また、ダメだった……。
今の世界でも……まどかを救えなかった……。
私は何度……人の死を見ればいいのだろう……。
いや、そんなのはどうでもいい。
今度こそ……今度こそ……まどかを
救ってみせる……!!
そしてまた新しい世界へとやってきた私、暁美ほむら。
いつも通り、見滝原中学に編入する。
いつもなら空いている席。
しかし、そこには見知らぬ男子学生が座っていた。
おそらくは私も知らない要素なのだろう。そんなのはどうでもいい。
私はまどかを救うだけ……ただ、それだけなのだから……。
割り振られた席に座る。その席はその男子学生の隣の席だった。
「やあ、初めまして。えっと……暁美さん、だったよね?」
「……先ほど自己紹介したのだと記憶しているけど……?」
「ああ、ごめんごめん。僕ちょっと記憶力に乏しくて……」
……ついさっきの話の筈なのに……目の前の男子は大丈夫なのだろうか?
「僕、吉井明久。これからよろしくね」
これが、私と明久のファーストコンタクトだった。
それからというもの
「ねぇねぇほむらちゃん」
「……何?」
「これ、どういう意味なの?」
「はぁ……」
第一印象はバカだった。
なぜなら……中学一年で習う筈の内容をまるで理解していなかったのである。
それでいてなぜ進級出来たのか……そもそも自身でそれを理解している筈なのになぜ勉強しないのか……そこが疑問だったわね。
私もそんなのには極力関わらないようにしていた。
なぜなら……こんな小さなイレギュラー、今までにも何度かあったからである。
でも、そんなもので結末は変わらなかった。
だから今回は不用意に関わっても意味はないのはわかっている為、適当にあしらっていた。
そして
「ほむらちゃん」
「何?」
「あの……こんな事言うのはダメだよなっていうのはわかってるんだけど……」
わかってるんなら止めなさいよ。
と、言いそうになった瞬間に
「ほむらちゃんってどこか皆に壁、作ってるよね?それも……何となくなんだけど、どこか、えっと……達観だったかな?どこか今じゃない、先の事を見てる……生徒としての先とは違う。もっと内容が濃いような先の未来を」
それを聞いた瞬間に開いた口が塞がらなかった。
吉井明久の真骨頂は頭の良さなどではない。
その観察眼……いや、相手の全てを理解しようとするその心……それこそがこの男子の本領なのだと。考えなどではない。直感でそうわかった。
だからこそ……私は吉井明久を巻き込ませてはいけないと心からそう思った。
この男は優しい。いや、優しすぎる程なのだ。
自身の事など二の次。まずは他人を。そんな人物が魔法少女の事を知れば何も見なかったというような事にはならない。
「……貴方には、関係ない」
私はそれだけ言ってその場を立ち去った。
「あ……」
明久はこちらに手を伸ばそうとしたが諦めたのかしょぼんとしながら教室に戻っていった。
……さすがに少し、突き放しすぎたかしら……?
私はそう思い直しながら……私らしくはないが、謝ろうと決めて、教室へと走る。
そして廊下から教室の中を覗くと……明久が泣きながらまどかに慰めてもらっていた。
羨ましい……。
私は最初そう考えていたが、あれ?と思った。
私は、どちらを羨ましいと思ったの……?
まどかに慰めてもらっている明久を?それとも……明久に泣きつかれたまどかを?
私はその時答えを出せなかった。
そしてまどかが魔法少女の存在を知った。
その現場には……吉井、明久の姿もあった。
私はそれを見た瞬間……何で?と疑問しか浮かばなかった。
明久は魔女の口付けを受けた訳じゃない。それなのに……何で?
ひとまずは……私の正体を知られないようにしないと。
知られたら……明久は私を危険にさせない為に……小さな命を燃やし尽くしてしまう!
