Assault Lily with GODZILLA 〜Kings of the earth〜   作:俺っちは勝者の味方ー!

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【注意】
・モンスターバース側の登場人物のオリ設定多め。
・ムートー強化
・視点の切り替わり多め。
・高松“祇”恵良さんの“祇”が正しく変換できていないかもしれないので注意して下さい。決して誤字ってる訳ではないです。
 そして、多分おもんないと思われ…



宿敵の目覚め

タイタンの本格的な活動の開始を以て、遂に表舞台(戦場)へと躍り出ることになった

特務研究機関『MONARCH(モナーク)』。

その後すぐ、モナークに所属する研究員、芹沢猪四郎は、旧知の仲である高松咬月が理事長代行を務める百合ヶ丘女学院に協力を仰いだ。

結果…両者の合意の元、真島百由とタイタンを共同で研究すること。並び、LGアールヴヘイムに広島の現地調査をエスコートして貰うことが決定した。

謎多きタイタンの生態を紐解く為の強力な手札が揃い始める現状に、芹沢は武者震いを感じる。

 

と同時に、彼は改めてモナークが運用する全翼機『アルゴ』の広大な操縦フロアに目を向ける。ミーティングエリアや休憩室も設計されている為に70人以上も収容可能というこのフロアの一角では、軍服を纏ったクルーともモナークの研究チームとも似ても似つかない9人の少女達の姿があった。

彼女達が身に纏う白を基調としたゴシック調のレギオン服は、作業に没頭する職員で溢れる職場にそぐわず、上品な雰囲気を称えている。

それが、この僅かに殺伐とした空間に一輪の花が添えられたかのように思えたのだ。

彼女達こそが、百合ヶ丘が誇る外征旗艦LGアールヴヘイム。今回の広島市の調査で露払いを担ってくれる頼もしい助っ人である。

その傍らに納められているCHARMを抜きにしても、揃いも揃って整った顔立ちをしている彼女達はこの場において異色を放っている。勿論良い意味で。

その内の一人、先日…自身を褒め立ててもいた弥宙がグレアム博士に詰め寄っている光景が目に映る。

芹沢は、目を輝かせる少女とその勢いに押されがちな助手の織りなす和やかな雰囲気に当てられ、すっかり皺の増えた顔に小さく微笑みを浮かべる。

 

「お会いできて光栄です、グレアム博士!まさかあの綺羅星の…いや、稲妻の如きリリィである貴女とこうして(まみ)えることが出来るなんて…!」

「リリィで“あった”と言う方が的確でしょう、弥宙さん…。それと、あまり昔のことを掘り返すのはその…やめてくれると助かるのだけれど…」

「そうよ、弥宙。グレアム博士が嫌がっているのならやめるべきよ」

「嫌よ、壱!この機会を逃したら、あの四川省迎撃戦で防衛部隊を誰一人として死なせなかった英雄…『疾風迅雷』ことヴィヴィアン・グレアムから、当時の活躍を直接本人の口から根掘り葉掘り聞けないじゃない!ここで引いたら、リリィオタクとしての名が廃るわ。もう、止めないで」

「…って、今全部あんたが言っちゃったじゃない!」

 

弥宙がグレアムの功績を盛大に暴露しそれを壱が叱責している横で、その二つ名を半年ぶりに耳にした本人は、顔に手をやり羞恥心を必死に隠そうとしている。

東洋では『疾風迅雷』、西洋では『ライトニング』と敬称された二つ名は、良い大人となった今では黒歴史も同然であった。

昔はその名で呼称されることを何とも思わなかった(むしろ誇らしいとさえ思っていた)過去の自分に嫌気が差す。

有名リリィが一度は通る道を踏み外してしまった、とグレアムはまたしても後悔の念に駆られる。(n回目…)

 

「でっ、でもでも…グレアム博士が昔は凄いリリィだったってことは、弥宙ちゃんの説明で良く分かりました…」

「そうですよ。私達の大先輩として尊敬します」

 

樟美と天葉の姉妹二人は、彼女のリリィとしての活躍を褒め称える。弥宙も決して悪気があった訳では無いことは承知なので、グレアムはその賞賛に素直に応対する。

 

「ふふ、ありがとう。でも貴女達も今のうちから()()気を付けておかないと、大人になった時に後悔するかもしれないわね。今の私みたく」

「うっ…」

 

彼女の忠告に対し、渋い反応を示す依奈。『円環の御手』の初期覚醒者にして、世間に『サークリット・ブレス』という厨二病じみた別称を浸透させた彼女にとって、その忠告は既に手遅れであった…。

 

…それはさておき、明るく盛り上がる談笑のおかげで天葉達の緊張感は程よく和らいでいた。その様子を仕事の傍ら…温かい目で見守っている芹沢を見たグレアムは、一つ良い肴を思い付く。

 

「そうだ。皆んなは芹沢博士が過去にどんな仕事をなさっていたか知ってる?」

「え?今と同じ生物学者ではないんですか?」

「ええ、正確にはね。実は彼、昔は防衛軍の特殊空挺部隊の隊員だったの。当時は南極戦役にも出兵していて、貴女達の学院の理事長である高松姉弟と共闘したと聞いているわ」

 

アールヴヘイムでさえもそんな話は初めて小耳に挟んだ。芹沢が防衛軍の一員として戦っていたことは勿論、その彼が百合ヶ丘の理事長達と熾烈な戦場を共にしていたということにも驚いた。

驚きの余り言葉も出ない天葉達だったが、そこへ首と手を小さく横に振りながら芹沢が会話に入ってくる。

 

「共闘した…なんて、そんな大層なものじゃない。特殊空挺部隊と言えど、私はただのしがない追跡専門家(トラッカー)でね。担っていた役割故に、ヒュージと交戦した数は祇恵良や咬月よりも少ないんだ。賞賛されるべきは勇敢に戦ったあの二人の方さ」

 

そう自分を卑下するような物言いをする芹沢。それに反応したのは、グレアムの話を聞いて「はっ…!」っと何か大事なことを思い出したかのような素振りを見せた弥宙であった。

 

