作戦は時間の無駄じゃったのぉ! 次はわしの番じゃ!」
叫んだはフロッグマンスの丸々と太った緑の蛙……否! それはガンダム・フレーム! モビルスーツがまともに扱える程度の飛び道具は通用せず、ただひたすらに大質量物のみが通用する悪魔! ガンダムグシオンだ!
その表面を覆うナノラミネートがフォトンちゃんの杖から放たれたレーザーを弾く!
「ふざけた姿のモビルスーツなんぞ外装を剥いでただの機械ちゅーところをよく分かる様にしちゃるけぇのお!」
その手に持つのはそのでっぷりとした巨体からすれば小ぶりなナイフ! フォトンちゃんには有効打がないと完全に舐め切って代名詞のハンマーすら手にはしていない!
「シャイニングウゥゥゥ!」
レーザーが効かないと見たフォトンちゃんは真っ直ぐ突撃、グシオンはにやりと笑う!
明らかに近接には向かない杖一本だけを持ったモビルスール……すなわち体重も気にする少女が全体重を乗せて蹴り飛ばしたところで体のコリがほぐれる程度の心地よさだろう!
「バニッシュメントオォォ!!」
フォトンちゃんが横をすり抜けたかと思えばグシオンの胴が横に切り裂かれ、崩れ落ちる!
蹴られた? 否、掠りすらしていない! なぜ切り裂かれた、ビームサーベルでも持っていたか? 否、ビームサーベルでは切り裂かれない!
「どんな鎧を着こんでも、触れられるなら光と消せる。どんな弾丸放っても、触れられるなら光と消せる。それが
フォトンちゃんのロングスカートの前面は開かれ、内側の短いスカートとニーソックスが見えていた。
「つ、対消滅兵器じゃとぉ!?」
「フォトンちゃんは"絶対無敵"なんだよ?」
フォトンちゃんがカメラに向けてウインクをするのが早いか、グシオンは証拠隠滅用の爆薬を使い爆発四散! その爆炎がフォトンちゃんの背後を照らす……。
以上、「機動乙女団No.01 "絶対無敵の"フォトンちゃん」 紹介動画より映像抜粋。
フォトンちゃん。昔に一度だけ会った事のある懐かしい機体が、機動乙女団なるフォースのメンバー紹介動画に登場していた。
少女の姿をしたガンプラを見れば「ああ、有志連合戦の後に流行ったモビルドールか」と多くの人は思うだろうが、しかしフォトンちゃんはそうではない事を知っているだろうか?
◇
彼女との出会いは「初心者・ヘルプ」ジャンルの依頼として出ていた「ガンプラの確認・慣らし」という依頼を受けた事でだった。
「自分で作ったガンプラを自分の思ったように動かす事が出来る」というのはGBNの大きな強みとはいえ、特に改造した可変機なんかだと「どう動かすのか」について細かい設定をしなければ上手く動いてくれない事もままある。
もちろん大半のガンプラは特に設定をせずとも何の問題も無く動くのだけれども、だからこそいきなり手動での設定をしなければならなくなったダイバーがヘルプ依頼を出す事もそれなりにあるし、その手の依頼――挙動の設定・調整の手伝い――かと思って受けたんだ。
依頼を受けてダイバーの元に移動して最初に見たのはフォトンちゃんの姿だ。
現在のそれとも遜色のないノーマルスーツ・パイロットスーツの類をベースとした姿にロングスカートを合わせた
自分で作ったにしろ・専門のビルダーに作ってもらったにしろ、「確認・慣らしとは、『実際に戦闘して試したい』という意図の依頼なのでは」とすぐに勘付く様なGBN内部でのビジュアル面での調整まで完了済みのガンプラだった。
◇
「えっと、お兄さんが依頼で来てくれたダイバーさんですか?」
フォトンちゃんの姿に「依頼の意図を勘違いして受けたであろう事と、依頼に応えられるか分からない事をどう伝えたものか」と悩む内に依頼者のダイバーに話しかけられて、俺はたじろいだ。
「あっ、ああ、一応、一応な」
彼女は俺のしどろもどろな返事を気にする様子も無く告げた。
「よかったぁ! なかなか依頼を受けてくれる人が居なかったみたいで……」
これは単に運が悪かっただけだとは思うのだけれども、もしかすると依頼を受けた上でガンプラの完成度、あるいはその方向性に圧倒されて「依頼をこなせそうにない」とキャンセルされていたのかもしれない。
いや俺も「依頼をこなせそうにない」と思っている側のダイバーだが……。
「その、『試しに戦闘をしたい』という趣旨の依頼だろうか?」
「はい! フォトンちゃんは凄いんですけど、その、私はフォトンちゃんほど凄くないんで……」
