Assault Lily with GODZILLA 〜Kings of the earth〜   作:俺っちは勝者の味方ー!

8 / 9
お久しぶりです。リコリス・リコイルに浮気してました。挙句、その二次創作にも手を出していました。すまみせん。
あっちでリリゴジの投稿休むとか言っちゃったけど、書きかけの話を放置するのもすっきりしないから投稿したった。

さかなー。ちんあなごー。(思考放棄)

【注意】
当作品は、アニメ・ラスバレの世界線と舞台版の世界線とが融合したものとなっています。話の展開に準拠しているのはアニメ・ラスバレの方で、舞台版の要素がちょいちょい含まれているといった具合です。



夜明けを求めて

 

 (いか)れる神への叛逆の意志を示すように、侵蝕者も負けじと咆哮を跳ね返す。怪物達の奏でる轟音のぶつかり合いは、この場に居合わせてしまった戦士の寿命を大きく縮める。

 

 ヒュージやムートーのそれを軽く凌駕する威圧感を放つ、絶対的な驚異の来襲。内在する恐怖と絶望感がさらに増長されるも、この時だけは…その怒りの矛先が足元に向かなかったことを皆々は幸運に思った。

 裏を返せば、リリィをもひっくるめた人間という種族など、この因縁の激突においては単なる部外者に他ならないのだと思い知らされる。

 

 しかし、この怒涛の戦場においてそんな事実を気にする者は誰一人としていなかった。老若男女の世界は、眼前で睨み合うタイタンだけが全てだったのだ。

 

ーーーーーーーー空想上のものでしかありえなかった神話が今、新たな伝説の一編を紡ぐように始動する。

 

 

 

 ゴジラが地を蹴り、ムートーが飛び立つ。

 両者は同時に飛び出したかと思えば、次の瞬間には勢いよく衝突し合う。怪獣同士の押し相撲は、体格・パワー・スピード…如何なる観点を取っても、ゴジラが優っていた。

 駆け出した時のスピードを殺すことなく、彼は身体をぶつけ合って尚も、歩を進める。全身を用いた圧力に押されるがまま、ムートーは背後のビルとに板挟みにされ、瓦礫を巻き込みながら地面に押し倒される。

 

 しかし、ムートーとてゴジラ相手にただでやられるような玉ではない。剛腕から繰り出される拘束が一瞬緩んだ隙を見逃さず、彼はすかさず翼を広げて空中への離脱を計る。

 砂塵を撒き散らし、間一髪のところでゴジラの極太の脚から繰り出される踏みつけを逃れた。

 

 対するゴジラは、忌々しげに鼻を鳴らした。彼としても早急に決着(ケリ)をつけたいところだが、異質な気配の伴った雄に空に逃げられては手の出しようが無かった。

 攻めあぐねていると、宙を旋回していたムートーに背を陣取られてしまう。鉤爪状の爪が皮膚に食い込み、死角からがっちりホールドされる。

 雌より劣れど、雄の腕力もなかなかどうして強力なものだ。相手は海から離れた内陸へとゴジラを引き摺り、彼は時たま地べたに脚を付けている感覚を失っていた。

 平衡感覚を正常に働かすことには難儀したが、必死に身を捩らせてもんどり打ち、背を這う天敵を転びざまに振り下ろす。

 

 両者はそれぞれ、周囲のコンクリートジャングルを破壊しながら豪快に倒れ込む。前のめりに伏したゴジラはビルだったものにつかまって身を起こし、痛み分けをしたムートーを捉える。

 すると相手も即座に立ち上がり、再度両者は向き直った。ゴジラとムートーは数秒間円を描き、互いに探りあい、死闘の続きに身構える。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 真島百由は一リリィとして、そして今回の作戦の指揮権を握る責任者の一人として、自分達がこの機に乗じて何を為すのが最善かを思慮し、それを行動に移すべきだと承知していた。

 だが、戦いに魅きこまれ、目を離せない。

 

 好奇心溢れる少女がこの恐ろしくも美しい支配者達を深く知ったのは、ほんの五日前のことだった。名だたる天才なんて周囲から持ち上げられてはいるけれど、彼らを究める研究者達の界隈において百由はまだまだ青臭い子供も同然だった。年齢的にだってそうだ。

 だが、彼らをよりよく知ることに、歳や知識の差なんて些細な問題に過ぎなかった。ここまで興味を狩り立てられたのはいつぶりだったろうか。

 

