Assault Lily with GODZILLA 〜Kings of the earth〜   作:俺っちは勝者の味方ー!

7 / 9
()の登場シーンで、 GODZILLA -2014- のメインテーマを流しながら読むことをオススメします。個人的には、あの巨大な何かが迫り来るような不安さを煽るメロディが超好き。



絶望への叛逆;後編

 

 

GUGAAAAAA!!!

 

 

けだものの悍ましいファンファーレが、彼女の怒りを買った愚者達の耳に強く、深く刻み込まれる。

真っ黒な外皮のところどころが灼熱の爆炎に抉られ焼け爛れた様子に、鳥肌が立つ。さらに醜く痛ましい姿を晒すムートーだが、その様はいやに迫力が増してもいる。

まるで、彼女に元来備わる生命力の逞しさが体現されているようだった。

 

ああ…なんて美しい姿なのか。宮川高嶺はそう直感した。

フィルムカメラを手にしていれば、無意識にでもカメラ(得物)を構えてシャッターを切っていたことだろう。もし仮にその写真を現像出来たならば、恐らくそれはピュリッツァー賞に値していたに違いない。

 

……と、こんな馬鹿げたことを考えてしまうほどに高嶺や皆んなの気は狂いかけていた。怪物の怒気を浴びせられて、平静(へいじょう)を保っていろというほうがどうかしている。

あくまで自身の弱い心を封じ込めていた神琳の戦意もまた、言うまでもなく玉砕された。

 

その一方で、ムートーは己が怒りを込めた()()の威嚇でここまで萎縮するとは思わなんだと、逆に面食らっていた。

が、その光景を拝めたくらいで…彼女は決して満たされはしなかった。一吠えしただけで怪獣の復讐劇が終わる訳が無い。

 

簡単に放心状態に陥ったリリィ達を一瞥し、内心鼻で笑ってやるムートー。彼女が次に起こしたのは、近くにある自身の背丈の半分ほどある送電塔を押し倒すことだった。

その行動の意図は、単なる八つ当たりや破壊活動に非ず、もっと大きく血みどろな意味が存在していたのだ。

 

真っ赤な(まなこ)が、怪物らしからぬ人間的な感情を揺るがせながら、明確に“ 敵 ”と見做したリリィを映す。……彼女達に惨たらしい死を与えんとばかりに。

 

 

野獣の強靭な腕力の前では、電力供給の要である頑丈な塔は鉄屑も同然だった。ガンガン…!と嫌な音を立てながら鉄骨が歪んでゆく。

そして、こともなげに送電塔が横倒しにされると、その天辺から伝う… ()()()()()()()()()()()()()二十本以上の電線が伸張し、それらは横からかかる負荷に耐え切れずにたちまち断線する。

ムートーの放つ電磁パルスは、あくまで電子機器を機能停止に陥れるだけであり、何も電力そのものを失くす攻撃ではない。よって、電線がぶち切れようものなら、そこを通る電気がいまだ健在したままの恐ろしい凶器と化してしまうのだ。

定位置と行き場を失くした電線達は、切れ口から火花を迸らせながら鞭が如く唸り、地べたに平伏した鉄塔の後に続くように勢いよく落ちてゆく。

 

心が壊れかけ、幻の断片を垣間見ていた少女達が再起した時には、もう手遅れだった。

 

「っ!きゃあっ!!」

「梨璃、皆んな!…あああっ!」

 

無辜な少女達に容赦無く襲い掛かる凶器(電線)は、まるで命を宿しているようにさえ思われた。無造作に唸り、飛びかい、空気を引き裂く音を鳴らすそれらは、絶望に臥していた戦士を嘲り優雅に踊っていた。

 

ぎざぎざに破れ電気の漏れる切り口が、たくさんのリリィの腕を…脚を…頬を掠め、体中に血の花を咲かす。縦横無尽に繰り出される鞭打ちは、CHARMを盾に防ぐ余裕がさらさら無く、手も足も出せずに打擲される。

