自己紹介人気投票、綾小路君が割と大差をつけて勝利したのは意外でした。
投票に参加してくださったみなさま、本当にありがとうございます。
楽しんでいただけたなら幸いです。
2日目。
すべての授業を終え放課後を迎えたにもかかわらずDクラス生徒の全員が教室に残っている。
それもそのはずだ。私がこうなるように呼び掛けたのだから。
もちろん、私自身が直接呼びかけたとしたら全員が残るなんて結果にはならない。だから放課後までの間に櫛田さんと平田くんに「今後の学校生活に関わる重大なことをクラスのみんなに知らせたいから協力してほしい」と声をかけた。平田くんに関しては彼の性格上何の問題もなく協力してくれたし、櫛田さんもいくら嫌いな私からの頼みだとしても、彼女の演じているキャラクターを崩すわけにはいかないからすんなり協力してくれた。
櫛田さんに頼んだ時、彼女からはものすごく意外そうな顔をされたものだけれど……。
そうしていま、私はクラス全員を前にして壇上に立っている。
みんな、私がいまから何をするのかわからなくて困惑していたり、不安がっていたりしている。普段と変わらない様子なのは事前に概要を話した櫛田さんと平田くんを除けば綾小路くんと高円寺くん、松下さんに幸村くんくらいだろうか。4人とも私がすることを察しているのだろう。
私は教室を満たす混沌とした空気を打ち破るように堂々と声を張りあげる
「早速だけどみんなには知っていてほしいことがあるの。
それは、今日みたいな生活を続けていると来月はポイントが1ポイントももらえなくなるかもしれないってこと。」
この一言に平田くんも含めたほとんどの人が動揺する。
協力してもらったとき、平田くんには櫛田さんほど詳しくは説明しなかったものね…。無理もないわ。
平田くんが詳しく知らないのは彼に関しては「放課後にみんなを集めてほしい」といっただけで協力してくれたからだ。むしろ女の子に囲まれている彼に話しかけるまでのほうが苦労した。
問題は櫛田さんのほうだった。
櫛田さんに協力を取り付けたのは井ノ頭さんと王さんと話しているときだった。一人でいるときだったら断られてしまう可能性があったので、彼女がみんなから愛されるキャラクターを演じているときに話しかける必要があった。
「みんなに共有しておきたい情報がある」と言ったとき、彼女は最初に自分が中学校時代に起こした出来事をみんなの前で暴露されることを恐れたはずだ。
それでも表面上協力は得られるはずだが、そのままにしておくにはあまりにも危険すぎる。
だから彼女にはある程度みんなの前で話す内容を詳しく知ってもらう必要があった。そのため平田くんよりも多くの情報を既に持っている。それでも彼女は私を警戒するだろうし、いまこうして私が学校のことについて話している間もみんなに過去を暴露しないか恐れている。
これが長引けば前回と同じようにクラスを裏切ってまで私を退学させようとしてくるでしょうね。
―――だから彼女との決着は今日中につけるつもりだ。
そんな決意をしつつ私は動揺するみんなの疑問にこたえていく。
「ハア!? 毎月10万もらえるっていわれたじゃん!!」
「いいえ。10万ポイントを支給するとは言われたけれど、来月以降も10万ポイント支給するとは言われてないわ。先生はあくまで今月支給されるポイントが10万なことと、毎月ポイントが振り込まれるとしか言っていない。この二つはつながっていないのよ。
それにみんな、上を見てほしいわ。」
そう言って私は監視カメラを指さす。
視線を誘導させられたみんなは天井にある過剰ともいえる数の監視カメラに驚いている。
「この教室だけじゃない。この学校にはいたるところに監視カメラが設置されているわ。他のクラスの教室はもちろん、廊下や屋上にも監視カメラがあったわ。それに、校舎内だけじゃなくて学校の敷地内ならどこでも見張られていると考えたほうがよさそうよ。公園やコンビニにも監視カメラはあったもの。
それは昨日、私と綾小路くんで確認済みよ。
そうよね、綾小路くん?」
みんなから注目されて居心地悪そうにしながらも綾小路君は首を縦に振ってこたえてくれた。
「それで、話の続きなのだけれど最初の説明の時に先生は「この学校は実力で生徒を測る」と言っていたわ。
それに加えてこの学校にはいたるところに無料品がおいてある。まるでポイントが無くても最低限生活ができるようにするかのように。毎月10万ももらえるならそんなもの必要ないでしょう?