 寝る間も捧げて太古の伝承の隅々まで目を通してゆくと、自分の中の価値観は数時間おきに大きく塗り変わっていった。

 『人間(われわれ)は神々の温情のもとに生かされている』…と、それらには決まって自分達人間を卑下するような一文が綴られていた。まるで人智の及ばぬ領域に足を踏み入れたようであり、単なる肖像が相手だとしても背筋がぞくぞくしたものだ。

 そんな古代の洞窟絵画や腐食した彫刻、すり切れたヒエログリフからでしか知り得なかった神々の争いは、今まさに…現実となって襲い掛かっている。

 百由は足に根が生えたようにその場に立ち尽くした。その他の皆もまた然り。一様に固唾を飲み込み、戦いの行く末を見届ける。

 

 

 

 敵の出方を伺う巨獣達……先に仕掛けたのはムートーだった。

ゴジラの胸に頭突きを見舞って、彼を後ろ様によろめかす。その痛みに苦悶の表情を浮かべるゴジラだったが、逆に隙を晒すこととなったムートーの肩を握り掴んで、勢い任せに図体をめり込ませようとする敵を引っ剥がし、その脳天を地面に叩きつける。

 耐え難い衝撃にムートーの意識はぼやけ、一切の抵抗の手を止めてしまう。一瞬でも猛攻から逃れんとする意志を手放してしまったことが仇となり、ゴジラにさらなる追撃の猶予が与えられる。

 

 

 ゴジラが優勢だった。

 彼の鋭い両手でしかと抑えられたムートーの頭が宙を浮き、叩きつけられる。攻撃の余波が大地を伝い唸りを上げる。

 頭がかち割れそうな激痛に悲鳴を上げるムートーだが、ゴジラは攻撃の手を緩めない。さらに動きの鈍った敵を腰ほどの高さまで持ち上げると、その首元に牙を立てて息の根を止めにかかる。

 

 

 一方ムートーも容赦の無い猛攻の連鎖を断ち切る為に、後ろ脚で巨体を蹴りつけ、腕の一つをアッパーカットよろしく突き上げ反撃。

 それを食らったゴジラはたちまち脳震盪を引き起こす。朦朧とする意識のせいで牙こそ引っ込めてしまうが、掴んだ肩は意地でも離さなかった。

 首を振り目をぎらつかせると、今度は地面の方ではなくまだ戦いに巻き込まれていなかった高層ビルに向かってムートーを投げ飛ばす。瓦礫に埋もれて動けなくなったところをさらに踏みつけた。その胸元に体重をかけているからか、相手は苦しそうに口をぱくぱく動かしている。

 攻め手は勝利の雄叫びをあげ、足元の怨敵の首を引きちぎろうと前かがみになる。

 

 

 

 刹那、王の意識の領域外から何者かが牙を剥いた。

 

 雄にトドメを刺そうとしたゴジラのどてっ腹をムートー雌の渾身の突進が炸裂した。その重量級の一撃が完全な不意打ちとなってゴジラを襲う。

 また間の悪いことに、彼の巨体は予想外の敵の登場に驚愕しているリリィ目掛けて押し倒される。

 

 

「! 逃げて!」

 

 

 千香瑠が叫ぶ。未だ現実と夢が混同している少女達の尻が叩かれ、辛うじて抗争の巻き添えを食らう未来を回避した。一般兵らも重厚な武装を揺らしながら、命からがら逃げのびる。

 千香瑠は、均衡が変わり絶望から転じて再び希望を持ってもいいように感じていた。だがそれは、雌の乱入により雲行きが一気に怪しくなる。

 

 

 ゴジラは起き上がり、状況を見てとった。

 しかし、態勢を立て直す間も無くけだものの爪が皮膚を裂き、内側の肉まで貫通する。

 それを受けて王は初めて悲鳴を上げた。だが、この程度の苦痛で屈しはしない。

 肉を切らせて骨を断たんと脇腹に突き刺さる爪を掴もうとしたが、武器の()()のように形取られたそれは勢い良く引き抜かれ、ゴジラの手は虚空を掴んだ。鮮血が弧を描いて飛び散る。

 

 甲州のど田舎暮らしをしていた千香瑠は、夜目が効く方だ。そのせいか、暗闇に紛れて怪獣の血液と共に極小の固形物までもが噴出されるのを目にしてしまった。

 それの正体はなんとなく想像がついてしまう。怪獣の筋繊維か、それとも肉片……いや、もうやめよう。

 

