九人の女神は、研究所に現れた紅い女神との戦いに苦戦を強いられていた。相手はアンチクリスタルの使い手。いくら数で勝っていても、有利に事が運ぶことはなかった。
「まずいな。このままじゃ負けるぞ……」
「一体どうすれば……」
「…………あ、シェアリングフィールド……」
オレンジハートが呟いた。
「その手がありましたわ……」
「なんで忘れてたのかしら……」
「うずめ、いけるのよね?」
「もっちろん! いくよー!」
オレンジハートは左腕をかかげ、円盤状の装備を展開した。
「シェアリングフィールド、てんかーい!!」
オレンジハートの掛け声と共に、シェアリングフィールドが展開され、女神達と紅い女神との包んだ。
「うぅ……!」
シェアリングフィールドの影響を受けたのか、紅い女神は左手で胸を押えて苦しむような仕草を見せた。
「いけそうね」
「よーし! 一気にいこー!」
「ぐ……うぅぅぅ……!」
攻勢に出ようと意気込む女神達だったが、紅い女神は彼女達を睨むと、大鎌を横に大きく振った。直後、ガラスが砕けるような音と共にシェアリングフィールドが崩壊し始めた。
「えっ!?」
「嘘……シェアリングフィールドが一撃で!?」
しかし紅い女神への影響も無かった訳では無い。シェアリングフィールド崩壊後も、しばらくは胸を押えて苦しんでいた。
「まだ動けない……のかな?」
「ならチャンスだ。今のうちに打開策を練るぞ……」
「待ってー!」
「ん?」
「伝えたい事あるの! 一人でいいから来て!」
近くの茂みから声が聞こえてきた。見ると、トーシャが女神達に向かって手招きをしている。
「あの人は?」
「あいつ……なんで!?」
ホワイトハートはトーシャの元に降り立った。
「そういうのは後で。とにかく、今は無理に戦わないで! あれは黙ってても死ぬから」
「……? どういう事だ」
「バイタルが低下してるのが分かったんだ。おそらく高濃度のアンチクリスタルの反動で体が蝕まれてるんだよ」
「そんな事あるか? だってアイツは……」
「ただの人間だよ?」
「…………じゃあまさか!」
「うん。あなたの側近さん、だね」
ホワイトハートの表情に戸惑いの色が見える。
「なんでだ!?」
「知らないよ! 来た時にはこうなってたんだ」
「……。救う方法は?」
「話聞いてなかった? 黙ってても死ぬ状態だよ。助けれる訳ない」
「……お前っ!」
困惑、怒り、悲しみ。感情がごちゃ混ぜになり、どうすればいいのかわからなくなっていた。
「何とかしろよ……」
「無理だってば……」
「…………!」
不甲斐なさで意気消沈するホワイトハートにトーシャはしてやれる事は無かった。そんな二人の近くに何かが降ってきた。
「!」
「く……こいつ……」
紅い女神の攻撃を受けたパープルハートが二人の近くに落ちてきていた。その衝撃で落ちたのか、パープルハートの足元には空っぽの圧縮ハイパーシェアクリスタルが落ちていた。
「ブラン、話はまとまったの?」
「……まだだ」
「っ。早くしてよね!」
「あ、待って!」
飛び立とうとするパープルハートをトーシャは呼び止めた。
「何?」
「それは?」
「これ? シェアを貯めるやつよ」
「……ふむ」
「何よ」
「いや……打開策、あるなって思って」
「!」
「本当に!?」
「うん。シェアの力が強い者……他の女神達を呼んできて。候補生にはそのままあいつの相手を」
「……わかったわ」
パープルハートは再び飛び立つと、トーシャの指示通り、候補生に先頭を任せ、他三人の女神を連れて降りてきた。
「で、打開策って何?」
「打開策ってより、クリストを救う策だけどね。まず、この器を私が複製する」
トーシャはフィルターを展開し、空っぽの圧縮ハイパーシェアクリスタルを通した。
「四つになった……」
「今ここには五人の女神が居る。その内の四人はこれにできるだけシェアを注ぐんだ。そして残った一人はこのシェアを使って、あの女神を叩く。上手くいけば、アンチクリスタルの力を中和して、クリストを救い出せるはず」
「シェアが足りなかったら?」
「多少足りない方がいい。目的はあくまで中和。消滅できるレベルのシェアだと、多分助からない」
「……わかったわ」
「そしたら実行に移そう。あまり時間をかけると手遅れになるからね」
トーシャは立ち上がると、ポケットから四角い物体を取りだし、フィルター越しに投げた。着地したそれは自動で変形し、壁を形成した。
「代表は……話し合うまでもないわね」
「えぇ。ブラン、頼んだわよ」
「……!」
「あなたの側近なんだから。あなたが救うべきじゃない?」
「…………そうだな」
