女神の従者の願うこと   作:よっしー希少種

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13.女神の従者は何を願う

「よし……」

 

 エクストとクリストが戦い始める少し前。ルウィーの教会の地下牢で、トーシャは何とか鉄格子を破壊し、牢屋から抜け出していた。

 

(まずは私の私物を回収しないと……。確かあの日は音楽プレーヤーを持ってたから……位置情報を使えば探せるかな)

 

 タブレットに表示された位置情報を頼りに、トーシャは教会の中を歩いた。中は驚く程人が居ない。一応脱獄した事になっているトーシャにとっては好都合だが、あまりにも異様だ。

 たどり着いたのは倉庫だった。幸いにも鍵はかかっていない。そこで私物を探した。

 

「……あった!」

 

 トーシャの私物は研究所から押収されたものも含めて箱にまとめられていた。その中から、護身用のアイテムを幾つか取り出し、白衣のポケットにしまった。

 

(急がなきゃならないから今はこれだけにしよう)

 

 トーシャは自分が作り出した存在がこんな事件を起こした事に責任を感じていた。何ができるかはわからないが、今すぐエクストのところに向かわなければならない。

 教会の構造はわからない。だからデタラメに走っていた。すると、大勢の人の声が聞こえてきた。

 

「……?」

 

 忍び足で向かうと、そこは教会のエントランスだった。避難してきた住人が大勢居るのが見えた。

 

(まずいな……そこからは出れないか……。じゃあ仕方ない)

 

 少し引き返すと、廊下の窓を開けた。飛び出ても怪我するような高さではない。

 

「よっ……」

 

 窓枠を飛び越えて外に出る。

 

「あれか、さっきから聞こえてた竜の声の主は」

 

 僅かに見えるだけだが、黒いワイバーンが居るのがわかる。

 

(あいつ……倒さないといけないかな。う……死なない程度に頑張ろ)

 

 トーシャは研究所の位置をタブレットに表示させると、そこをめざして走った。

 

 

 初めは路地裏を走っていた。この方が人に会う可能性は低いからだ。だが、路地裏はかなり入り組んでおり、ちゃんと進めているのかわからなくなってくる。

 

(仕方ない。大通りから行こう)

 

 路地裏から顔を出し、周りに人が居ないのを確認すると、トーシャは大通りに出て走った。

 

「はっ……はっ……」

(うへー……今まで運動してこなかったツケが……。もうしんどいよ……)

 

 息を切らしながら大通りを走っていると

 

「ちょっと、待って!」

 

 誰かに声をかけられた。

 

「すみません……急いでるんでぇ……」

「こんな時に何を急いでるんだ。教会は反対側だぞ。今すぐ来た道を戻るんだ」

「教会ぃ……?」

「ん? ちょっと待て。この女……教会で捕らえていたやつじゃないか?」

「……え?」

 

 トーシャは顔を上げた。そこに立っていたのは二人の教会職員だ。

 

「……やっべ」

 

 二人の間を縫って走り抜けた。

 

「あ! こら待ちなさい!」

「悪いようにはしないから教会に戻れ! 死ぬぞ!」

 

 二人の呼び掛けにも応じず、トーシャは走った。

 

「おい、どうする」

「一応前線のやつらには連絡しておくか」

 

 

「……」

 

 トーシャは路地裏に入って身を潜めていた。

 

(来るんじゃなかった……)

 

 ワイバーンが近くまで来たはいいが、あまりの大きさにビビって隠れてしまった。前線で戦闘している教会職員達も見えたが、全く歯がたっていないように見えた。

 

(どうしよう……このまま帰る? いやいや、じゃあここまで来た意味は!? でもあれは倒せないよね……うぅー……)

 

 葛藤していると、ある選択肢にたどり着いた。

 

(そうだ……何も倒さなくてもいいじゃん)

 

 トーシャはポケットの中に手を入れ、中の物を出す。右ポケットには丸い物体が一つ、左のポケットには色が違う四角い物体が二つ入っている。

 

(……いける)

 

 トーシャはタブレットを使って丸い物体と四角い物体を一つ複製して手に持つと、残りをポケットにしまった。そして路地裏を出た。

 

「シーシャさん! そろそろ撤退を!」

「バカ言うな! ここで退いたらルウィーが壊滅するんだぞ!」

「しかし……!」

「ん? おいアイツ」

 