それでも、残り僅かなマギが辛うじて、梨璃達が負うはずだった傷を和らげる緩衝材としての役割を果たしていた。無論、完璧に…とは言い難いが。

 

ひゅー、ひゅー…

「ゆ…かり、大丈夫ですか?」

はい…。なんとか、です…

 

阿鼻叫喚とした修羅場は30秒にも満たない内に静寂を取り戻したが、そこには痛ましい爪痕が深々と残されていた。精神的に大きな衝撃を受けた為に、その後の追撃の対応は、とてもじゃないがままならなかった。特に、電線に伴う電気は、薄くなったマギの装甲を貫通し、少女達の白い和肌(にきはだ)に痛々しい火傷を負わしていた。打撃と火傷と、この瞬間まで蓄積され続けた疲労とで、精鋭部隊は疲労困憊…既に誰もが虫の息である。

ムートーも少なからず火傷を負ってはいるが、これでおあいこと言うには(むご)すぎる差だった。

 

対して、その惨状を目にしたムートーは、ほくそ笑むように口角を吊り上げる。蛹時代から共に過ごした旦那との再会や卵を孵すという目的は一片も忘れちゃいないがやはり、こうした血に塗れた争いに身を投じることに愉悦を禁じ得なかった。遠くから感じられる血の匂いが大変香しい。

次いで、生粋の『破壊者』たるタイタンは己が本性に従い、先程横倒しにした送電塔(玩具)を器用に咥えて持ち上げる。

 

高嶺に肩を貸して貰いつつ、満身創痍ながらもその様子の一部始終をしかと見届けていた叶星は、ムートーが次に何を起こすのかを知っていた。

この場にいる全員を死なせる訳には行かない…必ず五体満足で生き残ってみせる。その為に、健気な少女はぼろぼろの体に鞭打って、たった一つの言葉を必死に叫んだ。

 

 

 

逃げてぇぇ!!!

 

それは、ムートーが、咥えた送電塔を思い切り投擲した衝撃に勝るとも劣らぬ絶叫だった。鉄で出来た細長い塊が、横浜市に立ち並ぶ家々をも巻き込んで、転がり迫る。

大地を跳ねるほどに留め具やボルトが外れ、鉄骨の雨が降り注いだ。少女達はけたたましい騒音を耳にしながら、敵に背を向け、逃げ出した。怖気付いたからではない。どうしても生きていたかったからだ。

心臓が早鐘を打ち、血が脈打ち、必死に“ 生 ”を掴み取ろうと…皆は今自分に出来る精一杯のことを為した。

 

 

 

---瞬間、梨璃の身を衝撃が襲い、目にする景色が真っ白になった。

それに踏ん張りきれずに、呆気なく地面に吹き飛ばされてしまう。コンクリートに身を任せたせいで全身が痛む。……血の味がする。

ぼんやりした意識の中、梨璃は思わず利き手から放してしまったグングニルを探ろうと血と煙を目から拭い、体を起こした。

 

塵の混じった煙が晴れてゆく。同時に、沈みかけの真っ赤な夕暮れを背後に佇む黒き野獣が、彼女の視界一杯に映り込んだ。

そもそも体力が限界に近かったが、触れそうなほど近くで梨璃を見つめる怪物を前にして、彼女が逃げることは叶わなかった。

 

……今度こそ、()()。たったそれだけの事実が少女の脳裏を支配し、思考能力を放棄させる。これ以上の足掻きは無駄だと、本能もついに匙を投げ出した。

心身共にぼろぼろな彼女は半ば自棄になり、絶望に身を預けようとした…刹那、

 

 

 

 

 

 

 

 

GU?

 

 

張り詰めた空気が消散する。ムートーは眼前の敵に目もくれずに、ちょうど東北の方角の空を見つめた。すると、

 

 

KURURU……KURURU……KURURU……!

