次の日、ブランは国の被害についての報告書をまとめていた。かなりの被害を覚悟していたが、シーシャ達の健闘もあり、大きな被害は出ていなかったようだ。また、紅い女神に関しても、国民に存在が知れ渡ることはなく、大きな問題にはならなかった。エクストに関しては死亡したと判断し、遺体に関しては後日職員が回収する事になった。トーシャは一旦教会で身柄を確保している。教会の外に出ないという条件の元、居候のような生活をする事になった。そんな中、トーシャはブランに呼び出されていた。
「どうかしたの? 仕事手伝って欲しいの?」
「いや、違うわ」
ブランはお茶を一口飲んでから話した。
「クリストの容態について知りたいわ」
「あぁ、そう言えば一回も面会してなかったね」
「で、どうなの?」
「良いか悪いかで言ったら悪い。意識は戻ってないし、出血量が多かったから血が足りてない。ま、血に関しては輸血で何とかなるけど。一番の問題は、まだクリストの中にアンチクリスタルがある事、だね」
「そうか……」
「厄介な状態だよ。体内に固体としてあるなら、手術の時に摘出出来たんだろうけど、女神に宿るシェアみたいに、なんか……概念? みたいな感じになっているんだよね」
「つまり、手を打たないとまたあの姿になるって事?」
「それもあるし、もしくは先に体が蝕まれて死ぬか、かな」
「……今クリストは?」
「救護室に居る。…………見る?」
「えぇ」
二人は救護室に向かった。今のクリストをブランが見て、取り乱したりしないか、トーシャはそこだけが心配だった。
❅
「……」
「……」
ベッドに横たわるクリストを見て、ブランは表情を曇らせた。いくつもの機械に囲まれ、その中心で包帯に巻かれて眠っている。消えそうな命を、何とか繋いでいる。そういった状態だ。
(冷静……流石女神だね)
「治療は全て終えたの?」
「うん。でも、この国の魔法による治療をもってしても、ここまでしか治せなかったみたい」
「そんなに酷かったの……?」
「主にアンチクリスタルの影響がね……」
ブランはクリストから目を逸らし、小さくため息をついた。
「……あなたの行動は無駄じゃないよ。少なくとも、延命は出来た。早いとここの子からアンチクリスタルの力を取り除く方法を探さないと」
「…………そうね」
「私も手伝うよ。その……私が生み出したやつがここまでしたんだ。償い……させて欲しい」
「ありがとう。じゃあ、お願いしていいかしら。私は女神の仕事もあるし、こっちに付きっきりってのは出来ないから」
「任せて」
ブランはクリストを一瞥すると、部屋を後にした。トーシャが見送ったその背中は、どこか悲しげだった。
「……ごめんね。クリスト」
クリストの手を握りながら呟いた。手に伝わる温もりが、まだ生きていると伝えてくれる。
(多分、治し方はエクストが知ってる。でも……タブレットは昨日の戦いの時に落として壊れちゃったし、だから生きてるのかも分からない……)
不安しか無かった。本当に正解にたどり着けるのか、もしたどり着けなければブランの行動が無駄になる。
「行動……しなきゃ」
(女神達の行動を無駄にしないためにも……そしてこの命を救うために……)
トーシャも部屋を出ていった。静かな部屋に、機械の音だけが寂しく鳴っていた。
❅
「おぉ……」
研究所の跡地に、和服姿の女性が立ち寄った。背には大きなリュックを背負っている。
「ここなら何か売れそうな物があるかもしれない……」
そう呟いて、瓦礫を退かして物色を始める。しかし出てくる物は全てゴミと言われても文句言えないくらい壊れていた。
「ハズレかぁ……」
小さくため息をついて立ち上がる。そしてその場を去ろうと歩き出した時、何か柔らかいものを踏んだ。驚いて下を見てみると、そこにあったのは人間の手だった。
「っひ!?」
思わず尻もちをついてしまう。どうやら瓦礫の下から伸びているようだ。
(死体……いや、だとしたら見過ごすってどうなんだろ。埋葬くらいはしてあげた方がいいかな……)
恐る恐る、瓦礫を退かしていくと、現れたのは軍服のようなデザインの服、白い髪、傷だらけの脚。
「女の子……うん? この顔……」
顔をよく見てみる。どこかで見たような顔だった。だが、それよりも驚いたのは、肌に触れた時に僅かに温もりを感じた事だ。
(……生きてる。脈がある!)
脈はまだある。まだ助かるかもしれない。その可能性にかけて、少女を抱えて走った。