「ま、まさか、南極戦役一の激戦区と称された第二防衛ラインで24名もの負傷者を救出したという伝説の特殊空挺部隊隊員って…!」

「ええ、そのまさかよ」

「〜〜〜!」

 

グレアムが肯定する事実に、弥宙は感極まって声にならない悲鳴を上げる。有り余る歓喜故の反応には、思わず芹沢も苦笑いを浮かべた。

 

「ということは、芹沢博士が学者の道を歩み始めたのは防衛軍を引退してからなのでしょうか?」

「そうだね。だが、私が生物学を究め始めたのは軍に入るより以前からなんだ。訓練が過激だったもので当時はそれを疎かにしてしまったが、隊服を脱いでから…今一度学者を目指す道を心に決めたよ」

 

「そして、今の私がある」と続ける芹沢に甚く驚嘆する少女達。彼の歩んできた濃密な人生は、年若い彼女達にとっては想像し難いものだった。

 

「しかし、軍を辞めて…学者として生きてきた世界で感じ得たものは、ただリリィの背を見つめるばかりで…何も為すことが出来ない罪悪感だ。君達がヒュージとの戦いの矢面に立たされる現実を直視するのも、それから目を背けることも辛かった…」

 

その声色は酷く悲しげであり、同時に己の無力さを呪っているようであった…。それは誰に向けて言った訳でもなく、芹沢が一人静かに呟いた贖罪だったのかもしれない。だが、その言葉はまるで自分に言い放たれたように感じ、天葉は喉元に熱が帯びるのを自覚した。

 

「すまない…だから、どうしても君達を見ていると胸が締め付けられるんだ。私の孫も、現役のリリィとして戦っているから尚のことね」

「お孫さん、ですか?」

「ああ、ちょうど番匠谷さんや渡邉さん達と同い年の孫だ。東京のガーデンに在籍していて、そこで新たな仲間が出来たと連絡をしてくれたから、息災であることは確かなんだが…」

「やっぱり…心配、ですよね?」

 

茜の問いに対し静かに頷く芹沢。自分から孫の話をしておいてなんだが、久しく思い出すとやはり彼女のことが愛おしく思えて仕方が無かった。

 

「…………あの、芹沢博士」

「? どうしたのかな、番匠谷さん」

「間違っていたらすみませんが、そのお孫さんのことで二つほどお尋ねしても宜しいでしょうか?」

「ああ、構わないよ」

「ありがとうございます。えと、彼女の通うガーデンというのは『エレンスゲ女学院』…ですよね?」

「! おお、良く分かったね…。百合ヶ丘とは折り合いの悪いガーデンだから、その名は問われないと思っていたよ」

「じゃ、じゃあ、そのお孫さんの名前は

 芹沢『()()()』……さん、ですか?」

 

 

 

 

 

「っ!……いかにも。私の孫の名は千香瑠、芹沢千香瑠だ。もしや、君は千香瑠のことを存じているのかな?」

 

繋がった点と点。ここにきて思わぬ事実が明らかになり、依奈の思考は一瞬ぐらりと揺れる。そして同時に、縁を巡り合わせる偶然(ぢから)の恐ろしさを身に染みて感じたのだった。

 

◼️

 

 

その後、芹沢は孫の千香瑠と共に御台場迎撃戦を戦った依奈と天葉、茜の三人から彼女の近況を聞かせてもらった。時間の流れや遠征の最中(さなか)だということも忘れて、それはもうじっくりと。

話の中で孫の活躍や年相応の可愛らしい一面も知れて十分に満足したが、レギオン『ヘルヴォル』に所属する孫が掛け替えの無い仲間と出会い、楽しく元気にやれているということが何より嬉しかった。

 

「いや、すまない。随分長いこと付き合わせてしまったね」

「ふふ、いいえ。大事な家族のことを知りたいと思うのは誰だって同じです。千香瑠もこんなにお爺様に愛されているだなんて、羨ましい限りね」

 

芹沢の家族思いな側面を垣間見た依奈は、彼の隠し切れていない恥ずかしさと喜びに自然と微笑みがこぼれる。

 

…しかし、そんな明るく楽しい時間に終わりは付き物だ。

芹沢達の会話に割って入ってきたのは、操縦フロアの喧騒に負けじと対抗するかのような大声だった。

 

「お嬢様方との談笑に花を咲かせているところ悪いんですがね、芹沢博士!あと5分で広島に到着です。君らも急いで準備を!」

 

生物物理学を研究するリック・スタントンは、作業の傍ら…調査を目前にして和やかな雰囲気になっている彼等の尻を叩く。

相も変わらない皮肉るような物言いだが、普段よりもその言葉の棘は丸みを帯びているようにさえ感じられる。ガーデンの生徒の教育には悪いと自重しての配慮か、と神話学者のアイリーン・チェンはそう結論付ける。

とは言え、皮肉屋としての鳴りを多少潜めていても、芹沢のような生粋の紳士像からは程遠いので無駄な気がしてならないが。

 

「今、何か失礼なことを思わなかったか」

「いえ、別に。自分の胸に手を当てて考えてみると良いんじゃない?」

 

軽く一言だけ返して、彼女はまたデータベースの整理に没頭する。今回の調査だけに限らず、まだまだ解析を要する情報は山積みなのだ。彼には悪いが、一々真面目に相手はしていられない。

 

「へいへい」と、リックも再び作業に戻る。軽くあしらわれるのにはもう慣れたのだ。

因みに彼が行うのは、地震計のデータの復元作業である。不幸にも広島市郊外に設置されている地震計が地中を蠢くヒュージに小突かれたせいで、一昨日の夜から地震波のデータは送られずにいた。それを早く復旧させるのにも、送信されてきた筈のデータを戻すのにも骨が折れる。

 

…アイリーンとリックはそれぞれ違う意味を込めて、ため息を吐く。

 

「芹沢博士、V-22の発進準備が整いました」

「よし。では行こうか」

「はい!」

 

今回の調査チームに編成されたモナークの軍事部門Gチームの隊員と芹沢がアールヴヘイムを先導する。

タイタン絡みの案件且つ依頼を受諾して貰った立場故、ガーデン側の手を煩わせはしないと芹沢が用立てた、アメリカ防衛軍所属の艦船『アルゴ』。その格納庫には、リリィを輸送するガンシップに負けず劣らずの性能を誇る航空機V-22や戦闘機F-35が入れ納められている。

