悪の華〜Le Fleurs du Mal〜   作:Lounge

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お久しぶりです。更新は何ヶ月ぶりでしょうか。お待たせして大変申し訳ないです。


X.沈黙

弘世菫がその日の仕事を終えて退社しようとすると、秘書の谷口が呼び止め「こちらへ」と手招きした。

「どうした?」

「宮永咲につながる人物を確保しましたのでお知らせにまいりました。今日取り調べますか?」

「そうだな、今日済ませておくか。準備してくれ」

「わかりました。なにか用意するものはありますか?」

「…着火マンと割り箸、それからナイフと塩、硫酸。念のために例の薬も用意してほしい」

「了解です。指潰しと足潰し、ローラーが置いてありますからお使いください」

「ありがとう。じゃあ先に向かっているから」

谷口と別れてエレベーターに乗ると、菫はある規則に従ってボタンを押した。タッチパネル式のボタンは一瞬全面を白く光らせ、新たなフロアへのボタンが出現した。

 

「B7」

 

菫は迷わずそのボタンを押した。

 

 

エレベーターがB7階に到着し、菫が降りるとそこには目隠し・猿轡で椅子に縛り付けられた竹井久がいた。ちょっと予想外の事態である。

「おもしろいこともあったもんだな。私はてっきり片岡か須賀あたりが釣れるもんだと踏んでいたんだが」

猿轡を外しながら菫が苦笑混じりに話しかけると、久は顔をしかめて

「優希と須賀くんはもう麻雀とは関係ない世界に生きてるの。手を出されちゃ困るわね」

と口を開くなり、控えていた男に椅子ごと蹴倒された。

「気分はどうだ?」

笑みをかき消して菫は問う。

「最悪ね」

「最悪というのは今からお前が体験することだろう。勘違いしちゃいけない」

と返して椅子を起こして久を一度蹴りつけ、

「時間がないから単刀直入に聞こうか。宮永咲はどこだ?」

「知らないわよ」

言い切らないうちに殴る。

「宮永はどこだ?」

「だから知らな」

蹴る。

「宮永はどこだ?」

「イエス以外の答えは許されないの?」

殴る。

「もう一度聞く。宮永はどこだ?」

「何回言ったらわかるのよ!知らない!」

蹴る。そろそろ足が痛い。

埒があかないので、菫は久の手に指潰しを咬ませた。

「お前が先週宮永に会っていることは確認した。まだとぼけるか?麻雀ができない手になるが…いいのか?」

久は答えない。

「もう一度聞くぞ。宮永はどこだ?」

久は答えない。菫は指潰しを咬ませた久の手を思いきり押さえつけた。

「ぐうぅ…っ!」

歯をくいしばって耐える久に、菫はなお問いかける。

「イエスかノーで答えるだけの質問にしようか。宮永の居場所を知っているな?」

「ノー」

菫は久の手を押さえつけた。骨がきしむ嫌な音がする。

「菫様、頼まれていたものをお持ちしました」

そこに、谷口が頼んだものをもってやってきた。ナイフを取りだし、久の頬にぴたぴたと刃をあてながら菫は問うた。

「宮永はどこだ?」

久は答えない。菫は唐突に問いを変えた。

「ところでお前、利き手はどっちだ?」

「…左よ」

明らかに嘘をついた久にそうか、と返して菫は久の右手にナイフを突き立てた。ナイフは貫通し、血が流れだす。

「イィッ…!」

もはや痛みで声もでない久。しかし、菫はなお問うた。

「宮永はどこだ?」

質問の反復と、繰り返される暴力。ナイフで久の身体中に傷をつけ、塩を塗り込み、貫通創に硫酸を流し込む。聞く側も聞かれる側もだんだんと狂いはじめた。

「宮永はどこだ?」

もはや久には答える気力すら湧かない。

 

