クリストは地下牢に居るトーシャを訪ねた。
「いい? ここには誰も入れないこと。そして私達の会話も絶対に聞かないように」
「わかりました……」
牢の前に居た職員に念を押し、牢の前から立ち退かせた。
「何の用?」
「エクストの動向を探りたい。出来る?」
「出来なくはないよ。というか、今それをする為に、アプリのアップデートをしているんだ」
「それ、完成までにいくらかかる?」
「さぁ……どこまでできるかもわからないし」
「そっか」
「しかし、私を頼るなんて……まさか、女神に無断で何か行動しようとしてる?」
「う……」
「図星、かな」
トーシャはコップの水を一口飲んだ。
「安心して。告発したりしないから」
「ん……助かる」
「……とりあえず、エクストの動向についてはわかり次第教えるよ。メモ用紙とかある?」
「あるよ」
「ありがとう。それにこのタブレットの連絡先を書いておくから、後で追加しておいて。こっちから通話は不可能だから、チャットでのやり取りになるけどね」
クリストはトーシャにメモ用紙とペンを手渡した。トーシャは手早く連絡先を記し、クリストに用紙を返す。
「ありがとう」
「はいよ。用が済んだら帰ってくれないかな? 作業に集中したい」
「あ、あぁ……ごめん」
クリストは足早に地下牢を後にした。
❅
一方ブラン達も、エクストの対策を練るのに時間を費やしていた。
「フィナンシェ」
「はい、何でしょうか」
「最近のクリストの様子、わかる?」
「普段通りに見えますが」
「そう。ならいいのよ」
「あ、でもブラン様と顔を合わせる事は減りましたね」
「そういうのはいいから……」
ブランは内心、あれだけきつく当たった事を後悔していた。あれ以降クリストとの会話は全く無い。
「はぁ……なんであんな事を……」
「思い詰めるくらいなら謝った方がいいのでは?」
「そうしたいけど、クリストの方が……話しかけるなオーラが……」
「あぁ……。確かになんかクリストさんも意地を張りすぎな気はしますね」
「フィナンシェ、何とか仲介できない?」
「話題に出そうとすると露骨に嫌な顔されるのでちょっと……」
「うぅ……それは流石に傷付くわ……」
ブランの口から大きな溜め息が漏れる。そして勢いよく手を叩くと
「……切り替えましょう。今はエクストの対策案を練らないと。仲直りなら後でも出来るわ!」
ブランはフィナンシェのサポートを得ながら、仕事を再開した。
❅
一週間後、トーシャから連絡を貰ったクリストは再び地下牢に来ていた。
「β版だけど、とりあえずは完成。起動させればアンチクリスタルの大まかな位置、更に濃度、大きさがわかるよ」
「ありがとう」
トーシャがタブレットを持って近付いてくる。目の下にクマを作っているのが見え、相当徹夜したのがわかる。
「う……」
「ん? どうしたの?」
「その……言い難いんだけど……」
「何」
「臭う」
「はぁ?」
クリストは後退りしながら、息苦しそうに話した。
「何日シャワー浴びてないの?」
「えーっと、三回寝たから……三日! 三日だけだよ!? そう! 三日で仕上げたんだよ!?」
「一週間経ってるんだけど……」
「え……」
トーシャはタブレットのカレンダーを確認した。
「…………ここだと日時の感覚が鈍るんだ。許せ」
「うん……。で、早くアプリ……」
「あぁ、はいはい」
アプリを立ち上げ、画面を見せた。
「アンチクリスタルが一箇所に集まってるでしょ? そこは元々私の研究所だった場所……だから、エクストが集めたのがそこにあるんだと思う」
「これ、大体どのくらいの量なの?」
「ゲイムギョウ界に存在するアンチクリスタルの二割が集まってる……二割でも女神にとっては十分な脅威になるよ」
「だったら……早めに手を打つのが吉?」
「それはそう。ただ、あっちも対策してないわけがないんだよ。どうせ返り討ちにあうよ」
「む……」
「だから、しばらくは鍛錬に励むといいよ。いつエクストと戦う事になってもいいように、ね」
「わかった」
クリストは牢から離れようとした。
「……あ、そうだ」
「何」
「絶対シャワー浴びてね」
「えー。まだやりたい事が……」
「今すぐ浴びて。生ゴミみたいな匂いするから」
「なっ……ちょっと! 女の子に対して『生ゴミ』は酷くない!?」
「事実だからね!? 一回自分の匂い嗅いでみな?」
「……」
トーシャは腕の匂いを嗅いだ。直後、口を抑えて顔を背けた。
「……洗います」
「うん。そうして」
最後に、何かあったらすぐに連絡するとだけ伝えると、トーシャはシャワーを浴びる為に牢の奥に消えた。
❅
同じ頃、プラネテューヌ領内にある洞窟にネプギアが訪れていた。モンスターの討伐依頼をこなすためだ。
「ふぅ……これで全部かな」
指定されたモンスターを全て倒した事を確認する。
「よし、帰ろ…………ん?」
洞窟の出口に向かって歩こうとしたその時、奥の方から何かを叩く音が聞こえてきた。
(何か……居る?)