 

案内された格納庫(ここ)で、この全翼機の性能の高さを改めて認識する壱。

搭乗した時点で察してはいたが、これだけの規模の艦船はやはり怪獣達の対処を迅速に行うべく開発されたのだろう。

その技術力を対ヒュージに生かしても良かったのではないか、とも思う壱だったが、出撃を控えた今それを口に出すのは野暮な気がしたので、静かに言葉を飲み込んだ。

これもまた余談だが、実は日本を始めとした東洋でのアルゴの稼働に漕ぎ着けるまでには、数々の根回しと調整を要していた。自国第一主義的な傾向を持つお堅い米の将軍を説得させて、この三日間の準備に心血を注いだ芹沢の尽力を天葉達には知る由も無かった。

 

そして、クルーが忙しなく往来する航空機に乗り込もうというタイミングで芹沢が声を掛ける。

 

「我々が君達をサポートできるのはここまでだ。もし不明瞭な点があれば、同乗している隊員に聞くといい。…武運を祈る」

「どうか気を付けて。無理だけはしちゃダメよ」

 

芹沢と彼に連れ添うグレアムは、それぞれアールヴヘイムの皆に激励の言葉を送る。

その言葉をしかと噛み締めた天葉は、彼等の不安を払うように最高の笑顔を以て答える。

 

「はい!それでは行ってきます」

「…行ってきます」

 

しばしの別れを告げる言葉と共に閉ざされるパッチ。回転数と速度を上げるプロペラが、刻一刻と迫る出発の時の訪れを告げる。

かつては豪傑、今では力無き一般人にまで堕ちてしまった芹沢とグレアムに為せるのは、少女達と調査隊の無事を祈ることだけしか無い。

 

◼️

 

 

アルゴから飛び立ち、遂に作戦の実行へと移ったV-22。その艦内はお世辞にも広いとは呼べないが、普段からガンシップに搭乗している樟美にとっては些細な問題だった。

形容や内装、搭載されている設備等が若干異なるだけで、これまでの外征と何ら変わらない筈だと自分に言い聞かせる。隣に座る天葉の腕を組む力を少し強めながら…。

 

天葉は彼女が強張っているその理由を知っている。あくまで推測だが、この船に同乗しているクルーが男性しか居ないことが関係しているのだろう。

ライフルを手にし重厚な装備を纏うGチームの隊員七名と非戦闘要員の地質学者二名という少数精鋭で編成されたこの調査隊には、何処にも華が無い…。

 

ある事件を境に臆病な性格へと変わってしまった樟美が、強面の外国人兵士と同じ空間に居るだけで緊張してしまうのは無理もない。

アルゴよりもさらに閉鎖的な空間であるからこそ、距離感の近さ故にその緊張感も増幅する。天葉や壱がすぐ側にいるとは言え、やはり樟美には耐え難い瞬間(とき)であった。

アールヴヘイムが一列になって着席する反対側にもまた、同じように銃を携えた男達が座っている。この手の航空機は対面する形で座る設計で造られているので、嫌でも視線が合ってしまいそうなのだ。

樟美は天葉の腕を組みつつ目線を床に向ける。自分も相手も不愉快な思いをせぬよう、一定の距離感を保とうとしての判断だ。(特に初対面の)人との付き合いが苦手な彼女にはこれが精一杯だった。

 

すると、ふと視界の隅に見慣れない機械が映る。パッチと程近い位置に置かれているそれが一体何なのか、気にならない訳はない。

そんな小首を傾げるばかりの樟美の耳に、初めて耳にする野太い声が響いてきた。

 

「そいつはモナークが開発した地中探査機だ。これから最終メンテナンスをするつもりなんだが、良かったら近くで見てみるかい。お嬢さん」

 

樟美に声を掛けたのは、こめかみに痛々しい傷跡を残した細い顔付きの男だ。やはり隊服を身に纏っている。

いかつい男に唐突に話しかけられた樟美は、何と返事をすれば良いか思い浮かばず口ごもってしまう。

 

「え、えっと、その…」

『おい、コール。急に話しかけてやるなって。困っちまってるじゃないか』

『そうか?確かにニホンの言葉はそんな流暢に話せる訳じゃねぇが、会話は成立してただろ』

『お前のオツムがどうとか言う話じゃねぇよ…』

 

男…コールと同じGチームの黒人兵士が彼の軽率な振舞いを咎める。むさ苦しそうな男二人は母国語で何かを言い合っているようだが、どうも悪い仲ではなさそうだ。

すると、黒人の彼が申し訳なさそうな表情で樟美の目を見遣る。

 

「ああ…俺の同僚が驚かせて悪かったな。コールは幾許か常識が抜け落ちちまってんだ。代わりに謝るよ」

「いえ、そんな…私の方こそ、ごめんなさい…」

「おいおい、俺が何か悪いことでもしたってのか、ミルズ?」

 

女心をこれっぽっちも理解していない戦友に小言の一つでも食らわせてやろうかと思うミルズだったが、喉まで出かかったその言葉を寸前で止める。

コールはいろんな長さの導火線を持った難しい男なのだ。要らぬことを口にして、点火させたくはない。

上官を慕い、万人に対して博愛精神を振り撒けるいい奴ではあるが、彼が爆発した時は些か面倒くさい。目の前にリリィの皆が居たとしても、おそらくそうなる。

戦地へ降り立つ直前に刺々しい雰囲気になることだけは御免だったミルズは、結局は何も言わなかった。

対するコールも、ただミルズを見つめるばかりだ。付き合いが長いからこそ分かるが、こういう時コールが黙りこくるのはいつものことだ。ミルズは彼に変わって、樟美の疑問に応答する。

 

「… 地中探査機(こいつ)を何に使うのか知りたいんだったよな?こいつは電磁波レーダーを使って、地中に空洞があるかどうかを調べる為に使うんだ。

 ほら、今回の目的は地質調査だろ?その為の科学機器なんだ」

 