 

 倒れる雄を庇うように立ちはだかる雌の腹部はもぬけの殻で、あの夥しい数の卵がいつの間にか無くなっているのが分かる。

 卵というリミッターが外れたことで、全力で戦うことを辞すつもりが無いと言わんばかりに雌のムートーからは殺意と怒りが漏れ出ていた。まさに、凶暴で、怒り狂った、かつてない原始的な驚異の体現。

 人類はそれに思わず後じさりかけたが、対するゴジラは敵に向かって一歩を踏み出した。

 

 逆境に抗ってゆく力と不屈の心こそが、ゴジラを王たらしめる所以とでも言うのだろうか。

 傷付きながらも前進する…そんな彼の後ろ姿を見据えた千香瑠は、そこに絶対的な支配者としての威厳を垣間見た気がした。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 梨璃には何もかもが理解不能であった。自分の目の前で起こるあらゆる事象が。未知が。

 あのムートーさえも優に上回る巨大な怪獣の登場から、目に映る全ての景色が目まぐるしい速さで移り変わっていき、その情報量の余りの多さに酔わざるを得なかった。

 だが、かの怪獣…ゴジラの出現は神の降臨にも等しかった。と、ただそれだけは断言できよう。

 

 

「ーーーーーやるっきゃないか…。皆んな、悪いけどこれからプランを大幅に変えさせてもらうわ」

 

 

 熟考の末に意を決した百由は、未だ混乱状態の収まらぬ仲間に向けてそう言い放つ。決意と覚悟に満ちた彼女の大きな声量は見事に大衆を釘付けにした。

 

 

「プランの変更、ですか?」

 

「そう。急拵えも良いところな無茶苦茶な作戦だし、単なる私の我儘の押し付けみたくなるけど、ね」

 

「っ…百由様」

 

 

 ふう…と一つ息を吐いて、百由は続ける。

 

 

「これから『ノインヴェルト戦術』を行うグループと()()()()()()()()()()()グループとに二分して作戦を決行するわ。

 前者のグループとして行動するのは、一柳隊、ロネスネス、ヘオロットセインツ、そしてアイアンサイドの四レギオン。それ以外のリリィや連合部隊員は、使い損ねた時限爆弾を余さずムートーの巣まで持ち運び、そこを爆破させます」

 

「ええ!? 私達がノインヴェルト戦術を!?」

 

 

 来夢の驚く声が上がる。静かだった周囲も騒めき、至る所から動揺の意思が感じられた。

 

 

「そう。来夢さん達四レギオンを選抜した根拠についてだけど、邪悪なマギの干渉を遮断できるレアスキル『カリスマ』と、その上位スキル『ラプラス』の保有者がそれぞれ所属していることが大きいわ。

 今まではムートーの注意の全てがリリィに注がれていたから、出鱈目な攻撃や行動パターンを前にレアスキルの効果も意味を成さなかったかもしれない。でも、強敵に夢中な今ならそれらのスキルを発動させつつ、合同ノインヴェルト戦術を行うことだってできるはずよ」

 

「なっ!? 総勢39名での合同ノインヴェルトなんて…そんなの無理に決まってますわ!」

 

「いいえ、そうとも言い切れないわ。過去に由比ヶ浜ネストが嗾けたオートケプヒンは、百合ヶ丘中のリリィが総動員したノインヴェルト戦術によって討伐された。『カリスマ』をレアスキルに持つ…とあるリリィのおかげでね」

 

「む、むう…」

 

 かなりの大所帯でノインヴェルト戦術を行わんとする無謀な計画に対して西郷紅は反論の意を唱えるが、それを実行に移す価値を考えさせる前例を表に出されてしまい、何も言えなくなる。

 

 

「そして、肝心のノインヴェルト弾をぶつける標的(ターゲット)となるのが…」

 

「当然、()()()()よ」

 

 

 黒木・フランシスカ・百合亜の言葉に合わせ、百由はゴジラを圧倒しつつあるムートーらを指差した。

 

 話の脈絡から半ば予測は出来ていたが、よもや本当にノインヴェルト戦術をヒュージでもない怪獣にぶつけようとは…。我が義姉(シュッツエンゲル)ながらぶっ飛んだ発想をするもんじゃ…、とミリアムはほとほと呆れ果てる。

