雷獣様の兄   作:斑田猫蔵

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 今回は雪羽君視点のお話です。


雷園寺雪羽は覚醒す

 疾風兄さまは、ぼくにとってあこがれの兄さまだった。母さまが死んじゃった、あの日から。

 

 死んだ母さまの仇を取るために闘った兄さま。

 ぼくらが何もできずにいるあいだ、暗くて怖い所で一人で耐えた兄さま。

 三國のおじさんに、ぼくといっしょに引き取られた兄さま。

 

 三國おじさんに引き取られてからというもの、兄さまはずっとぼくの事を心配してくれていた。雪羽、とぼくを呼ぶその声には優しさと少しの寂しさがこめられているようにぼくには感じられた。

 ぼくとは同い年であるはずの疾風兄さま。だけど兄さまはぼくよりもずっと大人だった。

 

 そもそもぼくが雷園寺家の跡取りになると決めたのは、三國おじさんに引き取られた後の事だった。母さまが生きていた頃は疾風兄さまが雷園寺家の跡取りになるんだと思っていたし、母さまが死んじゃった時には悲しくて苦しくてそれどころじゃなかった。兄さまは大人たちに捕まって閉じ込められちゃうし、何であんなことになったの、と思うばっかりだった。

――ぼくが雷園寺家の当主にならないといけないんだ。

 めっきり弱り切った兄さまをと、大人たちにめちゃくちゃ怒っている三國おじさんを見てぼくはそう思ったんだ。結局ぼくは兄さまと一緒に三國おじさんに引き取られたけれど、その思いはきちんと胸にしまってある。

 

 強い者が全てのルールを作る。大人たちはそう言っていたし、三國おじさんもその通りだって言っていた。それならぼくが雷園寺家のルールを作るんだ。

 だけどぼくは雷園寺家のあるじとして好き勝手したいわけじゃない。

 ぼくは母さまが死んじゃったのを陰で笑ってた大人たちを追い払いたいんだ。

 それから……ぼくが当主になって、兄弟たちやほかの優しい家来たちと一緒に穏やかな日々を作っていきたい。

 ぼくは今兄さまと一緒にいるけれど、雷園寺家に残っている弟たちや妹の事も忘れてはいない。あの変な大人たちと一緒で、つらい思いをしてないかいつも心配だ。

 本当は雷園寺家の当主にふさわしいのはぼくじゃなくて兄さまじゃないかって思った事もある。妖怪の世界でも一番上の子供が当主になる事はめずらしくないから。

 それに兄さまはぼくよりも強くて、賢い妖怪だったから。

 

 だけど兄さまは雷園寺家の当主になる事をぼくにゆずってくれた。当主になりたいのなら雪羽がなれば良いって兄さまは言っていた。だけど雪羽ひとりじゃあ難しかったり間違っていたりする事があるかもしれないから、それはおれが注意するとも言ってくれた。

 ぼくが当主になる事を目指していると知って、兄さまは少し元気になってくれた。だけどぼくは知っている。兄さまは実は何かにおびえていて、不安を感じているって事も。

 兄さまは知らないけれどぼくは知ってるんだ。兄さま、時々うなされてるって事を。うなされている時は、たいていぼくの名前を呼んでるって事を。夢の中でも、兄さまはぼくの事をあれこれと考えてくれているんだ。でも何が不安なのか、兄さまは決して言おうとしてくれない。多分ぼくがまだ子供で未熟だからなんだと思う。

 兄さまも同い年だからほんとうは子供なんだと思う。だけどとっても大人びている所があって、本当に同い年なのかなって思う時もあるんだ。

 とにかくぼくは雷園寺家の当主を目指しているし、兄さまの言う事も聞くようにしている。優しい兄さまは、良い子のぼくが好きだから。ぼくも兄さまが……優しく不安なく笑っている兄さまが好きだから。

 

 

 何か嫌なにおいがする。兄さまの好きなジュースを買って戻ってきたぼくは、まずそう思った。

 嫌なにおいは血のにおいだった。地面にも血がたくさん、たくさん流れている。

 何で血が流れているの? ふしぎだったけどそれ以上に血のにおいが見覚えのあるにおいに思えて、心臓がどきどきしてきた。血がたくさん流れたら妖怪でも死ぬって、春兄は教えてくれた。血が流れてるって事は、誰かが死んじゃうって事なの?

 

「おうおう、雷園寺家の当主気取りが戻ってきたぜぇ~」

 

 ぼくの耳は、狐のお兄さんの声をとらえていた。どこかで見覚えのある狐のお兄さんは笑っていた。だけど優しい笑顔じゃなくて、見ていて嫌な気分になる笑い方だった。

 

「……っ、きは……く、来るな……」

 

 とうとうぼくの耳は、兄さまの声を拾っていた。兄さまは切羽詰まっていて、とても苦しそうな声を出していた。

 缶ジュースが落ちるのも気にせずぼくは兄さまの許に向かっていた。すさまじい声が聞こえた気がしたけれど、それはぼくの声だった。

 

 兄さまは血まみれだった。右手がおかしな事になっていて、そこから血がたくさんあふれ出ている。そんな兄さまを取り囲むようにお兄さんな妖怪たちが笑っている。

 あいつらが、あいつらが兄さまを――

 

「――お前らか。お前らが俺の兄さまを傷つけたんだな」

 

 強い怒りの念が雷撃になって、俺の身体を取り巻いた。

 兄さん。兄さんはずっと無駄に闘っては駄目だって言ってたよね。だけどそれは間違いだったって俺は思ってるよ。三國叔父さんだって、俺たちを護るために雷園寺家の大人たちを力ずくで黙らせていたんだからさ。

 やっぱり世の中には、力を示さないといけない時ってあるんだよ。そして今がその時だって俺は思ってる。

 兄さん。俺も強くなるよ。大切な兄さんを護るために――そして俺が雷園寺家の次期当主になるためにね。




 優しく穏やかだったはずの雪羽君。力を求めるその姿はアニメの未来をなぞっているかのようにも思えますよね。
 原作知識を持って動いていたとしても、オリ主の思惑通りに事が進むのか? というのが作者の考えだったりします。
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