ミルズはそう言って、コールと共にいそいそと機械を弄り始める。

そういえば…と彼の説明を聞いて、樟美は芹沢の言葉を思い出す。

今回の調査は、広島市の土壌分析に必要なサンプルの回収とその一帯の地下の地質データを獲得することが目的だ、と確かに話していた。

 

ラージ級以上のヒュージ(デカブツ)共が相手じゃ、俺達はただの足手纏いなんでな。君達が来てくれてホントに心強いよ」

 

人懐こそうな表情で話すミルズに、樟美は少しだけ安心感を覚える。

まだ大人の男性に対して抵抗はあるが、それでもガチガチに緊張していた時よりかは遥かにマシになった。

その証拠に、天葉は自分の腕を組む力が緩まるのを感じていた。

 

ミルズの言葉を黙って聞いていたコールは、もし本当に化け物が現れたとしても…せめて、この穏やかな光景だけは奪ってくれるな、と願う。

世の中の平穏を乱す怪物は、ヒュージと()()()()()()()だけで腹が一杯だ。

…直後に機体が大きく揺れる。これは、上昇気流と降下する機体とが衝突したことによって生じた揺れだとすぐに気付いた。

 

後は広島が、兵士達にとっての地獄に塗り替わらぬよう神に祈るばかりだ…。

 

◼️

 

 

V-22が発進して30分が経った…。今頃、ヒュージに溢れ、未知が潜んでいるやもしれない広島を調査チーム達が進んでいるに違いない。

調査へ赴く者全員に与えた通信機器は何れもまだ生きている。その点滅が途絶えた瞬間を想像すると生きた心地がしないが、不安を抱いているのは自分だけではない、と芹沢は己が邪念を振り払う。

 

「おい、まさか…冗談だろ…」

 

驚嘆と…それ以上の恐怖に塗り潰されたような声を誰かが上げた。その声の主はリックだった。

彼は自分のデスクで、停止した地震計の再起動を試みていた筈だ。その作業の手を止めたということは、見事に復旧を成功させたのだろう。

…素直に喜びたかったが、彼の冷静さを欠いた表情を一瞥し、この場で歓喜の声を上げるのはひどい間違いだと察してしまった。嫌な汗が背筋を伝う…。

 

「リック博士、一体何が?」

「…この地震計(ポンコツ)から送られてきた地震波のデータを見てください、芹沢博士」

 

リックはコンピュータを操作し、山形(やまなり)の地震波形をモニターに映し出す。

指し示されたその揺れの大きさは、二週間と二日前の比ではなかった。

地震が一定の地点で起こり続け、且つ日を追うごとに揺れが大きくなってゆくのははっきり言って異常だが、このデータはその異常さを軽く凌駕していた…。

 

「やっぱりだ。きっかり一昨日の時点から、揺れの規模が次第にデカくなっていやがる。畜生め…」

 

歯噛みするリック。彼が睨んでいたのは、一昨日から今日にかけて計測された記録だ。

芹沢もそれを確認するが、()()()()()()()()の振動が大きさのみを増加させているのが読み取れる。嫌な汗が今度は額を伝った…。

 

「最後に記録されたのは…何分前だ」

「っ……最後に振動が発生したのは、32分前。ちょうど…V-22の着陸が完了する2分前です…」

 

リックの言葉は、芹沢にとって正に死刑宣告と同義だった。

急いで手を打たねば、取り返しのつかない事態になってしまう。

 

……彼等を逃すのだ。それだけしか最善の策は無いと判断した芹沢は、即座に手元の無線機をオンにする。

 

◼️

 

 

……20分前

 

「これで最後!」

◼️◼️…!

 

愛用のグラムを振るい、ミディアム級ヒュージを難なく倒す天葉は、樟美達アールヴヘイムのメンバーのみならず…共に行動しているモナークの戦闘隊員にも注意を向ける。

その彼等もまた、ミディアム級ヒュージに対して銃器(M4A1)を用いて応戦している。CHARMのそれとは若干異なる…重々しい連続的な銃撃音が天葉の耳に響く。

 

かつて()()()があったとされる目的地を目指す一行の前に現れたのは、15体のミディアム級ヒュージの群れだった。

護身用にM9を支給された地質学者二名は(当然まともな戦術を有していないので…)茜と共に手近な廃屋で身を潜めて貰った直後、各個で戦闘が開始された。

茜を除いたアールヴヘイムは一人当たり1、2体のヒュージを相手取り、15体の内…残る2体を兵士達に任せることとなった。

 

リリィである自分達が援護に回ることも視野に入れていたが、どうやら負傷もせずに掃討を終えたようだ。しかし、彼等の顔色には僅かな疲弊が見られ、辛勝だったことが伺える。

 

「オールクリア…状況終了」

「天葉ー、こっちのヒュージ片付けたわよ」

「もう少し楽しみたかったけれど…もう終わりだなんてつまらないわぁ」

 

ヒュージを殲滅し終えて、「良い準備運動にはなりましたけどねぇ」と続ける亜羅椰とまだまだ余裕のありそうな依奈は、息を整える隊員達とは極めて対比的だ。

現役の兵隊と世界最高峰のリリィの間に越えられない壁があることは否めない。それはきっと彼等も心底理解していることだろう。

しかしそれでも、彼等は進んで敵と戦うことを辞さなかった。

そんな姿勢を見せられて、天葉が触発されない…なんてことはない。戦闘は終わっているというのに、彼女の中ではいまだにアドレナリンが分泌されている。

 

「天葉姉様」

「? どしたの、樟美?」

「隊長さんが呼んでますよ…。先を急ごうって」

「あ、はいー!!すみません、今行きます!」

 

茜と二名のお荷m…ゴホン、地質学者と合流し、一行は再び目的地への歩路へと戻る。

その後も幾度かヒュージと遭遇したものの、何れも単体で襲撃を仕掛けてくるスモール級ヒュージばかりだったので、調査隊の進行が止まることは無かった。

そして…

 

「着いたぞ、ここだ。ここが“サイクチョウ”だ」

 

と隊長の男が明言する。が、

 

「……いや、その肝心の町が…無くないですか?」

 