 …いや、ある意味ばからしく響きはしたが、それならば往年の怪獣映画のような光景が現実となっているのもまた然りか。

 

 

「それと、マギスフィアは彼等三体の頭上を追い越すようにパス回しするのが理想的ね。こう、ぐるーっと囲うように各々が配置につく形で」

 

「…百由、貴女本気なの?」

 

「勿論本気よ。理論上、ゴジラとムートーの攻撃が及ばない位置からのパス回しは可能だし、何よりマギに目のない敵さん達の注意を逸らせば、ゴジラが優位に立ち回れるよう促すことだって出来る。ムートー必殺の為の現段階での最適解はこれしかないでしょう」

 

「…」

 

 正確に的を射抜くような論拠に、夢結は言葉を詰まらせる。だが、並々ならぬ百由の思惑にも一理あるとは思った。

 今や古今東西のガーデンに膾炙しているノインヴェルト戦術理論。自信ありげに、かつ真剣な面持ちで、それの発展に自彊してきた百由(当事者)本人から告げられた計画は信頼に値するものだ。

 ただ、それを実行する戦況が余りにも異端過ぎる為に、首を縦に振ることが無責任に思えてならない。失敗すれば、自分や仲間…シルトの死に直結するのだから。

 でも。それでも、やはりーーーーー

 

 

「やります…。いえ…やらせて下さい、百由様。これが私達に残された最後のチャンスなら、絶対に手放すことなんて出来ません。だから…!」

 

 

 梨璃は喉に何かがつかえるのを感じた。だが、自分の感情を表に出そうという時の、得も言えない辛さをぐっと堪えて言い放つ。

 これが、嘘偽りない私の意志なのだと。

 

 

「私もやります!このままやられっぱなしっていうのは悔しいもん。ねぇ、治様?」

 

「因……うん、私もここで終わりたくない。御台場のリリィとして、為すべきことを為そう」

 

 

 かつて、燈との共闘を経て『ラプラス』を覚醒させた過去を持つ鈴木因が持ち前の活力をチームメイト達に大いに振る舞う。すると、世紀の大激突を刮目し、萎えかけていた菱田治らの戦意はたちまち奮起させられる。

 レギオンリーダーを横にして奮い立つ仲間達に椛や楪はやれやれと肩をすくめるが、かと言って口を酸っぱくして咎めることはなく、柔らかな微笑を浮かべてその様子を見守るばかりだ。

 小言を挟まぬ椛。それ即ち、ヘオロットセインツがばちばちと燃え盛る戦火への突入を辞さぬことを表明していた。

 

 

「そう。そしてそれは、御台場の皆んなだけじゃない…私達も同じ意志よ」

 

「! 幸恵お姉様…」

 

「来夢、私はあなたのシュベスターとなり、運命を分かち合うと誓った。だから、迷う必要なんて無い。来夢が正しいと思うこと…歩みたいと望む道があるのなら、私があなたを支え導いてみせるわ。ね?」

 

「…はいっ!」

 

「オレも来夢の力になる。これ以上誰かが傷つく姿を見るのは嫌だ」

 

「ふふっ、ありがとう聖恋ちゃん」

 

「お、おう…//」

 

 

「…………燈。あなたにその気が無くても、このノインヴェルト戦術には絶対に参加してもらいますわよ」

 

「? まあ、純お姉様がそう仰るのなら異論ありませんが…どういった心境の変化です?まるで、わたくし達ロネスネスも望み薄の馬鹿げた作戦に賛同すると言いたげな指図ですが」

 

「…」

 

「え、(だんま)り? てことはやっぱ…」

 

「ヘオロットセインツの副隊長さんは黙ってなさい」

 

「はぁ!?」

 

「と・に・か・く! ただ指を咥えて後手に回るのはもううんざりなだけですわ。わたくし達をコケにした報いはしっかり受けてもらいませんと」

 

「…というのは建前で、ロネスネスもムートー殲滅に加担した以上、途中で匙を投げ出すなど言語道断。己等に課された責務を果たすため、最後まで戦い抜かせていただきますわ」

 

「…」プイッ

 

 

 梨璃の声明を皮切りに…因、燈、来夢の『ラプラス』兼『カリスマ』使いのリリィも徹底抗戦の意を露にする。梨璃の意志を否定する者は誰一人としていなかった。

 …つい10分前まで、一帯の雰囲気は完全に死んだも同然だったが、良くも悪くも肝の底から冷えるようなゴジラ()咆哮(激昂)により目が覚めたのやもしれない。

 緊迫感が身を引き締め、いつの間にやら鈍った闘争心は洗練されていた。

 

