Assault Lily with GODZILLA 〜Kings of the earth〜   作:俺っちは勝者の味方ー!

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長くなっちゃったから前後編に分けることにします。ゴジラのお披露目まであともう少し…!
そして関係ないけど、シンフォギアXDUのアサルトリリィコラボが、ラスバレとのコラボストーリーとしっかり繋がってたのに感動した。



絶望への叛逆;前編

 

(この雰囲気は落ち着きませんね…)

 

郭神琳は、そう静かに考えていた。

柄にもなく…彼女はこれから相対する未曾有の敵に対して、僅かな恐怖心を抱く。

己が積み上げてきた戦歴と経験を心から信じ(決して自惚れなどではなく)、今まで数え切れぬほどのヒュージを討ってきた。だが、次に(まみ)える敵との戦いは、生きて帰れなくなるやもしれない危険なものになるだろう。

 

相手はヒュージより遥かに巨大な標的であるとともに、こちらの戦力の要であるマギとCHARMを消耗させる厄介極まりない特性を兼ね備えているときた。神琳自身もなまじ戦闘スキルが高い分、力を費す配分を誤れば足を掬われてやられかねない。だからこそ怖いのだ。

…しかし、いついかなる時も平静を保たねば、勝てる勝負にも遅れを取ると言うもの。恐れと焦燥は、鉄仮面の如き微笑の裏に直隠す。不安に感じているのは皆んなも同じなのだから。

 

「? 神琳さん、何か考え事かしら?」

「あら、ひめひめ。いいえ、心配には及びません。わたくしも少々緊張しているだけですわ」

 

グラン・エプレのサブリーダーこと定盛姫歌は神琳の表情の僅かな変化に気付き、声を掛ける。特に同レギオンのメンバーである丹羽灯莉に振り回されがちだが、それだけ周りへの気遣いの出来る彼女。アイドルリリィとしての誉れは決して高くはないが、何だかんだ言いつつも優しい子なのだ。

そんな彼女に、心配は要りませんと淑やかに応対した神琳は、改めてこの『誘導部隊』に選抜された責任の重さを噛み締める。

『誘導部隊』とは、芹沢が発案した戦略の先駆けを担う重要な役職のことで、一柳隊、ヘルヴォル、グラン・エプレ、そしてロネスネスの四レギオンという少数精鋭で構成されている。

 

さて、唐突だが、ここで関東圏のリリィ及び防衛軍及びモナークが実行するムートー殲滅作戦について説明しよう。

 

…午後4時46分現在、鎌倉府相模原市の東端を横断しているムートーを、件の『誘導部隊』が横浜市まで誘い込み、指定された3つのポイントにて『遊撃部隊』が仕掛けた時限式爆弾で攻撃。

 

…続いて、三度目の遊撃が炸裂した時点で誘導・遊撃部隊は、軍事部門Gチームと防衛軍により構成された『奇襲部隊』と共に、止めの挟撃を行う…という計画だ。無論、用立てられた時限爆弾は、アナログ時計の針を用いて爆発する仕組みである。

 

これもまた神琳の不安の種の一つなのだろう。読んで字の如く…非常に心許ない戦略なのだ、これは。

1960年に締結された日米新安保条約に明記・宣言されし要項【第5条 共同防衛】に則った…アメリカ政府の全面協力があるとはいえ、良くて致命傷、最低でも足止めをさせられれば僥倖だと評していた立案者たる芹沢の言葉は、とても絶対に勝たねばならない戦に臨む者のそれとして受け止められなかった。

だが、ヒュージの性質を併せ持った巨大生物と激突した時の、推測されるその評価はやけに説得力があったこともまた事実なわけで…神琳は複雑な気持ちになっていた。

 

それでも、彼の言う“ ゴジラ ”の力なんて無くとも、必ずムートーを仕留めてみせる…そんな猛々しい意思を以て、心細い感情を塗り潰す。

 

「うっ、緊張で表情が強張っていても、それですら絵になってしまうだなんて…!やっぱり、私の前に聳える壁は高過ぎるわ…」

「あはは☆定盛、敗れたり〜☆」

「まだ負けてなーい!これからもっと魅力的になってみせるんだから、灯莉も覚悟してなさいよ!」

「ふふふっ」

 