自分達の眼前には、弥宙の言う通り()()()()()()()()()()。地面の陥没によって生じたのだろうか…直径100m、高さ20mは下らない大穴だけが視認できる。

 

「ああ、確かに町は消え失せてしまっている。だが、ヒロシマの人々のかつての営みが完全に無くなった訳じゃない。穴の底をよく見てみろ」

 

彼の言う通り、暗闇が覆うだだっ広い穴底を凝視する弥宙。そこには土砂で生成されたぐずぐずの穴底に埋もれる、潰れた民家の残骸があった。

 

「っ!確かに…人が住んでいた形跡がありますね」

「そうだろう。何でも…度重なる地震の数々で地盤が緩み、崩落してしまったようなんだ。

 …そして、今回の調査はその地震の原因を追求する為に計画されてもいるのさ。さあ、仕事だ皆んな。手筈通りチームαは土壌サンプルの回収、チームβは地質調査を行う。チームαは回収が終わり次第、チームβの補助に回れ。

 アールヴヘイムの諸君は各チームの護衛及び周辺の警備を頼む。異論や質問は無いな。………では、始め!」

 

気合いの入った指示で、即座に散開する調査隊とアールヴヘイム。

チームαは小型のボーリングバーを、チームβは地中探査機を用いて各々調査を試みる。先程は出番の無かった学者達は先陣を切り、迅速かつ慎重に機器を取り扱う。それらが完全に起動するのに少々時間は要したが、役割は遂行できそうな様子だ。

天葉達も事前の打ち合わせと指示通りに護衛と哨戒に専念する。

 

「…よし。サンプルの回収は完了した。我々もβチームの補助に移ろう」

 

幸いにも、チームαが行う主な役割はボーリングのみ。そのついでとして土壌の採取が加わると言っても良い。どうやら作業がとんとん拍子で進められた為、チームαの任務はすぐに済んだようだ。

 

「了解です。私達も天葉様や樟美達と合流しましょう」

「そうね。あちらは何だか手こずってるみたいだし…」

 

一方、チームβの進捗状況はと言うと…

 

「くそっ。電波障害か…調子が悪いな」

「どれ、見せてみろ」

 

探査機を一度は起動してみせたものの、それ以降は動いたり動かなかったりを繰り返すばかりで結局作業が捗らないでいた。

どうにも電子機器に支障を(きた)す電磁波が()()()()()発せられており、それが地中探査機の不調の原因となっているのだという。元より電磁波レーダーを用いる機械だから、相反する性質の電磁波に当てられれば動かなくなるのも無理はない。

地質学者がそう漏らした推論を、黒人兵士のミルズ(づて)に把握した天葉は周囲への警戒心と集中力を高める。

機械の不調が直っていないということは即ち、調査に割く時間も増えるということだ。故に神経を研ぎ澄ませ、敵の出現にいち早く察知できるよう身構えるのは道理であった。

 

「! よし、良い子だ。やっとデータが送られてきたな」

「? こいつは一体…?穴の底のさらに下にある… ()()か」

 

ようやくまともな地質データが送られてきたことに安堵する一方で、そのデータの不可解な点を訝しむミルズ。

陥没した穴よりも深い位置に、それと同等の大きさの空洞が広がっているのだ。

ガスや水道を通す為のもの?…それにしては幅を取り過ぎている。

ならば地下ダムか?…いや、それならば町全域に渡って形成される筈だし、そもそもここは平地だからダムは造られない。

思い付く限りこの空洞の正体を頭の中で並べては、くず箱へと捨ててゆく。そんな不毛な自問自答を行うミルズだったが、突如として通信機器がアルゴからの無線を受信する。

自分の目の前で探査機を弄っている地質学者…ヴィクターも同様らしい。基本的にアルゴを介して指示は出さないと聞いていたので、おっかなびっくりしながらもミルズは無線に応答する。

 

「こちらはチームβ、ミルズ・グレン。そちらからの無線をキャッチした、どうぞ(オーバー)

『やっ……繋がっ…君…ミルズ兵…長か…すぐ……避する…だ!』

 

だが、ホワイトノイズが邪魔をして送信の内容を正しく聞き取れない。代わりに、それに応える人物だけはノイズ越しに理解できた。

 

「芹沢博士ですか?申し訳ないが、電磁波の影響で応答を聞きそびれました。もう一度送信を願います」

『ミルズ兵曹長…!そこ…タイ…ンが…いる、今すぐ…に離れ…んだ!アールヴ…イムも連れて早く…!』

 

そこで通信は完全に断ち切れ、耳障りなノイズだけしか響かなくなった。やはり途切れ途切れにしか聞こえなかったが、今度は要点を把握し切れた。彼の言葉が本当なら…真偽を確かめる猶予など無い。

気付いた時には、考えるよりも先に足と体が動いていた。

 

「撤収だヴィクター、コール!」

「は?いや待て、もっとデータを収集しなきゃならな…」

「悪いがそんな悠長なこと言ってられねぇ。データは惜しいがずらかるぞ」

 

渋るヴィクターを無理矢理引っ張り、その後ろにコールが続く。相も変わらず黙りな男だが、何も聞かず…立ち止まらないでついて来てくれるだけ無駄な手間が省けて助かる。

だが、普段からコールは何を考えているのか分からない。互いを信頼し友と認め合っているものの、こんな切羽詰まった状況にも関わらずやはり不気味に感じずにはいられなかった。

 

「アールヴヘイム!君達も早く来い!」

「ええ?今、無線機から何か送られてきたと思うんですけど…」

「そいつは芹沢博士からの勧告だ。ついさっき俺が受信した。とにかく急いでここを離れよう!」

 

困惑する天葉達の様子を見るに、電波障害のせいで正確に送信を受け取れなかったのだろう。何故ミルズがこんなにも焦り、急かしているのかが理解出来ないといった顔をしている。

しかし、そんなものはクソくらえだ。突拍子な行動故に変人に思われようが、その強引さが相まって嫌われようが構わない。

人の命が関わるって時に、なけなしのプライドを捨てられずにいることの方がミルズは嫌だったのだ。

 