これらのことを合わせて考えると私たちの日頃の授業態度や生活態度、学生だからテストの点数次第でも、来月以降にもらえるポイントに変化がある可能性は非常に高いと思うわ。
授業中に携帯をさわったり隣の人と会話しても注意されないのは妙だとは思わなかった?
先生が気づいてないなんてことはないわよ。あなたたちのそういった態度を見かける度、メモを残している様子だったことだしね。」
一度目の学校生活で知ったことを、現時点で知りうる情報をもって推論を組み立て説得する。
みんな、納得すると同時に今日の態度を思い返しているのかバツが悪そうだ。まだ授業初日ということでそこまでひどいものではなかったが、それでも態度が悪いことに変わりはない。
「先生は3年間クラス分けの変更はないとも言っていたわ。
つまり、ポイントに変動があるとすればクラスでの連帯責任になることもありえるわ。
自分だけだと思って身勝手な行動をとると、クラス全員に迷惑がかかるかもしれないのを意識してほしい」
そういうと多くの生徒の視線が須藤くんのほうに向かってしまった。ずっと冷静だった幸村くんもここで初めて動揺を見せた。
須藤くんは苛立たし気に舌打ちを打って私をにらみつけてくる。
「んなの、全部てめぇの妄想かもしれねぇじゃねぇか!!」
「そうかもしれないわね。
それでも、来月ポイントが支給されるまでの間は我慢してほしいの。
もし来月も10万ポイント支給されていたら全部私の妄想だったというだけのことよ。それ以降は好きにしてくれていい。
けれどもし私の推論が当たっていたとしたら、辛い思いをするのはあなたよ。
だから今月だけでも耐えてくれないかしら」
須藤くんは何も言わずに教室を去っていく。
そろそろ部活も始まる時間だし、彼を引き留めることはしなかった。
「最後にこれは私の我が儘なのだけれど、他のクラスの生徒にはこのことを教えないでほしいの。
もしかしたらこの先クラス間でポイントを争うようなことになるかもしれないから。」
それだけ言い残して壇上を降りた。
その後は一通り言い終えるべきことは言い終えたので櫛田さんと平田くんの二人に任せた。二人が上手くクラスをまとめてくれた結果、今月いっぱいは節約しようというところに落ち着いてくれた。他クラスへの情報共有についても、できるだけ情報を漏らさないように意識する方向にまとまってくれた。
話もまとまったのでみんなそれぞれ教室から去っていく。その際何人かからはお礼を言われた。反面、少し不満そうな人も何人かいた。
昨日と違って遊びにいく人は少ないようだ。
私もいったん自室に帰ることにする。
後は、今日これから待っている難題に備えるだけだ。
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放課後にみんなを集めるのに協力してもらった際に、私は櫛田さんと連絡先を交換していた。
自室に帰った私は彼女に私の部屋へ1人で来るようにメッセージを送る。
しばらくするとチャイムが鳴ったので扉を開けると案の定そこには櫛田さんがいた。彼女を私の部屋へと招き入れる。
「私に何の用かな? 堀北さん」
「そうね。私はあなたに契約を持ち掛けにきたの」
「契約?」
「ええ。私はあなたの過去を知っているわ。」
その途端、彼女は殺気にも似た気配を放ちだし私を睨みつけてくる。
ただその程度のことで私は動じない。こんな彼女を見るのは初めてではないし、もっと恐ろしいものも知っているつもりだ。
「何? 脅迫でもするつもり?」
「いいえ。あくまでも契約よ。
私とあなたは対等。どちらか一方的な関係にはならない。
私があなたの秘密を守る代わりに、あなたには私に協力してほしいだけ。」
「それ、あんたに協力しなきゃ私の秘密ばらすって言ってるようなもんだよね?」
「いいえ。それは違うわ。
仮にあなたが私とここで契約を結ばなかったとしても、私はあなたの過去を誰かに話したりしない。」
「何それ? 冗談? 冗談だとしたらつまらないよ」
「冗談でも何でもないわ。
ここであなたが契約してもしなくても、私はあなたの秘密を話すようなことは決してしない」
「信じられるわけねぇだろ!!!!」
櫛田さんは衝突し私の襟をつかみあげながら先ほどより一層射殺すような視線をぶつけてくる。
それにひるまずに言葉を続ける。
「信じる必要はないわ。
だって、いま持ち掛けている話は契約なのだから。
結ばなかったところで現状維持。だけど、結ぶことで互いに得るものはある。
ただそれだけよ」
「フザケンナ! あんたなんかと契約して私に何が得られるっていうのよ!!!」
「そうね……一言でいうと、対等な関係……かしら?」
「………ハア!?」
「とりあえず、まずは話だけでも聞きなさい」
そういうと、ようやく櫛田さんは私から離れた。
