ステージの上の戸山さん
沸き上がる歓声。サイリウムの色とりどりの波と照明ライトが今日も君を照らしている。
『この手を離さない!』
手を伸ばしている。それは夢なのか?一番星なのか?果てしない未来なのか?それとも……
いや、よそう。考えたところで知る由もないない。
同じように手を伸ばしてもステージには届かない。遠すぎる………遠すぎるんだよ。
自分は人並みに音楽が好きだ。休みの日には近所のライブハウスに足を運んではライブを観みている。
世間ではガールズバンドが流行っているらしいが、自分が行くライブハウスも例外ではなかった。出演者のほとんどが女子だが、特に強い感情はなく、ただ(いいバンドだなぁ…)と思うだけだった。
しかしあるバンドに出会ってからは変わった。それはPoppin’Partyだ。通称ポピパというらしいが、そのバンドに出会ってから追っかけるようになった。ポピパが出るライブは必ずと言っていいほど観に行っている。
いや、正式にはポピパのファンというよりそのボーカル、戸山香澄のファンと言ったほうが正しいだろう。
彼女の可愛い顔なのか、太陽みたいに明るい性格か、それともステージに立つ姿勢のかっこよさなのか?いつの間にか惚れてしまったのだ。
だが所詮片思いに過ぎない。しかもなんの取り柄もない自分が彼女と釣り合うわけがなく、ただただ今日も最後まで後ろのほうで演奏を聴いて終わるのだった。
しばらく会場で余韻に浸ってから帰路に着く。
空は薄暗くなって、街灯がポツポツとつき始める。人もそんなにいない。いつもと変わらない帰り道だが、
「そこのきみ!」
誰かに呼び止められて振り向く。
「なんですか……えっ!?」
そこにはネコ耳みたいな髪型にギターケースを背負った女の子が立っていた。間違いない、戸山香澄だ。
「今日もライブに来てくれたよね?いつもポピパのライブ観に来てくれてありがと!!」
「な、なんで自分がいつも行ってること知ってるの?」
「ステージに立っているとわかるよそれぐらい!」
当たり前に言うが、いくら小さなライブハウスだからといっても100人ぐらいは普通に入るからその中から1人の顔を見つけるのは困難だ。しかも知り合いじゃないのに毎回来てくれているなんて演奏中に判断するなんて神業のほかない。
もしかして……
「今日もキラキラドキドキした?」
「し、してます……」
正直キラキラの意味はよくわかっていないが、現在進行形でドキドキしている。
好きな女の子に突然話しかけられたのだ。ドキドキしないほうがおかしい。
「実は来週もライブやるんだ〜」
「そ、そう、なんですね!」
小遣いがヤバいが、行く以外の選択肢はない。
すると突然自分に近づいて手を握ってきた。
「ちょっ!と、と、戸山さん!?」
「もちろん来てくれるよね?」
「と、とと、と、当然、です!」
「ほんと!?嬉しい!!」
上目遣いは反則だろ。いい匂いもしたし。
今の自分は極限に顔が赤くなっているだろう。変に思われていないかな?
「じゃあまたね〜!!」
「あっ…う、うん!」
これは脈があるかも……
と思ったら、先を歩く同じぐらいの男子にも声をかけていた。どうやら同じライブハウスにいた子らしい。
さっき自分ににやったようにその男子の手も握っている。
(自分だけじゃ、なかったんだ……)
きっと彼女は誰にでもスキンシップが激しい女の子だっただけなようだ。
自分もファンの1人だとしか所詮思われているのだろう。
「はぁ〜」
気づけば戸山香澄も男子も暗闇に消えていた。
彼女が去っただろう方向に手を伸ばしてみた。
「やっぱり遠すぎたんだ。」