騒がしい…もとい賑やかな外野のやり取りに、神琳は小さな笑みをこぼす。また、張り詰めた空気の中でも自然体でいられる灯莉と姫歌が羨ましいと思った。

 

「はあ…これから一世一代の任務を行うというのに、相変わらず呑気な方々ですわ」

「あら、わたくしはプレッシャーに押し潰されない彼女達の姿勢は見習うべきだと思うわ。ねぇ、純?」

「ね、姉様まで…」

 

「ああ。肩の力は少しでも抜いておかないと、いざって時に動かなくなるもんな」

「梅様はどんな時でもリラックスできてるんじゃないですか?」

「鶴紗は梅のことを何だと思ってるんダ…。私だって怖いと思う時とか、そういうものくらいあるゾ」

「例えば?」

「まんじゅうが怖い」

「嘘つけ」

 

純の皮肉った(はずの)物言いを皮切りに、周囲の面々の緊張の糸は丁度良い具合まで(ほど)けていった。丁度良い具合で収まったというのは、緊張感がゼロになるわけにはいかないからだ。

それでも、難しい顔をしていた夢結やロネスネスの長沢雪らの頬も僅かに緩くなる。

 

「…千香瑠様」

「? どうしたの、一葉ちゃん」

「私達は本当に…ムートーを撃退できるでしょうか?この作戦が失敗してしまったら、今度こそ全てが終わってしまいそうな気がして…」

「…絶対に」

「?」

「私達は絶対に負けないわ。例えほんの少しの希望しか無くたって、前に進む力さえあればどんな苦難だって乗り越えられるはずよ。だから、皆んなで生きて帰りましょう。ね?」

「!」

「それに、一葉ちゃんにそんな暗い表情は似合わないわ。いつも私達を元気付けてくれるかっこいい一葉ちゃんは、一体何処に行ってしまったのかしら?」

 

千香瑠は、意地の悪そうな妖艶な笑みを称えながら一葉を鼓舞する。元気付けてあげたくて、半分は冗談混じりで言ってみたのかもしれないが、それは紛れもない千香瑠の本心なのだろう。

…もしかして、藍や瑤様達にも心配をかけてしまったのだろうか。そう考えると居ても立っても居られなくなり、一葉は首をぶんぶんと振って急いで心持ちを切り替える。

 

「い、いえ!か、かか、かっこいい相澤一葉はちゃんとここにいますっ!ご心配をおかけしました、千香瑠様。もう大丈夫です。皆さんも…」

「あはは。やっと一葉のかちかちがやわらかくなったね。よかった〜」

「ふふ。頼りにしてっからね、我らがリーダー♪」

「はい!」

 

ムートーとの会敵を前にしても、その士気は衰えることを知らなかった。この状況では、誰だって幾許かの恐怖を抱いている。だが、仲間との絆を前にしては、その魔力は何ら意味を示さない。

それは、リリィ同士の結束が如何に強く、尊く、美しくあるのかを鮮明に物語っていた。

すると、

 

『…あー、あー、誘導部隊の皆んな、聞こえてる?』

「! 百由様か、どうしたんじゃ?」

『お、ぐろっぴじゃない〜。てことは、全員にしっかり繋がったみたいね。…まもなくムートーが町田市に差し掛かるわ。二キロ先まで迫っているから後三分も経たずに標的の姿が見えてくる筈よ。

 ここから先は電磁パルスの影響で、通信機器の一切が使えなくなるから十分気を付けて。それと…あくまでもムートーを誘き寄せることが目的だから、不要な交戦は控えること。いいわね?』

「了解です」

 

通信機を介して、百由が目標の接近を通達する。…いよいよお出ましのようだ。

各々が手にしているCHARMを起動させて身構える。この場の空気が、一瞬にして鋭さを増す。

 

『くれぐれも注意して。ムート…ーの知能レ…ベルを決して侮…っては…ダメよ……』ザァァー

 

彼女からの通信は砂嵐(ノイズ)に呑まれて、やがて聞こえなくなってしまう。まだぎりぎり陽が昇っているにも関わらず、突然の通信遮断も相まって不穏な雰囲気が漂い始める。CHARMを握る少女達の手には汗が滲むが、それを手放すまいと改めて握り直す。

 

 

