雷獣様の兄   作:斑田猫蔵

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 仕事が始まったんで投稿頻度がちょっと落ちてしまってます。
 あ、今日は休みですよ(笑)


才能なんて指摘されないと解らない

 雪羽が力を求め若い妖怪を部下として従え始めてから五、六年の月日が流れた。

 バブルとかそう言ったものの昭和末期の空気を引きずりながらも、徐々に新しい時代、平成の時代へと移り変わろうとしているのを俺はひしひしと感じていた。俺は平成の世になる事に懐かしさも感じていた。雷園寺疾風として生きつつも、人間としての前世の記憶を保有するが故の事であろう。

 前に俺が言ったとおり、パソコンなるモノも三國さんの組織で導入される事になった。あの巨大なマイコンとは似ても似つかぬ、最新鋭のラップトップもだ。文庫本よりも分厚い本体は駅弁を連想させるが、それでも机大のマイコンよりも随分とスリムでスタイリッシュに見えた。

 

 鍛錬は相変わらず続けていたが、力で雪羽を従わせる道は数年前に諦めていた。

 理由は至極単純。雪羽の方が俺よりも強いからだ。尻尾の数は俺の方が多いのに。そりゃあまぁ、妖力の保有力だけを見れば俺の方が上回ってはいる。しかし何というか、闘いのセンスは雪羽の方が断然勝っていた。しかも決意をキメてからの雪羽は、前以上に積極的に鍛錬に励んでいる。雷園寺家の当主になるという目標も彼の原動力であるし。どうしても俺は後れを取る形になってしまったのだ。

 とはいえ俺も座して何もしない訳ではない。来るべき原作の流れに対して俺も出来得る限りの対策を講じている。雪羽が悪役に転じた時、兄である俺もとばっちりを受けるのは御免被りたいし、何より大切な弟が破滅するかもしれないと知ってぼやぼやなどしてはいられない。

 強い兄として雪羽を導くという第一プランが通用しなくなったので、俺は裏でアレコレ手を回す事にした。具体的に言えば雪羽の従える妖怪たちの選別と指導だ。原作での雪羽は、甘やかされていた事で増長し、取り巻き連中によって酒の味や女遊びを覚えた事が示唆されている。であれば悪い友達を排し真面目な連中だけを雪羽の許に残しておけば何とかなるのではなかろうか?

 若妖怪たちのひととなりを調べてああだこうだと選別するのは中々に骨の折れる作業ではあった。しかしこれも俺と雪羽の幸せな未来のためであるから致し方なかろう。労せずして報酬が得られるほど甘い世の中ではなかったのだ、この世界も。

 それでも若い妖怪たちの殆どが、俺にも一目を置いている事が幸いした。理由を付けて素行の悪そうな妖怪を雪羽から遠ざけようとしても、俺の言に従ってくれるわけだから。

 雪羽よりも俺は弱いものの、若くて未熟な一般妖怪をひれ伏させるには十分な力を俺は持ち合わせていたらしい。やっぱり鍛錬って大切だな! 

 

 

「疾風お坊ちゃま。今週は私と一緒に取引先の営業に向かいましょう」

 

 俺が営業活動を行う。営業担当な春嵐さんからそんな提案が出てきたのは月曜日の朝の事だった。厳密に言えば家族そろって朝食を摂っている時の事である。春嵐さんは厳密には三國叔父さんの側近になるのだが、何だかんだとこの屋敷に留まっている事が多いので実質家族みたいなものだった。実際三國叔父さんや月華さんの仕事を手伝ったり、二人が忙しい時に俺たちの面倒を見てくれたりするし。親戚のお兄さんって感じの妖のように俺たちは思っている。

 それでまぁ家にいるのに仕事の話になるのはまぁ致し方ない。皆仕事には馬車馬よろしく励んでいる訳だし。逆に雪羽なんかは仕事の時と家や個人事務所の時と態度は変わらないし……それはそれで問題だけど。

 だがそれよりも春嵐さんの言葉には驚いてしまった。営業? この俺が? そりゃあもちろん一緒にと言ったから俺単体が取引先に放り出される事は無かろう。

 しかし何故春嵐さんはそんな事を言ったのか。そこが気になった。

 

「え、営業って……僕はまだ子供ですし、営業の経験なんて無いですよ……」

 

 弱弱しく語る俺の姿はどのように見えたのだろう。ともあれ営業の経験が無い事は事実だった。三國さんの職場では俺と雪羽は人事部長的な役職(実際には舌を噛みそうな横文字の役職名だったがそれは脇に置いておく)に就いており、生誕祭だとか内々での会合の時以外は職場の外に出た事はない。雪羽も俺も強いと言えども子供妖怪で社会的な勉強の最中であるからまぁ妥当な話だろう。

 あとついでに言えば前世でも営業経験はない。多分技術職……設計を手掛けていた気がする。それこそパソコンを使って、ポチポチと図面を描いていた事は辛うじて覚えていた。

 

「誰しも最初は未経験から始まる物ですよ、疾風お坊ちゃま」

 

 にっこりとした笑みでそう言われ、俺は口ごもるほかなかった。その通りだと思っていると、春嵐さんは穏やかな口調で続ける。

 

「それに疾風お坊ちゃまは営業マンとしての素養があるのではないかと最近思っていたのです。雪羽お坊ちゃまや仲間の妖怪たちと盛んに遊んでおいでですが、そうしながら色々と気を配ってらっしゃるみたいですし」

 

 笑顔を絶やさず、しかし真面目な様子で言ってのける春嵐さんを見ていると、俺は何故か恥ずかしさがこみあげてしまった。あの人もある程度の事まで把握しているのだ、と。

 

「兄さん、営業マンなんて花形だよ! すごい、すごいよ兄さん」

 

 頑張ってね。そう言う雪羽は至極無邪気な笑みを浮かべていたのだった。




 昔はノートパソコンの事はラップトップと呼んでいたのです。
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