依頼者のダイバーは「無理そうだからやっぱりやめます」と言うのも憚られる、自身のない様子だった。が、そもそも当時の俺は――「モビルドールスタイルだからガンプラの名前かも」程度に過らなかった訳ではないとはいえ――「フォトンちゃん」がガンプラの名前であるとは分からなかった。
「『フォトンちゃん』? が誰かは分からないけど、俺はその、大して強くないから力に成れないかもしれないんだが……」
俺の言葉に依頼者は謎の自信を見せながら答えた。
「大丈夫ですよ! フォトンちゃん……ええっと、私のガンプラは凄い強いですけど、パイロットの私はダメダメですから!」
見た目からして
「色んな意味で大物なダイバーが依頼者だ」と思いつつも「依頼者が是とするのだから」と、とりあえずでバトルしてみる事になった。
◇
彼女は「どんなステージでも無関係に苦手だから」ステージに対する得意不得意は無い、という事で、俺の得意とし、また俺がすぐに
フォトンちゃんは姿こそ珍しいとはいえ杖から光線を放つ辺りは普通の射撃戦型のガンプラである様に思えたが、その弾速が早いの――即着弾?――に気が付く。
即着弾かそれに見紛う高速弾の光線、となると「多少は着弾までに時間の掛かるビームではなく、レーザーを積んでいるのか」と考えた。
「あえてレーザーを選ぶのは渋いけど、確かにエイムは怪しそうだな……」
レーザーは一般的な交戦距離においては狙った通りの場所に当てられる攻撃で、今回の戦闘は「光速の遅さ」を体感する事になる様な超長距離戦闘ではない。彼女は自身で語る通り……とまでかはともかく、射撃戦が得意という訳ではなさそうだった。
――そして外れたレーザーがデブリを焼く姿から「フォトンちゃんが凄い」というのも事実であろう事が窺えた。レーザー武器はビーム武器に比べて対処法が少なく・弾速が早いのが強みとはいえ、だからこそ威力やエネルギー効率の面においてビーム兵器に劣る部分があるというのにそれをバカスカと撃ってエネルギーを枯渇させた様子が無い。フォトンちゃんというガンプラそのものはトップクラスにも手が届く様なガンプラだろう。
「『モビルスーツの性能の違いが戦力の決定的差ではない』とは言うけどもなぁ……」
ガンプラの完成度の差は戦う前から分かり切った決定的差で、「パイロットの能力の差で性能の差をひっくり返す事が出来る」と言えるほどパイロットとしての俺も強くはない。
……それでも依頼を受けたダイバーとして全力でやるのが最低限の礼儀というものだ。
「デブリ帯というフィールドは彼女というダイバーにとってはともかく、フォトンちゃんというガンプラにとっては苦手な戦場だろう」というのが次の発見だった。
エイムさえ合えば必中のレーザーを大出力で撃ちまくれる、つまり有効射程が十分に長いフォトンちゃんと言えど、デブリの影に隠れられてどこに居るかも分からない相手にレーザーを当てるとなるとそれこそニュータイプか何かに成らなければ不可能なのだ。
……何もないだだっ広い平原なり綺麗な軌道上だった日にはいくら彼女のエイムが下手とは言ってもビームライフルの有効射程に入るまでにレーザーで焼かれて終わりだったのではなかろうか。
俺だってそこまで上手く隠れて近づけるって訳じゃないし、たぶん彼女の索敵が上手くないのも手伝ってだろう。ビームライフルの有効射程にガッツリと入っての奇襲だ。見つけられず探すのに夢中になって移動をおろそかにしていたからやりやすい事この上なかった。
フォトンちゃんという可愛らしいガンプラにビームライフルを叩き込むのは少々気の咎める行いとはいえ、あくまでゲームだ。実物のフォトンちゃんに傷が付く訳じゃないし、取り返しの付かない行為って訳でもない。
しかし、ビームは弾かれた。
「きゃっぁ!? ビ、ビーム!? よかったぁ」
完全な奇襲に成功した上で、しかし機体性能の差でビームを無効化された。ギミックによるものであろう事は救いとはいえ、こっちの非ビーム兵器は所詮サブウェポンだ。勝ち筋の狭まりを感じる。
後方の1発のミサイルにタイマーをセットしてデブリの影で切り離し、前方の2発のミサイルを左右に移動する様にセットしてから発射。
更に全力で近づきながら狂ったように機銃とビームをばら撒いてやる。
「正面から来たって!」
レーザーによる反撃がアインハンダーを掠め、それだけで大ダメージを受ける。
左右に分かれてから接近していくミサイルを順次レーザーで撃墜……戦いの中でエイムがグングン伸びてない?
