悪の華〜Le Fleurs du Mal〜 作:Lounge
見つけた。
咲はカメラが映し出す映像を見ながら、クスクスと笑う。
「で?どうするんすか、アレ。どうやって始末するんすか」
桃子の問いに、咲は笑顔のまま首を横に振った。
「モモちゃんに始末してもらう必要はないよ。アレは私がやる」
「…はぁ」
「ずっと…ずぅっと待ってたんだよ…この時を…やばい、イキそう…」
「イくのは始末し終わってからにしてほしいっすね。時間もあまりないっす」
「冗談だって〜。それじゃ、準備しますか」
咲はあらかじめ用意していた道具を取り出し、すぐ使えるように調整を始めた。
いよいよだ。もうすぐ、私の人生を狂わせたあいつに復讐を果たせる。
「…淡」
病室。照は窓から差し込む光に目を細めつつ、光を受けて輝く淡の髪を指に絡める。
「どしたの、てるー」
淡はまるで幼女のごとく、無邪気な笑顔を向けてくる。
「ううん、なんでもないよ。きれいだね、髪」
「えへー」
ただ、嫌な予感がするだけ。後につづく言葉を飲み込んで、照は淡の頭を優しく撫でる。
「じゃあ、そろそろ行くね」
「うん。ばいばーい」
病院を出て、照は壁にもたれ、深くため息をついた。
淡が咲を「壊した」翌年、同じく大将を任された淡は、全く同じシチュエーションで咲に「壊された」。
正常なものに壊されるよりも壊れたものに壊されるほうが、限度のない分ダメージが大きいということを、照は身をもって学んだ。
あのとき、淡でなく咲の手を取ってさえいれば、淡が壊されることも、菫が殺されることもなかったかもしれない。
一瞬の判断の誤りが分けた運命を、どうすれば元に戻せるというのだろう。
淡が元に戻る可能性は著しく低いという。すべての責任は…誰に?
そのとき、電話が鳴った。
「久しぶりだね、
「…咲」
自然と声がとがる。
「なんで菫を殺したの。咲がやったんでしょ」
「怖いなあ。なにいきなり怒ってんのさ」
「当たり前でしょ!友達が殺されたら誰だって怒るよ!」
「私、殺したって一言も言ってないよ?人を疑ってかかるのはやめなよ」
電話の向こうの声が、気温氷点下に冷えた。余計なスイッチを押してしまったと後悔したが、もう遅い。
「それにさ、弘世さんはうちの先輩誘拐した上に拷問して殺しかけてるんだよね。友人たるお姉ちゃんには先輩にあやまる義務こそあれ、私たちを非難する権利なんか一切ないよ」
「でも!」
「時間ないから本題ね。いま病院にいるでしょ?」
なぜ知っているのだろう。思わずあたりを見回す。
「大星淡の病室に行ってみて、面白いものが見られるから。じゃあね♪」
電話が切れるなり、照はもといた病室へと走り出した。
病室のドアを開けて、照は過去の過ちを改めて後悔した。
白かったはずの壁が、ベッドが、シーツが、ベージュの床が。
後悔先に立たず、場違いすぎてかえってしっくりくることわざが、頭の中をぐるぐる駆け巡る。
いまにもブラックアウトしそうな意識をなんとか保ち、真っ赤なベッドに歩み寄る。
淡のからだはベッドになく、代わりに紅薔薇の花束が置かれていた。手紙が入っている。
「シャワー室をみてごらん Salomé」
サロメ、という署名がなにを示しているかなど自明だ。照は咲らしいメッセージに吐き気を覚える。
果たして、シャワー室には洗面器に入った淡の首があった。ごていねいにも血が綺麗に流され、まるで人形のように美しい首であった。口に手紙をくわえている。
「せっかくなので胴体には臓器移植などに役立ってもらいます。次はお姉ちゃんだよ」
「…ああ」
正気を失いそうだ。
「あああ」
壊れている。狂っている。
「あああああ」
叫ばなければ。なにか叫んで、記憶を、正気を、恐怖を、現実を、
直視しなければ。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「…首切り落としたのはミスだね。これじゃ胴体の保存がきかないや」
疾走するワハハカーの中で、咲は暗い顔をしていた。
「ドリップでまくりっすよ。血の匂いで吐きそうっす」
桃子も軽くグロッキー気味に口を押さえている。
「ワハハ、車汚さないでくれよなー」
智美が軽く顔をしかめた。三人と淡の胴体を乗せたワハハカーが、日の落ち始めた東京を駆け抜けていく。