 

「(この意気込みなら心配無さそうね。)…そして、残りの面子の主な役割についてだけど、ムートーの巣の探索と爆発物の運搬がメインになるわ。私が索敵を行うから、皆んなも力を貸して」

 

「おっけー、了解。…でもなぁ、ここまで来てリベンジが果たせないのはちょっと残念というか、釈然としないっていうか…」

 

「恋花。これも大事な作戦だよ。文句言わない」

 

 

 不服そうな態度を嗜める親友に恋花は頭が上がらず、己が態度を改める。

 あくまで冗談のつもりで言ったが、今は私情で動くべき状況では無い。その辺の思慮分別はできているつもりだ。

 

 

「たはは。まあ、そう思うのも無理ないか。けど、瑤さんの言う通り…早いとこ卵を潰しておかないと、それこそ東京がムートーの幼体で溢れかえる危険性がある。摘み取れる危険因子は排除するに越したことはないわ」

 

「…」

 

 

 三人のやり取りを横で聞いていた叶星は、百由の言葉をじっくり反芻し噛み締めていた。巣の規模が分からない以上数え切れないほど余っている未使用の爆弾が多いに越したことは無いし、それらの運搬や設置等に割く人員は多い方が効率が良い。

 確かに、百由の計画の意図は理に適っている。

 

 

「失礼、モユ。司令長官殿より作戦の大幅な変更に対する許可が下りた。あちらも直ちに関東圏の各ガーデンに増援を要請、及び控えている戦力を投下するとのこと」

 

「はい、了解です。私の代理で通達していただきありがとうございます」

 

「いや、このくらいは何とも。……ただ」

 

「?」

 

「君のプランの全容を耳にした時の彼は、心ここに在らずといった様子でね。無線機越しでも動揺していたのが分かったさ。

 無事に帰れたら、君宛ての小言は突っぱねず甘んじて受け入れてやった方が良い」

 

「あ、あはは…はい」

 

 

 EMP対策の施された無線機を介して連絡を取り合っていたモナーク所属の特殊部隊リーダー。彼から伝えられる報告が百由の背中を後押ししてくれる。

 防衛軍第七艦隊司令長官の統率する空母群が有事に備え湾岸に集結してくれているだけあって、聞いた限りバックアップは完璧な手前のようだ。

 …百由にとって大変な山場が確定してしまったことについてはひとまず置いておこう。

 

 

「梅さん、鶴紗さん。くれぐれも気を付けて下さいね」

 

「ああ。デカブツ達の相手は任せとけ。御台場迎撃戦を乗り越えたリリィだって大勢いるからナ。きっとぶっつけの一発勝負でもうまくやれると思うゾ」

 

「ん…ありがとうございます、千香瑠様」

 

「…」

 

「安心しろ、千香瑠。鶴紗が無茶し過ぎないように、梅がちゃんと手綱を握っとく。

 私は大丈夫だから〜とか言って、致命傷レベルの怪我を負われちゃ生きた心地がしないもんナ」

 

「…え?」

 

「リジェネレーターに縋って、自分のことを顧みない戦い方をする鶴紗を見るのは辛いんだ。私も千香瑠も。

 だから、自分はどうなっても良いなんて考えで戦わないでくれ、鶴紗。……頼む」

 

 

 なんで分かったの…。と心の内を見透かされ面食らう鶴紗だったが、梅の表情を見てそれを否定する気持ちは失せてしまう。私の身を心底案じているのだと、僅かに潤んだ深緑の瞳が全てを物語っていた。

 

 

「…善処する」

 

「そっか…。うん、それで良し!」

 

 

 無理だとは言わなかった。ここで下手に誤魔化そうものなら、例え戦闘中でも梅は鶴紗の手を離さないと本気で考えていたが、彼女の言葉を信じよう。

 そのたった一言に掛かる重みを理解出来ない鶴紗ではあるまい。

 

 

「時間よ、梨璃」

 

「はい、分かりました。それでは行ってきます、一葉さん、叶星様」

 

「梨璃さんもどうかお気を付けて」

 

「こちらも任務を遂行次第すぐに合流するから」

 

「ありがとうございます。…行きましょう、お姉様」

 

 