「ウィリアム隊長、アルゴに乗船中の芹沢博士からの通達です。確証はありませんが、ここは危険です。急ぎ撤退の指令を」

「…了解だ。聞いたな、お前達。寝る子が起きる前に退却す--」

 

アルゴへの帰還を指示する隊長の言葉は、最後まで紡がれることはなかった。冷然とした彼の指示を、地面を伝う派手な衝撃が覆ってしまう。

それは、土砂と残骸に塗れた穴底を崩し、そこに眠る()()の目覚めを物語る。この広島はそいつのねぐらだったのだ。

土塊(つちくれ)が宙を舞い、穴の中から黒っぽい巨大な物体がせりあがる。そいつは太陽を遮りながら、重機のそれと似た鈍い重低音を響かせた。その轟音は、よくよく聞いてみれば生き物の発する咆哮のようであった。

 

天葉は自分が持てる知識の引き出しを片っ端から探っていった。そして、目の前で起こる事象を何とか理解しようと努力した。

だが、ひとつもあてはまらない。今自分が目にしているのは、正しく非現実的な存在(ワンダー)だった。

 

その生物は、身の丈がギガント級ヒュージの4倍以上はあるであろう、巨大な虫だった。正確には違うのかもしれない。しかし、その容貌が自分の知り得る常識と唯一合致したのはそれしか無かったのだ。

胸部と繋がっている巨大な二対の腕とそれらよりも小さな一対の副腕が、そいつの虫っぽさと不気味さを印象付ける。

三角形の頭部で紅く光っているのは、おそらく目にあたる部位なのだろう。虫を思わせるような大きな単眼だ。

そして、その光に注視していると、そいつの口元から()()()()が垂れているのが見えてしまった…。

 

まさか…と思い、見覚えのあるそれを凝視していると、いつの間にか奴の顔が自分達を捉えていた。

その瞬間、天葉の全身の毛がぶわりと逆立つ。恐怖の悪寒に凍え、心臓を鷲掴みにされたような錯覚に、歴戦の覇者は口を動かすことも叶わなかった。

そいつから放たれるプレッシャーは、年若い少女と兵士達をちっぽけな存在にまで貶める。果てには、奴はその鋭い眼光で睨んだだけで、CHARMや銃を手にしている意義を失わせたのだ。

 

「っ…攻撃開始(クリアード・ホット)。得物を構えろ…迎え撃て!」

 

ウィリアム隊長は怒号の如き大声で、全員に活を注入する。それと同時に一気に現実へと引き戻された天葉は、瞬時にCHARMを起こし、アールヴヘイム全員に散開を指示する。

この未知の敵を相手に勝利を掴み取れるか…ましてや生き残れるかどうかも甚だ疑問だが、やるしかない。退路は断たれた。後は交戦あるのみだ。

 

いの一番にコールが発砲した銃撃音を合図に、かつてない戦場が幕を開ける。歴史上初となる、リリィと怪獣(タイタン)の激突だ。

 

◼️

 

 

遠藤亜羅椰はこのつまらない任務に退屈()()()()

彼女が所属するアールヴヘイムが受諾したのは、民間人と軍の人間とが混成した調査隊を護衛するだけの簡単な依頼だった。その分ヒュージと積極的に戦う訳ではない為、飽き飽きすることは間違い無いだろうと覚悟はしていたが、実際にこの特殊な遠征に赴いた所、案の定自身の興は順調に削がれつつあった。

 

広島で会敵するヒュージは、ミディアム級やスモール級といった雑魚ばかり。熟練のリリィにとっては恐るるに足らない相手しかいなかったのだ。ネストから多少距離のある場所と言えど、亜羅椰は心の何処かで(少々不謹慎だが…)自分の退屈を満たす相手との遭遇を望んでいた。

 

…だが、その望みはつい三分前に最悪な形で叶うこととなった。

 

マギを駆使して跳躍しこの生物の全貌を見据えた亜羅椰は、アステリオンをアックスモードに切り替え、運動エネルギーに従った空中からの斬撃を見舞う。しかし、斬撃を命中させた外皮は極めて硬く、刃が僅かにめり込むだけで大した傷にはならなかった。

加えて、この怪獣…表皮があれだけ強固であるにも関わらず、体液によるものなのか体全体がぬらついてもいるのだ。

故に、その滑りやすい体の上をヒュージと同様に足場と見立てるのは不可能だった。振りかざされた腕を掻い潜り近接戦闘に持ち込んだとしても、一撃を与えるごとに距離を取らなければ隙を作りかねなかった。

 

敵に肉薄して強撃を食らわすのは亜羅椰にとっての十八番(おはこ)である。だが、あの分厚い外皮を切り裂くビジョンが見えてこない。その戦いにくさから、亜羅椰は次第に苛立ちを募らせてゆく。

 

(ちっ…!確かに刺激的ではあるけれど…、こんな絶望感までお呼びじゃないのよっ!)

 

さっきまでぱんぱんに飽和していた退屈な感情は、強敵との戦いを経てすっかり昇華していた。…引き換えとして、この絶望的な戦況に対して、“詰み”の未来しか想像出来なくなってしまう。

亜羅椰は苛立ちの蓄積に比例して、集中力を大きく欠いてゆく。その精神の未熟さが命取りとなり、死角から迫る巨獣の横薙ぎに反応し損ねる。

 

(しまっ…)

 

鈍い打撃音が亜羅椰自身と、周りにいる仲間と、銃口から火を噴かせている男達の耳をつんざく。

CHARMやM4A1の銃撃音でさえ、その痛々しい音を打ち消すことは出来なかった。

 

「亜羅椰!」

 

木の葉のようにひらひらと宙を舞う亜羅椰は廃墟の壁に激突してしまう。また、攻撃した瞬間の衝撃で、アステリオンも主の手からこぼれ落ちている。

すると、間を置くことなく彼女の身を案じて辰姫と壱が真っ先に飛び出す。その行手を阻むように…真っ黒な爪が執拗に二人を追い回すが、月詩と天葉の援護で何とか注意はそちらに向いた。

亜羅椰を救うチャンスは今しかないと、切迫感が少女達を突き動かす。

 