 教会職員の一人が、トーシャの存在に気付いた。

 

「脱獄したって言う……」

「こんな時に……おい! 止まれ!」

 

 教会職員が立ち塞がるが、トーシャは構わず走った。

 

「増幅フィルター倍率五……展開!!」

 

 タブレットを操作し、銀色のフィルターを展開する。

 

「おいなんだあれ!」

「目ぇ閉じろぉ!!」

 

 トーシャは全力で叫んだ。その声はシーシャにも届いていた。

 

「目を?」

「シーシャさん!」

「いや、閉じよう」

「えぇ!?」

 

 トーシャは立ち止まると、丸い物体のスイッチを押し、投げた。丸い物体はフィルターを通過し、五つに複製された。

 

「ぶっ飛べお手製閃光玉!」

 

 それは空中で爆ぜ、ワイバーンの目前で強い光を発した。突然の閃光に驚いたワイバーンは地上に落下した。

 

「やった……ワイバーンは閃光に弱いって常識だからね!」

(常識……? 常識か)

 

 更にワイバーンの頭の前までいくと、今度は四角い物体を投げた。

 

「じゃあよろしくね。使い捨てタレット!」

 

 着地した五つの四角い物体は変形してタレットになり、ワイバーンの頭に自動で照準を合わせると、攻撃を開始した。

 

「へぇ……すごいの持ってんだね」

 

 タレットの攻撃が止むと、ワイバーンの頭は大きく削られていた。

 

「なるほど。殴ったのに生物っぽい感覚が無かったのはこれか」

「あの、シーシャさん」

「なんだい?」

「さっきのやつ、もうどこかへ行ってしまったのですが、追いますか?」

「……いや、いい」

「え?」

「あの子を捕まえるなら後からでもできるでしょ? 今はルウィーの防衛に徹して」

「ですが、ワイバーンはもう……」

「いや、生きてる」

 

 シーシャはワイバーンに目をやった。小さな四角いブロックが徐々にワイバーンの頭を形作っているのがわかる。

 

「備えて!」

「はっ!」

「ま、頭を潰せばしばらく大人しくなるってのはわかったし……多少は楽になるかなぁ」

(しかし……あの子どこに行ったんだろ)

 

 

 一戦を終えたエクストは研究所に入ろうとしていた。雪が降り始めたのに外に居たくないし、居る理由もない。

 

「痛た……今になって痛み出した……アドレナリン切れたかなかな……?」

 

 腹部を抑える。クリストからもらった斬撃の傷はまだ癒えていない。手が血で濡れるのがわかる。

 

(早く治さないとな……)

 

 そんな事を考えながら研究所の扉を開けようとして、エクストは足を止めた。自分以外の足音がする。雪原だからわかりやすかった。

 

(まさか……)

 

 エクストは音のする方を見た。そこに立っていたのは、血まみれのクリストだった。

 

「な……なんで動ける……」

 

 動揺と共に恐怖心も覚えた。血に濡れた姿で、防具も所々欠けている。それでもなお刀を持ち、(エクスト)を見据えるその姿は落ち武者のようだった。

 

「……エグゼドライヴ」

 

 クリストは体を無理矢理動かして、最後の大技を放った。

 

(来る……!)

 

 エクストもダガーを手に取り防ごうとしたが、それよりも先にクリストの切り上げが当たった。大きく打ち上げられ、体が宙を舞う。そして空中にいるエクストの周りに四本の氷の方が舞う。クリストも大きく跳躍すると、氷の刀を踏み台にして横に方向転換。エクストをすれ違いざまに斬った。

 

「っ……!」

(まずい……空中だと何も……)

 

 向かいにあった氷の刀で折り返し、更に切りつける。持ち前の素早さを活かした空中での連撃に、エクストは手も足も出なかった。

 

「ぐぅっ……!」

「終わりだ……『氷刃乱舞【白銀世界】』!!」

 

 最後は大きく上に跳躍し、自由落下の勢いも使って真下に叩き付けた。エクストとクリストは研究所の屋根を突き破り、そのまま室内に落ちた。

 

「……」

「……」

「……う」

 

 仰向けになっているエクストの横にクリストも倒れた。

 

