ようこそ二度目の教室へ   作:石門 希望

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今回は結構短いです


第2話 視察

 綾小路くんのおかげで気まずい空気のまま自己紹介は終わったわ。

 それにしても、案外、自己紹介って難しいのね。私の時も反応はあまり良くなかったことだし、彼を笑うのもやめたほうがいいいかしら?

 ちょっと失敗してしまったかもしれない自己紹介だったけれど、収穫はあった。

 

 私の自己紹介の時、櫛田さんの顔がひどくこわばっていたのに気づくことができた。私の自己紹介で顔がこわばったのは彼女だけではなかったのだけれど、彼女のそれは他のみんなとは異質だった。彼女を特に注意深く観察した甲斐があったというものだわ。

 あの様子だと、早急に対処したほうがよさそうね。

 

 これは前の私では決して得られなかった成果だ。一度目は自己紹介を必要のないものと切って捨ててしまっていたものだけれど、それをしてしまっていた私は愚かだったわ。

 

 自己紹介も終わったということで、教室に残っていた面々は各々既にある程度出来上がったグループで、さっそくいまから遊びに行くようだ。結局みんなへのSシステムの注意は出来ずじまいだ。これも早いタイミングで機会を作る必要がありそうね。

 

 一度目を経験しているからこそ、やるべきことがたくさん見えてくる。やはりこのクラス――Dクラスには問題が山積みだ。現時点で不良品と揶揄されるのも、悔しいけれど仕方がないだろう。それでも、私は知っている。

 

―――不良品は手を加えることで良品へと変わることを

 

「綾小路くん、この後暇よね」

「あ、ああ。確かに暇なことに違いはないが、そう断定されると傷つくぞ」

「なら問題ないわね。いまから学校内を視察しに行くわ。

 付き合ってもらうわよ」

「まぁ、それくらいなら問題ない」

 

 私は手始めにこの学校の視察を行うことにする。一応、一度目でそれなりに把握しているつもりだけれど、慢心するのは良くないわ。もしかしたら、一度目との相違点もあるかもしれない。

 ありえないと言い切れない以上、その可能性を捨てずに考慮し行動する。

 認めたくはないけれど、あの男から学んだことだ。

 それに、視察したということ自体、今後意味を持たせることができる。

 

「さっさと行くわよ」

 

 綾小路くんを引き連れながら学校内の施設を一通り見終えることができた。この時期の他クラスの様子や監視カメラの位置や視覚など、改めて見るべきところは多かった。

 視察も終えたことだし、帰る前にコンビニで必要なものを買いそろえようかしら。

 

 そうしてコンビニへと向かうと、入り口前で言い争いをしている生徒がいた。それも、一人は私にとって馴染み深い人物だ。

彼のあのような態度を見るのは久しぶりね。

 

「止めに行くのか?」

「ええ。彼はクラスメイトよ。

 彼の行動は彼一人の問題に収まらない。クラス全体にも影響するもの」

「わかった。オレもついていく。もしもの時の肉壁くらいにはなれるだろう」

 

 ずいぶんと協力的な綾小路くんの態度にわずかながら驚いてしまう。

 一度目では散々協力を要請しても断られ、基本的に強引な手段をとるまで手を貸すなんてことはしなかったのに、いまの彼は私が何を言うでもなく、自分からいざというときは肉壁になると宣ったのだ。

 

「どうした?」

「いえ、何でもないわ。行くわよ」

 

 気を取り直して、私たちは須藤くんと言い争っている上級生たちの仲裁に入る。

 

「あなたたち、言い争いはやめなさい」

「ああ!? ンだよテメェら!!」

 

 最初に反応してきたのは須藤くんだった。

 

「私はあなたと同じクラスの堀北鈴音よ。

 それより、こんなところで騒ぎを起こすと迷惑になるわ。

 どちらに原因があったにせよ、ここはお互いに引くべきじゃないかしら」

「関係ない奴はすっこんでろ!」

「ハハッ、こりゃとんだ不良品だな。そんな奴と同じクラスなんて同情するぜ」

 

 3人組の上級生と見られる男子生徒のうちの一人が、須藤くんをさらに煽る。

 

「この野郎!!」

「やめなさい!!!」

 

 手が出そうになるのを何とか踏みとどまったようだけれど、このままじゃ危険ね。

 

「先輩方、どうかここは引いていただけませんか」

「あ!? 勝手なこと言ってんじゃねぇ!!」

「おお、怖い怖い。ま、そこの嬢ちゃんに免じて引いてやるよ。

 精々惨めな生活を送ることだな。いくぞお前ら」

 

 最後までお道化た調子で挑発しながら上級生らしき3人は去っていった。

だが、本番はある意味ここからだろう。

 

―――須藤健くん

 一度目の学校生活で、私の初めての仲間になった人物。

 いまはまだこの調子だけれど、成長した彼はクラスの大きな力になってくれる。

 今度は最初から見捨てようなどとは考えない。

 

 怒りをくすぶらせている須藤くんは、衝動的に憂さ晴らししそうになっている。

 ここは注意する必要があるだろう。

 

「須藤くん、あそこを見なさい」

 

 そう言って、監視カメラのほうを指さす。

 彼を名称で呼んだことに二人は不思議がるかもしれないけれど、注意するだけだったり、「あなた」などの2人称だったりだと、彼の注意を引くには不十分かもしれないから保険をかけた。

 それに彼の名前という情報は現時点で()()()()()()()で、()()()()()わけじゃない。

 

 うまく彼の注意を引くことができたようで、須藤くんの視線が監視カメラに向いたタイミングで言葉を継ぐ。

 

「この学校の敷地内にはあんな風に監視カメラが至る所にあったわ。

 学校は私たちの行動を逐一チェックしていると見ていい。

 いまみたいな問題行動を起こせば、最悪退学もありえる」

 

 実際は一度くらいなら停学で済むわけだけれど、彼の危機感を煽るため最悪の可能性を提示する。

 

「……うっせぇな。テメェには関係ないだろ」

「いいえ、関係あるわ。

 あなたは私のクラスメイトなんだもの。

 こんなことで退学するかもしれないのを見過ごすなんてできないわ」

「……チッ」

 

 気まずそうに舌打ちした彼は、そのまま何も言わずに去っていく。

 いまの彼にとって私はほとんど初対面の人間。かけられる言葉は多くない。下手なことを言えばかえって不審にも思われるだろう。

 だけど、最後に―――

 

「須藤くん、私はあなたを見捨てないわ」

 

 この言葉だけは伝えておく。

 

 この言葉は去っていく須藤くんにだけじゃない、私自身にも向けた決意の言葉。

 正直、もう一度彼を改心させるのは骨が折れそうだけれど、その程度のことをあきらめたらAクラスなんて夢のまた夢もいいところだ。

 だから決して見捨てない。

 

 その後は綾小路くんとコンビニの無料品を確認して、寮の自室につく。

 

 ようやく初日が終わりを迎える。

 私にとって、本当に長くていろいろあった一日だった。

 悔しさに身を焦がしそうになった卒業式に始まり、どういうわけか再び入学からやり直している。

 まだ完全には心も頭も整理がついていない。

 それでも、やりたいことははっきりと見えている。

 

 

 

 こうして、堀北鈴音の再スタート、その初日は終わりを迎えた。






堀北(綾小路くんの自己紹介よりはマシだったわ)
綾小路(堀北の自己紹介よりはうまくできただろう)


みなさんはどっちのほうがマシだと思いました?




どっちの自己紹介がマシ?

  • 堀北鈴音
  • 綾小路清隆
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