だが依然として私を警戒し疑っている様子だ。
「櫛田さん、あなたにとって現状は決して看過できるようなものではないはずよ。
私はあなたの過去という秘密を持っているのに対して、あなたは私に対して何の武器も持っていない。
あなたにとって私は邪魔で仕方がない存在のはずよ。」
櫛田さんは沈黙を貫く。ひたすらに私の話の出方をうかがっている様子だ。
「そこで契約よ。
契約があれば、その内容を遵守する限り私があなたの秘密を不用意に話すことはしなくなる。契約の内容は私に利があるものだもの。不用意に話して私があなたから利益を得ることができなくなったら損になるわ」
「……それだけじゃ信用できない。
あんたにとって大した利益じゃなかったら、契約なんて破って暴露されるかもしれない………。」
「そのとおりね。でも保証するわ。
契約の内容は私にとって3年間なくてはならないものになるって。」
「……内容は?」
やっと交渉のテーブルにつかせることができたことに安堵する。
「内容の前に、説明する必要がある話があるわ。
放課後に話したときに少し触れたけれど、私たちのもらえるポイントは変動するもので、この先同じ学年にある4クラスの間でポイントは競うものになると考えているわ。
仮にクラス間で競うポイントをクラスポイント、私たちが日ごろ使うポイントをプライベートポイントとしましょう。
他のクラスの様子も見てきたのだけれど、それぞれのクラスには特色があったわ。Aクラスは落ち着いた雰囲気でほとんどが勤勉で優秀そうだったわ。Bクラスは既に連帯感の強さを感じたわ。Cクラスはいまのところ暴力が盛んで荒れている印象だったわ。」
「それは……ちょっとわかるかも……」
「そう…さすがね。
このことから各クラスに配属された生徒にはそれぞれのクラスごとの特徴があると考えたわ。
そして、問題はDクラスの生徒の特徴よ。
これは偶然耳にしたことなのだけれど、須藤くんと上級生がもめているときに上級生がDクラスのことを不良品と言ったのよ。それでいて、Dクラスには高円寺くんや須藤くんみたいに独特な生徒が多い。一見問題なさそうに見えるあなたにも過去に大きな秘密がある。
ここから考えられるのは、Dクラスには能力はあれども、何かしら大きな欠点を抱えている生徒が多いということよ。」
「……それで? その話とポイントに何の関係があるっていうの?」
「これだけ各クラスに極端な特徴があるのは妙だとは思わない?
私は、この学校が何らかの意図をもってクラスごとに特徴を設けて、そのうえでクラス同士を競わせて何かを測ろうとしているのだと思っているわ。
だから、この先クラス間で競うためのポイントが設けられて競争を強いられると思っている。この学校の退学者数は異様に多いことだしね。
A,B,C,Dの順でクラスに所属する生徒の抱える問題が大きくなっていることも鑑みると、この学校の謳い文句の卒業後の就職や進路を100%保証するというのはAクラスだけの特権にするつもりなのかもしれないわ。」
ここまでの話を聞くと、櫛田さんは流石に大きく動揺を見せていた。事前にきいていた話が違うというのもそうなのだろうけれど、私のことを過剰に評価しているのかもしれないわね。
「そこで、今回の契約よ。
私は私の所属するDクラスを引き上げて、何としてもAクラスで卒業したいと思っているわ。そこで櫛田さん、あなたが必要なの。
あなたは私にはない能力を持っている。
その力が、このクラスをAクラスにするためには必要なの。
契約の内容はそのために私に全面的に協力することよ。」
一気に説明をし終えると、櫛田さんは何やら呆然としていた。
無理もないわね。あまりにも情報量が多いもの。
互いに何を言うでもなく時間が過ぎていく。
しばらく続いた沈黙を破ったのは櫛田さんだった。
「それってさ、結局あんた次第で契約が破られるかもしれないよね」
「そうね。このままならそう疑ってしまうのも無理ないわ。
だから、契約にはお互い罰則を設けるの。」
櫛田さんはようやく契約について検討し始めた様子だ。
そこを畳みかけるように言葉を継ぐ。
「もしも私があなたの秘密を漏らしてしまったら、私はこの学校を退学するわ」
櫛田さんの目が大きく見開かれる。
「その代わり、あなたには私がクラスのリーダーを務めるのに全面的に協力してもらう。
ただしあなたのほうにも契約を破った際の罰則は作らせてもらうわ。
もしもあなたが私やDクラスを裏切ったことが分かった場合、私はあなたの秘密をみんなに話すわ。あなたに信頼で劣る私でも、疑心の芽を蒔くことはできる。
あなたは決して、それを許容できないでしょう。」
「……何それ、結局脅しじゃん」
「見解の相違ね」
櫛田さんはしばらく黙り込むと再び口を開く
「…………足りない」
「……え?」
「足りないって言ってるの!!!
