登山中に滑落事故で頭を打った俺は、漆黒の髪を持つウマ娘と『お友だち』に助けられて奇妙な世界に迷い込んだのだけど、これからどう生きればいいんでしょう?   作:たたたった

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マンハッタンカフェを中心の話なのに軸がブレすぎたので22日と23日分を削除して書き直します。


漆黒のウマ娘の独占欲。

『あっ、なんだ繋がるじゃねぇか!アンタから全然連絡来なくて心配してたんだぜ?全く、この私を待たせるとは良い度胸だな!いつまで経っても、ウマスタもウマッターも更新されねぇし、店員が不良品寄越したんじゃねぇかって……怒鳴り込みそうになったぞ?』

「いや、シリウスシンボリの方から今日は合わす顔がないって言ったんだろ……だから連絡を控えようって思ったのに……」

『仕方ねぇだろ、アンタの声を聞きたくなっちまったんだから……ん?アンタ、スマホをスピーカーにしてるのか?』

「あぁ、勝手にスピーカーにしてすまないな。俺たちが今回遭遇した出来事に対して専門家の意見を交えて……今後のことを相談しようと思う」

 

 スマホのスピーカーから聞こえるシリウスシンボリの上機嫌な声。それに対してマンハッタンカフェは感情が消え失せた底冷えするような表情で口を開く。

 

「こんにちは……シリウス先輩。私はトレセン学園高等部のマンハッタンカフェです……私の『大切』な友達が危険な目に遭ったと聞いたので、シリウス先輩も交えて私と彼でお話をお伺いします……」

『…………私のモノと許可なく一緒にいるんじゃねぇ』

 

 開幕早々にスマホから聞こえる唸るようなドスの利いた声音でシリウスシンボリは脅す。マンハッタンカフェの話ではトレセン学園の問題児たちを纏める番長的な存在であるらしいのだが、流石は在校生2000人を超える学園の不良のトップ。スマホ越しの声だけでも凄まじい迫力である。

 だがマンハッタンカフェはそんな猛獣の威嚇のような声音もモノともせず、淡々とコーヒーを飲みながら一息吐いた。

 

「彼はモノではありませんよ……それに今、シリウス先輩が抱えている感情は一時的なものです。つまりは……極限の状況に置かれた緊張をシリウス先輩を守った彼に対する恋慕と勘違いしている……単純な吊り橋効果ですね……」

「あぁ?なんだお前……ッ!私の感じてるモノは偽物だって言うのかよ……ッ!」

「私は事実を述べただけです……アナタは私と違い彼のことを何も知らない……何者かも……置かれている状況も……見えている世界も……ただ一時の熱に浮かされているだけ……それだけがシリウス先輩です」

「っ~~~~ッ!!なっ、ぁ、ぁんたに……私のアイツに対する気持ちの何が分かんだよ!」

 

 これが火に油を注ぐというものなのか、マンハッタンカフェは躊躇いなく燃料を激情に駆られるシリウスシンボリに注いでいく。そして際限なくヒートアップするシリウスシンボリに対して、その怒りに当てられてもマンハッタンカフェは眉一つ動かさない。

 それはさながら灼熱に燃え上がる炎と絶対零度の氷。そんな電話越しの彼女たちの口喧嘩と『お友だち』の早く何とかしろというジェスチャーに俺は頭を抱える。

 

 俺は仲介を頼んだのに……なんでこんなに煽ってるの……?いや、ここは荒療治でもシリウスシンボリの気持ちを質す為に敢えて挑発してるのか……それでも、シリウスシンボリはトレセン学園の問題児たちの取り纏め……そんな彼女を怒らせてマンハッタンカフェの学園生活が心配になるぞ……?

 

 『お友だち』が居るからマンハッタンカフェは直接な危害は加えられないだろうし、シリウスシンボリは短い付き合いであるが、陰湿な真似をするようなウマ娘でないことは分かっている。だが、その取り巻きたちがどういう行動に出るかまでは予想は出来るので俺は2人の間に割って入る。

 

「待て……2人とも。今大事なことは『このよではないばしょ』で起こった事件の方だ……それにマンハッタンカフェ。君がシリウスシンボリの気持ちを断じるのは間違っている。顔すら合わせたこともない相手に対して、その恋慕を否定することは残酷なことだ」

『ハッ!コイツは私に嫉妬してるんだよ!私に『大切』な友達を奪われるじゃないかってな……ッ!』

「……ッ!ぅ……す、すいません……」

 

 俺の諫める言葉とシリウスシンボリの言葉が図星だったのか、顔を赤らめて俯くマンハッタンカフェは小さな声で謝罪する。そして俺の援護の言葉もあり、怒りは冷めてすっかり勝ち誇ったようなシリウスシンボリの声に対しては――