………その時、遠雷のような轟音が三回、四回と続けて木霊する。その音が響く度、大地もそれに共鳴するように振動を伝わせる。

そして、このだだっ広い台地で唯一山形(やまなり)の地形に形成された森林の麓から、ついに諸悪の根源が姿を現した。

 

一目その全貌を捉えた瞬間、梨璃は言葉を失った。映像で見るよりも、その迫力と威圧感は天と地ほどの差があったからだ。

今自分達は市街地の外れにある施設の屋上に立っているが、こんなに見晴らしの良い場所にいる意味を思い出せなかった。そう感じざるを得ないような巨体を誇るムートーは、鉤爪状の腕で器用に掴んだヒュージの死骸を、ぐしゃぐしゃと嫌な音を立てながら貪っている。また、その腹部には、通達にあった通り無数の卵が携えられていて、その見た目の悍ましさに思わず息を呑む。

 

…喰われているヒュージはラージ級なのだろうか?ムートーがあまりにも規格外な大きさ過ぎて、リリィ本来の宿敵がとても小さく見えてしまう。

 

「あっ…」

 

隣から、体を僅かに震わせていた二水の、魂の抜けたようなか細い声が聞こえて来た。思わず梨璃自身もそんな声を上げそうになる。

何せ…ムートーの真っ赤な単眼と目が合ってしまったのだから無理もない。凍てつくような視線を向けて明らかにこちらを目視している、そう認識するだけで気が狂いそうになった。

 

 

KURAAA!

 

 

しかし、そんな蛇に睨まれた蛙状態は轟く咆哮と共に突如として収束する。

ムートーがその巨体に似合わない身のこなしで、梨璃達目掛けて突進を繰り出してきた。800mはあったろう互いの距離は瞬く間に縮まってゆく。

 

「散開!」

 

夢結の一声で、一同は蜘蛛の子を散らすように飛び立つ。その次の瞬間には、ムートーが建物を容易く破壊し、惜しくも獲物を取り逃したことを悔やむように喉を鳴らしている。

 

「……皆んな、準備はいい?作戦通りに行きましょう!」

『了解!』

 

手近な足場への回避に成功した叶星が、間髪入れずに作戦の決行を宣言する。文字通りの怪物を前にして、悠長に行動している隙など無い。

 

「さあ、こっちですわよぉ〜。こわぁ〜い鬼さん♪ふふふッ」

 

一つ目の爆破地点を目指して駆け出す直前、少々正確に難のある司馬燈が、挨拶代わりの挑発をムートーにくれてやった。バケモノが人の言葉を理解できる訳が無かろうもんと高を括った(無意味ともとれる)陽動……のはず()()()

 

 

……GAAA!!

 

 

しかし、燈の思惑に反して、あたかも怒りを露わにするようにムートーは吠える。その反応はまるで、燈の言葉の意を正しく理解しているようにさえ感じられた。挑発を仕掛けた本人は想定外だったのか、冷汗を浮かべ頬を引き攣らせている。なお、この安易な挑発に激怒したのはムートーだけではなく…

 

「こォの、アホ天狗ぅ!なぁに敵の逆鱗に触れるような真似をしやがるんですの!?」

「も、申し訳ありません〜、純御姉様ぁ…」

「はぁ…全く。こんな時でも本当に手間のかかる…」

 

燈が慕う純だけに非ず、ロネスネスの他メンバーも呆れて溜息を吐く。だが、そんなやり取りをしていても、油断を突かれて攻撃されるなどという失態は決して起きない。叶星が指示を出してから瞬時に、少女らとムートーとの間には再び長い距離が開いていたのだ。

 

するとムートーは、狙った獲物をみすみす逃すまいと、電磁パルスとマギの衝撃波をついにその手から解き放つ。同時に放出され、かつ毎秒250mの速さで大気を伝うそれらはもれなく梨璃達を襲い、著しいパフォーマンスの低下を促し始める。

 

「あっ、ぐぅ…」

「くっ、これが『マギ汚濁』…。身体が、重い」

「心なしか、CHARMまで重くなったような…」

「これも電磁パルスの弊害じゃろうな。覚悟はしとったが、まさかこれほどとは…」

 

マギ汚濁によって身体(しんたい)に生じる負荷は、彼女達が想定していたよりも顕著に現れる。マギを駆使して走る、跳ぶ時の感覚がまるで違う。例えるなら、さっきまで正常だったはずの筋肉に、激しい運動をしていないにも関わらず、唐突に乳酸が溜まったようなものだろうか。

