アルベドになったモモンガさんの一人旅【完結】 作:三上テンセイ
「うわわわわわわわわわわぁぁ……!!! もう、世界は終わりだああああああ!!!」
「あ、ちょ、どこへ……!」
ペテルの声も虚しく、ピニスンは腰を抜かしながら森の中へと消えていった。脱兎の如く、とはまさにこのことだろう。しかしそんな彼女を責めようとする者はこの場にはいない。
「……ひっ」
ペテルの喉奥で、小さな悲鳴が弾けた。
魔樹・ザイトルクワエ。
大地を突き破って現れた推定百メートル以上の怪物は、巨体のあちこちに砂や岩盤の滝を形成しながら、今なお高く聳え立とうとしている。
逃げて当たり前だ。
恐怖に侵されて当然。
『漆黒の剣』だってピニスンの様に今すぐにここから逃げ出したい。しかし足が動かない。震えて足腰が立たないというのもあるが、何より動けばあれの標的になってしまうかもしれないという恐怖が、彼らの心を蝕んでいる。
だが、そんな中にあって平然と魔樹に踏み出す戦士が一人いた。
──冒険者モモン。
彼女は今なお揺れている地盤をしかと踏みしめながら、背に差したグレートソードを抜いた。その堂々とした威風たるや、並大抵のものではない。
そんなモモンは振り返らずに、『漆黒の剣』にこう告げる。
「カルネ村を頼みます」
……小さく告げる、決別の言葉。
その言葉の意味を推し量れないほど『漆黒の剣』は愚かではない。
モモンが振り返ることなく再び一歩踏み出したとき、後ろから彼女の肩が強い力で引っ張られた。たたらを踏みそうになって振り返ると、凄まじい形相のルクルットがそこにいた。肩を掴む手の震えが鎧越しにもモモンに伝わってくる。彼はザイトルクワエの脅威に身を震わせながら、兜の下のモモンを見据えていた。
「……おいモモンちゃん。どこへ行こうとしてんだよ」
ルクルットの声は、か細く震えていた。
彼はそれでも、モモンの肩を掴んで離さない。
「……一体、何をしようとしてんだよ!」
悲壮に満ちた絶叫に近い。
彼は死地へ向かおうとするモモンの両肩をがっしりと掴むと、絶対に離しはしないという意志を瞳に宿した。
モモンのやろうとしていること、向かおうとしている場所。それは『漆黒の剣』の誰もが察していた。グレートソードを抜剣したとき、あるいは彼らに一言声を掛けたときか。いずれにしろ、『モモンがザイトルクワエに立ち向かおうとしている』ことを彼らは察していた。
……そしてそれはかの魔樹を討伐する為ではないのだとも。
きっと『漆黒の剣』とカルネ村の住人を逃がす為の時間稼ぎだ。己が身を犠牲にして、この漆黒の勇者は魔樹に単騎で挑もうとしている。そうとしか彼らには考えられなかった。だって、普通に考えれば分かることだ。あれほどの化け物に勝てるわけがないと。楊枝程度にも満たない剣を振り回したところで、いつか潰されるだけだと。
……故にルクルットはモモンの歩みを許さない。
許すことなど、できるはずもない。彼は縋る様にして、モモンの鎧に取りついていた。
「行かせねぇ! 俺は絶対、この手を離さねぇぞ! 殴ってでも止めてやる!」
モモンはそんな彼のことを不思議そうに見ていた。
何をそんなに必死に、と思っていたが……理解が及ぶと次第に温かな感情に溢れ出した。
(ああ……俺のことを心配してくれているんだな)
ザイトルクワエを見やる。
確かにモモンが
モモンは自身の肩を掴むルクルットを見返した。
彼の手はぶるぶると震えていて、目も若干赤く潤んでいた。全てを投げ出して逃げたいという強烈な生存本能を抑えて、彼は自分のことを引き留めようとしてくれている。そんな姿に、感動にも近い感心を覚える。
……そして、モモンを止めようとするのはルクルットに限ったことではない。
「モモンさん、一緒に逃げましょう!」
ペテルも同じくしてモモンガにそう叫ぶ。