 

「それにシリウスシンボリ。俺はお前のモノになった覚えはないし、まだ出会って半日も経ってない関係なのにマンハッタンカフェとの交友関係に口を挟むな。お前の気持ちについては……これからゆっくり2人で考えよう。それよりも大事なことは『このよではないばしょ』で出会った神様についてだ」

『それは……私が悪かった。マンハッタンカフェが『大切』って強調するから、ついカッとなって凄んじまったよ……それにお互いの関係についてはこれからだしな……そうだよな……これからがあるんだよな……クッハッハッ!』

 

――とりあえずはお互いの険悪な関係は緩和されたので、強引に話の路線を今後の日常生活で問題になりそうな『このよではないばしょ』で出会った神様に目を付けられてしまった件に戻すことに成功した。

 

「それでは……お二人の体験した出来事についてお話しください……私も『このよではないばしょ』に幾度も訪れた経験があるので……参考になるでしょう……」

「あれは病院の見舞いに行った帰りの話なんだが――」

『誰を見舞いに行ったんだ?』

「――頼むから話の腰を折らないでくれ……それで話を戻すが――」

 

 俺はそれから祭りの音に誘われて『このよではないばしょ』に導かれたことや、その場所で幽霊たちに黄泉戸喫の食い物を食わされそうになったこと、そして祀られている神様に振る舞われた神の酒を飲んだという話に移ると――

 

「アナタは何をしているんですか……ッ!もし神様がアナタの魂を狙っているのでしたら、それを口にした途端に魂を奪われていたかも知れないのですよ……ッ!?」

「だが、状況的に飲むしか選択肢はなかった。酒には黄泉戸喫の穢れは見えなかったし、巻き込まれたシリウスシンボリだけでも帰そうと必死だったんだ。それに現に俺はピンピンしてるだ――」

「――だからと言って……ッ!そんな安易に神の酒を口にするなんて!もしアナタが死んでしまったら……私はどうしたら良かったんですか!やっと……本物の『理解者』に出会えたのに……私たちでしか共有出来ない『秘密』を持てたのに……私の寄る辺で……私の大切な『理解者』を失ってしまったら……私は……私は……ッ!!」

 

――席から立ち上がったマンハッタンカフェは、テーブル越しに俺の胸倉を掴んでグッと引き寄せる。ウマ娘の腕力もあり、マンハッタンカフェの目の前まで顔を近付けられて、覗く彼女の表情は冷徹だった先ほどの顔とは打って変わって、怒りで吊り上がった眉と目から零れる涙を拭う事もせずに金色の瞳は俺を射抜く。

 

「アナタが死んでも私たちは一緒になれる……ッ!だけど神様に奪われるのだけは絶対にダメです……ッ!取り返せない!そんな……神様に魂を奪われるくらいなら……私がアナタの魂を奪っ――」

「マンハッタンカフェ……落ち着け!神様は別に俺の魂を本気で奪おうなんて思っちゃいなかったはずだ……ッ!じゃなければ、こんな簡単に現世に帰してくれるはずないだろ!」 

『おい!?落ち着けよ!そいつは大丈夫だ!大丈夫だから!』

 

 マンハッタンカフェは俺が死にかけたことに取り乱し『掛かって』いた。

 涙を流しながらも激情のままにテーブル越しに抱き着いてくる。もう絶対に離さない、渡さないという意志を体現するかのように、万力のようにキリキリと肉と骨が軋み悲鳴を上げる俺の肉体は激痛に耐えながらも、この状況を打開すべく一手を考える――

 

 このままじゃマズい……ッ!絞め殺されることはないだろうが、このままじゃ周りの客たちも異変に気付いて大事になっちまう……ッ!確か『菊花賞』や夏合宿を控えているのに問題を起こしたら……マンハッタンカフェの将来が危うい!クソ、だが手も足も動かねぇ……ッ!

