女神の従者の願うこと   作:よっしー希少種

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後日談第二話です


EX2.帰る場所

「今日は外で食べてくるよ。だから私の分のお昼はいらない」

『はーい。わかった〜』

 

 トーシャはレイラとの電話を終えると、スマホを白衣のポケットにしまった。時間はちょうどお昼時。お腹が空く時間だ。

 

「……ここにしよう」

 

 近くにあったラーメン屋に入った。食券を買い、店員に渡すと、カウンター席についた。

 

(今日も収穫無かったな……)

 

 トーシャは最近、人探しに躍起になっていた。探しているのはエクスト。まだ生きている可能性は大いにある上に、また会って話をしたいという気持ちが大きい。

 

(……また会えたら何話そうかな。今の生活? 最近の出来事?)

 

 なんて考えていると、誰かが店に入ってきたようだ。その人物は食券を店員に渡すと、トーシャの隣に座った。

 

(なんで隣なのよ。まだ他に空いてる席あるでしょ……)

 

 どんなやつかと思い、隣をちらっと見てみた。

 

「やぁ、久しぶり」

「え……」

 

 そこに居たのはトーシャが探していた人物、エクストだった。

 

 

「奢ってもらうつもりだったけど、食券だったかぁ」

「そんな事どうでもいいの。今まで何してたの?」

「ネカフェに泊まりながらギルドの依頼こなして生活してた」

「ネカフェ難民じゃん」

「行くとこないからね」

「……で、その服は?」

 

 エクストの服装にも少し変化があり、軍服風の格好によく合う軍帽と、左肩に肩マントがついていた。

 

「似合う? 帽子の赤い星のピンバッジもいいでしょ〜」

「それもそうだけど……髪切ったんだね」

「あぁ。いつまでもアイツと同じ髪型も嫌がられそうだし」

「……ふぅん」

 

 二人はラーメンを食べながら会話を続けた。

 

「ていうか、行くとこ無いならうちに来ない? 今クリストとそのお姉さんと一緒に暮らしてるんだけど……エクストなら受け入れてくれると思うよ」

「それは……無いな」

「なんで」

「私は……クリストの左眼を潰した上に散々辛い思いをさせた。そんな奴と同じ屋根のした生活しろだなんて……アイツの精神がもたないよ」

「……」

「良いんだよ。私は今の生活で……」

「本当に?」

「本当だ」

 

 エクストは水を飲み干すと、席を立った。

 

「……じゃ、体に気をつけて過ごしてね」

「…………そっちもね」

 

 トーシャは店を出ていくエクストの背中をじっと見ていた。

 

「嘘つきだなぁ……」

 

 

「さて、ここだなぁ……」

 

 エクストはある場所にある洞窟の中に入っていった。臆すること無く奥へと進んでいく。そして、洞窟の最奥。そこには巨大な何かが動いていた。

 

「……八百禍津日神。会いたかったよ」

 

 八百禍津日神。あのエンシェントドラゴンよりも遥かに強大な力をもつモンスターで、女神ですら苦戦すると言われている程だ。エクストはそんな存在に対して一歩も引く素振りを見せず、刃を向けた。

 

「あんたなら私を殺してくれるよな……。ま、黙って殺されるつもりはいけどね!」

 

 接近し、爪による攻撃をかわして切りかかる。しかし、刃は鱗に阻まれ、全くダメージを与えられていない。

 

(硬い……)

 

 一度距離を取り、ダガーにカセットを差し込み、銃に変化させる。

 

「これで……!」

 

 八百禍津日神に向けて連射するが、怯む様子すら見せない。

 

「はっ……ちょっとヤバいかも……」

 

 今度は太刀に変え、攻撃を防ぐ。

 

「ぐっ……!?」

 

 予想よりも攻撃は重たく、両手で支えてやっと受け止めることが出来た。

 

(さて、どうする……このままじゃ傷一つ付けられない……)

 

 攻撃を捌きながら隙を見て反撃を入れるが、刃は弾かれ、ダメージを入れる事が出来ない。それどころか、逆に反動が腕に伝わり、段々と言うことを聞かなくなる。

 

「はぁ……くっ……」

「グルアァッ!!」

「……!? あ……」

 

 鋭い痛みの直後、足が地面を離れる。八百禍津日神の爪がエクストの腹部を貫き、そのまま持ち上げる。

 

「ぐ……ゴフッ……」

 

 口から零れた血が八百禍津日神の腕を濡らす。武器も落とし、もう打つ手はなかった。

 

(……終わりか……。でも、これでいい……)

 

 もう諦めよう、そう思って目を閉じようとしたその時、ふと、ある言葉が頭をよぎった。

 

『それに、せっかく助かった命だよ? 簡単に捨てようとしないで』

(……簡単に捨てるな…………そうだ。あの日、私は何をした?)