「自らの為に逃げることは決して恥ずべきことではありません! モモンさんは確かに強い! ですが、あれにたった一人立ち向かったところで、どうしようというのですか! 貴女にだって、貴女の命を優先する権利があるはずだ!」
「両名の言う通りであるッ!! モモン殿! 愚かな考えは今すぐ棄てるべきである!」
ダインも続いた。
彼らはザイトルクワエの地鳴りの恐怖に懸命に耐えながら、モモンに叫んでいる。
その心を、モモンは素直に有難いと思う。
自分の為にここまで心配した声を掛けてくれる人がいることに、心が温かになっていく。
「モモンさん……」
ニニャが、杖の支えでようやく立ち上がる。
彼はしっかりとモモンを捉え、震える声で語り掛けた。
「僕たちは、確かにモモンさんのかつての仲間達には遠く及ばない存在なのかもしれません。今すぐにでもここから逃げ出したい臆病者達です。モモンさんの持つ英雄の様な自己犠牲の精神がとても眩しく、そして羨ましくも思います」
ですが、とニニャは続ける。
今にも泣きだしそうな、彼はそんな顔をしていた。
「だけど、それでも僕達は今! この依頼を受けている間だけでも! 『仲間』です! 僕達は、仲間である貴女をみすみす見殺しにするようなことはできません!」
「ニニャさん……」
……仲間。
モモンは自分のことを仲間と呼ばれ、僅かに動揺を覚えた。彼女にとって真に仲間と呼べる存在は、今も昔も『アインズ・ウール・ゴウン』のギルドメンバーのみだ。それ以外の人間に気安く仲間などと呼ばれ、馴れ合われるのは最早寒気が走ることに他ならない。
……だが、モモンはそれに反して自分の中に嬉しいという感情が芽生えていることに気がついた。
真に仲間と言えるのは『アインズ・ウール・ゴウン』だけなのに、ニニャに仲間と呼ばれて、若干の心地よさを覚えたことに違和感を覚える。
これは『アインズ・ウール・ゴウン』のギルド長として恥ずべき感情なのだろうか。それはモモンにも分からない。しかし彼女は、少しでもニニャの言葉に喜びを覚えてしまった。それは否定のできようもない事実。
ニニャは祈る様に、伏してモモンに嘆願する。
「モモンさん、思いとどまってください。どうか自分の死に場所を探す様なことは……やめてください」
涙さえ浮かべる彼に対し、モモンは優しい気持ちになるのと同時に、明らかな温度差を感じていた。
(……そう、見えちゃうよな)
人類が決して勝てない恐怖の権化・ザイトルクワエ。
そこに自らの命すら犠牲にして立ち向かう、過去に生きる孤独な戦士。強大な力を持つ戦士はようやく自分の死に場所を見つけたと死地へ挑もうとしている……と。ニニャにはそう見えているのだろうなと、モモンは思う。
(まぁ、そうだよな)
兜の中で自嘲気味に笑う。
やめてくれ、と思った。自分をそんな英雄を見る様な目で見るのは、やめてくれと。
(俺はそんな大層な人間じゃないんだよ……)
兜の下で、重たい溜息が漏れる。
モモンは『漆黒の剣』から受ける尊敬の眼差しで気持ちよくなれるほど下種ではない。本当の自分は決して誇れるようなものではないことを知っているから。
「……」
じくりと胸が痛む。
仲間と呼ばれて嬉しかった。しかし彼ら『漆黒の剣』が今視ているのは決して
モモンは静かに口を開いた。
「……ご心配ありがとうございます皆さん。ですが、勝算がないわけではないんですよ」
「へ?」
「これを」
モモンはそう言って、外套の陰から拳程の大きさの見事な水晶を取り出した。玉虫色の輝きを放つそれを見た『漆黒の剣』の反応を待たずして、彼女はそれの説明に入る。
「これは第八位階の魔法が込められている『魔封じの水晶』です」
「だ、第八位階……!? し、神話の領域じゃないですか!」
ニニャの言葉に『漆黒の剣』がどよめき、モモンガが頷く。
