アルベドになったモモンガさんの一人旅【完結】   作:三上テンセイ

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 掌からシャルティアが、デミウルゴスが、コキュートスが、マーレがアウラがプレアデスが……ナザリックの配下達の魂魄が自らの中に入ってくるのが分かる。モモンガはキュアイーリムから全てのナザリックの配下達を吸い上げて──

 

 

 

「離れろぉ!!!」

 

 

 

 

 ──キュアイーリムから弾かれた。

 

 

「ハァ……ハァ……ッ!」

 

 

 さしものキュアイーリムもこれは想定外だったらしい。力の半分も吸い取られた邪悪な竜は息を切らして天を仰いだ。

 

 視線の先にいるのは、モモンガ。

 否、モモンガだった何かだ。

 

 先程までの彼ではない。

 

 

「貴様……!?」

 

 

 光に包まれた黄金の繭……。

 それは、月光と星の灯りしかない夜を照らす光となって、キュアイーリムを照らし出していた。

 

 それはやがて目を開けていられないほどの光量に発展し、モモンガの五体に収束していく。

 

 

「ぐ……っ!」

 

 

 光の繭に包まれたモモンガの全容が、やがて明瞭になっていく。

 

 

 

 ──そこには神々しい光を湛えた、人智を超えた存在が君臨していた。

 

 

 

 

 モモンガの……アルベドの瞳の中の、縦に割れた虹彩が形を変えていく。燦然と煌めくその瞳には『アインズ・ウール・ゴウン』の紋章が浮かんでいた。

 

 ……それだけではない。

 濡れ羽色の髪は金色(こんじき)に輝き、その身には天女の様な羽衣が纏われている。淡く白く光沢を纏う六対の翼が背から伸び、彼の背中には万物を浄化する様な光輪が顕現されていた。

 

 一言で言えば、女神だろうか。

 アルベドの美貌も手伝って、そこには一切の不浄を払うような黄金の女神がキュアイーリムを見下ろしていた。

 

 それに呼応するかの様に『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』も姿を変えていく。金色のスタッフは、柄を得て、白銀に煌めく刃を生成し、一振りの剣と相成った。柄にはスタッフを象徴する七つの宝石が今尚輝きを損なうことなく存在感を発揮し、収まっている。

 

 世界を革命するかの様な一振りを握り、モモンガは『アインズ・ウール・ゴウン』の紋章が煌めく瞳で、キュアイーリムを見据えた。

 

 

「モモンさん……まるで、“神様”みたい……」

 

 

 地上からそれを見ていた『絶死絶命』が、譫言の様に呟いた。神様とは、六大神のことを指しているのではない。本当の意味での神のことだ。

 

 それは比喩でもなんでもない。

 光の女神が、荒廃した世界を淡く照らし出している。

 

 

「我を、我の、我から、よくも、よくも、よくも……到底、許されぬぞ!!!」

 

 

 キュアイーリムが忌々しく吠える。

 未だナザリック以外の魂を収める邪悪な竜は、正真正銘の化け物だ。世界を滅ぼせるだけの力はまだその身に宿っていることだろう。

 

 ……しかしそれは、モモンガとて今は同じこと。

 

 ナザリックの配下達の経験値、レベル、特殊技能をその身に集約した彼は、もはやキュアイーリムと同じく神の境地に到達している。

 

 

 

「さぁ……ここからが最終決戦だ」

 

 

 

 美しいソプラノの声が、世界に垂らされる。それだけで世界は浄化されるようだった。

 

 ……互いの合図などない。

 

 漆黒に染まる邪悪竜と、黄金に輝く女神は、互いの全存在を賭けた最終決戦に身を投じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 星の表面が剥がれ、吹き荒ぶ。

 

 大気が滲み、海が蒸発し、大陸は大きく罅割れた。

 

 漆黒と黄金がぶつかる度に地殻変動が引き起こされ、それだけで星の表面が地形を変えていく。彼らの戦いの舞台はやがて宇宙(そら)へと変わり、天体と天体とを駆け巡り、小惑星を滅ぼした。

 

 神と神。

 神話を超えた頂上決戦。

 