「亜羅椰、大丈夫!?」

「んっ…平気よ、これくらい。咄嗟にマギで衝撃を、抑えたもの…」

「でも…」

 

言葉を詰まらせる壱。何せとてもマギを用いて衝撃を和らげたとは思えないのだ。彼女の右腕は肩から肘にかけて変色し、腫れ上がっている。建物にぶつかった拍子に出来たのであろう傷も酷かった。

 

「急いでCHARMを、取り戻すわ…。起こしてくれて、ありがと…壱、辰姫」

「! そんな状態でこれ以上戦える訳ないでしょう!」

「亜羅椰、もう無理しないで。後は辰姫達が何とかするから」

 

傷だらけの状態で…満足に動くこともままならない筈なのに、さらに戦闘を続行すると無茶苦茶なことを言う亜羅椰。指を咥えて見ることしか出来ない歯痒さは壱達も汲み取ってやりたかったが、流石にそれは許容出来ない。

 

「っ」

 

いまだに双方の意思が反発し合う最中、三人の元に敵が接近していることに勘付くミルズ。

 

「そっちの肩を頼む!いいか?ゆっくり持ち上げるぞ」

「はい!」

「3、2、1…!」

 

少女達の間に割って入った彼は壱と共に亜羅椰の肩を持ち、急いでその場を離脱する。その数刻後には、あのデカブツの足が崩れかけの民家を踏み潰していた。

辰姫は壱のCHARMも抱え…駆けながら、戦慄する。もし一足遅ければ、自分達の末期(まつご)を怪物の足元で迎えていたかもしれない。

 

「…よし、ここなら大分距離があるな。尤も、もう何処も安全じゃねぇだろうが…気休めにはなる筈だ」

 

そう言って亜羅椰を座らせ、彼女の傷の手当に掛かるミルズ。その手際は玄人も同然で、リリィとして応急処置の教養もある壱や辰姫でさえも、面食らう程早かった。

 

「これでっ…完了だな。いい年したオッサンに肌を触られて不服かもしれないが、その鬱憤と怒りは帰りの船で纏めて買ってやる。だから、もうこれ以上は無理に動かないことだ。分かったな」

 

二人の友人のみならず、第三者の男性にまで安静を強要されたからには、流石に大人しく降伏するしかない。

亜羅椰の中で煮えたぎっていた(よこしま)な感情はすっかり燃え尽きてしまった。

 

「はぁ、仕方ないわねぇ…。勝負はお預けってことで納得してあげる」

「もう!それよりもまずお礼を言いなさいよ。うちの亜羅椰が本当…すみません。手当までして貰ってありがとうございます」

「ありがとうございます」

「なぁに、困った時はお互い様さ。女に軽くあしらわれるのには慣れっこだし、気にしちゃいないよ」

 

今一度、ミルズは瓦礫にあずけた銃を手にする。今は息をつく時間すらも惜しい。あれがヒュージでないにしろ、対処する人員が欠けた今…誰がいつ死んでもおかしくはない戦況だ。現に、目の前にいる亜羅椰(レディ)がそうだった。

 

「辰姫は亜羅椰をお願い。私はもう一度戻るわ」

「! …分かった。気を付けてね」

 

壱もまたブリューナクを斬撃モードに切り替え、溢れ出る殺る気の矛先を怪獣に向ける。仲間に深傷を負わせたあの不届き者に対して、久しく頭に血が上っている様子だ。

 

「さて、お嬢さん。御礼参りに出掛けるおつもりですかい?」

「ええ。たっ〜ぷり()()をしてあげようと思います」

 

微笑に隠した怒りがふつふつと伝わってくる。女は血の気が多くって…時に男よりもおっかない。ミルズはちゃらけた口調で女性と話すのは金輪際やめにしようと心に決めた。特にリリィが相手の時には。

 

◼️

 

 

巨大な腕と足を踏み締めしつこくアールヴヘイムに攻撃を仕掛ける怪獣を前に、やはり天葉も悪戦苦闘を強いられていた。

天葉は敵の真ん前を陣取り、注意が自分にのみ注がれるよう手を尽くす。砲弾(バレット)をそのどでかい顔に派手にぶっ放してやり、爆炎が空気を焦がした。つんとした匂いが鼻腔を刺激する。

 

「ふっ!」

 

自身をフォーカスして振るわれる細腕は、身を翻しながら一瞬の隙を見計らって斬撃モードで追撃を図る。グラムの刃が巨獣の腕に届く度、表面を覆うぬらついた体液が黒い液体と混じりながら飛び散る。黒い液体は、恐らくそいつの血液だろう。そうやって、傷をつけるごとに叫び声が聞こえてくる。

 

…しかし、どんな攻撃をしようにも、奴を食い止める有効打には足り得ない。

依奈や樟美、壱やモナークの隊員達が真横から積極的に銃撃を加え、月詩、茜、弥宙の三人が怪物の胴体に乗り移り、近接攻撃を仕掛けている。

だが、月詩達は簡単に振り払われてしまうし、天葉一人でギガント級ヒュージよりも巨大な怪物の攻撃全てをカバーし切れる訳がない。どうしても依奈達遊撃部隊にも、破壊の魔の手が及んでしまう。全身全霊をかけたあらゆる攻撃は、ただ怪獣を立ち往生させるのが関の山だった。

そして奴は、巨礫と瓦礫を飛び散らしながら、自分達リリィを執拗に付け狙っている。隙あらば出口の無いトンネルへと(いざな)うかのように、その大きな口と牙を差し向けてくるのだ。落ち落ちする暇すら無い。

 

ジリ貧となってゆく戦況に打ちのめされそうになるアールヴヘイム。突如として、そんな彼女達を嘲笑うかのような出来事が起きる。

 

 

GAッ…GAッ…GAッ…GAッ…GAッ…!

 

 

そいつの爪が淡い光を放ち始め、大きく腕を振りかざしたのだ。

何かの予備動作であることには違いない。疲労の色が滲んできた天葉は、改めて警戒心を高める。

そして、

 

ドォォ…!