「……そうです、これが私のとっておきです。そしてニニャさん……そんな大魔法が込められた『魔封じの水晶』を破壊したらどうなるか知っていますか?」
「え?」
「……込められた力が暴走して、周辺一帯を崩壊させるんですよ」
「そ、そうなんですか!?」
嘘だ。
実際はそんな現象は起こらない。しかし第八位階の魔法が込められた『魔封じの水晶』という秘宝を破壊しようなどと思う人間はこの世界には存在しないだろう。証明のしようがなければ嘘もまた事実となる。モモンは水晶を手の中で遊ばせて、力強く台詞を続ける。
「これが私の勝算です。これをあの魔樹の口の中に放り込むことができれば、彼奴も流石に堪えるはずでしょう」
そう言ってモモンは、ザイトルクワエを仰ぎ見る。
魔樹は森に触手を伸ばし、大木を浚ってはあの大口に次々と放り込んでいた。暴食という言葉がこれほど似合う光景もない。一日もすればトブの大森林を平らげてしてしまうのではないかと思うほどだ。そしてそんな大喰らいがここに根を張って動かないということは想像できない。
あれが次なる食糧を求めて人里に移動してきた場合、どれほどの被害が及ぶかなど幼子にも想像できる。今ここで討てるのなら、討つしかない。あの魔樹が次の瞬間、エ・ランテルや王都へ飛ぶ可能性だってあるのだから。
「その水晶をあのクソったれに放り込む役目、俺達にも手伝わせてくれモモンちゃん……!」
そう言ってルクルットが前に出た。
しかしモモンは顔を縦に振らない。
「……それは駄目です」
「な、なんでだよ!」
「貴方達程度の戦力が千や万増えたところで、状況はなんら好転しません。却って邪魔になるだけです」
言い放つモモンの言葉はどこまでも冷酷だ。
しかし彼女の声音に棘はない。事実を事実として、伝えているだけなのだから。寧ろ子を諭す様な柔らかい声音だ。ルクルットが喉奥で小さく音を鳴らした。ぐぅの音も出ないとはこのことだろう。彼が魔樹に立ち向かったところで、たちまちミンチにされる未来しかない。
モモンはザイトルクワエを見上げながら、続ける。
「それに今、カルネ村が危険なはずです。危険を察知したモンスターが森の外へ逃げる可能性も十分あるはずですからね。『漆黒の剣』の皆さんにはその対処に向かってほしいんです」
「で、でもよ……!」
「私はあの魔樹とカルネ村の面倒を同時に見ることはできません。どうか、私に代ってカルネ村を守っていただくことはできないでしょうか?」
魔樹の立てる悍ましい地鳴りと破壊音の中、モモンの語り口は静かなものだった。
静かな願いには、有無を言わさぬ説得力と拒絶がある。しかし、彼女は決して『漆黒の剣』を侮っているわけではない。信用しているからこそ、カルネ村を任せたいのだ。
そんなモモンの心を酌み取ったニニャが、彼女の前へ一歩出る。その瞳にはもう迷いはない。腹を決めた冒険者の、焔の様な意志がそこにはあった。
「……モモンさん。なら……僕達と約束をしてくれますか!?」
ぎゅ、と杖の柄を握りしめ、ニニャは漆黒の勇者を見据える。
勇者はそんな彼の言葉を、母の様に待っている。次に出る約束の言葉が既に分かっているようだ。
「生きて、必ず帰ってくると……!」
「……ええ。お約束致します」
モモンはそう言って、快く頷いた。
魔樹の進撃は近い。地鳴りが、一層強く轟き始めた。
「帰ったらどこか、食事が美味しい店に連れて行ってくださいねニニャさん」
「もちろんです!」
握手はなくとも、交わされた視線がその役目を果たす。それ以上の言葉は、もう要らないだろう。腹を決めた様に『漆黒の剣』は頷きあった。
「ありがとう」
モモンは再びグレートソードを構え直して、魔樹に確かに一歩踏み出した。
「行ってください!」
