雷獣様の兄   作:斑田猫蔵

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 今日は筆がノったので、3回更新できました。


弟が兄より強かった、だと――

「準備はいいね、兄さん」

「もちろんだ」

 

 力較べという名の対決をする事となった俺たちは、縁側から庭に出ていた。俺は運動用の靴を履いていたのだが、よく見れば雪羽はサンダルだ。癖なのかサンダルの中で足指をピョコピョコと動かしてもいる。余裕綽々と言った感じだ。

 三國叔父さんが俺たちと一緒に暮らしているこの家は、亀水の中でも高級住宅街に分類されるエリアに建つ一軒家だ。大豪邸という訳ではないが、その庭は子供妖怪がタイマン勝負を繰り広げるには十分な広さはある。

 

「兄さん。妖怪として生きていくには優しさとか賢さだけじゃあどうにもならないんだ。それを俺は嫌という程思い知ったんだよ」

 

 俺たちは数メートルほど距離を取り互いに向き合っていた。雪羽の口調は穏やかで物静かであるが、その身を取り巻く細やかな雷撃が今の彼の心中を物語っていた。

 

「俺よりも兄さんの方が強ければそれで良いのかもしれない。その時は俺も、兄さんの言う事に従うよ。それでも、俺が強くなるって事を邪魔しないでほしいんだ」

「雪羽よ。お前も随分と立派になったなぁ――」

 

 だがそれでも、俺の方が強いんだ。その事をきっちりと解らせてやる。そう思うや否や、俺の身体からも妖気がほとばしった。妖気は雷撃となり、俺も弟同様放電を繰り返していたのである。

 

「それじゃあ、行くぞ――」

「よろこん――」

 

 雪羽が最後まで言い切る所を俺は聞く猶予はなかった。よろこんで、と言いながら雪羽は何と攻撃を仕掛け始めていたからだ。しかも雷撃を放ったのではない。その身に雷撃をまとったまま、俺に向かってタックルしようと躍りかかってきたのだ。

 俺は身をずらす事で回避できた。だが――これもまぐれのような物だ。雷獣の身体能力の高さでどうにか回避できなような物に過ぎない。そして雷獣の能力に頼っているという事は、向こうにもその術があるという事と同義でもある。

 俺も一声吠えて雷撃を放つ。当然のように雪羽はそれらを回避してしまった。俺も雪羽も闘いの素人ではない。萩尾丸さんの所で時々稽古づけて貰っている。彼が従える小雀の若手妖怪たち相手では後れを取らないはずだ。

 そこまでつらつらと考えていた俺は、ある事に気付いてしまった。

 俺は雷獣だ。しかし雷獣と本気のタイマン勝負を行った事は無いのだ、と。

 確かに三國叔父さんは、俺たちが望めば戦闘の真似事に付き合ってくれた。だけど三國叔父さんとのそれは、叔父さんが手加減に手加減を重ねたじゃれ合いに過ぎなかった。

 雪羽とも真剣勝負をした記憶はない。そりゃあまあ最初の数年間、元気になった頃とかは俺も弟にじゃれついていた気がする。それでもガチンコ勝負とは言い難いものだった。あの頃の雪羽はまだ気弱で、本気で闘うような相手じゃなかったから。

 とにかく雷獣同士での戦闘に俺は不慣れだったのだ。雷獣だというのにこの体たらくとは何と言うギャグだろうか。

 もっとも、俺には笑う余裕なんてないけれど。

 

 

「はぁ……兄さん。まだ、続けるの……?」

「お……おぅ。当、然……だ……!」

 

 勝負は中々決まらなかった。既に戦闘を開始してから十五分、二十分は経っているんじゃあなかろうか。普段の戦闘訓練は数分で片が付く事が多いから、異様に長引いているという事だ。

 長引くのも無理からぬ話だ。俺と雪羽の実力が拮抗しているからなのだろう。何せどちらも雷獣だ。妖力も、身体能力も、戦闘方法もほぼほぼ同じだ。互いの長所と短所を知っていて、攻めるべきポイントや攻められると弱い所も同じな訳であるし。

 だが俺は――内心焦っていた。雪羽に対しては強がって見せてはいるものの、ジリ貧である気がしてならなかったのだ。

 とはいえそんな事をやすやすと明かすほど俺も間抜けではない。抜け目なく雪羽の挙動を見据えていた。相手のすきを窺い、カウンターを放つために。

 そろそろ俺も疲れてきた。きっとそれは向こうも同じ事だろうから。

 

「うぐっ」

 

 雷撃を受けて転がったのは俺の方だった。体勢を立て直そうとするも、足がもつれ手に力が入らない。このままじゃあ雪羽が向かってきたらおしまいじゃないか。

 そう思っている間にも雪羽が近づいてくる。その両目は驚くほど澄み切っていて、いっそそこはかとない諦観を抱いているようにも見えた。

 

「僕の勝ちだね、兄様」

 

 そう言うと、雪羽はそっと俺の許に屈みこむ。ご丁寧に、屈む俺に自分の顔が見える位置にだ。

 

「くそっ……そんな……」

「兄様。これで僕の方が強いって解ったでしょ」

 

 そう言う雪羽の顔にははっきりとした愉悦の色が浮かんでいた。

 

「僕ね、兄様がずっと色んな事を心配してて、それで強くなったり頑張ったりしていた事を知ってたんだよ。だけどもう、兄様が一人で抱え込まなくて大丈夫。俺ももう後ろでべそをかくだけじゃあないから。俺も俺で、強くなるからさ」

「それじゃあ駄目なんだ、雪羽……」

 

 感極まった俺は声を上げていた。スピッツ犬みたいな甲高いだけの間抜けな声を。

 

「お前は強くなったら、きっと初心を忘れておかしな考えに取り憑かれる。そうなったら、お前は……」

「僕の事をしっかり見てくれよ、兄さん!」

 

 雪羽の一喝に俺は目を丸くした。しっかり見るだって。俺はずっと雪羽の事を見てきたではないか。原作の事を知っていたから、雪羽が堕落しないように俺はあれこれ気を回していたはずなのに。

 呆然としている俺を見て、雪羽は表情を和らげる。翠の瞳は何処か哀しげに輝いていた。

 

「時々思うんだ。兄さんは僕を見ている時に、本当に僕そのものを見ているのかなってね。僕を見ているように見せかけて、僕じゃない何かを見ている気がするんだ」

 

 何を見ているの? 懇願するように問われた俺は答えるどころではなかった。俺が抱えている秘密の一端を知られた気がして、俺はぶるぶると震えるのがやっとだった。




 このお話のヒロイン、弟君になりそうなんですがこれは……
 なんてこったい\(^o^)/
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