 モモンガは剣を返すと、恐ろしい速度と威力を以てキュアイーリムの翼を両断した。世界最強を容易く穿つ切れ味に、キュアイーリムは堪らず絶叫する。

 

 

「汚いぞ貴様! 我が集めた力を強奪しおって! 貴様の行為は万死に値する!!!」

 

「汚いってどの口が言ってるんだよ……!」

 

 

 息をつく間もない。

 キュアイーリムの口腔から放たれた烈火が、モモンガを濁流の様に飲み込んだ。咄嗟に身を守ったが、それでもそのダメージは計り知れない。彼は全身を苛む痛みに喘ぎながら、朦朧とした意識のまま邪悪竜を睨んだ。

 

 

「何故だ……何故、我が貴様なんぞに……」

 

「ハァ……ハァ……全く、なんてタフな竜だ……」

 

 

 剣に付いた血を払い、モモンガは喘鳴しながら顔を痛みに歪めていた。

 

 満身創痍はお互い様だ。モモンガとて無事ではない。だが、互いの尋常ではないダメージ量は、刻一刻と戦いの終わりを感じさせている。

 

 

「哀れな人間よ……! そのように必死にこの世界を護ったところでどうするというのだ……!? 貴様の望む未来などないぞ……!」

 

「はぁ……はぁっ……何だと……?」

 

「英雄気取り……一時の人助け……ハッ……愚かなことよ。貴様はどうせまた裏切られる……! 鈴木悟、お前は哀れな人間だ。お前が必死に世界を守っても、そこにお前の居場所なんてない。お前が最高の仲間と呼び、居場所を守ってきた『アインズ・ウール・ゴウン』のようにな……!」

 

「知った風なクチを……!」

 

「ククク……我を滅ぼしたところでどうする? また伽藍堂な城の玉座に座る気か……!? 来る日も来る日も、また空虚な時を過ごすことになる……! 他者はお前を見限るぞ! そうやって必死に守ったところでな……! 皆お前やお前の居場所を見限る!」

 

 

 ──……ふざけるな! ここはみんなで作り上げたナザリック地下大墳墓だろ! なんでそんな簡単に棄てることができる……! 

 

 

 ユグドラシルサービス終了のあの日、ぶつけようのない感情から吐いたあの台詞が今のモモンガには懐かしい。

 

 悲しみ、怒り、孤独感……全てが綯交ぜになり、モモンガは拳で円卓を叩いていた。

 

 ……そして、それが愚かなことであると彼は今心の底から思っている。

 

 モモンガは火焔を切り裂きながら、キュアイーリムを睨み据えた。

 

 

「見限る……? 違う。彼らは、俺の仲間達は、『アインズ・ウール・ゴウン』を裏切ったんじゃない……!」

 

「では何だというのだ! お前を捨て、お前が守っていた場所を忘れ、のうのうと別の世界を過ごす生温い仲間の姿にお前は耐えられるというのか!? 耐えられまい! お前は所詮王や英雄などという器ではない! 孤独にすら耐えられぬ、脆い人間でしかないのだからな!」

 

 

 キュアイーリムの爪が、モモンガの剣と鍔迫り合う。モモンガは目を細め、両者の間に弾ける火花を物ともせず邪悪を睨んだ。

 

 

「違うな……お前は根本的に間違っている、キュアイーリム。おかしいのは……間違っていたのは、俺の方だったんだよ……!」

 

「何を言うかと思えば……! 貴様の心の翳りは、貴様の記憶を吸い上げた我が一番理解しているのだぞ……! 今更善人ぶっても、貴様の心は我に偽ることはできぬ!」

 

「そうだ、お前の言うとおり、俺は確かに彼らに憤りを感じていた! それは事実! だが、俺はこの世界にきて、自らの過ちを知ることができたんだ……!」

 

「何が違う!? 何故違う!? 裏切り、見限り、どう言い繕ったところで事実は変えられぬぞ!」

 

 

 両者の間に火花が散り、互いに距離を取る。

 竜と女神は、肩で呼吸を整えながら互いを睨みつけた。

 

 

「違うともキュアイーリム。確かに俺はアインズ・ウール・ゴウンを愛していた……ナザリックを去った仲間達を憎く思う時がなかったと言えばそれは嘘だ」

 

