エクストがクリストからアンチクリスタルを摘出した日から数日経ったある日の昼下がり。
「……はっ」
仕事部屋の椅子に座って居眠りをしていたブランが目を覚ます。昼食後、部屋は快適な温かさ、単調な作業と、眠たくなる要素が揃っていた結果、知らず知らずのうちに居眠りをしていたようだ。
「……良かった。そんなに長い時間は寝てないみたいね」
時計を見たが、二十分くらいしか経っていなかった。しかし、寝起きだからか、頭がふわふわしている。
「水、飲もうかしら」
ブランは椅子から立ち上がると、部屋を出てキッチンに向かった。
❅
「はぁ……」
コップ一杯の水を飲み干す。冷たい水だったから、一気に頭が冴えた気がした。これなら仕事に支障は出ない。ブランは仕事部屋に戻ろうと歩いた。
途中、エントランスの方から話し声が聞こえてきた。キッチンに向かう時には聞こえなかったから、ブランがキッチンにいる間に何かあったのだろう。
「だから、ちょっと顔合わせるだけでいいんだって!」
「何度言えばわかる。素性のわからない人を通すことは出来ない」
「なんでさ! 一般人だってば!」
「にしては明らかに怪しすぎるだろ!」
(……何かしら)
ブランは気になってエントランスの方へ向かった。入り口のところで、門番の教会職員二人が誰かと言い合いをしている。
「何かあったの?」
「ブラン様!? はっ、こちらの不審者がどうしても会いたい人が居ると言って聞かなくて……」
「だから、不審者じゃない!!」
「旅商人なのに丸腰ってのはおかしいだろ!」
「荷物はホテルに置いてきたって言ってるじゃん!」
二人の向こうにいたのは、和服姿で、黒いフード付きコートを羽織った女性だ。背丈はブランより大きめ。
「……とりあえず、中に通して」
「ブラン様!?」
「代わりに、ボディーチェックは入念に頼むわね」
「はいっ……!」
「終わったら応接室に通して。後、誰か他の人にお茶とお菓子用意させてね」
そう伝えると、ブランは先に応接室に向かった。しばらくして、応接室に先程の女性が入ってくる。
「いやぁ、ありがとうございます……女神様」
「知ってたの?」
「さっきブラン様って呼ばれてましたからね。ここの女神様の名前と同じですし、何となくそうかなって」
「察しがいいのね」
「まぁね。で、あなたが女神って事は……側近って居ますよね?」
「えぇ、確かに側近は居るわよ」
「じゃあその側近の子の様子を少し見たいです」
「……その前に、まず貴方の素性を知りたいわ」
「あ、申し遅れました。私はレイラ。ここで女神の側近をしているはずのクリストの、姉です」
「クリストの……お姉さん!?」
ブランは明らかに驚いた様子で目を見開いた。
「まさかお姉さんが居たなんて……」
「あれ、話したりしませんでした?」
「あまり家族の話はしなかったし、私も聞かなかったから」
「あぁ、そうでしたか」
ブランは少し気まずそうに目を逸らした。
(……一応、説明した方がいいわよね)
「……でも、会わせる前に話さないといけないことがあるわ」
「……なんですか?」
レイラの表情が少し真面目になる。
「実は……」
ブランは最近クリストの身に起きたことを全て話した。レイラは黙って相槌を打ちながら聞いていた。
「あぁ……じゃああの子が言ってたの嘘じゃないんだ」
「え……どういう事?」
「ここに来る前にもその話聞いてるんですよ。エクストって名前の子で……知り合いだったりします?」
「えっ!? な、何かされなかった?」
「何もされてませんが……逆に、瀕死だったから介抱してあげただけです……」
(なるほど……それであんなに元気だったのね)
やがて、一人の職員がお茶とお菓子を持って入ってきた。
「クリストは今は元気なんですよね」
「えぇ。もうリハビリも終えて普通に生活出来てるわ」
「それが聞けてよかった……」
レイラは安心した様子でお菓子を頬張った。