「絶対領域、展開!」
ロングスカートが開き、内側の短いスカートとニーソックスが見える様になる。「見せる為に開けた」というだけならこんなタイミングじゃない事くらいは想像できる事だった。
それまで機銃弾は外し――そもそも目を引き付ける事が目的だし、弾速の遅さからしてまだ有効射程とは言い難かった――ビームだけが弾かれていた中で出た命中する……はずだった弾丸。それが光に変わった。
「実弾対策までばっちりかよ!」
アインハンダーとフォトンちゃんがすれ違いフォトンちゃんがアインハンダーを追いかけようとした次の瞬間、デブリの影から飛び出したミサイルがフォトンちゃんの背中に迫り、それに気づいたのか一瞬フォトンちゃんの動きが止まる。
それでも杖を向けてレーザーを撃つには機体の旋回が間に合わず、ミサイルがフォトンちゃんに突っ込む……それも光に変わった。
死角の無いビーム対策と実弾対策のなされた、圧倒的完成度のガンプラ。……勝ち筋、あんのかよ。
「一気に決めるよ! シャイニングバニッシュメント!」
背面部から光を放ちながらアインハンダーとの距離を一気に詰めるフォトンちゃん。当然加速力も圧倒的で振り切りようがない。アインハンダーが実弾防御のそれに触れたのか光に変わっていく。耐久値は0。撃墜判定だ。
「や、やった! 決まった!」
アインハンダーを撃墜して余りある超火力の必殺攻撃。耐久値はマイナス。戦略兵器の直撃を貰った時以来のマイナス100%超。オーバーキルも良い所だった。
「……あれ、戦闘が終わらない?」
GBNにおける必殺技というのは、どんなプレイをして来たのかで決まるのだという。
俺は昔から殆ど対人戦なんてしなかったし、他人よりは戦略兵器で消し飛んだ回数は多いだろうし、同じミッションに再挑戦した回数も、たぶん多い方だ。
……だから、俺の必殺技は自分が
「撃墜されて耐久値がマイナスになった際に耐久値の値を正負反転させてから50%分の耐久値を減らした値にする」……普通なら発動すらしないし、仮に発動してももう一度撃墜するのは簡単だ。同じ攻撃をもう一度叩き込めば済む。
「『ワン・モア・チャンス』だ」
復活して即座にフォトンちゃんに機銃を叩き込む。撃墜される前に撃墜しなければいけない。
「ぜ、絶対領域! 平気……じゃな~い!」
しばらくの間は弾丸が光に変えられていたものの、途中で弾丸が光に変わらなくなりフォトンちゃんの杖に弾丸がヒット。破壊はできないながらも弾き飛ばす事には成功して、それで残弾0。
追撃でビームライフルを叩き込むもビームは弾かれるまま。エネルギーが完全に尽きた訳ではない様だった。
数度撃つ構えを見せてビーム対策――弾かれ方からするとゲシュマイディッヒパンツァーだろうか――を使わせてエネルギーを浪費させようとする。
「これで墜ちて! ミラージュチャージングレーザー!」
地味な戦いに焦れたのか、単に読み切られただけなのか。フォトンちゃんが腕を左右に伸ばし手は人差し指だけを伸ばしたかと思うと、指の当たりからフォトンちゃんを包む様に光の帯、あるいは環が生まれ、光線が飛んできた。
飛んで来たのはおそらく3発。2発は外れ、1発はビームライフルを撃ち抜き、光が消える。……エネルギーが払底したのだろう。
エネルギーの切れたガンプラと、武器の無いガンプラ……どうしようもなく、互いに決め手が無かった。
しかし、フォトンちゃんは動いた。できるだけデブリが薄く、日の当たる場所へと動いてから、機体色が黒っぽくなった。
フェイズシフトダウンではない。フェイズシフト装甲のそれではなくあくまで素材独特の透明感のある黒、太陽電池のそれ様な色味……太陽電池?