ホワイトハートは自分の頬を叩くと、一度深呼吸をした。
「任せろ。絶対救い出す」
「信じてるわ」
「じゃあうずめ達はシェアを注ぎ込むよー!」
ホワイトハート以外の女神達はそれぞれの圧縮ハイパーシェアクリスタルにシェアを注ぎ始めた。
「順調かな」
ドン、と壁に何かがぶつかる音がした。
「おっと、まさかこっち狙うとは……」
「高濃度のシェアに寄せられたか?」
「多分ね。まずいなぁ。この壁そんな強固じゃないんだけど……」
「私が止める」
「ダメ。あなたは最後の一撃の為に体力を温存してて」
「でも……」
「大丈夫。時間稼ぎはできる」
トーシャは閃光玉を取り出すと、壁の向こうに転がした。直後、閃光が辺りをつつみ、紅い女神の視界を奪った。
「少しは動けないはず」
「本当に大丈夫か?」
「大丈夫。回り込んで攻めてこないって事は、あいつに理性は無いからね。本能のままに動いてるだけだ」
「……」
「だから早く解放してあげなよ」
「あぁ……!」
一方、壁の向こう。
「ユニちゃん、よく気付いたね」
「FPSとかでも似たような形のスタングレネードを見た事あったから」
「あの女神、動いてない……」
「よーし! 今のうちね!」
ホワイトシスターラムは紅い女神の足元に氷魔法を放ち、足を凍らせて拘束した。
「よし!」
「今のうちにお姉ちゃん達側に動いておいた方がいいわね。壁から引き離すのは無理そうだし」
ブラックシスターの提案に全員賛成し、候補生達は女神達の頭上と壁の上に位置取った。
「候補生もこっち来たね。本当はもっと遠くで引き付けててほしかったけど、こうなった以上しょうがない」
「ねー……これあとどれくらい注げばいいの?」
変身解除したネプテューヌが怠そうな声で聞いてきた。トーシャはタブレット越しにクリスタルを見た。
「……もう少し。もう少しだけ頑張って」
「う……わかった……」
再び壁に向かって攻撃する音が聞こえてくる。
「アイツ、動き出したよ!」
「鎌を狙って! 攻撃が当たる前に弾くのよ!」
ブラックシスターは銃を構え、大鎌に向かって発砲を繰り返した。
「そんな……難しいよぉ……」
「でも、やるしかない!」
パープルシスターとホワイトシスターロムも、ビームと魔法で攻撃を開始する。
「……器は満ちた。もういいよ!」
「ふぅ……疲れたぁ……」
「体が重いわ……」
「これじゃ戦えそうにありませんわ……」
「あぁー……もう煙も出せない……」
シェアが入った四つのクリスタルをホワイトハートに差し出す。
「後は任せたよ」
「あぁ」
四つのクリスタルを、一つずつ取り込んでいく。二つ取り込んだ時点でネクストフォームになるくらいにはシェアの量は膨大だ。
「これでラスト……」
トーシャがクリスタルを差し出したその時、背後から大きな音が聞こえた。
「! 危ない!!」
ネクストホワイトはトーシャの白衣を掴み、引っ張った。直後、トーシャのいた位置を紅い刃が通過する。
「怪我は!?」
「大丈夫……。あ!」
引っ張られた衝撃で最後のクリスタルを落としてしまった。紅い女神はそれに目をつけ、大鎌を振りかぶる。
「っ!」
(まずい……あれを壊されたら……!)
「『氷剣 アイスカリバー』!!」
振り下ろされる大鎌に、氷の大剣が割って入る。
「ラム!」
「ユニちゃん早く!!」
ホワイトシスターラムの声に応えるかのように、紅い女神の近くに銃弾が降り注ぐ。当たるか当たらないかのギリギリをせめた射撃で、紅い女神を回避に専念させ、ネクストホワイトと距離を取らせた。
「お姉ちゃん!」
「助かったわ、ラム!」
ネクストホワイトは最後のクリスタルを手に取り、自らに取り込んだ。
「よし……いくぞ!」
戦斧を担ぎ、ネクストホワイトは大きく跳躍した。紅い女神も合わせて飛翔。大鎌を振りかぶりながらネクストホワイトに迫る。
「クリスト……目ぇ覚ませ!!」
ネクストホワイトの戦斧と紅い女神の大鎌が競り合う。
「うおおおおおおお!!!!」
ミシミシと、大鎌が軋む。やがて、大きな音を立てて大鎌が砕けた。
「『ハードブレイク』!!」
振り切った戦斧を再び振りかぶり、紅い女神に全力の一撃を放つ。紅い女神は抵抗すること無く、その一撃を受けた。ネクストホワイトはそのままの勢いで紅い女神を地面に叩きつける。
「……」
「……」
「……ふっ…………良かった……」
シェアの力を使い果たし、変身解除したブランの腕の中には、ボロボロのクリストの姿があった。呼吸は深く、体も軽い。
「クリスト……大丈夫だ。絶対に助けるからな」
ブランは今一度、クリストを優しく抱きしめた。
やっぱ主人公闇堕ちって良いですよね。興奮します