 

初めて電磁パルスとマギ汚濁の組み合わせの凶悪さを味う梨璃達。そのせいで思わず怯んでしまったところに、再度ムートーが迫ってくる。彼女達は僅かな疲労感に苛まれながらも難なく突進を躱すが、もはや息をつく間もさえない。

 

…これが数あるガーデンを壊滅せしめた所以か、と純は抜刀したフルンティングを握る力を強める。

だが、ここで感情に任せて突撃するのは愚策中の愚策。純は、敵に背を向けて走り出す。いずれ訪れる好機に備えて、今は刃を研ぎ澄ます時なのだ。

その過程が応戦ではなく誘導という形の撤退に収まるのは、正直不服ではあるが…。

 

純以外の他の皆んなもムートーを誘き寄せんと、彼女に続くように走り出す。流石に驚きはしたものの、食らったばかりのこの段階ではマギ汚濁の効力はまだまだ微弱。せいぜい、ラージ級ヒュージとの戦闘で手こずった時の疲労感に毛が生えた程度だ。

そして、突進やら引っ掻きやらを繰り出すムートーの攻撃は、威力こそヒュージの比ではないのだろうが、その分予備動作に割く時間…もとい隙が非常に多い。

その為、多少体力にデバフがかかった程度では、それらの攻撃を避けることは正直造作も無いことであった。

 

………

 

喰らいつこうとすれば躱されて、爪で押し潰そうとしてもまた躱されて…そんな進展の一切見られない狩りが続くこと20分、戦場の舞台は既に、相模原市の市街地から横浜市の外れにある森林地帯へと移り変わっていた。

 

ちょこまかと逃げ続ける獲物に対して苛立ちが募り始めるムートー。彼女は、ならばその機敏な動きを封じてしまえば良いと、木々が立ち並ぶ森の中、地面が露出した空き地に後ろ脚を突き刺してそれを一気に宙に向けて蹴り上げる。巨大な三対の腕が丁度良い支点となっているのも相まって、空中に放たれた岩塊の梨璃達に降り注ぐ勢いたるや隕石のそれと何ら変わらぬスピードを伴っていた。

…地面が抉られる音に最初に反応したのは土岐紅巴だった。声楽科で極めた彼女の耳が、ムートーの足音とはまた違った…ただならぬ音を聞き分けたのだ。

 

「! 皆さん、気を付けて下さい!相手が何か仕掛けてくるつもりです!」

「っ!」

 

紅巴が声を張り上げたその時にはもう、敵の恐ろしい砲撃がすぐそこまで迫っていた。

頭が割れるような轟音と共に地面に激突してゆく無数の土塊(つちくれ)。…ムートーまでもが接近しつつある今リリィ達に為せることは、逃げの一択しか残されていなかった。

 

「わあっ!ととっ…きゃあっ!!」

「っ、何て出鱈目な攻撃…」

 

何のパターンもなく無造作に襲いくる攻撃の数々を、身を翻しながら辛うじて躱してゆく。しかし、それらが地面に衝突した余波で土埃や塵や砕けた小石が宙を舞い、誘導部隊の進行を等しく妨げている。

彼女達の艶やかな髪や制服は、埃を被って酷くくすみ…飛び散る小石に関しても、命中した時は気に障るほどに小さく痛む…。

そんな落ち落ちできぬ状況で、ほとんどの者はその原始的で巨大な弾丸を躱すばかりではあるが、

 

「…ふっ!」

「そぉぉれぇっ!」

 

一部の者は、土塊をヒルドルで打ち砕い(破壊し)たり、さながらバットのスイングが如く(本来は長距離射撃に長けた性能の)マルテで跳ね返すなど、何とも豪胆な手段で処理しているようだ。

 

「はうう、私達いつまで逃げ続ければ良いんでしょう…。このままじゃジリ貧ですぅ」

「指定されたポイントは、あのゴルフ場を越せば直ぐのはず…。あともう少しだから、頑張って!」

「は、はいぃ!」

 