ネプギアは剣を握りながら、ゆっくりと音のする方へ足を進める。段々と音は大きく聞こえてくる。
(この先だ……)
半身だけ出して、向こうを覗く。そこに居たのは、アンチクリスタルを採掘しているエクストだった。
(……! あれって……)
ダガーを使ってアンチクリスタルの周りの岩を砕き、慎重に採掘している。やがて、アンチクリスタルは岩壁から剥がれ、エクストの手に渡った。
「よし……」
エクストはダガーを魔導書に変えると、その中にアンチクリスタルを入れた。そして再びダガーに戻すと、辺りを見渡し始めた。他にアンチクリスタルが無いか探しているようだ。
「もう無いか……」
そう呟くと、視線を落とした。そして、ネプギアと目が合った。
「あ」
「え」
そこからは早かった。エクストは瞬時にダガーをガンブレードに変え、ネプギア目掛けてビームを放った。ネプギアも岩から飛び出し、ビームを避けると、剣を構えた。
「パープルシスター……何故ここに!?」
「それはこっちの台詞です! なんであなたがここに居るんですか!?」
「見てたなら何となく察せるでしょ……」
「……アンチクリスタルを集めて何をする気ですか」
「言えない」
「だったら……痛い目にあってもらいますよ!」
「やれるものならやってみろ! 覚醒!」
「後悔しないでくださいね! 変身!」
エクストは反晶覚醒に、ネプギアはパープルシスターにそれぞれ変身した。
「ダブルチェンジ……第六出力、黒銃『エンヴィー』、第八出力、魔杖『ティミド』!」
(あれはユニちゃんとロムちゃんの……)
「さぁいくよ!」
エクストは弾丸で弾幕を張りつつ、自身の周囲に障壁を展開した。パープルシスターもM.P.B.L.の射撃で対抗する。
(ビームが障壁に防がれてる……。恐らく遠距離攻撃に特化した障壁だ。弾幕の薄いところを縫って近付かないと)
撃ち合いの中で、パープルシスターは道を探した。
(ここだ……!)
見つけた活路を進む。飛んでくる弾を弾きつつ、エクストに迫る。
「ちっ……やる!」
「はあぁぁっ!」
振り下ろされた刃が障壁を砕く。さらに追撃を仕掛けたが、それは銃で防がれてしまう。
「侮りましたね」
「否、侮ったのはそっちだよ!」
エクストが地面を強く踏むと、そこから黒い円が広がり、そこから鎖が現れる。
「っ!」
「『ボイドチェイン』!」
漆黒の鎖がパープルシスターに迫る。が、既に受けた事がある技。鎖の起動が定まった瞬間に身を翻してかわした。
「っ……」
「……」
鎖をかわした結果、おかしな体勢になってしまった。鎖が消えない限りは動けそうにない。
「……」
「……」
「…………ちょん」
「あぁっ!?」
エクストがパープルシスターの肩を軽くつつく。それにより鎖に触れてしまい、変身が解けてしまった。
「くっ……卑怯ですよ」
「卑怯がなんだ。勝てればいいんだよ」
エクストはネプギアに向かって銃口を向ける。
(変身は出来ないけど、動けない訳じゃない。隙を見て反撃を……)
「……言っておくけど、別に殺すつもりは無いから」
「え?」
「今の狙いは……こっち」
銃口を下げて発砲。弾はネプギアのワンピースのポケットを撃ち抜いた。
「あ……Nギアが!?」
「これで連絡手段は絶った。そしたら……」
ダガーに戻し、薄い紫のボタンを押してからトリガーを二回押した。
「ダブルチェンジ! 第五出力、対女神兵器『A.H.B.L.』、模造魔剣『ゲハバーン』!」
エクストの手に、M.P.B.L.と同じシルエットの銃剣と、禍々しい濃い紫の刃を持つ剣が現れた。
「それは……」
「ある次元のとある女神が持っていた魔剣……のレプリカ。犯罪神を滅ぼし、その次元を衰退に導いた魔剣だ」
「……何をする気ですか」
「これには少し手を加えてあってね」
模造魔剣の刃の根元を叩くと、刃が縦に二つに割れた。
「A.H.B.L.の出力を上げる事が出来るんだ」
そして割れた刃の間にA.H.B.L.を挟む。
「つまり、こうなればこいつは更に強くなる」
「……! やっぱり私を始末する気ですね!」
「しないって! ただ、一日だけ黙っててもらうよ」
銃口を洞窟の天井に向ける。
「A.H.B.L.チャージ率200%。ファイア!!」
天井に向けて放たれた極太のレーザーは岩を崩し、出口への道を塞いだ。
「あっ……」
「これで逃げられな……くはないけど、その姿でここを登るのは無理でしょ」
エクストとネプギアは崩落した天井を見上げる。遥か向こうから陽の光が差すのが見える。
「女神化を封じたのは一日未満……明日の朝には戻れるよ。それまで少しここでゆっくりしてるといい」
「……わかりません」
「何が」
「女神を殺す絶好の機会ですよ? なぜ手を下さないのですか?」
「……いずれわかるよ。近いうちにね」
エクストは武器を魔導書に変えると、灰色の幕を出現させ、それをくぐった。幕が無くなると、エクストの姿も消えていた。
「お姉ちゃん達に知らせないと……でも……」
ポケットからNギアを取り出す。銃弾が刺さっており、動きそうにない。天井を見上げてみても、かなり高くて上がるのは困難だ。
「うぅ、お姉ちゃん……」
ネプギアは地面に座り込み、変身できるようになるまで待つことにした。その後、帰りが遅い上に全く連絡がつかない事を心配に思ったネプテューヌにより、その日のうちに無事発見されたとか。
トーシャは作業に没頭すると生活リズムがガッタガタになるタイプです。