フォトンちゃんという名前、物質を光に変える何か、色の変わる装甲……あれがフォトントルピードの低温対消滅を起こす物質だとすれば、色の変わる装甲は光をため込むインビジブル・チタニウムによるディスプレイ装甲。つまり正に太陽電池の塊と化した状態なのではないか?
そう、フォトンちゃんはまだ勝つ為に全力を尽くしている。「でもアインハンダーには武器が無い」……本当に? まだ手がある。まだマニピュレーターが残っているじゃないか。
◇
「もう石とか投げないでよぉ!」
そう。アインハンダーには手があるのだ。つまり物を拾って投げる事が出来る。フォトンちゃんの装甲にどれだけ通用するのかはともかく、自滅前提の体当たりでお茶を濁すよりはマシな、人類の基本的な攻撃手段で戦っている。
デブリから適当な物を弾として投げつけては別の弾を拾いに行ってまた投げる。……酷く間抜けだろうと体当たりでの相討ち狙いなんて消極的な戦いをしても得るものはないだろう。
それに全力を尽くして勝ちを目指している相手に、全力を尽くさずに逃げるだなんて格好悪い事は出来なかった。
そんな事をしばらく繰り返す内に結局は時間切れが来た。フォトンちゃんが指から放ったレーザーがマニピュレーターを融かす。
「こ、これで文字通り手すら出せない、でしょ?」
――酷く、とても酷く気を抜いていた。目に見える武装が残っていないのだから当然だった。
しかし回復したてのエネルギーを消費してであろうレーザーで相手だってまともに動けなくなっただろう。武装なんてなくても相討ちにはできる。最高のチャンスが来た。
「気を抜いていい状況じゃないんだよなぁ!」
……つまり、隠し武器の類があれば一方的に墜とせる、という事だ。
すれ違いざまにアンカーを突き刺してそのまま大きめのデブリに向けて突撃。
ふと過る最悪の可能性。「予備のエネルギーを確保しておく強かさがあったとしたら?」……それでも、これ以上のタイミングはないだろう。
「う、うそぉっ!」
「デブリ行き急行に一名様ご案内だ!」
デブリへの衝突軌道に乗せギリギリまで加速してからアンカーを切り離して離脱。
エネルギー切れで推進能力を発揮できないらしいフォトンちゃんは陸戦型ザクよろしく軌道上で溺れるかの様に四肢を動かすも推力は生まれない。
「ご、ゴミのポイ捨てはやめましょうねぇ!?」
「ゴミじゃなくてもポイ捨てはダメだろ」と心の中でつっこむが早いか、フォトンちゃんはデブリと衝突。……哀れ、そのままデブリの仲間入りだ。
◇
戦闘が終わって、相互の機体性能だとか、攻撃の意図だとかをすり合わせをしての反省会に入っていた。
「とりあえず、あの『シャイニングバニッシュメント』とかいうのはもうちょっと使い所とか消費とか考慮しないと自分が
機体性能は圧倒的で射撃戦能力もどんどん伸びてたというのに、俺相手にあんな負け方をしたのはあの攻撃を使ってしまったせいだ。
使い所を間違わなければ強力無比な必殺の技とはいえ「過剰火力を浪費して即ガス欠で決めきれずに敗北」という今回の負け方はまさに「自分が殺される技」と化しての負け方と言わざるを得なかった。
「自己蘇生必殺技持ちのダイバーなんてまず居ないレアケースじゃないですかぁ!」
彼女は例外的な負け方だと半ば悲鳴を上げる様に叫んで返した。
その言葉そのものは正論ではあるが……。
「いや普通の相手でもダミーバルーンとか変わり身とかで似た様な事になるから」
それを実現した方法はともかく、「攻撃が無意味に終わり・その攻撃の為の消耗を挽回できず負ける」という負け方そのものはありふれた負け方だ。
……まあ自己蘇生の必殺技なんてトンデモ必殺技なんて他に例を知らないレベルでレアな代物ではあるし、今回のバトルでそれに頼らなければ勝てなかった俺とアインハンダーの弱さも責められ得る話ではあるのだが。
