「休暇をもらった……が……」
クリストは部屋でボーッとしていた。朝食の時にブランに数日の休みを言い渡された。本人は休む気なんてなかったから、いざ休むとなるとやる事がわからない。ついでにと手渡された眼帯を触りながら、何をしようか考える。
「……とりあえず今日は積んでたゲームを崩そうかな」
そう呟いてクリストが手に取ったのは、ルウィーで流行っている最新ゲーム機。携帯機としても据え置き機としても使えるゲーム機だ。それをテレビに接続し、電源を入れる。
「まずは……これからだな」
カセットをゲーム機に差し込み、ソフトを起動する。最初に選んだのは、人気3Dアクションシリーズの最新作。
「神ゲーとは聞いている。さて、如何程か……」
コントローラーを握り、ゲームを始めた。
それから二時間後……。
「ダメだ。この調子だとこれ一本で一日潰れるわ。一旦セーブして他のゲームも触るか……」
ホーム画面に戻り、ソフトを終了してカセットを変える。次は狩りをするゲームだ。
「和な雰囲気らしいし、期待大だなぁ」
それから、ゲームに没頭すること二時間。
「もう十回目だ。そろそろ逆鱗……あぁーー出た! でもなんで二つ出るんだ……一つでいいのに……」
コントローラーを置いて大きく伸びをした。レア素材を求めて連戦するのは、なかなかに疲れる。
「でもこれでこの双剣の強化も完了。キリがいいしこれはここまでかなぁ」
セーブしてゲームを終了する。
「さて次は……」
クリストは少しでも積みゲーを崩そうと、色々なゲームに手を出した。
「……お、今年のやつは出来がいいな。よしよし、結構ステータス上がったぞ」
少し前に話題になった、作物を育てながら冒険するゲーム。
『敵だ。かなり遠い』
「よく見えるな……。このハードだとボヤけてて全く見えない……」
PCから家庭用ゲーム機にも移植された人気FPS。
『+ボタンでメニューを開きます』
「+でメニュー……」
『これは私のペットの。でもなんでここに……』
「……」
『バアァァァァァン!!!!』
「うわあぁぁぁぁっ!? ビックリした! メニュー画面のチュートリアルじゃん今!」
夜をテーマにしたホラゲー等、とにかくゲームで遊び尽くした。結局、夕食に呼ばれるまでゲームは続いた。
「随分と熱中していたようね」
「まぁ……はい。久しぶりだったので」
「……クリストって浅く広くなタイプなのね」
「そんな事はありませんよ。崩そうと思ってやらなければ、一つをとことんやり込むタイプなので」
(これ、ネトゲやらせたらベールみたいになるタイプね……)
そんな会話をしながら夕食を摂る。
「で、ブラン様。明日の予定は……」
「明日は……いや、明日もあなたは休みなさい」
「え?」
「まだ。もう少し休むべきよ」
「は、はぁ……」
なんて言われたからとりあえず休むことになった。
翌日……
「休めって言われたってな……」
またゲーム漬けというのも考えたが、その生活から抜け出せなくなりそうな気がしたのでやめた。結局、修練場で素振りをする事にした。刀を両手に持ち、空を斬る。回数も数えず、ただ疲れるまでひたすらに刀を振った。
「はぁ……ふぅー……」
気付けば、全身に汗をかくくらい素振りをしていたようだ。持ってきておいたタオルで額の汗を拭う。
「……」
周りを見回す。クリスト以外は誰も居ない。それを確認すると、道着の胸元から手を突っ込み、体の汗を拭いた。
(シャワー浴びよっかな……)
「クリスト」
「ふぁいっっ!!!???」
急に呼ばれ、上擦った声が出てしまった。急いで手を引き抜き、振り向く。
「な、何か御用ですか!?」
「え、えぇ……その、トーシャについて少しね」
「はぁ……何でしょうか?」
「あなたに話したい事があるみたい。後で地下牢の方に行ってもらってもいいかしら?」
「わかりました。では、少しシャワーを浴びたいのでこれで……」
「えぇ。特訓お疲れ様」
クリストは先に修練場を後にした。
(よかった、見られてなかったみたい)
(おそらく見ちゃいけないとこ見ちゃったけど、知らないフリしたし大丈夫よね……)
❅
ブランに言われた通り、教会の地下牢にやってきた。鉄格子の向こうに居るトーシャはクリストを見ると立ち上がって近付いてきた。
「こんにちは」
「こんにちは……。気分は?」
「うん……思ったより過酷」
「……でしょうね」
「食事は質素だし、壁はコンクリート張りで温もりは無いし、ベッドは硬いし」
「言っておくけど、これが普通だからね? シャワー付いてたり、食事でハンバーグだのラーメンだのを出すそっちの方がおかしいんだからね?」
「そう……だったのか」
「……で、話しって?」
「うん、エクストについて」
クリストの表情が若干曇る。
「何……」
「本当はこういうこと言いたくないけど……あなたも準備はしておいた方がいい」
「……」
「わかってる。前に話したからね。でも、万が一がある。その万が一が起きた時、一番やつに対抗できるのは……あなただと思うんだ」
「……そうかな」
「一度戦ってるじゃん」
「簡単に言うね……」
クリストは小さくため息をついた。
「まぁ、覚悟はしておくよ」
「本当?」
クリストは首を縦に振った。トーシャは小さく「ありがとう」と呟くと、クリストを返した。
「何の話だったの?」
地下牢の出入り口で、ブランは待っていた。
「……大した話ではないですよ」
「そう。話したくないのなら別に構わないわ」
あまり深く聞くことはせず、ブランは歩きだした。
「ところでブラン様」
「何?」
「私はいつまで休みなんですか?」
「うーん……一応、あと一週間」
「一週間!?」
「あなたのメンタルのケアとかがあるのよ。せっかくの休みなんだから、好きな事して過ごしなさい」
「ですが、一応側近ですし……」
「クリスト。これは提案じゃないの。命令よ」
「…………はい」
(休む命令ってなんだよ……)
結局、クリストはその後一週間、全く職務を行わせてもらえなかった。
❅
「あぁ……いけませんわ。一人で前線に突っ込んでしまっては、援護も間に合いませんわよ」
ベールはいつも通り、ネトゲに勤しんでいた。今はギルドのメンバー達とボイチャをしながら防衛戦を行っている。防衛戦も後半に入り、ここからが本番、という時に、部屋のドアがすごい勢いでノックされた。
「失礼……少し外しますわ」
ボイチャを切り、ヘッドセットを外す。
「何ですの?」
「ベール様! 教会の監視カメラが全てダウンしました!」
「!?」
「更に、シェアクリスタルを安置している部屋の付近に僅かな空間の歪みを観測しました。何者かが侵入してきたと思われます!」
「…………まさか!」
ベールは部屋を飛び出し、シェアクリスタルのある部屋に向かった。
「……やはり、あなたでしたのね」
「来たか、女神」
部屋の前に立っていたのは、紺色の軍服に身を包み、右手には灰色の表紙に金の魔法陣が描かれた本を持った白髪の少女、エクストだ。
「なんの目的ですの?」
「わざわざここを座標に指定して帰ってきたんだよ。だったらやる事は一つでしょ?」
エクストは魔導書をダガーに戻した。
「シェアクリスタルを、破壊する」
ブラン様って、どこか過保護なイメージありません? 私だけでしょうか