 

――『ウマーバックス』の客たちも異変に気付き始めて、店内が少しだけ騒がしくなる。だからすぐにでもこの状況を何とかせねばならずに、俺は金色の瞳から涙を流しながらも、やっと手に入れた大切なモノを手放さないと言った蕩けた表情のマンハッタンカフェを見て。

 

「すまない……マンハッタンカフェ!これしかないんだ……ッ!」

「ンッ―――――――――――!?」

 

 生者には効果がないと言っていたが、マンハッタンカフェの魂を鎮める為に、今俺が出来る最大限の行動として、彼女の身体に生命のオーラを流すことにした。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 最初に感じたのは恐怖だった。

 私は幼少期から『ふつうのひとにはみえないもの』と関わってきたけど、彼の話から出てきた神様のことを聞いて全身の毛が粟立つのを感じた。

 これが『よくないもの』だったら、私は『お友だち』と一緒に彼の魂を取り返すことは出来る。でも、神様が相手では私ではどうすることも出来ない。私にとっては生物の『死』は通過点でしかない、ヒトもウマ娘も死んだら『ふつうのひとにはみえないもの』になるだけで、死後には何処かに召されていくのだから。

 

――だからこそ、私は彼が神様に魂を奪われてたかも知れないと聞いて初めて『死』に対して強い恐怖を感じた。

 

 それはきっと普通のヒトやウマ娘が感じる『死』に対する絶対のイメージである『決して取り返しのつかない』出来事なのだろう。永遠の喪失、別離、二度と会うことも話す事も出来ないと言う『普通』なら当たり前に感じる事を私は初めて味わった。

 

 嫌です……奪わせない……神様なんかに私の『大切』な彼を奪わせない!

 

 私の『理解者』であり『大切』なヒト。それが神様という理不尽な存在に奪われる。そんな可能性を前にした私は、もう形振り構っていられなかった、奪う前に奪えば良いという考えが頭を満たして、気が付けば彼をこの腕の中で『永遠のモノ』にしようとしていた。

 彼の温もり、匂い、息遣い、心音、その全てを感じることが出来て私は幸せだった。でもなにより幸せだったのは、私が彼を『永遠のモノ』にしようとしても、それでも彼の瞳には恐怖の色はなく、私のことを心の底から心配していることに狂喜する。

 

 ウマ娘の身体能力なら……すぐにでも……彼を『永遠のモノ』に出来る。もっと強く……もっと強く抱きしめて……私の腕の中で彼の魂を抱きたい……。

 

 でも彼の身体は思ったより頑丈だった。ウマ娘の全力なら簡単に抱き潰せると思ったのに、彼は私の思いを受け入れているはずなのに、何故か、まるでウマ娘の肉体を相手にしているようで思うように抱き潰せない。

 あとちょっと、もう少しで私の『永遠のモノ』になるはずなのに、そのもどかしさで悶々としていると、ふと唇に柔らかさを感じて驚いて目を見開く。

 

「んっ―――――――――――ッ!?」

 

 気が付けば彼の唇が私の唇と重なっていた。それは初めて異性とのファーストキス、思わず私が抱きしめ腕を離してもキスは止まらない。そして小さな私の唇から身体を満たすように温かなモノが全身に溢れるように流し込まれて来る。

 

 この温もり……彼の生命のオーラ……どうして……?生者には味わえないはずの……この暖かさがどうして私の魂を満たしてくるの……?でも、どうでもいい……ただ気持ち良い……染まる感覚……私の中が彼で満たされるのが堪らなく嬉しい……。

 

 気が付けば抱きしめる腕は、彼の胸板に手を置いて、されるがままに親鳥に餌を求める雛のように生命のオーラを唇を通して注がれていた。魂がより強く結びつく感覚、私と彼が一つに混じり合う陶酔感に酔いしれて、永遠にこの瞬間が止まってほしいと強く願っていると――

 

「うぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!大丈夫か!アンタ……って?!何がどうなってんだよ?!なんでマンハッタンカフェが私のモノとキスを――どけっ!そこは私の場所だ……ンッ!」

「って……おい!なんでシリウスシンボリがここに居るんだ……ちょ、やめっ……ッ!」

「肝心なところで……邪魔されてしまいました……ね……」

 

――『ウマーバックス』に突撃してきたシリウスシンボリさんが、テーブルを乗り越えて一直線に私たちのところへやってくると、そのまま私を突き飛ばして代わりに彼に口付けをしてしまいました。

 

「でも……なんだか、ほっとします……私はとんでもない過ちを犯しそうでしたから……」

 

 心を包むのは不思議とシリウスシンボリさんに対する嫉妬でもなく、深い安堵感でした。まるで彼の生命のオーラが私の魂を清めたかのように澄んだ青空のような気持ちで彼に顔を赤らめながらも迫るシリウスシンボリさんを見て笑いながら。

 

「でも他人の幸せって本当に砂利の味がするんですね……今度、タキオンさんと一緒に砂糖をたっぷりに紅茶を飲みましょうか……」

 

 でもやっぱり、キスをして心底幸せそうなシリウスシンボリさんの姿に『嫉妬』を感じられずにいられませんでした。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