「むうぅ~!」
そんなこんなで依頼の目的であった機体の慣らしと扱いのチェックの為の話をしばらくして、他に何か見落としが無いかの確認を兼ねての雑談に入っていた時の話だ。
「ところでその……フォトンちゃんはなんでまたああいうモビルドールに?」
強力な機体である、という以上にその外見に異様なまでに手を掛けているのがフォトンちゃんというガンプラだ。
インビジブル・チタニウムによるフォトン装甲を立体積層ディスプレイとする事で透明な機体の中に立体の、そしてすーぱーふみなよろしくある程度の透明度のある色で形作られた『透けるような肌を持つ』巨大な少女を表示する。装甲表面だけの色変えなどとは比べ物にならない手間が掛かり、そして機体性能への影響は無いか、下手をすれば目立つ分だけマイナスまである様な余計な仕事だった。
つまり、フォトンちゃんというガンプラは高い技術を使い・拘り抜いて作られたガンプラという事だ。
「モビルドールじゃなくて……うーん、目的としてはサロゲート、形態としては
モビルドールだとばかり思っていた所に予想外の言葉が飛び出してきた。たしかに自分のアバターを再現した様ではなかったし、すーぱーふみなやローエングリン子の様な「モビルドールではない人間型のガンプラ」もあるとはいえ、分類にまで拘っているのは予想していなかった。
――しかしあれだけの拘りを持ったガンプラであれば、分類にまで拘るのも予想してしかるべきだったと思う。
「スール……姉妹? はまあそういう事だとして、サロゲート、代理って?」
『モビルスール』はまあ「略称がMSになる様に・機体の形状を指す言葉を選んだ言葉遊びだろう」と当たりは付くにしても、サロゲートとは?
「どこまでも行ける足、どこまでも届く手、どこだって見れる目。自分自身じゃないけれど、自分よりも自由な"自分"、って言うとなんか抽象的だよね……なんて言えばいいのかな」
抽象的ではあっても、何が言いたいのかは何となく感じられる答えが返ってきた。
「より目的に適う自分の化身、より拡張された巨大なアバター。最初に言葉にした通りの
より望んだ自分として調整され・拡張された機械の体。正に機体で、正にサロゲートなのだろう。そう俺は解釈した。
「んー、それも悪くないけどフォトンちゃんは……フォトンちゃんは…………そう! 夢だよ! 夢の結晶! 強くて、綺麗で、可愛くて、なんでもできちゃう夢みたいな子!」
「夢」という言葉そのものはそれ以前に積み上げた言葉達よりも抽象的だ。けれど「フォトンちゃんとは何か」という問いに対する答えとしては一言で全てを表現した言葉だった。
抱いた夢にプラスチックで形を与え、GBNという場の力でそれに命を吹き込んだ夢の結晶。
GBNではありふれた――しかしそれが普遍的である事で価値が落ちるわけではない――営みの産物。
アバターをモチーフ元にした訳ではなく求める目的も違うのだから、これはもうモビルドールとはまた別の名で呼ぶ他ないものなのだ。
だって、彼女がそう定義しているのだから。――理由なんてそれで十分なのだ。 そうでなければガンダムもマジンガーもゲッターも全部ただの「ロボット」で片づけられてしまうだろうさ。
元の話からはだいぶ逸れてしまったけれど、心が洗われるとは何かを身をもって知らされたこの経験は何物にも代えがたい経験で、この世界で一番の思い出だ。
◇
この話は次の反平和の祭典が始まる少し前の話だった。
この後、俺は夢を全身で表現するフォトンちゃんの輝きに背を押され・道を照らされて自分の夢に向かい、その途中で長い道のりにダレて、加速する進捗にやる気を取り戻し、そして……
そして、何処にもたどりつけやしなくなったんだ。