そう、わかってしまった。
だからこそ……私はいつも通り、影から見守ろう。
そうだったのに……
巴マミは私をリボンで拘束してお菓子の魔女を倒しに行ってしまった。
このままでは……巴マミは死んでしまう!
私は必死に拘束を解いて走った。今までこんなに急いで走った事はなかった為に疲れてきていた。
しかし私は必死に走った。このままでは……いつもと同じように……!
そして魔女のいる場所まで来た瞬間に……私は、信じられない光景を目にした。
ドッガアァァァァァァァァァン!!!!!!!!!
明久が腕を振りかぶり今、まさに巴マミを咬み殺そうとしたお菓子の魔女を……殴り飛ばしたのである。
「……え?」
殴った明久も途方にくれている。
明久には……何か、得体のしれない力が宿っているとでも言うの……?
美樹さやかが魔法少女になってしまった。
それと同時に私が魔法少女だというのもバレてしまったのだけど。
吉井明久はいつも通りだった。
「なぜ……」
「ん?」
「なんで……態度を変えないの?」
私は小さくそう呟いていた。
「態度を変えないって……どういう事?」
「だから……私が魔法少女だと知って……」
「ああ、そういう事?変えてほしかったの?」
そういう訳ではない。
「変えなかったのは……まあ……変えたら、またほむらちゃんが壁を作るかもしれないかな?って思っただけなんだけど……」
この……男は……!
「何で……」
「?」
「何で、決意を鈍らせるの!?」
私はそう大声で叫んで教室を飛び出していった。
屋上にやってきて……やってしまった事に顔を赤くしてしまった。
うぅ……私、どうしちゃったの……?
白ゴキブリが魔法少女の正体を……話してしまった。
これによって……美樹さやかや巴マミは絶望してしまう……。
やっぱり……変わらない……
「お前、そんな事して何とも思わないのかよ!?」
…………え?
「何でそんなに怒るんだい?僕は聞かれなかったから答えなかった。ただそれだけだよ?」
「だったらそのデメリットもちゃんと説明してから契約するか聞けよ!人間はな、欲深いんだ!お前はそんな人間の心を利用したんだ!」
「まったく、君たち人間は……僕には訳が分からないよ」
「ああ、そうだろうな!お前と人間は決して歩み寄れたりはしないだろうさ!」
明久が……怒ってくれた……?
私たち魔法少女の為に……?
なんで……関係ないのに……そんなに、必死になってくれるの?
後日、その問いをしたのだけど
「え?そんなの当然じゃん。だって女の子を利用してたんだよ?それだけだよ」
こんな返事が返ってきた。
やっぱり吉井明久は吉井明久だと改めて思ったわね。
しかしやはり運命は変わらなかった。
美樹さやかが魔女化したのだ。
その時に吉井明久と佐倉杏子に面識があった事に驚いたのだけど……そしていつも通り美樹さやかを元に戻そうと美樹さやかが魔女化した魔女、人魚の魔女と戦った。
そして、戦っている途中に気づいた。
それは、吉井明久のいる場所に攻撃がいかない事なのである。
……これは……美樹さやかの意識がまだ残っているというの……?
それなら……まだ、勝機はある……?
しかし、そう考えた瞬間
「っ、危ない杏子ちゃん!」
そう叫んで佐倉杏子を突き飛ばした吉井明久の体を……魔女化した美樹さやかの腕が、貫いていた。
「明久くーーーーーーーんっ!!!」
まどかの叫びが結界の中に木霊する。
皆が、吉井明久の体に付き添っていると……明久の瞼から一筋の涙が落ちた。
その時、吉井明久が何かを呟いているのが見えたけど何を言っているのかはわからなかった。
そして……奇跡が、起きた。
魔女が苦しみだしたかと思うと光りだし……美樹さやかの体に戻ったのである。
美樹さやかは意識を取り戻したかと思うと、吉井明久に自身の回復の魔力を与え始めた。
しかしそれでも血は止まらなかった。
すると
「生きてよ……明久……希望に、なってくれるんでしょ?」
そう言って……吉井明久に、キスをした。
「さ、さささ、さやかちゃん!?」
「さやかぁ!?お前、何してんだよ!?」
「あらあら……」
「…………っ!」
私たちは驚き、そしてなぜか私は銃を片手に美樹さやかを追いかけ回していた。
何なの……この気持ちは……?