私の秘密はあんたなんかの退学だけで足りるほど軽くないの!!!
秘密が漏れた後にあんたが退学したところで意味なんかないの!!!」
叫ぶ。まるで獣の咆哮のように櫛田さんは感情を爆発させている。
けれど……
「……だったら、私は何をすればいいの?」
「…………秘密」
「……え?」
「あんたの秘密!! あんたの秘密と退学で契約してあげる!!!
私に秘密を言えないようじゃ、あんたなんかと契約できない!!!」
確かに、彼女からすればそれで必要最低限な要求なのかもしれない。でも……
「……私に………隠すような秘密なんかないわ」
本心からの言葉だ。2周目であることは私にとって大した秘密じゃない。
ここでそれを話したところで、彼女にはきっとそれがばれてしまうし、そもそも信じてくれることもないだろう。
けれど、何とかここで彼女を引き留めたい。だから……
「弱点なら……あるわ………」
これは秘密ではない。けれど、結局のところ彼女がいま求めているのは秘密という名の弱点。ならば、秘密でなくても弱点であれば許容してもらえるはず……
「私は……兄さんを……とても尊敬しているの………」
「あんたの兄さんって……生徒会長よね?」
「ええ。兄さんは私のあこがれなの。
あこがれで、大好きな兄さんに自分のせいで迷惑をかけることを考えると、私は絶対に自分を許容できなくなる……
これが……私の弱点………」
「ブラコンかよ。キモッ」
「…………」
「まぁ、それでいいわ」
そうして、私と櫛田さんは契約を交わした。
彼女は立ち上がると部屋から去ろうとする。
「待って」
「………まだ何か用」
「……2つ。まだ用があるわ」
「……何?」
「1つは、来月1日に一つ私の秘密を教えるわ」
「はあ!? いま教えなさいよ!!」
「あいにく、秘密とではあるけれど私にとって大したものではないの。
それに、その日にならないと信じてもらえないと思うから………」
「はぁ……来月には教えるのよね」
「……ええ」
「……ならいいわ。それで? 次は?」
「櫛田さん。
あなた普段ストレスを感じているでしょう……
ストレスがたまったら、私の部屋にきて吐き出しなさい」
「はあ!?」
「私はあなたのその子どもみたいな本性を知っているわ。いまさらあの鬼のような形相を見たところで幻滅なんてしない……
だから、私にあなたのストレスを吐き出しなさい」
「……なんで」
「あなたがストレスを堪えきれなくなった末路は知っているもの……
暴発された結果他の誰かに知られたらたまったものじゃないわ」
「………あんた、ほんとムカつく」
「……………」
「……………」
そのまま彼女は去っていった。
彼女と話す前と後で疲れが段違いだ。
ともあれ、ひとまずこれで彼女との関係にひと段落つけることができた。
まだまだ油断はできない。
彼女との関係を続けるうえですべきこともたくさんある。
けれども、しばらくはこの契約による関係を維持していくつもりだ。
何より、彼女には強力な枷をはめることができた。
前回みたいに龍園くんと共謀してクラスを裏切るなんて真似は非常に困難になったはず。
ふっと息を吐く。
先ほどまでの喧騒が耳から離れないまま私は明日の準備を始めた。
学校が始まるので次回から投稿ペースが格段に落ちちゃうと思います。