 

 

梨璃達が耳にした直近の鳴き声の中でも、最も甲高い声が脳を震わす。近くで聞いている者の頭が割れそうになるその高音は、ムートーの歓喜が露呈されているように空高く響き渡った。

 

…それもそのはず、ついに彼女に、昨日まで音沙汰が無かった雄からのエコーが届いたのだ。待ち焦がれた…再会を望む甘い愛の言葉を受け取っては、もはや復讐を続ける気にはならなかった。

 

決めるが早いか、ムートーは弱り切った敵を放って、()()を目掛けて走り出す。

 

「!? ……い、かせ、…行かせませんわっ!」

 

走ることさえままならないリリィ達のほとんどは、今まで力を温存していた巨獣が嬉々として、かつてない速さで駆け出してゆく姿を指を咥えて眺めるだけだったが、ただ一人…船田純だけは、去り行く巨大な背を逃がさんと、必死に食らいついていた。

彼女は、優美な気品さや武人の勇猛さを感じさせる闘いぶりとは縁遠い…プライドを(どぶ)に投げ捨てたような、甚く泥臭い猛攻を仕掛ける。

まともに殺り合って勝てる相手ではないのは、重々承知している。奴と自分…達にある力量差は圧倒的だ、そう理解出来ていないほど愚かではない。だがそれでも、例えどんなに醜くかろうとも、一度倒すと心に決めた標的を逃したくはなかった。たったそれだけの信念が、彼女を突き動かす。だが、

 

 

動いて…! 動いてっ…!! わたくしの脚!!!

 

 

その思いの(ともしび)は、逆風に煽られ…消えかけていた。

少女の意思に反して既に身体中が悲鳴を上げており、雪辱を果たすべく振るわれる得物は、虚しくも空を切るばかり。そんな命を懸けた純の決死の猛攻は、ムートーからすればこの上なく鬱陶しく、邪魔なものでしかなかった。

 

するとデカブツは、まるで人間がハエを追い払うかのような所作で、純を呆気なく地面に叩きつけてしまう…。一々相手にするのも面倒だ、と言いたげに鼻を鳴らすムートーの様子は、先程とは全くの真逆で…すっかり興醒めした視線が、一瞬だけ少女を突き刺した。それを一身に受けた純のはらわたが、憎しみという燃料にくべられ、ふつふつと煮えくり返る。

だが、そんな少女の怒りなどムートーの知ったことでは無い。足元で激痛に悶えながら歯を食い縛る純を気にも留めずに、再び走り出した。今度はつまらない邪魔が入らぬよう、全速で。

 

 

 

………それからどれくらい時間がたっただろう。最早、怪物の後を追える者は誰一人としていなかった。

ムートーの逆鱗に触れてしまったが為に、手痛い報復を被ってしまったリリィ達。寂れた戦場に取り残されて尚、彼女らの頭の中を怪物の咆哮が反響し続ける。

 

そして、どういう経緯か…作戦の指揮権を握っている百由が、本来ここで合流しないはずの遊撃部隊と挟撃部隊を引き連れて来たその時まで、あの一瞬が永遠に梨璃達の中にとどまり、離れはしなかった。

 

 

◼️

 

 

……その後、防衛軍の補備する()()()()に揺られながら、一葉は傷の手当てを黙々と行っていた。ムートーが残した破壊痕に沿って進む車両は時折凹凸によって激しく上下するため、細心の注意を払いながら。

ついさっき、同乗していた岸本・ルチア・来夢が傷の手当てを買って出てくれたが、自分のはそこまで酷くはないので、藍や恋花様達の方を優先して欲しいと声をかけた。が、今にして思えば、あれは些か失礼な応対だったのではなかろうか…。

現実に戻り切れず、心に余裕を持てなかったばっかりに、心配そうに瞳を潤す彼女につっけんどんな態度を取ってしまったかもしれない。

後で誠心誠意謝ろう。一葉は決意した。

 

そうやって意気込むと、ぼんやりしていた意識が次第に明瞭になってきて、最後に包帯を巻こうとした切り傷がじわりじわりと痛んでいるのが分かった。だが、来夢に言った通り、それは大して深くはなく、彼女には疑問符の形に見えた。