 

 瞼を閉じ、思い出されるのは寂しさに埋もれる日々。来る日も来る日も、孤独な墓守りを続けたモモンガは確かに暗い感情を抱えていた。

 

 何故来ない。

 何故アインズ・ウール・ゴウンを思い出さない。

 何故そんなに簡単に忘れることができる。

 何故、何故、何故……。

 

 何も実らぬ私生活に、何も癒されぬ仮想現実。

 モモンガは、鈴木悟は、人知れず仲間達に対して傲慢とも言える感情を抱えてしまっていた。

 

 

「だけど、違う……それが普通なんだ。出会いと別れがあり、悲しみや怒りもあり……理不尽な感情を抱え、それでも人はそうやって生き、傷ついて成長していくものなんだよ。ナザリックという一つの場所に固執していた俺こそが、間違っていたんだ」

 

 

 モモンガはそう言って、剣を高々と掲げた。

 彼を包む黄金の光は、一層に輝きを増していく。

 

 

「そして、それが人間の強さだ……! 過去を想い出とし、新たな出会いや別れを求めて再び前を向いて生きることこそが人間なんだ……! 彼らはナザリックを捨てたのではない! 良き想い出とし、新たな未来を生きているに過ぎない……! そしてその門出を祝うことこそ、ギルド長の……いいや、彼らの友人としての俺の務めだ……!」

 

「世迷言を……! 貴様がどれだけ妄言を吐こうが、この世界の神となるのは我だ! あの世で再び永遠の孤独を過ごしながら朽ちていくがいいわ!」

 

 

 キュアイーリムが絶叫した。

 その口腔には『滅魂の吐息』が煌々と煮えたぎっている。

 

 対するモモンガは黄金の剣を掲げながら、キュアイーリムの挙動に一切怯むことなく突貫していく。

 

 

 ──世界から音が失われた。

 

 

 モモンガは『滅魂の吐息』の中を突き進みながら、ひたすらに輝きを増していく。

 

 体はもうボロボロだ。

 HPはゴリゴリと削れていき、目を開けているのも苦痛なくらいだ。呼吸もままならず、皮膚が剥がれ落ちる様な痛みに叫びそうにもなる。

 

 凡人の魂でしかないモモンガには耐え難い程の激痛。様々な負の感情に侵され、少しでも気をやると絶命は免れないだろう。

 

 しかし──

 

 

(お前達……)

 

 

 ──モモンガは幻影を見た。

 

 今にも崩れ落ちそうな己の背を支える、守護者達の姿を。剣を握る手にそっと重ねられる、アルベドの手を。

 

 モモンガは、怯まない。彼らが支えてくれているのなら、後退の文字はない。口を真一文字に切り結び、黄金の輝きを絶やさず、ひたぶるに前へ。

 

 やがて全てを飲み込むような漆黒を抜けると、目の前にキュアイーリムの頭蓋が現れる。

 

 

「終わりだ……キュアイーリム!!!!」

 

「や、やめ──」

 

 

 

 モモンガは叫ぶ。

 

 乾坤一擲の一閃。

 閃光を纏う刃はキュアイーリムの頑強な鱗に食い込み、容易く肉に到達する。

 

 

 

 

 

 

 モモンガは魂を吐く様な叫びを宇宙へ轟かせながら、キュアイーリムの首を切り落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 青い星。

 宇宙とこの星の狭間で、キュアイーリムの首とモモンガは漂っていた。全てを使い果たしたモモンガにはもう、何をすることもできない。ただ、その空間に漂うことしかできないでいる。

 

 

「貴様……よ、くも……」

 

 

 首だけとなり、最早無力な存在と化したキュアイーリムが憎々し気にモモンガを睨む。しかし邪悪な竜には既に抗う力などなく、その殺気混じりの視線をモモンガはそよ風の様に受け流した。

 

 

「そんな姿になっても、まだ喋れるのか……」

 

 

 半ば呆れ。半ば感心。

 モモンガは血と火傷に塗れた体を庇いながら、朦朧とする目でキュアイーリムの視線を返した。

 

 

「鈴木悟……と、取引がしたい」

 

「なに……?」

 