先に狂ったのは菫だった。

「谷口、例の薬をもってきてくれ」

「菫様…正気ですか?」

「私はいつでも正気だぞ?」

狂った菫に、すでに良心は欠片もない。手渡された“例の薬“をあっさりとスポイトに取った。

「残念ながらゲームオーバーだ竹井。この薬はフルオロアンチモン酸とか言うらしい。最強の酸らしいぞ、せいぜい苦しめ」

「フルオロ…!?嘘でしょ、待って」

久が言い切らないうちに薬を貫通創に落とした。

 

響きわたる絶叫、糞便の匂い、血潮噴き。痛みは最高の自白剤と化し、久は自制も効かずに全てを語る。その情景は見ている者全てを狂わせ、もはやただのゴミと化した久の右手を部下たちが満面に笑みを浮かべて踏みにじる。

 

「切ってよ!もう右手を切ってよ!お願い!これ以上は…これ以上は!」

「谷口、楽にしてやれ」

「はい」

谷口が手早く久の右手を切り落とす。久はそのまま気絶した。

「さて…こいつはもう用済みだが、処分できるか?普段と違って名が知れた奴だから難しいと思うが」

「やりようはありますが…私個人としてはこのまま飼い殺すのが最適か「その必要はないっすね」

突如割り込んだ第三者の声に菫が振り向くと、そこには誰もいなかった。否、ユラリと空間が揺れて若い女性が現れた。東横桃子だった。

「確か…東横だったか?どうやってここに来た?」

「どうやってもなにも、普通に正面から来たっすよ?」

「いや、そんなはずはないだろう。ここに来れるのは限られた人間だけだ。ましてや外来者はここの存在すら知らないはずだが」

「あんなガバガバセキュリティで存在すら知らないとか、笑わせるのはやめてほしいっすね。もうちょっと警戒したらどうっすか?じゃ、久さんはもらっていくっすね」

「帰すわけがないだろうが。谷口!」

「だから、もうちょっと警戒したらどうっすか?周りよく見てから話して欲しいっすね」

言われて菫が周りを見ると、いつの間にかその場で生きているのは菫だけになっていた。

「…は?」

「そういうことっすよ。あと、ボスが弘世さんに話があるそうなんで」

ボス!と桃子が手招きすると、柱の陰から清水谷竜華ともう一人、白髪の若い女性が出てきた。

「清水谷…裏切ったのか?」

菫が愕然として問うと、竜華は呆れたように

「裏切るもなにも、うちらにとってあんたらはお客さんやん。あんたがどう思ってたかは知らんけど。あと、モモちゃんのボスはうちとちゃうで。この子や」

と、隣の白髪を手で示した。白髪が口を開く。

「お久しぶりですね弘世さん。宮永咲です」

「宮永…貴様、淡に何をした!」

「あ、急いでるので本題だけ。明日、弘世重工は潰れます。取り急ぎ」

「は!?どういうことだ?」

「そういうことです。それでは」

「何…?待っ

 

パァン

 

「…話は最後まで言うてあげた方が良かったんちゃうか?」

「言ったって信じませんし。それに、知らない方が幸せでしょうから」

「幸せもなにも死んどるからな?しかし、こりゃ人に見せられんな。ザクロみたいやでこれ」

「部長の仇…みたいな?多少私怨入っちゃいましたね」

「別に私は久さん助ける必要はなかったと思うっす」

「加治木さんに泣いて頼まれちゃったからね。右手は勘弁してもらおう。」

「ほな、行こか?」

「ですね。モモちゃん、後始末お願いね」

「もう済ませたっすよ。あと5分で作動するっす」

「仕事早いよ!?急がなきゃ!」

 

5分後、基礎から崩れ落ちる弘世重工本社ビルを後ろに、ワハハカーが爆走していた。

「モモちゃん!仕事どれだけド派手にしてるのさ!あれじゃトップニュース確定じゃん!」

「揺れるっす~!」

「聞いてないし…ねぇ竜華さん。…竜華さん?」

「か、堪忍してぇ…」

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