号令に近いその指示に、『漆黒の剣』の四人が弾かれたように駆けだした。向かうはカルネ村。ンフィーレアやエンリの下まで、飛ぶが如く走りゆく。
──そしてそれと同時に、大気を大きく震わせるほどの、ひと際大きい咆哮が魔樹の口腔から発せられた。
びりびりと空気を叩き、森全体に緑の波を作るほどの咆哮だ。明らかな敵意、殺意。
ザイトルクワエがとうとう、モモン達の存在を認めたようだ。
魔樹は走る『漆黒の剣』の背を撃ち抜く様に、口から八つの巨大な種を弾き飛ばした。大太鼓を力一杯叩きつけた様な射出音が、連続して内臓を揺らす。
「──まずいのである!」
ダインが叫ぶ。
種とはいうが、その一つ一つが大柄なダインの何倍もの大きさを誇っている。空を切り裂いて飛来してくるあれの重々しい風切り音が、その鉛の様な質量を表していた。あれが直撃したらひとたまりもないだろう。『漆黒の剣』はそれぞれが自分達の肉体がトマトの様に磨り潰される未来を幻視した。
あの種は防げるほど軟でもなく、避けられるほどノロマでもない。死はすぐ目の前まで差し迫っている。
(──死ん)
網膜に張り付く走馬灯を切り裂くように、彼らの前に漆黒の勇者が飛びいずる。真紅の外套を揺らして現れた彼女は、グレートソードを種が飛来してくる方向に突き出して叫んだ。
「スキル発動──『ウォールズ・オブ・ジェリコ』!」
モモンが叫ぶや、地を突き破って堅牢な城塞の様な壁が彼らの盾と成る為に聳え立った。驚天動地の魔法──実際はスキルだが──に、『漆黒の剣』が思わず尻餅をついて叫ぶ。堅牢な城壁は射出された巨大な八つの種に対し、その金剛の様な硬さを誇る様に身動ぎ一つせずに受け止めた。まるで火薬が炸裂した様な激突音に、『漆黒の剣』が悲鳴を上げる。
「早く行きなさい!」
モモンの鋭い命令に、『漆黒の剣』が弾かれたように行動を開始する。
全速力で、手足が千切れんばかりにカルネ村へ走る。自分達がいたところで足手纏いだと、あの一瞬で本当の意味で理解できたからだ。魔王の相手は勇者にしか務まらない。そんな当たり前のことを、彼らは本能で理解できた。手伝おうなど、なんと烏滸がましい発言だったか。
『ウォールズ・オブ・ジェリコ』が立ち消えるや、次に飛来してきたのは魔樹の巨大な触手だ。鞭を思わせるしなりを作ったあれが、恐るべき速度でモモンの痩躯を横薙ぎに捉えた。鞭の先端は、音速に迫るという。その先端が、盾を構えた彼女に確かに直撃した。その威力たるや、石像をすら簡単に砂粒の山に変えるほどだろう。
触手をまともに喰らったモモンの体は抵抗なく吹き飛び、近くの大木の幹に激突した。
「モモンさん!」
甲高い悲鳴が混じった声をニニャが堪らず上げる。
喉が裂けて、口内の唾液に鮮やかな血が混じる程の声だった。
死んだ、と誰もが思ったが──その想定を容易く裏切り、漆黒の鎧はむくりと起き上がる。
「振り向いてはいけません! 決して、立ち止まらないでください!」
隙なく立ち上がる英雄の姿のなんと頼もしいことか。両手に握られた剣と盾は今なおその手を離れてはいない。『漆黒の剣』は安堵の息を漏らすと、今度こそ駆けだした。
もう振り返ることはない。
それはモモンに対する非礼だと、もう分かってしまったから。
「モモンさん……!」
ニニャは走りながら祈る。
どうか無事に。また笑顔でモモンと話せる時がきますようにと。彼女は自分の無力さに下唇を噛み締めながら、杖を強く握り込んだ。
「行ったか……」
モモン──モモンガは『漆黒の剣』の背中……そして気配が完全に圏外に出たことを察知すると、グレートソードを持った腕をだらりと垂らした。先程まで良い感じに緊張感を持った戦闘を演じていた彼は、既に丸っこい雰囲気になっていた。少なくとも、世界を滅ぼす魔樹を前にした人間のそれではない。
──デカイなぁ。