「お、お前となら、この世界の全てを思うままにできる。だから……だから、我を殺すのはやめてくれ……我の傷を癒してくれたなら、世界の半分をやろう」

 

 

 そんな古臭い言葉に、モモンガは気の抜けた様な笑みを浮かべた。

 まさかそんな言葉を投げかけられるとは思っていなかった。それに、こんな姿なのにまだ不遜ぶっていることがちゃんちゃら可笑しい。

 

 

「は、はは……」

 

「何が可笑しい?」

 

「悪いな、キュアイーリム……お前の……いや、俺達の結末は、もう決めてるんだ……」

 

「え……?」

 

 

 

 手が震える。

 モモンガはキュアイーリムに……というより、互いの狭間へと手を翳し、囁くようにこう唱える。

 

 

 

「……魔法遅延化(ディレイマジック)・『核爆発(ニュークリアブラスト)』」

 

 

 

 それはモモンガに残された最後のMPが、消費された瞬間だった。体の中からごっそり力が抜けていく感覚に、しかしモモンガは酷く優しい笑みを浮かべている。

 

 

 

「な、なにをしたんだ、貴様……」

 

「……遅延化を掛けた爆発魔法を唱えた。じきに、ここら一帯は大爆発を起こす」

 

「な、なんだと……!? お、おいやめろ! 我は、我はまだ死にたくない! そうだ、我を生かしてくれたなら──」

 

 

 キュアイーリムの声はモモンガに聞こえちゃいない。

 

 モモンガは既にこの結末を想定していたから。

 

『核爆発』

 

 周囲一帯に大爆発を巻き起こすこの魔法は、術者のモモンガとて範囲圏内。このまま時を過ごせば、HPギリギリの彼とて絶命は免れないだろう。

 

 ……だが、それでよかった。

 

 初めてこの世界にきた時の感動を、彼は忘れちゃいない。美しく、清らかで、そしてそこで生きる人間達の気高い心に溢れたこの世界。

 

 そう、きっと自分は、この世界に来るべきじゃなかったとモモンガは思う。

 

 眼下に広がる、荒廃した青い星を見て、その想いは一層に強くなってしまった。

 

 自分がこの世界にいる限り、きっとこの様な事態は再び招かれるに違いない、と。

 

 だから、去るべきだ。自分やキュアイーリムの様な、過剰な力を持った人間は、この世界には不要なのだ。

 

 

 

「……いいよね、みんな」

 

 

 

 何かに向けて懺悔する様な囁き。

 それは、彼の身に宿る守護者や、かつての仲間達に向けてのものだった。

 

 決別とも取れるその言葉。

 

 それと同時に、彼の体は淡く光りはじめる。分かる者であれば、彼を覆う幾何学模様の魔法陣が、超位魔法発動前段階のそれだと理解できるだろう。温かく、柔らかなその光は、モモンガが唱える最後の魔法へとなり……キュアイーリムの手によって荒廃したこの星を照らし出した。

 

 

 

 

「……我は願う(アイ・ウィッシュ)! 邪悪な竜によって滅ぼされたこの星の全ての生命、国、文明、自然……遍く全てを……この世界を復活せよ!」

 

 

 

 

 その瞬間、モモンガの体が一層の輝きを放ち始める。

 

星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)

 

 あらゆる願いを叶える超位魔法にモモンガが差し出す経験値は、彼と、そして『アインズ・ウール・ゴウン』が蓄えたその全てだ。世界を改変する規模の願いにその決断は必要不可欠。モモンガは、自分と『アインズ・ウール・ゴウン』の全てを懸けて荒廃したこの世界を取り戻す決断を下したのだ。

 

 命を、そして魂をくべる黄金の輝きは、やがて世界を包み込み……滅ぼされた王国、帝国、法国……あらゆる国や自然、人間を復活させ、この青い星をもとのあるべき美しい姿へと変えていく。

 

 

「デミウルゴス……シャルティア……コキュートス……マーレ、アウラ……そして、アルベド……こんな主人で済まない。最後は、この俺の最後の……たった一つの我儘に付き合ってくれ……」

 

 

 経験値という生命力を願いに吸い上げられていく。

 モモンガの視界が霞んでいく。黄金の光の中に、再び守護者達の幻影が浮かぶ。

 