「なぁ……なんで俺たちのいる『ウマーバックス』の位置が分かったんだ」

「クッハッハッ!そんなの私のスマホのGPS機能を使えば一発じゃねぇか!どうした……私とキスをして頭が蕩けちまったか?どうしてもって、言うんならもう一度しても良いぜ?ほら、顔を寄せろよ……おい、逸らすなって!……ッ!ぅ~~~~~~ッ!」

 

 『ウマーバックス』の騒動のせいで追い出された俺たちは、コーヒーを片手に近くの公園で夕焼けを眺めていた。シリウスシンボリは一度のキスで吹っ切れたのか、やけにグイグイと来るようになったが、いざキスをする直前になって顔を真っ赤にして顔を慌てて逸らす。

 そしてさりげなくスマホのGPS機能を使ってストーカーをしていたことに引きながら、俺の生命のオーラに当てられて魂まで昇天してしまったのか、口を開きながらぼぅ、と夕焼けを眺めるマンハッタンカフェの隣に座る。ちなみに『お友だち』はブランコを漕いでいるせいで、ひとりでに動くブランコを見て公園内の人たちは悲鳴を上げて逃げてしまった。

 

「どうしたんだマンハッタンカフェ?なんだか気持ちが抜けちゃってるように見えるぞ」

「満たされるってこういう気持ちなんですね……アナタにキスされて……魂の奥底まで生命のオーラで満たされたら……なんだか……心地が良くて……」

 

 気持ちは完全に凪いでいた。まるで悟りを開いて永遠の安寧を得られたかのように夕焼けに映えるマンハッタンカフェはどこまでも静かな瞳でこちらを見つめ。

 

「怒らないんですか?私はアナタのことを『永遠のモノ』にしようとしたんですよ?」

「今はその気持ちがマンハッタンカフェにないから怒らないよ。それよりもシリウスシンボリの奴が意地でも俺にスマホを返させないことの方が問題だ」

 

 若気の至りだったのだろう。少なくともウマ娘の本気の締め付けならば俺はとっくにあの世に行っていたはずだ。いや、この場合はマンハッタンカフェのモノになっていたのが正解か。どちらにせよ本気で殺す気はなかったのだから怒るつもりは全くない。

 

「それにマンハッタンカフェが俺はモノではないと、シリウスシンボリに説いていたのに心変わりしてビックリしたぞ……失うのが怖かったのか?」

「はい……私にとっては死んでも『ふつうのひとにはみえないもの』になるだけですけど、神様に奪われてしまったら本当の意味でアナタを失ってしまいますから……やっぱり私は子供ですね……自分の発言にすら責任持てないなんて……」

「むしろ自分の発言を一々、責任持ってる奴の方が稀だ」

 

 言葉なんてとても軽いモノだ。言う時々でヒトの言葉はコロコロと変わるし、矛盾や屁理屈なんて言いたい放題。俺からすれば、責任を持てないことを気にするだけでも上等であると思っているとマンハッタンカフェは夕暮れを背に立ち上がって――

 

「だったら『責任』取りますね……アナタを『永遠のモノ』にしようとしてしまったのですから……私がアナタの『永遠のモノ』になります……」

「酷い押し売りのセールス文句みたいだぞ?俺は永遠よりも……寄り添って欲しい時に傍に居てくれるだけで良い……それだけで俺には十分だ」

「なら、寂しくなったらいつでも……私に電話をください……メールはダメですよ?アナタの声が聞きたいんですから……ね……」

 

――爽やかな笑顔だった。憑き物が落ちたような、むしろ何かに憑かれてしまっているんじゃないかと思う程に、魂の底から喜びの笑みを浮かべている。そしてマンハッタンカフェの伸びる影はどこまでも、公園の端まで届いて。

 

「アナタが神様に奪われても……奪い返せる程に私は強くなりますね……」

「なにこれぇ……」

「霊感がレベルアップしたみたいです……ふふっ……」

 

 マンハッタンカフェ、君はどこに行こうとしているんだ、と言いたくなる程に伸びた影が公園全体を覆うのを見て、ウマ娘のいる世界とはここまで奇妙なのかと感心しながら――

 

「ひぃぅ……おい、なんだよこれ!?怖いから止めてくれよぉぉぉぉ!」

「彼に渡したスマホをいい加減に諦めて受け取ったら止めますよ?」

「それだけは絶対に断る!この私は一度言ったことは絶対に曲げないからな!この私を舐めんじゃねぇぞ!」

「コアラみたいに俺に抱き着いているせいで説得力皆無だぞ、シリウスシンボリ」

 

――俺はシリウスシンボリが泣いて返してくれと言うまで、スマホを使いまくることを心に決めるのだった。

 

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