 腹を決めた梨璃は夢結と共にマギを熾して駆け出した。

 そして、各々が役割を遂行するべく散開したその瞬間、ぼろぼろになったビル群の向こう側から苦痛を孕んだ悲鳴が響く。いやに感情的で悲しい調だった。

 どんなに聡明で言語学に造詣が深いリリィであっても、その声の意を解すことは不可能だろう。

 

 ……だが。自分達の世界を形作っていた常識。それの通じぬ領域に君臨せし獣が苦悶する鳴き声に…梨璃は胸がきゅっ、と締め付けられるような傷みを覚えた。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

  〜???side〜

 

 

 身体が重い…。

 

 

 手足の自由が奪われてゆく……。

 

 

 自然ならざる異様な力を手にした敵を前に、俺は苦戦を強いられていた。

 かつて渡り合った者達よりも遥かに強固な外骨格と鋭利な小手先が備えられた強靭な殺戮力が、身体にじわじわと傷を増やしてゆく。

 加えて、奴等が向ける殺意は歪で気味が悪い。普通、どんな生き物でも闘争本能や生存本能からくる抗戦の意志を抱くものだが、目の前の敵からはそれの一切が感じられず、ひたすらに俺の命を刈り取らんと必殺の一撃をぶつけてくる。

 

 …やはりこの変化も銀色の生物達の影響か。

 この星に仇なす存在の力を取り込んだ挙句、半ば自我を失い己の命をも削ってしまうとは皮肉な話だ。

 

 だが、落ち着いて分析してみたは良いものの、いずれにせよ俺が生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされている現状は揺るがなかった。

 

 

 このままでは……まずい。

 

 

「行くよ薺!取ってー!」

 

「はいはい!」

 

 

 …何だ。視界の隅で動くあの小さな影は?…ニンゲン?

 

 

「よっしゃ!いいスピード感だよ、薺!」

 

「やった、褒められた!」

 

 

 見える範囲だけでも何十人と群がるニンゲン達は互いに励まし合いながら光る球体を生成し、一人…また一人と順々にそれを繋ぎ、さらに次の受け手へと渡してゆく。

 

 光の球は時折俺達が命懸けの取っ組み合いをしている真横や頭上を通過した。ちらりと反対の側を盗み見るとそちらにも小さな者達が大勢いて、思い思いに散らばり足元を蠢いていた。

 

 

「こっちよ、梢」

 

「はーい」

 

「ちょっと、こっちだってば!」

 

「…と見せかけて!」

 

「もう!真面目にやりなさいよ」

 

「私はいつだって大真面目ですよ〜、槿様」

 

 

 …分からない。俺の知る限り、ニンゲンがこれほど卓越した能力を持つことなどあり得ない。一部の個体が己の限界を押し上げたと言うならまだしも、そんな者がこうも沢山存在するのだろうか。

 

 飛翔して背後から迫る雄を尾で薙ぎ払い、それに反応した雌の顔面に一発拳を食らわして、俺は少しばかり鼻腔を働かせた。

 この()()……間違いない。あの銀色の奴等のそれと非常に酷似している。正体は知れないが、この匂いを醸し出す者は決まって異質な力を持っていた。現に相対している敵もまた同じく。

 

 …新手の敵として排除するか否か。

 

 俺は思わず躊躇し立ち止まってしまった。実害が及んでいないにも関わらず、ただ敵と似た匂いがするからという身勝手な理由で行動しても良いのかと。

 ……む?

 

 

ど、どうか気付かないで。振り向かないでぇ…

 

 

 ほんの一瞬だけ思考の海に潜っていると、少しも動かさないでいた尾の上に何かが降り立っているような感触が。

 あえて顔だけを動かし、対象に感付かれないようこっそり目をやる。するとそこには茶色の()を生やした人間が声を震わせながら立っていた。足を竦ませているその姿は、まるで生まれたての子鹿のよう。

 俺に対する恐怖の感情こそ汲み取れるが、そこに敵意や殺意は表れてはいなかった。正直、これでは彼等が一概に敵であると判断するのは難しい。

 …して、何故こんなにも怯えながら俺の尾を足場にする?