先が曲がり、ほかは長くてまっすぐ。柄の曲がった杖、あるいは鎌にも捉えられそうだ。………鎌、鎌か。

 

その何の変哲もない言の葉は、復唱するとたちまち心臓を凍らせるような呪詛に一転する。耐えて耐えて、耐え抜いた末に放たれた反撃の嚆矢が、単に火に油を注ぐ行為と化してしまったあの瞬間が頭から離れられない。歩く、走る…如何なる動作の全てを破壊に直結させる怪物の圧倒的な強さを前にして、一葉のプライドはズタズタになっていた。

頭を振って、もう一度傷を見つめる。血の泡が出来ていた。ほぼ完璧で、極めて美しい色だ。命の源。彼女の命。

 

 

……そうだ。私にはまだ命がある。逆境に抗う為の力と意志が、恐怖に埋もれながらも眠っているんだ。戦いは、まだ終わっていない。

 

地獄絵図と化した戦場を後にし、アイアンサイドの方々や軍の兵士に介護されていた時(と言ってもつい30分前の話だが)。

ムートーは東京都品川区を目指して進行する際に電磁パルスを解除したらしく、幸いにも現在乗車中の高機動車等での移動が可能となって、迅速な作戦行動の取り止めや自分達誘導部隊の確保をもこうして行えたと、百由はそう言っていた。

確かに、CHARMも数段軽くなり、自身のマギがみるみる蘇ってゆく感覚を覚えたので、彼女の言葉は事実なのだと身を以て理解出来た。

 

だが、その心中は決して穏やかではない…。ムートーの離脱を許してしまったということは即ち、彼奴等の東京浸出を確定的なものにしてしまったと言える。都境は防衛軍やモナークの兵力による守りで堅められてはいるが、それが突破されるのも時間の問題だろう。

 

百由が皆まで説明せずとも、戦況は依然として、悪化の一途を辿っているというのは想像に難くなかった。だから、東京の…否、日本の未来を賭けた戦いは、まだ終わっていない。

そこで、ふと記憶の中で呼び起こされるのは…私の永遠の指標、無二の憧憬であるマディックのお姉さん。彼女の、傷だらけでもとっても大きく感じられたその背中と切な願いの込められた言葉に誓う。

 

 

貴女が守りたかった景色を、必ず守ってみせます…!と。

 

 

…………

外はすっかり日が沈み、夜の暗闇と分厚い雲が空を覆い尽くしていた。最初はぽつりぽつりと小降りだった雨は、いつの間にやらザァザァと激しい音を立てながら、走行する車両達の屋根を打ち付ける。

 

戦争の前の静寂はとうに過ぎ去った。さあ、ついに東京で特大の嵐が巻き起こるぞ。

 

 

◼️

 

 

少し時間を遡って…。

 

東京湾岸のはるか上空、薄暗い灰色の雨雲に身を隠すとある巨大な影が、翼と思しきものを羽ばたかせながら、地上を見下ろしていた。まるで誰かを探すかのように。

そう。その立派な両翼の主こそ、ムートー夫妻の片割れ…雄のムートーである。小さな副腕部分には、先ほど仕留めた鯨似のラージ級ヒュージ、フィセターの亡骸が大事そうに抱えられている。どうやら待ち人への贈り物のようだ。

 

湾岸に沿って、次第に高度を下げながら飛行する。

彼は、南の方角から立ち込める土煙の正面に降り立つと、お目当ての相手の姿を捉えたく、邪魔な煙幕を払うようにそこへ飛び込んだ。はためかせた翼から生じる風圧によって視界が晴れれば、そこには雌のムートーがどっしりと構えていて、雄との再会を首を長くして待っていた。

 

 

『KYUEッ、KYUEッ、KURURU…KURURU…』

 

 

