雷獣様の兄   作:斑田猫蔵

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※健全回なので安心してご覧ください。


連れ込んだギャルの呟きに弟は興奮してしまいました

 取り巻きの妖怪たちと共に妖怪の少女が埃っぽい雑居ビルの一室に足を踏み入れる。一見すると化粧の濃いギャルに見えなくもないが、白っぽい尻尾が彼女の本性を示していた。彼女はハクビシンの妖怪である、と。

 余談だが「九尾の子孫、~」では雷獣はハクビシン妖怪に近く、また鵺とも近縁種である事が示唆されている。食事がやや草食寄りなのも、鵺と親しいのもそのためらしい。

 そう言った雷獣の本能が作用しているのだろう。雪羽はハクビシンの少女に興味津々と言った様子だ。そりゃあまぁ、雪羽もお年頃だ。少女に興味を持つのもまぁ自然な流れだろう。兄である俺にべったりというのも色々といびつだし。

 

「雷園寺さん。ここって一体……」

「個人事務所だよ。俺の……ううん、俺たちのね」

 

 雪羽はそう言うと手近な椅子に腰を掛ける。埃が勢いよく舞い散っている。光を反射し輝く埃が後光のように雪羽を取り巻いているが、美しいのかばっちいのか判断しかねる光景だ。でも雪羽は気にせず気取った様子でそこにいる。

 

「言ったよねお姉さん。助ける代わりに俺の言う事を聞くってさ」

「そうね。そうだったわね」

 

 美少年らしからぬねっとりとした笑みを浮かべる我が弟と、彼を真正面から見据えるハクビシンギャル。雪羽には何か腹に一物あるのだろう。まさかエロい事でも考えているのか雪羽? 全くけしからん奴だな。俺という物がいながら……

 しまった少し考えが横道に逸れてしまった。いやこれは普通に教育上よろしくないのではなかろうか。弱みに付け込んで何かをさせようとするなんて。

 雪羽、と俺が呼びかければ良かったのだろう。しかし情けない事に取り巻き性質と同じく俺は雪羽の気に少し圧倒されていた。弟が逞しく育っているのは嬉しい事だが、それ以上におのれの無力さが浮き彫りになるぜ……いやちゃんと鍛えてるんだけど。

 

「この場所はこれから俺たちが自由に使う場所になるんだよ。もちろん君ももうここに来たから無関係じゃない。俺の……兄さんと俺のために奉仕してくれるね?

 ひとまずはここを綺麗にするんだ」

「解ったわ」

 

 勿体ぶって悪役ぶって告げる雪羽は、従えているアライグマ妖怪に目配せする。舎弟として俺たちを慕っているアライグマ妖怪は、バケツと雑巾をハクビシンの少女に渡したのだった。

 

「こほっ。ここはまだ買い取ったばかりで埃っぽいからな。今日は俺たちと一緒に君も掃除をしてくれたまえ。なに、ちゃんとご褒美も用意しておくからさ」

 

 俺は少しだけずっこけそうになった。エロい事でも起きるのかと思っていたのは全くの杞憂だったからだ。

 

 

「事務所の掃除で済むとは、雷園寺家の坊ちゃんたちも純な子ばっかりねぇ……」

 

 雑巾で埃を拭いながら、ハクビシンギャルはそんな事をこぼした。見た目は十代半ば程で、俺たち――俺もおそばせながら、雪羽と同じくらいの年恰好の少年姿に成長していた――より少し年上の女の子と言った感じだ。

 しかしその物言いは蓮っ葉で、俺たちよりも精神的にうんと年上であると示しているようだった。

 実際問題、見た目で妖怪の年齢を把握するのは中々難しい。若い妖怪や子供妖怪ならば、姿と精神的肉体的年齢は大方リンクする。しかし年数経た老齢な妖怪であっても、若々しい姿を取る事があるくらいなのだ。

 紅藤様や萩尾丸さんが解りやすい例だろう。紅藤様は既に六百年近く生きた大妖怪だ。しかも妖怪的にも成人した息子たちもいる。孫がいてもおかしくない年齢なのだ。それでも彼女の姿は若々しく、せいぜい二十代半ば程にしか見えない。

 萩尾丸さんも三百年以上生きておりやはり大人の大妖怪である。しかしその見た目はやはり若々しい。

 まぁつまるところ、ギャルっぽいハクビシン妖怪は、実は俺たちよりもうんと年上なのではないか? という話だ。

 

「やっぱりお掃除は妖手が多い方が役立つもん。それに女の子の方が、俺ら男子よりもマメに綺麗にしてくれるかなって思ってさ」

 

 ハクビシンギャルの言葉に応じたのは我が弟の雪羽だった。彼もまた箒を手にして埃と格闘中である。箒に触れられるたびに埃は舞い上がるのだが、繊維同士が絡まって不格好なマリモのような姿を見せている。

 俺もまた仲間と共に掃除に勤しみつつ密かに笑みをこぼしていた。雪羽の無邪気さに触れられたような気がしたからだった。

 ハクビシンギャルはそんな俺たちを見ながら、遠い目をして呟く。

 

「あなた達は雷園寺家の子供だけど、あの三國さんの甥っ子でもあるでしょ。だからその……三國さんに似てプレイボーイなのかと思ってたのよ」

「叔父貴は月姉一筋だよ!」

 

 ああやっぱりハクビシンギャルは結構年上だったんだ。俺がそんな事を思う暇もなく、雪羽は声を上げていた。

 

「そりゃあまぁ女の子たちとか女の人たちには優しいというかデレデレしてるけどさ、叔父貴はそんなんじゃないよ」

 

 いつの間にか雪羽は三國叔父さんの事を叔父貴と呼ぶようになっていた。それでも叔父に対する敬愛の念は衰えてはいない。むしろ深まっているようにも思えた。

 一方で、俺は三國叔父さんの事について考えていた。原作……アニメでは三國叔父さんが甥の雪羽同様好色な妖怪である事が示唆されていた。しかし妻は月華さん一人だけだったし、愛人や妾がいるという感じの話ではなかった。妖怪の世界では一夫多妻も一妻多夫も容認されるような世界観だったから、むしろ愛妻家という側面の方が強かろう。

 無論これは今俺が暮らしている世界でも同じだ。雪羽の主張通り、三國叔父さんは妻である月華さんを大事にしている。よく見れば職場で妖怪の女の子にちょっかいをかける時もあるが、セクハラおやじみたいにねちっこい所も特にないし。

 

「まぁ確かにそうよね。三國さんも結婚して身を固めたし、甥っ子たちを養子として引き取ってるから遊んでばかりもいられないか」

 

 ハクビシンギャルは手を動かしつつも納得したように呟いた。

 雪羽は微妙な表情で彼女を見つめている。雪羽が複雑な気持ちで彼女の言葉を聞いていたのは察しがついた。三國叔父さんと月華さんは俺たちの養父母に当たる存在ともいえる。しかし雪羽は決して二人の事をお父さん、お母さんと呼んだりはしないのだ。そこはやはり複雑な所であろう。実の父は存命であるし、母はこの世にいないが母親は母親一人だけ、という考えがあるのだろうから。




 三國さんが雪羽君たちを正式に養子にしているのかどうかは定かではありませんが、彼らの保護者である事には変わりありません。
 雪羽君が自分たちをお父さん・お母さんと呼べない事も容認している所が、彼らの愛情だと思っています。
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