 

再び轟音が地面を伝う。振り下ろされた爪から生じる衝撃波が、程近い距離にいた天葉の体を吹き飛ばした。

 

「くっ!」

 

固い地面に倒れ伏す天葉。散らばる小石や砂が体中の小さな切り傷をさらに広げ、ひりひりと痛んだ。苦痛だけに非ず、口一杯に広がる土の苦い味も相乗して、嫌悪感が増してゆく。

そんな屈辱的な感情から早く解放されたくて、天葉は急いで身を起こそうとする。

 

…… しかし、()()()()()()()()()()()。この程度の傷で身が竦んでしまうような柔な鍛え方はしていない筈だ。なのに、何故?

難解な疑問符が天葉の思考を支配した。

 

◼️

 

 

……同時刻

 

怪獣の出した謎の衝撃波は、広島の遥か上空を旋回するアルゴにも影響を及ぼしていた。

一瞬機体が大きく揺れて、立つ者歩く者の平衡感覚を拗らせる。

正体不明の異常事態に見舞われ、騒然となる操縦フロア。その最中、芹沢はモニターが次々と電波障害を引き起こし機能をダウンさせてゆく光景に釘付けになった。

 

「っ!アルゴの操縦システムがダウンしてしまう…直ぐに予備電源に切り替えるんだ!」

「了解です!」

 

かつて芹沢はこれと似た現象をフィリピンで経験した。あの時も、酷い電波障害のせいで外部との通信が遮断されたのだ。

 

その過去の経験を省みた芹沢は、アルゴに搭載する予備電源にはEMP対策を施すよう…議会に申請していた。

当初は訝しげな目で見られていたが、仮にもアメリカの軍事機構が所有する艦船である上に、アルゴを防衛軍の戦力として徴収する際のことを考えれば悪くない話であった為に、議会の承諾は幸いにも勝ち取れたのだ。

 

……話を戻そう。その甲斐あって、アルゴのみならず格納庫に収容されている航空機達も、()()()()()を防御する(すべ)を有しているのだ。

芹沢の言葉に則って、クルーは予備電源を起動させる。

 

「予備電源の起動を確認。システム、全て正常(オールグリーン)。当機体の高度・速度・気圧、何れも安定しました」

 

墜落の危機を逃れたことに安堵する芹沢。しかし、システムの異常が生じたということは即ち、電磁パルスを引き起こした主犯が目覚めたということでもある。

広島に発進したV-22が、調査隊を連れて引き上げたという旨の報告はいまだに届いていない…。

彼等はまだ下で戦っている。ならば、やるべきことは一つだけ。

 

「大佐」

「無論です、芹沢博士。…これより当機は高度を下げる。総員、タイタヌス・ムートーと交戦中の調査隊の援護に備えろ」

 

こちらから迎えに行くのだ。

 

◼️

 

 

体が鉛のように重い。これでは、とても自分一人の力で戦えそうにはない。

…かと言って、誰かの肩を借りながら縦横無尽に戦場を駆け回るのは無理がある。リリィの戦闘はそこまで甘くはないのだから。

それはやっぱり無いか、と考えを切り捨てる天葉は、何とかグラムを手にしながら…ふらふらな足で踏ん張って立ち上がる。

 

そうすると思わず膝が笑ってしまい、意識しても決して収まらなかった。

その原因は、すっかり満身創痍なせいか…

さっきの衝撃波を食らったせいか…

それとも、()()1()0()m()()()()()()()()()()()()()()()なのか…

ぼうっとする頭でいくら考えても、何も分からない。

 

遠目に樟美や依奈の姿を確認出来た。自分と同じようにふらついているものの目立った外傷は無さそうだ。恐らくここまで酷い状態なのは、亜羅椰と自分くらいだろう。

…そんな風に天葉が仲間の身を案じていてもお構いなく、怪獣は口を徐々に開かせ天葉を捕らえようとする。

牙からねっとりした涎が滴っているのが見えてしまう。気色が悪くて…今すぐにその顔を払い除けてやりたかったが、腕すらもまともに動いてくれない。

 

怪獣の胃袋に到達するまでの自分が、こんな時に限って嫌でも想像出来てしまう。窒息死?あるいは半分に噛みちぎられるか、胃酸でゆっくり溶かされるか…。

最早拷問以外の何物でも無かった。

 

静かに死を覚悟する天葉。時期にその身が怪獣の口に放り込まれ---

 

ドォォン!

 

---はしなかった。爆風が天葉の肌を撫で、それだけで倒れそうになった。…いや、やはり限界に近かった体は耐え切れず、仰向けになって倒れてしまう。

 

目の前の怪獣、否…ムートーは、空から飛来していきなり砲撃を仕掛けた物体に対して怒りの感情を露わにする。弱った獲物に目もくれず、邪魔者への殺意の方が勝り、空を飛行するアルゴの後を追う。

先程の爆撃はアルゴが放ったミサインの着弾によるものだった。

 

…今度は窮地を脱した安心感が天葉を襲う。その途端に瞼がどっと重くなる。

気絶する直前に天葉が目にしたものは、空に浮かぶアルゴとV-22、そしてムートーの腹部に携えられた()()()()()()だった…。

 

 

 

 

そして、アールヴヘイムとモナーク一行がムートーと会敵したその一方で、ある者は北太平洋を西に泳ぎ進んでいた。

覚醒した宿敵を()()為に…。

 




18000文字超えだ〜、ひえぇ長い。
専門用語をつらつら並べてたら、いつの間にかこんなんなってもうた。
タイトル変えてでかでかと『ゴジラ』って書いたのに、いまだに活躍ゼロです。悲しいね。
そもそもモンスターバースも、主人公達(ゴジラとコング)よりも(ヴィラン)タイタンの方が目立ってるからね…うんしゃーない。

今回は『髑髏島の巨神』に出てくる〈スカイデビルズ〉の隊員の名前と性格をまんま書き出してみました。ネタが無かったんです、すみません。

感想と評価とお気に入りをしてくれたならば、もっと頑張りましょうかねぇ〜

既に製作確定済みの次章だけど、そのさらに次の章で活躍するレギオンはどっちが良い?

  • ヘルヴォル&グラン・エプレ
  • アールヴヘイム&ロネスネス
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