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リクエストも随時受け付けていますのでお気軽にどうぞ。既存キャラでも別シチュのリクエストOKです!
着ぐるみの中の奥沢さん
「みんな〜ミッシェルがきたよ〜」
「わ〜ミッシェルだぁ!」
「風船ちょうだい!」
「抱っこして〜」
「みんな順番に並んでね〜」
『はーい!!!』
特に変わりはない日曜日。地元の商店街は親子連れで賑わっている。近くにショッピングモールにあるのに寂れるところか、大いに盛り上がっている商店街は珍しいらしい。
その盛り上がっている理由の1つが自分の隣にいるピンク色のくまのマスコット……ミッシェルだ。
ミッシェルは元々商店街のキャラクターとして誕生したのだが、弦巻グループに買収されてとあるバンドのDJに。たまに商店街のバイトとして風船、ティッシュ配りをしてくれるだとか。
正直わけがわからないです。
そして自分はそのミッシェルの付き添い役をやっています。
自分は親が商店街の会長をやっている関係で働いているため、単なるお手伝いになってしまう。
お駄賃1000円しかくれないなか、どうやって高校生ライフを送れって言うんだまったく!
『ねぇ。』
「おうどした?」
『あとどれぐらいで休憩なの?』
「えーっと30分くらいかな?」
『長いな…』
「まぁ頑張って。」
『他人事だと思って……』
「ミッシェル〜!」
「なになに〜どしたの?」
誰も知らないミッシェルのボヤキ。このようなやり取りをして中の人が体調不良に陥ってないかを確認する。
もし代わる事態になったら自分が代役になるらしい。もちろん無給で、絶対やりたくない。
「ミッシェル〜ハグしよ!!」
「わわ!急に来ると危ないよ〜」
「は〜やっと休憩だ。」
「ホントによくやってるよ。」
「これバイトじゃなかったら絶対やってないから。」
頭を取ってペットボトルの水を一気に飲み干す中の人。
そしてミッシェルの中にいるのは奥沢美咲さん。意外なことに同い年の女の子がやっている。
「嫌なら辞めればいいと思うけど…」
「今さら引くにひけないから。それに、」
「それに?」
「ミッシェルの活動も楽しいと思う自分もいるから。」
「そっか…」
最初は奥沢さん本人も着ぐるみのバイトだとは知らなかったらしい。バイト初日に仕事の内容を聞かされ、向いてなかったら即刻やめようと考えていた。
ところがどっこい。初めてのティッシュ配りに同じ学校のお嬢様に目をつけられ、商店街のマスコットから自分のバンドのキャラクターに転換されてしまった。
まだ着ぐるみ本体だけ渡せばよかったものの、まさか中の人を信じず、ミッシェルはミッシェル論を信じており、奥沢さんもほぼ強制的にバンドに加入してしまったという経緯がある。
「あの時はマジで驚いたなぁ……」
「あはは……君も君で大変だねー」
自分の付き添い役の初仕事もちょうどその日だった。そしてミッシェルを譲って欲しいと頼まれたのも自分だった。
もちろん最初は断ったものの、お嬢様の使用人の圧がすざましく、親父に半泣きで電話をする羽目になった。
親父も親父で最初渋っていたものの、提示された金額を聞いて二つ返事でミッシェルの移籍が確定した。ただせっかく商店街の人達が出し合って作ったものでもあるから、たまに商店街のイベントに来ていただくという条件つきになった。
「まぁ充実しているならよかった。水もう1本いる?」
「ちょうだい。出来ればスポドリがいい。」
「りょーかい!」
今日の気温は季節に合わない暑さだ。自分はラフな格好さえしてれば耐えられるものだが、タダでさえ蒸し風呂状態の奥沢さんは冗談抜きで死にそうだったのだろう。
「そこのタオル使っていい?汗吹きたくて。」
「もちろん!新しいの欲しかったら遠慮なく言って?」
奥沢さんとはそこそこの距離感だ。汗を拭うたびに女の子の匂いが鼻をくすぐる。仕草といい、なぜ大したことじゃないのにドキドキするんだろう。
「大丈夫かな?汗臭いよねあたし。」
「いい匂い……」
「え?なんだって?」
「いや、えーっと……そこまで気にしなくても大丈夫だよ?」
「そう?ならいいけど…」
危ない危ない。自分が変態だから付き添い役を別人にしてくれと親父にクレーム入れられると大目玉くらうからな。
いや、それ以前に……
(嫌わせたくない…)
なんなんだろうこの気持ち?自分と奥沢さんはビジネスパートナーのはず。しかも自分が付き添うのも片手で数えられる程度。プライベートなんて会ってないどころか連絡先すら交換していない。
それでいいはずなのに、もっと一緒にいたい。もっと色々知りたい。
「ねぇ。」
「どした奥沢さん。」
「背中の汗も拭きたいから一旦ミッシェルから出るね。」
「わかった。じゃあ自分は席外すよ。」
「いや、そのままでいいよ。」
………本気で言っているのかこの人は?
あなた今下着同然な格好でしょうが!
「単純に他の人が入ってくるのがいやだし。」
「あっ……あぁそういう事か…」
何を期待しているんだ自分は……
(なるべく奥沢さんを見ないようにしないとな。)
っと思いつつも、男の欲望に勝てなかった自分はチラチラ……まではいかない程度に奥沢を見てしまう。
奥沢さんはシャツをまくり、身体の汗を拭いている。下手したら胸が見えてしまうほどに。
「………恥ずかしくないのかよ。」
「なにが?」
「何がって、同年代の異性が目の前にいるんだぞ?そんな大胆なことやって。」
「ふーん。見たんだ。」
「べ、別にそんなんじゃ!」
「君なら襲ってこないという信頼があるし、それに…」
「それに?」
「単純に慣れているのが強いかな?」
苦笑したように笑う奥沢さん。拭き終わったタオルを「ここに置いとくね。」と丁寧に畳んでくれた。
あんたが慣れてもこっちの心臓はバクバクだわ!少しは恥じらいを持って欲しいと思いつつ、ただの慣れでしかない事実に少し落胆してしまった。
「そ、そろそろ時間だから行こっか。」
「それじゃ後半も頑張りますか!」
パパっとミッシェルの頭を被って準備万端のようだ。正直奥沢さんの顔がまたしばらく見れなくなるのが惜しい。
自分は奥沢さんが転んで怪我をしないよう、手を引いて誘導する。
今さらながら気づいた。
自分は奥沢さんのことが好きなんだ。
奥沢さんと出会うことができたのは紛れもない。ミッシェルのおかげだ。恩人のミッシェルの毛皮は、ほんとうにほんとうに、まだ厚いままだった。