果ての無い逃亡劇に二水は弱音をこぼしてしまうが、雨嘉に励まされ何とか気力を振り絞る。かれこれ…ムートーと会敵して既に40分が経過したのだ。いよいよマギ汚濁の本性が浮き彫りになってきて、梨璃達のマギと体力をごりごりと削ってゆく。先程の妨害を回避し続けたこともそれに相乗しているのだろう。

 

まるで力が吸われるような感覚に危機感を覚えた夢結は、見えない先行きの不安さに体がよろけそうになる。しかし、シュッツエンゲルとしての威厳とリリィとして背負う使命が、それを許さなかった。梨璃に弱い姿は見せられまいと自身を鼓舞し、前方を(後ろのムートーにも十分に警戒しながら)しかと見据える。

 

雨嘉が言った通り、まもなく例の第一爆破地点に到着だ。定刻ちょうどにムートーを誘き寄せられたならば、ヘオロットセインツやアイアンサイドを筆頭とした『遊撃部隊』がそこかしこに仕掛けた時限爆弾が炸裂するはず…さすれば、ようやくこの醜い仇敵に一矢報いれるような予感がした。

 

そして、ついに目的の地は目前まで迫っていた。目印はゴルフ場を抜けて直ぐ側にある巨大な送電塔。

緊急事態故に住宅地が爆発の余波で倒壊してもその責任は問わない、と判断を下した日本政府に乗じて、爆弾の威力は高めに用立てられたと聞く。

それらに積み込まれた爆薬の量は各2.5㎏。これは平和の象徴的な国である日本らしくない、かなり規格外な威力に相当する。

…それだけ周到な用意とリスクを冒さねば、ムートーは討てない。裏を返せばそう言うことなのだ。

 

夢結達が所持する電子機器の中で、唯一EMP対策が施された一品である小型のデジタル時計(モナークより支給)が示す爆破までのリミットは、あと90秒…。

 

「さあ、行くわよ!」

 

ムートーが緑地を越え住宅地に差し掛かったところで、総勢28名のCHARMの銃口が一斉に火を噴き始める。本来の威力より劣れど、マギの込もった銃撃は、怪物を後退させその進行を僅かに食い止める。

 

…しかし、巨獣はほとんど痛みを感じることはなかった。ムートーは突然の反撃に一瞬()()()だけで、痒い攻撃を全く歯牙にもかけず、リリィ達に襲い掛かる。

同時に、臨戦態勢に入った敵の動きの変化をいち早く察知した夢結。彼女は速攻でムートーの目前まで距離を詰める。

梨璃と梅の自身を呼び止める声が後方から聞こえるが、今この時だけは、どうか自分の身勝手を許して欲しい、と心の中で謝罪する。

 

爆発まで、あと50秒…。

 

「きゃっ!」

「…梢!こっちよ!」

 

ムートーはこちらの足場をなくすように、手当たり次第に爪を叩き下ろし、あらゆる建物をがらがら崩れさせてゆく。

その攻撃で自分達の身が直接傷付いた訳でもないが、その狙いはなかなかどうして悪どいもので、梢・ウェストと藤田槿は危うく倒壊する建物に巻き込まれかけた。すんでのところで回避したものの、仲間が危険に晒される様を…夢結は静かな怒りを称えた面持ちで捉える。

 

…怒気を伴って突撃してくるこのちっぽけな敵に対して、振り翳した巨腕を豪速で放つムートー。まさに、一撃で踏み潰してやると言わんばかりの勢いだ。だが、その速さは夢結が捉えきれぬ程のスピードではない。

夢結が下半身を力ませた次の瞬間には、ブリューナク渾身の一太刀が生命(いのち)を刈る死神の鎌を跳ね返した。CHARMから高い金属音が鳴り響く。

 

やった…!

今の手応えならば、たとえダメージを与えられなくとも標的が怯むのは間違いない、とそう直感した。しかし、そんな淡い期待は、直後に目にした敵の反応で呆気なくぶった斬られてしまう。

こちらはほぼ全力で剣撃を見舞ったというのに、ムートーの爪はちょっぴり押し戻されただけで傷を負うどころか怯む気配すら無い。

…そして、夢結にはその光景に絶句する猶予すら与えられなかった。彼女の大きな衝撃とは裏腹にムートーはと言えば、意外な反撃に多少困惑した程度で済んだ為に、夢結に連続で攻撃を食らわすのに一切の躊躇が無かったのだ。