眼前に聳え立つ巨大な魔樹ザイトルクワエを見上げ、モモンガは至極当然の感想を抱いた。その時に思い浮かべたのは、そう……たっち・みーに勧められて見た、特撮ものの巨大怪獣のそれだ。しかし恐らくスケール的にはあの変身ヒーローや怪獣の何倍もの大きさはあるだろう。
大きいとは、それだけで原始的な恐怖を小さいものに与えてしまうものだ。大きい生物に小さい生物が勝てないというのは、当然の摂理。巨大なものには危険信号が発せられるように人の体はできている。
海洋恐怖症などもそうだろう。海の余りの広さと深さ、居もしない深海の巨大生物の底知れなさに恐怖を覚えるものも少なくない。大きいとは本当にそれだけで、そこに在るだけで、暴力的な恐怖たり得るのだ。
(……うん)
しかしザイトルクワエを大きく見上げるモモンガに、そういった恐怖の感情は不思議と微塵も湧いてこなかった。彼自身、少し笑ってしまうほどに何も感じない。
何故だろう。
あり得ないくらい巨大なモンスターなのに、モモンガにとってはそこらに落ちてる小枝の存在感とさして変わらない。人の身であれば恐怖を感じて然るべき怪物だというのに。
ザイトルクワエのステータスを調べるべくもなく、モモンガは彼奴をひと目見たときから真面目に相手とることすら馬鹿馬鹿しく思える弱者だと断定した。
(ああ……俺は本当に、つくづく化け物だなぁ……)
モモンガの胸に去来したのは途方もない疎外感だった。ここまで来ると優越感すら感じない。あれほど巨大な生物を見て『何てちっぽけなんだ』と思う自分が恐ろしくすら感じる。
先程からじゃれてくる触手に対しても鬱陶しい程度の感想しか抱けない。モモンガが適当に剣を振っただけで既に何本か吹っ飛んでしまい、六つあったそれも既に二本まで数を減らしてしまっていた。
魔樹ザイトルクワエは推定レベルにして八十五。モモンガの総合レベルの半分にも満たない。仮に彼がレベル百だったなら、もう少しザイトルクワエに見所を見出していたのかもしれないが、レベル二百にもなればあの巨体も紙同然にしか思えなかった。
ステータスがどうとか、レベルがどうとか、スキルとか習得してる職業とか魔法とか……そんなものは最早どうでもよい。本能として、生物の強度として、あれを警戒する必要がないと察してしまった。そんな化け物になったと自覚した彼の心境を察せるものなど果たしているのだろうか。
ニニャ。ペテル。ルクルット。ダイン。
『漆黒の剣』の顔を思い浮かべ、モモンガは疲れた様に笑った。
「ありがとう」
──仲間と言ってくれて。
でもきっと、化け物と人は本当の意味で付き合っていけないだろう。ザイトルクワエを前にして、モモンガはそう悟ってしまった。
『漆黒の剣』と自分の持つリアクションの差に少しショックを感じてしまったのだ。世界の終わりを告げる魔樹よりもっと強い化け物ですと言って、彼らが仲間だと言ってくれる自信はモモンガにはない。
レベル二百の存在になってちょっと浮かれていた自分の能天気さが少し憎らしい。モモンガは自分こそが警戒していた『ワールド・エネミー』なのだと理解できて、寂しい気持ちを抱えてしまった。
「……だが、お前もここでは世界を滅ぼせる程の化け物なのだろう? なら化け物同士、遠慮せず仲良くしようじゃないか」
魔樹に感情などあるのだろうか。
それでもモモンガを前にする魔樹には怯えの様な色が見て取れる。
モモンガは自身の魔法で編み込んだグレートソードを空に還すと、代わりに虚空から
「……お前には試したかった実験に付き合ってもらうぞ」
……いや、試し斬りかな?
そう暢気にぼやくモモンガの兜のスリットから、紅い焔が二つ揺らめいた。彼は次に、魔法名を唱える。
『
総合レベル二百。
そのステータスの全てを戦士レベルに変えたモモンガが振るう力は如何程のものなのか。彼に睨まれた魔樹は、凍りついた様に動きを停止した。