出会って早々に熱い接吻を交わす雌雄(しゆう)。かつて人間の手によって引き裂かれた両者は、十五年間味わい続けた孤独と哀愁を埋め合わせるようにひたすら密着した。すると、頬を擦り合わせた(のち)、手土産のヒュージを妻に贈った雄は、彼女の身体が僅かに火傷を負っていることに気が付く。

謎の怪我の所以を問い、返って来たその答えに夫は激怒した。下等な『餌』の分際で、よもや自分達の子供らを殺めようとしていたとは。彼女の言う通り、奴ら()敵対勢力と見做し…やるからには徹底的に排除する必要があるようだ。雌の考えに対して、雄は一切の異議を申し立てなかった。

 

妻が安心して子を産めるように、旦那は最善を尽くす。

…邪魔者の排除。そう…ムートー雄の行動理念が新たに切り替わり、殺意を忍ばせた瞳が、ぎらりと怪しく輝いた。

 

 

◼️

 

 

…………

川村楪は、眼前に広がる光景に釘付けにされた。絶望という色に塗り潰された惨状(キャンパス)に。

ムートーが作り出した出来立ての獣道には草の一本も残されておらず、至る所で火事や崩れかけたビルの崩壊が起きている。

これだけの被害を発生させたにも関わらず、かの野獣の目的が、単なる繁殖であることすら疑わしく感じられた。こんなの、まるで蹂躙だ…。

 

あの純がこの世の終わりのような意気消沈っぷりをしていた訳が、ようやく理解出来た。私や椛達はまだ奴の力の一片しか覗けていないが、純達はその全てを目の当たりにしてしまったのだろう。考えるだけでも指が震えた。

隣を歩く椛の顔色を伺うと、酷く辛そうな表情をしていた。

当然だ。心の優しい彼女が壊滅的な街並みを見て、それに感化されないはずがない。人々の営みの証が、私達が守護し(まもり)続けてきた景色が奪われた悔しさは楪とて忘れられないが、過去に囚われすぎれば“ 今 ”さえも見失ってしまう。

だから、楪はあまり悲観的になり過ぎないようにつとめた。椛が前を向けるように、自分の心が折れてしまわないようにと。

 

…だが、寂れた街の雰囲気に当てられてか、チーム全体の士気はどこか淀んでいた。マギが回復し傷の処置を行なって、すすんで前線に立ちたいと希望した誘導部隊の面々こそ覚悟を決めた面持ちをしているが、それ以外のリリィの皆んなは何というか…ばらばらだった。勿論、内面的な意味で。

鈍りつつある個々の戦意と薄れゆく一体感。それらは楪の不安を煽る材料として二つと無い、最悪な魔力を持っていた。

 

 

 

 

 

 

………刹那、風の流れが大きく変わる。

 

 

天高くから見下ろす雨雲から球状に放たれる衝撃…もとい、電磁パルスが東京を覆った。CHARMを構えた無数のリリィと軍隊もまた例外なく。

 

「っ…来ましたわね」

 

どっと押し寄せる得体の知れない疲労感とマギが吸われるような錯覚の再来に、純は表情を強張らせる。一日之長(いちじつのちょう)があるとは言え、やはりこの感覚ばかりは慣れそうにない。自分達が苦しむ一方で、マギを持たない一般兵には何ら害が及ばなかったことには、彼らが悪い訳ではないと分かっていても、正直妬まずにはいられなかった。

 

それから10秒と待たずして、雲を掻き分けて飛来して来た黒い影が一つのビルの屋上に降り立ち、リリィの軍勢を吟味するように凝視した。

一対の巨大な翼を有している…あれは雄か。Gチームの隊員の誰かが思った。

 

空中で電磁パルスを解き放った張本人こと雄のムートーは、真っ赤な眼を光らせて小さき者達をじっと見つめた。彼からすれば、その行動は地面を這う蟻を観察する人間の幼子のそれと同義で、特に大きな意味は持たない。一応、殺意を向けるべき『敵』だと改めて認識しているだけなのだ。

 

