「エクストがこの次元に帰ってきた……」
「そうなのよ」
四女神間での情報共有を終えたブランはクリストと話をしていた。
「アレの狙いは変わらず私達のはず。やる事は変わらないわ」
「……迎撃って事ですか」
「そうね。あっちから来てくれるなら好都合でしょ。それに、今の状態なら……勝機は十分にあるわ」
クリストも、エクストが前よりも攻めの手を甘くしていた事は聞いていた。
「その油断が命取りになるのでは?」
「油断してるつもりは無いわ」
「そうですか……。ところでブラン様」
「何?」
「今の戦力に私は含まれていますか?」
「…………含んでないわ」
クリストはブランを睨んだ。
「何故?」
「逆に聞くけど、あなたはまだエクストと戦えるの?」
「勿論です。覚悟は決めています」
「……。そうであっても、あなたを前に送り出せない」
「ですから、何故」
「……もうこれ以上傷付いてほしくないからよ」
クリストは視線を逸らし、小さなため息をついた。
「要らない心配ですよ」
「は?」
「そもそも私はブラン様の従者。主の為に傷付く覚悟だって出来てます」
「クリスト……」
「だから良いんです。私の事は気にせず……」
「いや、ダメよ」
クリストの話を遮るように、ブランが話した。
「……!?」
「あなたは人間。私達と比べれば弱く儚い存在なのよ。そんな存在をあの化け物と戦わせるなんてできない」
「……私はエクストとの戦闘経験はありますよ?」
「でもダメなの」
「ブラン様が知らないだけで、私だって必死に特訓してきました。エクストに対抗できる策だってあります!」
「クリスト、いい加減に……」
「そもそもアンチクリスタルの力の前じゃ、女神も人も変わらないでしょう? だったら私だって……」
「黙れ!」
部屋の中に静寂が訪れた。
「あなたにはわからないでしょ……。私の気持ちなんて」
「……はい?」
「大切な側近がボロボロになって帰ってきて……その気持ちがお前に分かるかよ!」
「……だったら……従者でありながら何日も何週間もずっと休まされて、その上女神が狙われようと前に立たせてもらえなかった、その気持ちがブラン様に分かりますか!?」
「お前を思っての事だっつってんだろ!」
「うるさい! こっちの意見も聞かずに何がお前を思って、だ!」
「はい、そこまで!」
二人の間に割って入ってきたのはシーシャだった。後ろにはフィナンシェの姿もある。
「こんな状況で喧嘩しないの。ブランちゃんもクリストちゃんも落ち着いて」
「む……」
「……」
それでも、二人の間には険悪な空気が漂っている。一触即発、まさにそんな様子だ。
「……よし、ブランちゃんはアタシと話をしようか」
そう言いながらブランの手首を掴んで引っ張る。
「えっ?」
「作戦会議をしようじゃないか。今回はアタシ達にも協力してもらいたいんでしょ?」
「そうだけど……ちょっと! 無理矢理引っ張るな!」
シーシャに引っ張られる形で、ブランは部屋から出ていった。部屋にはクリストとフィナンシェ、二人だけになった。
「……私、そんなに役に立ちませんかね……?」
小さくため息をついてから、クリストは話した。その目は、どこか悲しそうだった。
「そんな事は無いと思いますよ。ただ……」
「ただ?」
「女神様と
「にしても……」
「いくら立場が近くても、クリストさんも人間である事に変わりはないんです。ブラン様だって、クリストさんの事を思ってこうしてるんです。近しい存在、だからこそ余計に気にかけてしまうんだと思います」
「……」
クリストは少し複雑そうな表情をした。
「少し……一人にしてくれませんか?」
「え?」
「お願いします……」
「……わかりました」
フィナンシェは部屋を出ていった。
「……わかってるよ。気にかけてもらってるのなんて」
(でももうじっとしてることなんて出来ない。私だって、ブラン様達に傷付いて欲しくないんだ。悪いけど、少し勝手に動かせてもらうよ……)
*
一方、ルウィーの教会の地下牢。
(退屈……だな)
トーシャはベッドに寝転がりながら暇を持て余していた。基本的にここではやることが無い。毎日が暇で仕方なかったが、それももう限界だ。
(タブレットとノートパソコン……あれさえあればなぁ……情報収集も暇つぶしも、エクストの動向も探れるのに)
思い切って、牢の前に居る職員に聞いてみることにした。
「……ねー、ちょっと」
「ん? なんだ?」
「私の研究所から押収した物の中にさ、タブレットとノートパソコン……ついでに、携帯充電器無かった?」
「あったはず……だが」
「じゃあそれ頂戴」
「え?」
職員は目を丸くした。まさかこんな事お願いされるとは思ってなかったのだろう。
「いや、ダメだろ」
「なんで」
「何をするかわからないからな」
「はぁ? じゃあ聞くけど、あなたは私がタブレットやノートパソコンだけで脱獄出来ると思ってるの?」
「それは……」
「出来ないよ。する気も無いし。だから良いでしょ? 研究者から情報を取り上げないでくれよ」
「うむ……わかった。少し待ってろ。上と話をしてくる」
そう言って職員は牢の前を離れた。
数分後……。
「これか?」
「おぉ、これこれ!」
職員は格子の間から、タブレットとノートパソコン、そして携帯充電器を手渡した。
「妙な真似したらすぐに取り上げるからな」
「わかったわかった」
トーシャは機材を抱えてベッドに腰掛けると、さっそくタブレットを立ち上げた。
「うん……アプリもそのまま、中身は弄られてないね。さて……」
画面をタッチしてあるアプリを立ち上げた。アンチクリスタルの大まかな位置を探る、自作のアプリだ。元いた研究所の周辺の地図と、アンチクリスタルの位置を示すマーカーが表示される。
(こういうのも習っておいて正解だったな。……あれ?)
マーカーの位置を見てあることに気付いた。
(数が……減ってる気がする)
すぐに別のアプリを立ち上げる。念の為にと作っておいた、アンチクリスタルを埋め込んだ複製体に関するレポートだ。一日の記録とアプリのスクリーンショットが貼られている。最後に書いたレポートのスクリーンショットと、アプリの地図でのマーカーを見比べてみた。
(間違いない。北と西はノータッチだったはず。なのに西側の反応が消えてる……)
トーシャが考えた可能性は三つ。野良のモンスターにより破壊されたか、女神を含むどこかの国の誰かが破壊、回収したか、あるいは……
(エクストが……何かを企んでいるか……)
トーシャはすぐさまノートパソコンを立ち上げた。
(回収されていたりしたら……大問題になりかねない。ノートパソコンだけでどこまでアップデート出来るかわからないけど……とにかく、このアプリで探れるとこまで探らないと)
パソコンが立ち上がると、すぐに作業を開始した。
トーシャさん、複製一筋な方ではないんです