そして……明久不在という状況の中で……最悪の魔女、ワルプルギスの夜がやってきた。
私たちは善戦するが……それでも、何か一つ決定打が与えられなかった。
それを見ていたまどかに…あの白ゴキブリがやってきて何かを言っている。
まさか……この期に乗じて、まどかに契約をっ!?
「ダメ……くっ!?」
このっ!まどかに契約をさせたら!
でも……その心配は杞憂に終わった。
なぜなら……患者の着る服を着た明久が、まどかを止めていたからだ。
「明久っ!?」
「「「えっ!?」」」
私が彼の名前を叫ぶと皆が反応する。
それもそうだろう。吉井明久は今、絶対安静の筈なのだ。
明久はまどかから少しだけ離れると……突然理性を失ったかのように至る所に攻撃を仕掛け始めた。
それは私たちに対しても例外ではなかった。
「明久っ!?」
「明久くん、止めて!?」
「あたしたちがわかんねぇのか!?」
「吉井明久っ!」
私たちが何度呼びかけても明久は無視して攻撃を仕掛けてきた。
そして全員が戦闘不能になり倒れている私たちに対してトドメを刺しに来たのだろう。
ゆっくりと歩いてくる明久に私は恐怖を感じていた。
(こんなの、吉井明久じゃない……貴方の本当の姿じゃないのに……!)
私はそう言いたかった……でも、声が出せなかった……。
そしてまどかが私たちの前に立って明久を抱きしめた。
「大丈夫だよ、明久くん……ここには明久くんを傷つける人はいない……だから、ね?」
「ウウウゥゥゥゥゥ……」
「明久くん……ただ、倒す力じゃないでしょ?明久くんの力は……暖かい力……こんなの明久くんらしくないよ……」
「ウウウゥゥゥゥゥゥゥ……マ……マ……ド……カ……チャン……?」
「そうだよ、まどかだよ。明久くん……明久くんなら出来るよ」
まどかがそう言うと……明久の目に生気が宿っていくのがわかった。
「ごめん、まどかちゃん……ありがとう……もう、大丈夫だから……見てて?」
吉井明久はそう言って……何かを呟くと、吉井明久の手に大きな槍が握られていた。
それを持って吉井明久はワルプルギスの夜へと立ち向かっていった。
私は、何も出来なかった……。
その後、吉井明久には全てを話した。
私が時間渡航をしている事、今までの世界でもまどか達を守りきれなかった事。そして……まどかの為だけに今まで時間渡航してきたのにそれが逆にまどかを苦しめていた事。
それを聞いた明久は……ただ、抱きしめてくれた。
「よく、頑張ったね。ほむらちゃん……でも、もう大丈夫。僕が……守るから」
その言葉を聞いた瞬間……私の中の堰が完全に壊れ、泣きじゃくってしまった。
そんな風になってしまった私を明久は……ずっと抱きしめてくれた。
思えばこの時かもしれない……明久に他の男子とは違うような感情を抱いているのを自覚したのは。
もやっとする意識を覚醒させる。
「いけない……寝ちゃってたのね……」
周りを見てみると他の人たちも寝ていた。
その中には明久の姿もあった。
皆の気持ちはわかっている……でも、私だって女の子だ。
自分が選ばれてほしいと思っている。
でも、今は……
「明久、しっかりと休んでね……?」
私は席を立って明久の綺麗な髪を梳く。
出来れば、こんな穏やかな日常が、続きますように……。
これは時間渡航をしてきた少女の物語……さぁてと、次回は合宿の話に戻るかね。