雷獣様の兄   作:斑田猫蔵

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ラスボスはやっぱりラスボスだった(白目)

 それは長雨の降る日曜日の事だった。俺も雪羽も元気いっぱいだから、日曜日だったら大体何処かへ遊びに行くんだけど、そんな遊びに行きたい気持ちを削ぎ落すような土砂降りが朝から続いていた。

 だから俺たちは家にいて、三國叔父さんや月華さん、他の部下の妖怪たちもそんな俺たちに付き合ってくれていた。遊びたい盛りの雪羽の遊び相手になったり、本とか漫画を読みたいという俺に読み物――但し子供向け・少年向けだけど――を用意してくれたりとまぁそんな感じだ。

 

 ちなみに雪羽はもう既に雷園寺家の次期当主を目指していた。そこは原作通りだった。三國叔父さんが渋い顔をしていた気もするけれど、その辺りはまぁ脇に置いておこう。

 自分が当主になって、向こうに置いてきた弟妹たちと一緒に明るく楽しい雷園寺家を作りたい。雪羽は臆せずみんなにそう言っていた。この世界では厭味なライバルであり闇堕ちした悪役だという事だけど、なかなかどうして真っすぐな動機ではないか。

 ちなみに次男である雪羽が長男である俺を差し置いて当主を目指すという事については何の問題もなかった。妖怪たちも長男や長女が当主になる事が多いらしいが、それ以上に力のある者や意欲のある者の方が優先されるらしい。そもそも俺は、雷園寺家の当主などという物に興味はないし。

 元より俺はイレギュラーとして産まれた身。雪羽の隣で彼の動きをコントロールし、安寧に生きる事が出来ればそれで良かった。

 

 

 お手洗いから戻ろうとした俺は、頭の中がくらくらするのを感じた。何かの術――結界術とか転移術とか空間系の術に巻き込まれたらしい。雷獣特有の症状だ。この世界の雷獣は電流で物の位置を把握しているから、こうした術にも敏感に反応してしまう。

 それはさておき何事だろうと俺は警戒した。当たり前の事だ。我が家にいてこんな術を使われるなんて。誰か侵入してきたんだろうか。

 

「こんにちは、可愛い可愛い()()()()君」

 

 ひょうひょうとした声音で呼びかけるそいつを見て、俺は驚きと恐怖で身がすくんでしまった。

 それは仕立ての良いワイシャツとスラックス姿の青年だった。品の良さそうな見た目もさることながら、首許を飾る小鳥の頭の七つの飾りが印象的である。

 美しくも禍々しい気配を漂わせるこの青年。彼こそがこの世界でのラスボスである八頭怪だ。ついでに言えば雪羽を唆したのもこいつである。

 

「はうでぃー! ボクの事は何と呼んでも構わないよ。英都でもヘップヒェンでもホヴェラでもね」

 

 黄色い人面花みたいな気軽な挨拶を投げかけたのち、八頭怪は黒々とした瞳で俺をまじまじと見た。フフフフとかいうキモい笑いがその喉から漏れている。

 

「マレビト君。ボクの事は知ってるって言いたげだねぇ。キミはボクと初対面の筈なのに――やっぱり別の世界からやってきたんでしょ?」

「――!」

 

 別の世界。それは彼の言う通りだろう。「九尾の子孫、最強を目指すってよ」という物はそもそも小説、虚構の物語だったのだから。

 しかし何故八頭怪はそれを知っている? まさかこいつも……俺は思わず口を開いていた。

 

「もしかして、あんたも転生者なのか?」

 

 俺の問いかけに八頭怪はニヤニヤしたまま答えない。きっと転生者ではないのだろう。そう思った俺は少しだけ安堵した。こいつも所詮は物語の中にいる登場人物。いわばゲームで言う所のNPCだ。であればこちらがビクビクおどおどする事も無かろう、と。

 

「何も言わないって事はそうじゃないみたいだな。だったら俺の邪魔をしないでくれ。そうさ。俺はアニメでこの世界の事を知っている。だがアニメには登場しないキャラとしてこの世界に紛れ込んでしまったんだ。

 だけどなぁ……お前が何を企もうと既にこの物語は原作から乖離しているんだ。お前が弟を唆して何かしようとしても無駄だぜ。俺が先を読んで破滅フラグをことごとく粉砕してやるよ」

 

 八頭怪は黙って話を聞いているだけだった。俺は気をよくして言葉を続ける。

 

「黒幕だろうがラスボスだろうが怖くないさ。所詮は物語の登場人物なんだからさ」

 

 俺が言い終えると、唐突に八頭怪は笑いだした。いかにも俺を馬鹿にしたような笑い方で腹立たしい。それと共にいくばくかの不安を掻き立てるものでもあった。

 

「あはははは、違う世界から来た程度の人間風情のさえずりも中々面白いねぇ。転生してこの先を見通せるからってそれが何だって言うのかな? そう言う事は三千世界の小世界を見通してから言ってごらん。

 それにボクは『道ヲ開ケル者』の、大いなる鍵と扉の御使いだよ。十一の次元を自由に行き来するボクにしてみれば、第四の壁なんてあってないも同然なんだよ。

 しかもキミはアニメの世界だけが全てだと思ってるみたいだしね。ああ、面白いねぇ。おかしいねぇ」

 

 八頭怪はそこまで言うと、その背中から二対の翼を顕現させた。鳥の翼とも蝙蝠の翼とも異なる、奇怪な姿の翼だ。

 

「まぁいいや。何かあったらボクを呼ぶと良いよ。堕ちた山羊の王子様みたく、世界を何度もやり直す力をキミに授ける事もボクにもできるからさ……キミの可愛い傀儡君が堕落したら、それでやり直してみれば?」

 

 ふざけた事を……そう叫ぼうと思った時には八頭怪は消えていた。術も解消されていたらしく、奇妙な違和感も消えている。

 

「兄様、どうしたの?」

 

 呆然と立ち尽くす俺の傍に駆け寄ってきたのは、弟の雪羽だった。




 ちょっとだけアンテネタが入っているのは筆者の趣味です。
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