雷獣様の兄   作:斑田猫蔵

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もしかして、俺が転生者ってバレちゃうかな

「兄さまっ! 兄さまって本当に強いんだねっ!」

 

 初夏の昼下がり。俺たちは家の庭で遊んでいた。遊びというよりも所謂戦闘訓練に似た物だろう。妖怪としての力がどれほどのものか。俺も試すのに丁度良かった。

 弟の雪羽は力が及ばなかったのか兄に対して遠慮していたのか負けてしまったが、悔しそうな気配はない。むしろ白い小型犬のようにはしゃぎ、兄である俺に飛びついてくるところである。

 

「ふふ、まぁな。兄の方が弟よりも偉くて強いんだからな」

 

 年相応になるように言ってやると、雪羽がぎゅうと俺を抱きしめる。ポップコーンみたいな体臭を俺は強く感じた。

 

「でも良かったよ兄さま。暗くて怖い所に閉じ込められてうんと弱ってたけど、元気になって、僕よりも強くて立派になったんだから……」

 

 俺を見つめる雪羽の、翠の瞳はすでにうるんでいた。実に素直で、兄思いで可愛らしい男の子だ。原作での彼の幼少期は定かではないが、これは良い流れなのだろうと思った。兄を慕っているとなれば、兄である俺の言う事も聞くようになるだろう。そうなれば雪羽がヤンチャしそうになった時にそれとなく指摘してやればいいのだ。

 そもそも雪羽が罰を受けるのは、彼が女遊びに励み酒癖も悪いからに他ならない。悪い遊びに近付かないようにして過ごせば、雪羽の身も安泰であろう。

 

 俺の、雷園寺疾風の肉体は思っていたよりも優れていた。それはこのままならない世界の中で僥倖ともいえる。三國叔父さんに引き取られた時は確かに衰弱していた。しかし三國さん夫婦――三國叔父さんは俺たちを引き取ってからガールフレンドの月華さんと正式に結婚したのだ――や三國さんの部下たちの世話のお陰で回復し、ついで雪羽以上の妖力を宿す妖怪になっていたのだ。

 確かに俺自身も、伏せがちだったのがどんどん元気になっていくのは感じた。三國叔父さんに連れてこられた時には寝てばかりで少し動くだけでも疲れたものだ。しかし今は、弟の雪羽と激しくじゃれ合っても疲れない。むしろ動けば動くほど気力が満ち満ちてくる気さえした。

 ちなみに病弱だった初期状態から元気そのものな今に至るまで二、三年の歳月を要した。妖怪の子供が回復しきるまでにかかる時間として長いのか短いのかは俺にはまだ解らない。しかし体感的には二、三か月程度に思えたのは考察すべき事柄である。

 要するにこの世界では妖怪は長命だから、時間の感覚も人間様とは違うという事なのだろう。そう言えば原作の雪羽も登場時は生後四十年から四十五年程度だという事が示唆されていた。そこまで生きてもまだ子供なのだ。そう考えると妖怪というのは人間様とは違い過ぎる。言うて俺もその妖怪の感覚に慣れ始めているのかもしれないけれど。

 

 妖怪に慣れると言えば、雷獣の食事にも馴染んできた。馴染むと言っても大した事はない。人間の食事に近いからだ。強いて言うなら人間よりも果物とか野菜とか木の実とかトウモロコシが多いってところだろうか。お肉も食べるけれど、雪羽も好きだけどあんまり食べ過ぎると胸やけがしちゃうのがネックだ。

 ともあれ妖怪らしく血生臭い料理を口にしないといけないのかと身構えていたので、その辺りは有難かった。妖怪として生を享けていると言っても、どうにも人間としての意識がまだ残っている。血の滴る生肉とか、それこそ人間を喰わないといけないとかって事だとどうしようかと思っていたのだ。

 むしろどちらかというと、人間よりも肉々しくない食事だと言えるくらいだろうか。

 

 

 俺こと雷園寺疾風と雪羽の日々は穏やかに過ぎていった。流石にまだ子供なのに重役として職場に連れていかれる事には驚いたが、それも最初のうちだった。

 雪羽は三國叔父さんが引き取って間がない頃から職場に連れてきて役職を付けていたというエピソードも俺は知っていた。いち視聴者としてその話を見た時には「何で子供なんかにそんな事を……?」と思いはした。しかし当事者(?)になってみると三國叔父さんのやった事も何となく理解できた。