「……まさか……あんな攻撃を出せる力があるなんて」

「かなり……無理したけどね」

「でしょうね……」

 

 エクストは自分の傷に触れた。かなり冷たく、凍っているのがわかる。

 

「エクスト……最期に……」

「何……」

「なんで女神を殺そうとしたかだけ……教えて」

 

 エクストは小さく息を吐いた。

 

「殺す気は無かったよ」

「……え?」

「……次元を回っているうちに、私も成長したんだ。衝動のままに動く存在じゃなくなったって訳さ……」

「じゃあ……何を……」

「……女神とシェアの概念を消したかった」

「…………?」

「女神は……人々からの信仰……シェアをもらっているから生きていけてる。シェアの供給が無くなる……つまりその女神に国民の興味が無くなれば、その女神はやがて死ぬ」

「……は?」

 

 クリストが教えてもらわなかった事だ。

 

「何、知らなかったの? 女神にとって、国民に飽きられるってのは死を意味するんだよ……」

「……そう……だったの」

「国民の興味が続けば百年も千年も生きるかもしれない……逆に十年もたずに死ぬ事もあるかもしれない。女神ってのは……強大に見えて、実は儚く、不安定な存在なんだ……」

「……」

「それを知ったから、私は女神とシェアの消失を企てた。これを……ロストアンチクリスタルを使ってシェアを消し去り、女神とシェアの繋がりを断てば、女神は人間に近い存在になり、そして人間が統治する世界になる…………そう、思った」

「……計画は失敗したけどね。少なくとも、今の状態じゃロストアンチクリスタルは使えない。……女神を引き付けてたアイツも今頃消えてるだろうし、見つかるのも時間の問題……」

「……」

「どうする? 死ぬまで……お喋りする?」

 

 エクストはクリストを見て笑った。対してクリストは、少し悲しそうな目をしていた。

 

「……さっきの、本当?」

「何が……」

「女神は飽きられたら死ぬって」

「あぁ。それで女神が死んだ次元を見たから……」

「そんなの………………嫌だよ」

「仕方ないよ……それがこの世界の仕組みなんだから」

「……」

 

 クリストは持てる力を全て使って立ち上がった。

 

「何を……する気?」

「あれ使えば……みんなを……」

「よせ、死期が早まるよ」

「関係無い……」

 

 ふらふらとロストアンチクリスタルに近付くと、刀の柄で突いて、ガラスを割った。

 

「その傷で使える訳ない……」

「やってみなきゃ分からない……」

「……なぜそこまでする」

 

 クリストはロストアンチクリスタルを手に取ると、その場に座り込んだ。

 

「……守りたいから。従者として」

「それが……あんたの選択?」

「うん……」

「……止めておきな。それを使って女神を人間にしても、あんたは彼女たちの隣には居ない。それに、上手くいくかも分からない」

「でも……可能性があるなら……」

 

 クリストはロストアンチクリスタルを胸に軽く当てた。

 

「やるしかない……」

 

 そしてロストアンチクリスタルを力強く胸に押し当てた。直後、全身に何かが流れ込むのを感じた。

 

「う……ぐぁ……」

「……! まさか、その力を宿す気……!?」

 

 エクストは体を起こし、クリストの体からロストアンチクリスタルを引き離そうとした。

 

「ううぅぅ……!!」

「よせ! それは武器に付与して使うのを想定してるんだ……。体に取り込んだら……何が起こるか!」

 

 必死に引き離そうとするが、傷が深くて力が入らない。

 

「う……ああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「うわっ!」

 

 クリストにロストアンチクリスタルが完全に入り込むと、血のような紅いオーラがクリストを包んだ。エクストはそれに弾かれ、壁まで吹っ飛ぶ。

 

「クリスト……」

 

 遠のく意識の中、見えたのは紅い人影。

 

「道を……間違えたな……」

 

 

 少し前、ルウィーにて。

 

「な……なんだ!?」

「あの竜、いきなり倒れたぞ!」

 

 ルウィーを襲っていたワイバーンが倒れ、体がバラバラに崩れ始めた。

 

「どうなってるんだ……?」

「シーシャさん、やりましたね」

「いや、アタシじゃないよ。多分、これを送り込んで操ってたやつが倒れたんだ」

「では……」

「ブランちゃん達、勝ったみたいだね」

 

 それを聞き、防衛に当たっていた職員達の間で歓声が上がった。

 

「でも、まだ何があるかわからないからね。ブランちゃん達が帰ってくるまで警戒は継続するよ!」

「はっ!」

 

 シーシャは崩れていくワイバーンに目をやった。もうほとんど残っていない。

 

(なんだろう……胸騒ぎがする。まだ終わってないの……?)