「お菓子食べたら、会いに行く? 多分今は修練所で素振りしてると思うから」
「是非。あと……会うつもりは無いんですよ。ただ、元気な様子を遠くから見れればそれで」
「? 会いに来たんじゃないの?」
「見に来ただけです。だって会って話したりしたら……また一緒に暮らしたくなるじゃないですか」
「……ダメなの?」
「今のクリストは貴方の側近ですから」
そう言うと、レイラはブランに微笑んで見せた。
❅
二人は教会の修練所に来ていた。レイラの要望通り、廊下から中を見るだけに留めている。部屋の中ではクリストが二本の刀を使って素振りをしている。
「良かった……元気、そうで……」
レイラは感極まった様子でクリストを見ていた。
「……さっきの事」
「……はい?」
「一緒に暮らしたいなら、私は別に構わないわよ」
「……いいんですか?」
「えぇ。私も姉として、妹と離れる辛さはわかるから」
「…………ですが、クリストがなんと言うか」
「そこは本人次第ね……。私が上手いこと聞き出してあげるわ」
「ありがとうございます」
「……もう少し見ていく?」
「…………いえ、今日はもう帰ります。色々とありがとうございました」
レイラはブランに頭を下げると、フードをグッと引っ張り、深くかぶった。
「明日の昼、また来なさい。その時に、クリストの答えを教えるから」
「わかりました……」
それからブランはレイラをエントランスまで送り、別れを告げると仕事部屋に戻った。明日の為にも、少しでも仕事を片付けなければいけない。夕飯までの時間、ブランは黙々と仕事に取り組んだ。
❅
その日の夜、クリストはブランにお風呂に誘われ、大浴場に来ていた。
「珍しいですね。私と一緒に入りたいだなんて」
「たまにはいいでしょ? 裸の付き合いも大事よ」
二人は身体を洗うと、並んで湯船に浸かった。
「髪洗ってる時に思ったのだけど、クリストって髪下ろすとだいぶ雰囲気変わるわね」
「そうですか?」
「えぇ。なんか、大人しめな雰囲気になってる気がして」
しばらくそんな他愛のない会話をしながら時間を過ごし、ついにブランはあの質問を投げかけた。
「そうだ、クリスト。もし、明日あなたの家族が迎えに来るってなったら、あなたはどうする?」
「おや、なんですか急に」
「ちょっと気になっただけよ。あまり家族の話ってされないから」
「んー……私は…………そうなったら、一緒に行く気がします」
「そう……良かったわ。ここで私を選ぶような仕事バカじゃなくて」
「普通家族を取ると思いますけどね。……それに、私もまた家族と過ごしたいなって想いはありますし」
「ふーん」
「あ、ここでの生活が不満って訳じゃないですよ? ただ……お姉ちゃん、寂しくないかなって」
「……お姉さんが居るの?」
ブランはわざと姉の存在を知らないフリをして聞いた。
「はい。うちの両親、私が小さい頃に病気で死んじゃって……それ以来お姉ちゃんが育ててくれたんです」
クリストは湯船から出て縁に座った。長風呂に耐えられなかったのだろう。
「いいお姉さんね」
「私の自慢のお姉ちゃんです」
クリストは自慢気に答えた。その様子を見て、ブランはどこか安心したような笑みを見せた。
それからまた少し雑談をして、風呂から上がる。
「では、おやすみなさい、ブラン様」
「えぇ、おやすみ、クリスト」
廊下で別れると、ブランは足早に仕事部屋に向かった。そしてデスクの引き出しにしまっておいた紙を取り出す。その紙には「住民登録」の文字が書かれていた。
「……これも使う事になりそうね」
ブランはその紙をまた引き出しにしまうと、仕事部屋を後にした。
(先にあの子達には伝えておいた方が良さそうね。当日に伝えるのはあまりにも酷だし)
そう思い、ブランはロムとラムの部屋に向かった。
二次創作なのにオリキャラ四人も出てて大丈夫かな、って思い始めてます。刺されない事を願います