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(今日も可愛いなぁ……)
斜め前の席に座る女の子を少し眺めながら時間がすぎるのを待つ自分。これだけ聞くとただの変態でしかないと自分でも薄々感じている。
今はとある進学塾の講座を受けているところだ。親が無理やり入会したもので、これで少しランクが高い大学を狙えるとの理由で。
ただ現実は難しい話で、今の成績だと塾に行っていることはプラスにもマイナスにもならない。これは自分の通っている塾が合っていないだけなのか、塾そのもの自分には必要ないだけなのか。
(まぁでも好きな人に会えるから塾行ってるなんて親に言ったら殴られるだけで済むかな?)
斜め前の牛込りみさんはほぼ同時期に通い始め、受講コースも曜日もクラスもたまたま一緒になった。
その偶然が仇になった のか、彼女とは1度も話したことがない。
(わからないところをさりげなく聞く……なんて不自然で無理だよな。隣の席ならできたけど。)
牛込さんは同じ学校の子にわからないところを聞いているっぽいから自分の出る幕は正直ない。
ただ、女子校に通っている彼女と会えるチャンスはこの時間だけだからこれでも満足っていえば満足。スーパーへたれである。
(さて牛込さんを見れるのはいいが……)
それでも講座は退屈なものである。
「マジで雨が降ってきやがった。」
講座が終わり、さっさと帰路に着こうした矢先、ゲリラ豪雨で傘がない難民で玄関が溢れていた。
「母さんの言う通り、傘持って来て正解だよ。」
家を出る際、母親と傘持っていけ嫌だ荷物になる論争を広げていて、最終的に自分が折れる形で渋々傘を持って行った。
悔しいけど母さんには感謝している。こんな雨の中突っ走ったら風邪引くことが確定する。
「はぁ〜どうしよう………」
振り向くと牛込さんが空を見ながらため息をついている。彼女も傘を持っていない。家族の人に迎えに来てもらうのも難しいそうだ。
(怪しまれてもいい!ここは1つ……)
「あのー牛込さん。」
「はい!え、えっと君は……同じクラスの…」
「良かったらさ、これ使ってよ!」
右手に持っていた傘を差し出す。
「え!?で、でもそしたら君が濡れちゃうよ?」
「大丈夫だよ。家すぐ近くだから。」
やや嘘である。歩いても15分ぐらいかかる。
でも自分がずぶ濡れになるより、女の子が濡れると色んな意味で致命的だ。
「申し訳ないよぉ〜君の家はどっちなの?」
「家?商店街のほうだけど。」
「じゃあ私と一緒だね。君さえよければ…」
この後衝撃的な提案をされるとは数分前の自分ですら夢にも思ってなかった。
「一緒に、は、入るのはどう?」
「い、一緒!?」
それはつまり相合傘…だよね!?
このかた本気で言ってるのか?
「も、もちろん君さえよければだよ!」
「逆に自分でいいの?」
「だって君の傘なのに、私が使って君が濡れるなんて嫌だもん。」
牛込さん。なんて優しいんだ!
この優しさを無駄にできない。
少し恥ずかしいけどここは…
「じゃあ、お言葉に甘えて。」
「ふふっ甘えるほうは私なのに。」
さて一緒に入ってわかった。ちょっと狭い…
そこは自分の肩がはみ出ればいいのでそこまではよかった。
(めちゃくちゃ恥ずかしい!!)
この羞恥心は相合傘をやっているからではない。周りの暖かい視線が四方八方突き刺さるからはずいのだ!
茶化させるよりマシだけどやっぱりキツいものはキツい。
(でも自分だけが意識していたら牛込さんに失礼だよね?)
案外ケロッとしているかもしれない。これで自分だけ恥ずかしがっていたらただの勘違い野郎で痛い。
「う、牛込さ……」
「うぅ……めっちゃ恥ずかしい…」
「……」
嘘ですよね!?顔真っ赤なのですが!?
「あ、あのー?」
「あ、え、えっと…どうしたの?」
「大丈夫?本当にいやなら自分走って帰るけど?」
「ち、ちゃう!そ、その、思ったより恥ずかしいだけやから。ぜ、全然いやとかじゃないよ?」
もしかして同性と似たノリで提案しちゃったパターンなのかな?
ごめんね自分が男で。女の子だったらきっとトークで盛り上がっていたのに……
だけどまだ塾で同学年に見られるほうが遥かによかったなんてこの時はまだ知らなかった。
牛込さんと塾で出た課題について話していると、いつの間にか商店街のアーケードをくぐっていた。
商店街なので、いくら雨でも住民の往来が多い。すれ違った人や、お店の人の目線が暖かいのと痛いのが交差している。
あるお店のおっちゃんなんか、「そこのカップルさんサービスするよ!!」と大声で呼びかけるし、チビッ子も、「お兄ちゃんとお姉ちゃんラブラブだよ!」とはしゃぐ。オマケにその母親も「若いっていいねー」と便乗する始末。
何回牛込さんと苦笑いしながら会釈したのやら。
ついに我慢の限界が近づいたころ、とあるパン屋さんの隣にある細道に目がいった。
(あの道を通っても家に着く。ちょっと遠回りだけどこの際仕方ない。)
「あの牛込さん!」
「な、なに?」
「自分ここから近いから行くね!」
パン屋の隣の細道を指す。
「えっ!で、でも傘は?」
「そのまま牛込さんが使って!傘はいつか返せしてくれればいいから。」
「で、でも……」
「じゃあまた!牛込さんも気をつけてね!」
「ちょっ、ちょっと待って!!」
制止する声が聞こえたけど、構わず自分は走る。
呼び止めてくれたのは嬉しいけど、あの恥ずかしさにさすがに耐えられない。
「ハア…ハア…そろそろいいかな?」
ある程度角を曲がったところで空を見上げる。物理的に頭が冷えて気がした。
「こりゃ、風邪引くの確定だな。」
でも牛込さんが無事に帰ればそれでいい。後悔なんてない。
あの場所から逃げ出した自分を『変なやつ』だと思われるだろう。だけど自分がヘタレだった代償だ。少し前はアピールチャンスだと思っていたけど今はそんなのはどうでもいい。
「さぁ言い訳考えないとな。」
案の定ビショ濡れの自分を見た母親は般若化として説教を食らった。適当な言い訳が余計に癪だったらしい。
そしてお約束通り風邪を引いてしまい、塾も学校も数日休んでしまった。
その影響で塾に行くルーティンが変わり、斜め前の席は自分が知らない子に変わっていた。
傘は返ってくるのかこないのか……ご想像にお任せします