 

 

 同じ頃、果ての孤島。

 

「ま……まズい。姿が……イじできナい……」

「な、なんですの?」

「急におかしくなったわね」

 

 女神達の相手をしていたエクストの体にノイズが走り、苦しみだした。

 

「本体ニ……イ常発セイ……魔リョくきョウきゅうガ……」

「本体……って事はこいつ偽物か!」

「ねぷっ!? 私達もしかしてただのデコイをいたぶってたってこと!?」

「クソっ……本体はどこだ!?」

「あーうー……まメちシキ……エクストのユラいは……エクスティンクション……エクストラじゃ……ないヨー!」

 

 最後は意味不明な事を言い残し、偽物のエクストはノイズに飲まれて消えた。

 

「ちっ……」

「最後の一言、何?」

「さぁ? 私達には関係無さそうですわ」

「おい、話してる場合か。まだ本体残ってんだぞ」

「……そうね。でも、どこに……」

 

 突然、女神達に悪寒が走った。何か強大な力を持つ存在がゲイムギョウ界に現れた。そしてそれは女神の力と相反するもの。

 

「……急いだ方が良さそうですわね」

「だな」

「行きましょう。ユニ、行くわよ!」

「わかってる!」

 

 ブラックハートとブラックシスターが先陣を切って向かった。

 

「私達も行くぞ!」

「うん!」

「わかった!」

 

 ホワイトハートと、ホワイトシスターロム、ラムも続く。

 

「本当に不気味な予感がしますわ……私も急ぎませんと」

 

 グリーンハートも続けて飛んでいく。

 

「お、お姉ちゃ〜ん……いけそう?」

「あー、大丈夫だよ。もう変身出来るくらいには回復したから!」

 

 地上に居たネプテューヌは はパープルハートに変身すると、ネプギアの隣で飛んだ。

 

「さぁ、私達も行きましょう!」

「うん!」

「れっつごー!」

 

 パープルハート、パープルシスター、オレンジハートも孤島を離れた。

 

 

「はぁ……はぁ……。な、何これ……」

 

 研究所にたどり着いたトーシャは、目の前に広がる光景を見て絶句した。研究所は大破しており、瓦礫が散乱している。そして瓦礫が上に、何かが居る。

 

(エクストじゃない……反応が違う)

 

 声をかけようか迷っていると、何かが飛んでくる音が聞こえた。反射的に、近くの茂みに身を隠す。

 

「こいつね」

「恐らくそうですわ」

(女神達か……一、二、三……九人居る。全員来てるんだね)

 

 女神達も到着し、謎の存在に対し警戒をしている。

 

(とりあえず様子見……。私の出る幕じゃないし)

 

 トーシャは茂みの中で体を小さくしながら、様子を伺った。

 

「さて……そろそろケリをつけさせてもらうぞ!」

 

 ホワイトハートが先頭に立ち、戦斧を向けた。それに気付いたのか、謎の存在はゆっくりと振り向いた。黄色の長髪で、紅いプロセッサユニットに身を包み、ボロボロの黒いマントを羽織っている。細長い菱形の翼を左右に三対、上向きに浮かせており、右手には両刃の大鎌を持っている。女神のようにも見えるが、青い瞳孔には電源マークが確認できない。

 異様な雰囲気を放つそれは、背丈や顔がどことなくクリストに近い。左眼が潰れているのも同じだ。

 

「……」

 

 紅い女神はゆっくりと大鎌を構え、女神達を睨んだ。

 

「あっちもやる気みたいだな。よし……いくぞ!」

 

 女神達は武器を構え、紅い女神との戦闘を開始した。

 

(……あれ、誰なんだろ)

 

 トーシャは紅い女神の招待が気になり、解析アプリを立ち上げ、タブレットのカメラに写して解析した。

 

(……高濃度のアンチクリスタルの力に……氷の魔力。まさか……あの子か!?)

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