 雪羽を職場に連れてきていたのは、仕事の間も自分たちで面倒を見れるようにと思っての事だったらしい。妖怪の子供が学校に通うのかどうか、俺はよく知らない。だけど俺と雪羽に関しては学校みたいな教育機関には通っていない。戦闘などの指導は三國叔父さんが直々に手ほどきし、後の勉強は妻の月華さんや、側近である春嵐さんがやってくれている。だからまぁ、学校に行かなくてもそんなに困りはしないけれど。

 ただ、疾風様、雪羽様、と大人妖怪から敬われながら仕事をするのは何となくむず痒い感じがした。俺も雪羽も、そんなに大した仕事はやってないのに。

 

 それにしても……机一台分はありそうな巨大な機械を前に、俺は一息ついた。今は原作開始から大体三十年ほど前、つまり昭和の時代だ。原作知識とかがあるから楽勝だろうと思っていたがそんな事は無かった。妖怪が長命という設定のせいで、前世の俺が知らない時代を生きなければならないという事態に陥ったのだ。平成初期の九十年代生まれの俺にしてみれば、昭和の機器や道具は過去の遺物なのだ。

 ちなみに机ほどの大きさのこの機械はマイクロコンピュータという。机ほども大きいのにマイクロとは何ぞやと言いたくなるが、この時代のコンピュータは部屋ほどの大きさのブツも珍しくないので致し方ない。要はパソコンのご先祖様だ。というかこの時代にはパソコンという言葉もないし。

 だから俺が、うっかりパソコンと言ってしまうと雪羽や春嵐さんが不思議そうな表情をするのだ。

 

「兄様。これってパソコンじゃなくてマイコンでしょ? パソコンって何?」

「このマイコンがもっと小さくなったらパソコンになるんだ。きっと未来には登場するよ。パソコンだけじゃなくて、持ち歩ける電話とかもね」

「そうなんだ、そうなんだ。兄様。面白い話をありがとう」

 

 雪羽は俺の説明を聞いて無邪気に喜んでいる。多分空想の話だと流してくれるだろう。雪羽はちょっと繊細だけど、割と単純な性格の持ち主でもある。何故俺が未来の事を予見できるのか、そんな事は気にしていないみたいだ。

 俺は転生者だけど、もちろん転生者であるという事は伏せている。言った所で良い印象は無いだろうしメリットもない。他に転生者がいるのかどうかは解らないが、少なくともまだ出会った試しもない。

 

「疾風お坊ちゃまは、色々と面白い事を仰りますよね」

 

 そう言って近づいてきたのは春嵐さんだった。風生獣とかいう不死身の妖怪らしいんだけど、闘っている所は見た事はない。むしろとても頭が良くて冷静で、参謀として三國叔父さんを支えてくれている。

 えへへ、と子供っぽく笑ったが、春嵐さんはめをすがめつつ呟いた。

 

「想像力も豊かですし落ち着きのあるお坊ちゃまだと思うのですが、時々私どもが()()()()()を、()()()()を見通しているのだと感じる時があるのです」

「そ、そんな……」

 

 春嵐さんは、一体どんな気持ちでその言葉を言ったのだろう? 俺には解らなかったけど、心臓をわしづかみにされたような衝撃を抱いたのは事実だ。俺の秘密を暴こうとしているのではないか。それこそ俺は断罪されるのではないか。そんな気がしたのだ。

 そう思っていると、春嵐さんは俺を見ながら優しく微笑んだ。

 

「良いんですよお坊ちゃま。私たち妖怪の中には、未来を見通す者も珍しくありませんから。それに疾風お坊ちゃまが、その力を悪用するとは思えませんし……」

 

 春嵐さんの言葉に、俺ははにかんだような笑みを浮かべて応じた。特に大げさな事を言われたわけではない。だけど俺は俺で良いんだと言われた気分だった。

 

 そう言う事があったから、俺はきっと油断しきっていたのだ。




 マイコン(マイコンピューター)の解説に関してはフワッとしてしまい申し訳ありません。
 筆者も初めて触ったPCは「ウィン〇ウズ95」なので。
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