 

 

「ら、来夢さーん!ここです、ここー!」

 

「うん!いっくよー、二水ちゃん!」

 

 

 ああ、目当ては例の球か。

 

 

「…え? ひいいぃぃ!?こっち見てる!?」

 

 

 小さき者達を見極めんと懐疑の視線を注いでいたら、ついに気付かれた。…小さい癖にやたら大きい鳴き声だ。

 

 

「二水さん、ムートーが来ています!」

 

 

 そいつの仲間と思われる者が俺の尾に乗っかっているニンゲンに向けて声を上げた。その忠告通り、先程はっ倒した雄が迫ってくる。

 抜かった…。また背後を取られる…!

 

 

「! きゃあ!?」

 

 

 だが想定は裏切られ、雄は俺ではなくニンゲンの方へと襲い掛かった。仲間の助けにより、ニンゲンが奴の噛み付きを紙一重で躱してみせると、雄の牙から狙いを捕えきれなかった情けない音が鳴る。

 

 戦局の悪化を覚悟したが…状況は一転し好機と化す。

 目先の獲物しか眼中に無かった雄は、牙を透かしたのが丁度天敵の尻尾の真上であることに気付いていない。そんな盲目的な敵の下顎に、俺は尾先を唸らせアッパーをぶち当てた。

 

 

 GYAGAAッ…!

 

 

 ふん。俺の意趣返しは手加減抜きだ。

 的のど真ん中を捉えた一撃で、体格の小さな雄は踏ん反り返るように倒れ伏す。

 

 そして、こうなれば雌が黙っていないことは既に知れている。俺はすぐさま次の戦闘に身構えたが…どうも様子がおかしい。

 

 

「わあっ!こっちに来おった!受け取れ、神琳!」

 

「くっ、油断も隙もありませんわね…!梅様!」

 

「おう、任せろ!」

 

 

 KYURURU…!

 

 

 ニンゲン同士で繋がる光のエネルギー体。先程よりもさらに強い輝きを放つそれを追いかける様に、雌は右往左往していた。

 光は雌の一手が届くよりも早く転々と移動しており、動きの鈍い雌を翻弄させる。

 

 俺は一目散に駆け出し、敵に防御の体勢を取る猶予すら与えず懐に入り込む。

 巨体を押し潰す為のこの勢いは決して止めない。その一心でただひたすらに余力を注ぎ込んだ。

 

 

 KYA、GYUAAA……

 

 

 相手も地面やニンゲンの住処に爪を立て、俺の攻撃に抗おうとするが…もう遅い。お前達には真っ向からの突進に耐え得る脚力が無いのだから。

 とは言え、俺も限界が近い。あの時食らった傷がじくじくと痛む。急いでトドメを刺さなければ、今度は雄が茶茶を入れて来てしまう。

 

 確実に仕留めるべく、この辺りで一番高く聳え立つ鉄の壁に雌の身体をめり込ませる。力無く鳴き声を上げた雌は、ぐったりと壁に身を預けついに動かなくなった。

 

 

「こっ、ここは新宿都庁!?」

 

「皆んなマギスフィアのパスに夢中で気が付かなかったのね。…何にせよ、ムートーの動きが止まっている今がチャンスよ。梨璃、フィニッシュは貴女に任せるわ!」

 

「はい!」

 

「わたくし達が練り上げた信念の証、存分にぶつけてやりなさい!」

 

 

 足元が騒がしいが俺には関係の無いことだ。喉元を掻っ切ってやろうと身を屈めて口を開き、牙を剥き出しにした。その時だった。

 

 

 ぐらり。世界が埋没した。正確には俺と敵の重みに耐え切れなかった壁の一部が崩れ、立っていた位置の高度が下がっただけ。

 

 

 ………!?

 

 

 この時、俺は間抜けにも口を開きっぱなしにしていた。

 それが仇となり、雌が倒れていた位置に重なるのと同時に口の中にすっぽりと()()が収まる。

 

 

「嘘…」

 

()()()()()()を…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食べちゃ、った

 

 

 瞬間、俺の体内で異物が暴れる音がした。

 




投稿スピードが竜頭蛇尾。終わりを迎えるのがいつになるのやら。

というわけで…モチベの維持のために、次回は次章のプロローグを書く予定です。現在執筆中の一章とは全然関係ない話に繋がってくので、先入観無しで見てもらった方が良いかもです。
え?んなことよりさっさと一章完結させろって?
書きたいんだからしょうがないじゃn…(殴

既に製作確定済みの次章だけど、そのさらに次の章で活躍するレギオンはどっちが良い?

  • ヘルヴォル&グラン・エプレ
  • アールヴヘイム&ロネスネス
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