再度放たれる怪物の打撃は死への片道切符そのもの。大振りな斬撃を振るったが故に夢結の体制は安定せず、回避はおろかCHARMを盾に防御することも叶わない。迫り来る一撃に彼女は思わず目を瞑るが…、

 

「よっ、と!大丈夫か?夢結」

「! 梅?あなた、どうして…」

「一人で勝手に突っ込んで無茶したやつが言うことか、それ。今回ばかりは私も梨璃と一緒に、帰ったら説教させてもらうからナ」

「っ、ごめんなさい…、心配をかけて」

「全く…梨璃にもちゃんと謝っとけよ。ともかく、無事で良かった。間に合わなかったらどうしようかと思ったゾ」

「ええ、本当にありがとう。梅」

「おう!」

 

間一髪のところで『縮地』を発動させた梅が、夢結を横から華麗に掻っ攫う。本当は無謀が過ぎる行為に走った夢結をしっかり叱ってやりたかったが、梅とて彼女の胸中が何も分からない訳ではない。むしろ、夢結が動いていなければ、自分が率先して前に出ていたかもしれないから。

だから、直ぐに手からこぼれ落ちてしまいそうな親友を確かに抱えているこの瞬間だけは、彼女を救えた安堵を目一杯噛み締めたかった。

 

「お姉様、梅様!お二人とも怪我はありませんか?」

「ピンピンしてるゾ!私は大丈夫だ」

「私も梅のおかげで、ね。…梨璃、あなたの静止も聞かないで、勝手に飛び出してしまったこと…ごめんなさい」

「もう!本当に心配したんですからね!」

「…」

「お姉様に万が一のことがあった時、悲しむのは私だけじゃないんです。ですからどうか、もう自分を犠牲にするような戦い方はやめて下さいっ…」

「! 梨璃…ええ、そうね。あなたの言う通り、私が間違えていたわ。私は梨璃の手を決して離さない。だから梨璃も、私の手を握っていてくれるかしら?」

「〜〜っ、勿論です!」

 

案の定と言うべきか…やはり梨璃は、自分を省みない戦闘スタイルを持ち込んだ夢結に対して怒っていた。けれども、悲壮感漂うその表情は、まるで迷子の子犬のようだ。

今にして思えば、梨璃や仲間の皆を危機から遠ざけようとした勇気ある行動は、ある意味では最悪な選択だったのだ、と後悔する。夢結は愛して止まない(シルト)に贖罪の意を込めて、熱い抱擁を贈る。その行為は、己の言葉は決して嘘偽りのものではない、という決意の表れでもあった。

 

「梨璃、夢結様、梅様!もう爆発する寸前だ!急いで後退しないと…!」

 

と、鶴紗が必死に声を掛けて、救出劇の余韻に浸っていた三人の再起を促す。普段のクールな彼女らしくない…切羽詰まった声に応えるように時計を覗けば、ムートーが爆炎に包まれるその瞬間があと15秒で訪れることを宣告していた。

 

「! うかうかしてらんないな…夢結」

「ええ。急ぎましょう」

 

ここにいたままでは危うく爆撃に巻き込まれかねない。三人はマギの粒子を散らして、ビルからビルへと屋上伝いに跳躍し、戦線離脱を試みる。ムートーは、残り半分もないマギを熾し脱兎の如く駆け抜ける彼女らを捕らえんと爪を立てて歩み出すが、その少女達を援護するべく射出された濃密な弾幕に足止めをくらう。

蚊ほども効かないちんけな威力でしかないが、彼女の視界が弾丸(バレット)から散る火花とマギの光によって遮られる。

 

 

……3、

 

 

そんなあまりにしつこくて煩わしい銃撃に、堪らずムートーは一歩後退する。

 

 

……2、

 

 

後ずさった後ろ脚がコンクリートで覆われた大地を踏み締めると、一つ…大きな揺れを伝播させ、

 

 

……1、

 

 

すっかりムートーと距離を離した梨璃は、その振動を微弱ながらも確かに感受する。刹那…、

 

 

 

 

----真っ赤な衝撃が少女達に襲い掛かる…。もしくは橙色や焦げた茶色であったのかも。

と、梨璃の乏しい語彙力ではここいらが限界で、こんな飾らない感想しか思い浮かばなかった。さらに一度瞬きをすれば、今の一瞬で抱いた考えを上塗りするような…何かが焼ける酷い悪臭が鼻腔をつーんと刺激する。