 彼らは何一つとして不満をその表情に浮かべることなく、モモンガの下に傅いている。

 

 ……我らの神の望みであるならば。そんな声が、聞こえた気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 ──やがて、世界を照らす復活の光が収束した頃……キュアイーリムとモモンガの身を焼き尽くす火焔の花がこの宇宙(そら)に花開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆発に巻き込まれたモモンガの体が落下していく。

 

 大気圏を超え、成層圏へ。

 

 眼下には、全てを取り戻したアーグランド評議国が広がっている。そこに息づいていた亜人達が、自らの復活に戸惑うように喧騒を形作っていた。

 

 紅く灼けるモモンガの体が流星の様に評議国に落ちていく様を、地上の彼らは指を差して眺めている。

 

 

「モモン様ぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!」

 

 

 地上から飛び立つ、一つの影。

 耳慣れたその声に、微睡みかけていたモモンガの意識が僅かに引き戻される。地上の豆粒でしかなかったそれは猛烈な勢いで彼のもとまで到達すると、落下するモモンガの肉体をその小柄な体で抱き留めた。

 

 

(イビルアイ……)

 

 

 細く、小さな腕ではモモンガの体を支えきることは叶わない。

 僅かだけ速度を落としただけで、彼らは錐揉みながら星の表面へと落下していく。イビルアイという存在の温かさに、モモンガは再び目を閉じた。

 

 

「モモンさん!!!」

 

 

 次に鼓膜を揺らしたのは『絶死絶命』の声だった。

 彼女は矢の様に家屋の屋根から跳躍するや、モモンガとイビルアイの落下を妨げる様に二人の体を抱き締めた。

 

 

「モモン!」

 

「モモンさん!!」

 

 

 ツアー、そしてニニャ。

 彼らも慌てて彼女達を受け止めて……。

 

 

「アルベド殿!!!」

 

 

 ガゼフが、声を張り上げる。

 

 気づけば、もう地上はすぐそこだった。

 ガゼフが、蒼の薔薇が、漆黒聖典が、帝国四騎士が、『カゲ』を討つ為に各国から集まった冒険者、精鋭達が、モモンガを受け止めるべく人の山を形成している。

 

 モモンガを離すまいと固く抱きしめるイビルアイと、彼女達を覆う『絶死絶命』、ツアー、ニニャの塊はやがてその山へと激しく落下した。

 

 

「モモン様!!!」

 

 

 イビルアイが激しく自分の名前を呼んでいる。

 モモンガは動けない。ただ微睡みと現実の狭間を揺蕩って、ぼんやりと彼女の顔を見上げていた。

 

 

(ああ……)

 

 

 体が冷えていく。

 なのに心はじんわりと温かい。

 

 仮面の下でくしゃくしゃに顔を歪めて泣いているだろうイビルアイに、モモンガは優しく微笑めた様な気がした。

 

 ガガーランが、ラキュースが、ティアがティナが、ガゼフが……今まで関わってきた友人と呼べる人達が、自分の顔を心配そうに覗き込んで何かを言っている。でも、そのどれもがもう聞こえない。

 

 視界は濁り、声は遠ざかり、まるで深海の底へと沈んでいくようだった。

 

 モモンガの体がやがて形を保つことすら叶わなくなりはじめ、足の先から光の粒子へと変わり始めていた。イビルアイがそれに気づいて、何かを叫んでいる。大声で泣いている。

 

 

(お腹、空いたなぁ……)

 

 

 モモンガは霞む目で最後に、イビルアイの後ろに燦然と輝く星空を見た。

 

 消えていく手を伸ばす。

 この世界に来た初めての日も、確かこんな綺麗な満天の星空だったはず。

 

 

 

(きらきら輝いて……まるで、宝石箱みたいだ……)

 

 

 モモンガはやがて目を閉じると、身を委ねた。

 

 深海の底へと、彼の体は沈んでいく。

 もう何も見えない。何も聞こえない。

 

 主に付き従う様に、限界を迎えた『スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン』が側で弾けて消えていく。

 

 ……最後になってようやく自分(モモンガ)を愛することができた彼は、とても優しい微笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





次回、エピローグ。

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