 

 クリストを救い、レイラに報告したあの朝。陽の光を浴びて輝く雪原で髪を切ったあの日の決意を思い出した。

 

(そうだ……私はただのコピーをやめた。これからはアイツと違うように生きると決めたんだ……)

「なんで……わすれていたかな……」

 

 エクストは八百禍津日神の腕を掴んだ。

 

「まだ……死ねない……いや、死にたくない……!」

 

 血に濡れた腕から抜け出そうと、必死で足掻く。

 

「死んでたまるか……私は……私だ……!」

(抜け出して、アレさえ使えば……!!)

 

 もう片方の腕が振り上げられているのが見える。どうやらトドメを刺す気のようだ。

 

「うぅぅ……!!」

 

 爪が振り下ろされようとしたその瞬間だった。どこからともなく飛んできた氷の刀が、八百禍津日神の目を貫いた。

 

「グアァァァァ!!」

 

 苦しみの咆哮を上げる八百禍津日神の口内に、更に二本の氷の刀が飛んでくる。痛みに耐えようと腕を振り回したせいで、エクストが爪から抜け出した。

 

「はぁ……ぐうぅ……」

「ちょっと、生きて……!?」

 

 エクストの前に現れたのは、白い防具に身を包んだ隻眼の少女だった。

 

「クリスト……」

「……喋らないで」

 

 クリストはエクストと、近くに落ちていた武器を持って岩陰に隠れた。

 

「それ……貸せ」

「その前に手当てを……」

「自分でできる……」

 

 エクストはクリストから武器を奪うと、杖に変化させ、回復魔法を自分に当てた。

 

「はっ……ギリギリだったぁ……」

「何無茶してんのさ」

「いや、あんたこそなんでここに居るんだよ」

「ブランに頼まれて、先発で調査を」

「なるほど。てことはこれから女神が来るのか」

「来るよ」

「……ダメだ」

「はぁ?」

「アイツは私が倒す。あんなに痛ぶられたんだ。黙って逃げるなんて出来ないね」

「まだ無茶する気?」

「無茶じゃないさ」

「…………勝算は?」

「ある。だが……あんたが一緒ならもっとやりやすいかもね」

 

 その言葉を聞いて、クリストはニヤッと笑った。

 

「じゃあブランが来る前に倒しちゃおっか」

「そっちも何かあるって顔だな」

「勿論」

 

 クリストは懐からキーホルダーのようなものを取り出した。

 

「それは?」

「擬似女神化するためのアイテム」

「……へぇ、面白い」

 

 大きな足音が、二人のいる方に近付いてくる。

 

「私も取っておきがあるからさ……」

 

 そう言って、紅色のカセットを取り出す。

 

「ま、あんたが『擬似』女神なら大丈夫なはずだ。……やるぞ」

「うん……いこう!」

 

 二人の居る岩を割くように振り下ろされた爪を左右にかわす。

 

「信仰の器、解放……」

 

 そう呟き、クリストは信仰の器の捻りを三回回した。

 

「ルインズメモリー、セット……」

 

 エクストはダガーのスロットに紅いカセットを挿した。

 

「「変身!!」」

 

 クリストは信仰の器を掲げ、エクストはダガーを地面に落とした。クリストの体を魔法陣が往復し、水色のプロセッサユニットに身を包んだ擬似女神、スカイハートに変身する。一方エクストの方は、落としたダガーを中心に黒い液体が広がり、それがエクストの身体を包み込む。やがて液体は弾け、中から紅いプロセッサユニットに身を包んだエクストの姿が現れる。髪は濃い紫に変色し、目は両方とも青色になっている。

 

「それ……!?」

「そう。あんたが女神化した時の記憶をロストアンチクリスタルから吸い上げて、私が使いやすいように調節したやつ。名は……ルインハート」

「へぇ……そんなのもできるんだ」

 

 八百禍津日神が咆哮を上げる。どうやら二人を本気で倒すつもりのようだ。

 

「ホワイトハートが来る前に殺るんだろ? だったら手早く済ませようよ」

「そうだね。速戦即決ってね!」

 

 スカイハートは鞘から刀を抜き、構える。鞘は六つに分離し、翼になった。

 

「私が先陣切って攻撃仕掛けるから、エクストは傷付いたところに攻撃当てて」

「いけるの?」

「大丈夫。翼六枚なら……どの女神よりも速く飛べるし!」

 

 そう言うと、八百禍津日神に向かって飛んだ。

 

「速……目で追えないんだけど……」

 

 スカイハートは八百禍津日神の周りを飛びながら攻撃をし続けた。

 

(あの速度なら防御は無理だな。いずれ鱗が削れて弱点ができる……)

 

 ルインハートは八百禍津日神の様子をじっと観察した。そして、右肩の辺りの鱗が削れているのが見えた。

 

「よし、クリスト。巻き込まれないように避けるか攻撃止めろよ!」

 

 それだけ言うと、ルインハートは姿を消した。

 

(お……仕掛けるかな?)