それは、これまで幾多のヒュージと相対してきた瞬間(とき)において決して感じ得られることはない、鼻の曲がりそうな死の匂いだった。思わず胃の中から込み上げてきそうになる塊を飲み込み、そこでふと気が付く。

肌をひりひりと刺すような熱風に誘われて、けだものが痛みに悶える声が聞こえてきたのだ。この場の誰しもが、もしや…と期待したがその通り、ムートーは見事に爆撃の餌食となっている。攻撃的な朱色の爆炎に身を焦がされるその様は、正に飛ぶ鳥が地に落とされたようだった。

 

次の瞬間には、鳴き声のトーンは僅かに高くなり、何処か悲しんでいるようにさえ聞こえて、梨璃は人知れず敵であるはずのムートーを哀れに思う…。

腕を折り曲げ、あたかも身を屈めているような体勢を取る彼女はたちまち黒煙の闇に呑まれ、その全貌はすっかり視認できなくなる。

 

しかし、爆発をもろに受けたからといって決して油断は出来ない。応戦を想定した構えと警戒を解くことなく、煙が晴れるのを待ち続ける。

…自分達の実力でムートーに手痛いダメージを与えた訳ではない為、悔しいか否かと聞かれれば大変悔しくはある。それでも、またとない好機の到来には興奮を禁じ得ない。

 

 

この時、誰もが慢心していた。醜い化け物が苦しんでいる()()()様子に、希望的観測を見出してしまったのだ。今度こそ自分達の手でムートーを屠れるのではないか、と。しかし…、

 

 

 

 

 

 

 

 

GUGAAAAAA!!!

 

 

現実は甚く残酷なものだ。

痛みや悲しみとは一線を画す感情に満ち満ちた咆哮が轟き、その衝撃だけで煙幕が容易く吹き飛ばされる。眼前の怪物は紛うことなく“ ド怒り ”である、と全員が瞬時に理解出来てしまった。

彼女の中で爆発した怒りは、今この瞬間まで隠し続けてきた怪獣の本性を露わにさせたように錯覚し、愚かで浅はかな思惑を持つ者達を地獄のどん底に叩き落とす。

 

……ああ、そうか。きっとあの悲しげな声は、大事な卵が傷付きそうになったことを悲観して発していたんだ。爆発時に体を屈めていたのも、我が身が惜しいばかりに自己防衛していたのではなく、卵を耐え難い威力の爆風と熱から守ろうとして…。

 

そう気付いた時にはもう遅かった。

表情筋の存在しない…無機質な三角形の顔が怒りで歪んだ怪物に、戦意と希望諸共、自分の身体が吸い込まれそうになる。

ばくばくと激しく鳴り続ける心音…。この世界に生を授かった一匹の生物としての本能が、かつてない“ 死 ”の恐怖に縛られた少女を無理矢理にでも突き動かさんと警鐘を鳴らす。

だが、我が子を傷付けられかけた母親の怒りに当てられて、簡単に再起できる人間がこの世に存在するのだろうか。…答えは否だ。怪獣という規格外が相手だとしても、それは決して揺るがない。

 

 

一柳梨璃は、次に何が起こるのかを待った。

 




感想にてメカゴジラの登場を望む声があったのは意外でした。
まあカッコいいですもんね。私もそやつのモンスターアーツ買っちゃうくらいに好きですし、あの逆三角形を意識したフォルムが東宝のそれとはまた違った良さがあって、もう……もう好き(語彙力無)

ムートーとの決着がついたら、今度は髑髏島編でございます。
とあるリリィが()との出会いを果たす物語です。そこまでいったら原作死亡キャラ生存のタグ付けようかなぁ、なんて。

この作品でメカゴジラを拝みたくば、もっとわたくしめにパワー(感想・お気に入り等)を下せぇな。丁度メカゴジラを作れそうな『ゲ』の付く危ない多国籍企業も存在してることですし…、妄想のネタは尽きん。

既に製作確定済みの次章だけど、そのさらに次の章で活躍するレギオンはどっちが良い?

  • ヘルヴォル&グラン・エプレ
  • アールヴヘイム&ロネスネス
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