……が、そんな造作も無い一睨みは、ムートーを討つべく集結したリリィ達を震え上がらせる威嚇として事足りた。

雌と同等かそれ以上の怒りの感情を膨らませているのが、梨璃達には理解(わか)ってしまう。一触即発の刺々しい緊張感が戦場を駆け抜ける。

 

梨璃はグングニルをガンモードに切り替え、CHARMにマギを込めて、それから------

 

 

 

 

 

靴が水に浸かった。水溜りに足を踏み込んだのだろうか。…いや、違う。

水は潮の香りを運んでいて、よく嗅ぎ慣れた匂いだとすぐに気が付いた。

それの正体は、紛れもなく()()だった。くるぶし程の高さの波が、こんな内陸まで押し寄せたようだが…。

突然起こった不可解な事象に困惑必至の梨璃。周りを見遣れば、他の皆んなも大小差はあれど驚いた様子をしていた。やはり、これは“ 普通 ”じゃない…梨璃の第六感がそう告げる。

 

 

 

--轟音が大地を揺らす。継続的に大きく、そして徐々に()()()()()()それは、単なる天変地異では無いのだと把握出来た。だが把握は、理解へと至らなかった。

 

ムートーはリリィに向けていた視線を逸らし、今自分が最も恐れ、警戒している()()を真っ向から見据えた。見てはいけないものを覗き見るような行為に言い知れぬ抵抗感が芽生えるが、そんな理性の壁に打ち勝った梨璃達もまた、彼に同調する。

 

 

 

 

その瞬間、少女らはたった今目撃したもの以外の全てを忘れた。過去も未来もない、あり得ざる現在だけに囚われる。梨璃は自分の名前を懸命に思い出そうとした。

遠くで断続的に光る雷鳴…天然のフラッシュライトが、かの者の全貌を明らかにする。まるで自然そのものが、崇めよ、称えよ、と言外に告げているようだった。事実、その解釈は間違いでは無い。

 

太くがっしりとした腕と脚。(脚の方は確認できないが)腕の先から鋭く伸びる爪は、どんな障害さえも切り裂いてしまいそうだ。背中から尾の先まで生え連なるヒイラギ状の背鰭達はまさに圧巻の一言で、全てを統べる王にのみ授けられし王冠のように幻視させられる。

ムートーよりもさらに一回り大きい身の丈は、目測でも1()3()0()m()()()は下らないだろう。どっしりと身構え、前を向いて歩む怪物の足取りは逞しく、そして偉大だった。

 

…怪物は息を吸い込み、肺を空気で満たす。許容量の際限まで酸素を溜め込んだ刹那、自身の手が及んでいない間に、随分と好き勝手に暴れてくれた仇敵への怒りを込めて、特大の咆哮を見舞ってやる。

 

 

 

 

 

 

GAAAAAAAAAAAAA!!!!!

 

 

偉大なる怪獣王…ゴジラが、ヒュージに脅かされた人間の世界に、数万年ぶりに返り咲く。

地球の破壊神にして守護神たるゴジラと、世界を守る命運を課せられしリリィ…両者にとって負けられぬ闘いの幕が、ついに切って落とされる。

 




ここでようやく、二話の『オワリノハジマリ』の冒頭シーンに繋がっていくわけですよ。なげぇ…

いや〜、やっとこさゴジラ出せました。ギャレス監督は焦らしに焦らしまくった末に彼の全貌をスクリーンに映したんで、私もそれ意識して執筆してたら、いつの間にか完全にムートーがメイン怪獣っぽく仕上がってましたね。
と、いうわけで、ここからはゴジラvsムートーという待望の場面に差し掛かっていきます!これからも不定期更新で参りやすので、どうぞよろしくお願いします。

今さらですが、当作品はモンスターバースシリーズのノベライズ版を参考に執筆しておりますので、『こういう文体で進めていくんやな』とご了承くださいませ。

既に製作確定済みの次章だけど、そのさらに次の章で活躍するレギオンはどっちが良い?

  • ヘルヴォル&グラン・エプレ
  • アールヴヘイム&ロネスネス
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