 

 スカイハートは巻き込まれないように攻撃を止めた。八百禍津日神の意識は完全にスカイハートに向いている。威嚇の咆哮をあげたその時、八百禍津日神の右肩付近の空間にヒビが入る。

 

「……『ディメンションダイブ』!!」

 

 そして空間を割って出てきたルインハートの大鎌が、鱗が薄くなった部位を捉えた。

 

「グギャアァァァ!!」

「オラァッ!」

 

 そのまま思いっきり引き切ると、八百禍津日神の右腕はダランと垂れた。

 

「通ったね」

「だな。次は致命傷を与えるぞ。腹辺りを削るか」

「オッケー!」

「今度は私も一緒にいくぞ!」

 

 スカイハートは二本の刀を合わせて双刃刀にすると、ルインハートと共に八百禍津日神の腹部に接近した。

 

「『白昼夢想』!!」

「『リッパーズダンス』!!」

 

 二人の連撃により、腹部の鱗は大きく剥がれた。

 

「これなら!」

「いける!」

 

 二人は一度八百禍津日神から離れる。

 

「全力、叩き込むぞ」

「わかってる。いこう!」

「「エグゼドライヴ!!」」

 

 スカイハートは二本の刀を融合させ、一本の大太刀にして構えた。ルインハートの方は大鎌に力を注ぎ、構える。

 

「天を照らす始まりの刃……」

「全てを蝕む終の刃……」

 

 二人は武器を構えて八百禍津日神に迫る。

 

「『天星乱舞』!!!!」

「『アブソリュートエンド』!!!!」

 

 禍々しい紅い刃は八百禍津日神の腹部を抉り、神々しい青い刃は堅固な鱗を裂き、大きな切り傷をいくつも残した。

 

「決まったね……!」

「……そっちの技、わざわざ鱗削らなくても良かったんじゃ?」

「それは……言わないお約束。なんならそっちだって全然鱗削ってない脇腹辺りも裂いてたし」

 

 二人は変身を解いた。

 

「……じゃ、私はこの辺で。あのモンスターについてはお前が倒したって伝えときな」

「あ? ちょっと待ってよ」

 

 クリストはエクストの手首を掴んだ。

 

「何?」

「どこに行く気?」

「どこって……そうだなぁ。生きてくって決めたし、そろそろちゃんとした賃貸でも探してから……」

「……じゃあ、うちじゃダメ?」

 

 エクストは目を丸くした。

 

「……冗談言うんだな」

「冗談じゃないよ」

「じゃあ気でも狂ったか?」

「なんでそういう事言うの……」

「当たり前だろ。誰があんたの左眼を潰した……? あんたがロストアンチクリスタルを取り込んで寝たきりになったのは、誰のせいだよ!」

「それは……」

「全部私のせいでしょ……私があんたを苦しめ、死の間際まで追いやったんだ」

「……」

「そんな奴と一緒に暮らそうだなんて……イカれたとしか思えない」

「……それは私が許すだけで済む問題じゃないの?」

「……私自身が、許せないんだよ」

 

 エクストはぐっと拳を握り締めた。

 

「だからもう、ほっといてくれ」

「エクスト……」

「私は私の生きたいように生きるんだ。私の選択を尊重したって良いじゃないか」

「君の帰りを待つ人が居るんだけど、その人のことはどうでもいいの?」

「……!」

「毎日、君の事探してたんだよ?」

「……トーシャ」

「それに、私だって、まだ助けてもらったお礼できてないし。お姉ちゃんだって、また会いたがってた」

「……本当に?」

「うん」

「……また、私が何かしでかすことだってあるかもしれないんだぞ」

「ありえないね。そんな人なら、私の命を救ったりしない」

 

 エクストは帽子を深く被り、上を向いた。

 

「はっ……姉がああなら妹も一緒か」

「……さ、ここに長居してもしょうがないよ」

 

 クリストは出口の方に数歩歩くと、エクストの方を振り向いた。

 

「帰ろうよ。私達の家に」

「……あぁ。案内、頼むよ」

 

 エクストは目元を拭うと、クリストの目を見て答えた。それから二人は、並んで洞窟を後にした。




エクストのルインハートと、クリストのルインハート(紅い女神)には見た目的な違いがあって、クリスト側は髪色が黄色、エクスト側は濃い紫になっています。
あと、エクストがあの致命傷を耐えたのは、体内にアンチクリスタルがある事で身体の構造が女神寄りになってるせいです。身体能力や耐久力が常人よりも少し高いんですね。
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